栗毛の美少女
集落には美しい少女がいた。
キリリとした眉。いつもどこか遠くを見ているような澄んだ瞳。民族衣装を身にまとい、鳥の羽飾りを、艶やかな栗色の髪に付けていた。
他の住人は、みんな黒髪だ。
私は、彼女の髪色 ――― 栗色であり、けっしてウンコ色ではない ―― を不思議に思い、ある日、酋長に尋ねてみた。
酋長は教えてくれた。
彼女の母親はこの集落の生まれだが、二十年ほど前に、若い民俗学者がこの村を訪れたという。
彼は白人にしてはハンサムだったらしい。
彼女の母親とその民俗学者は、たちまち恋に落ちた。
母親は、その学者と一緒に集落を出ていくことを望んだが、掟がそれを許さなかった。
出るときは、集落の人口が減らないように、代わりの人間を残さなければならないのだ。
母親は悩んだ。
外の世界に出たかった。
愛する人と一緒にいたかった。
他の村から、わざわざ移住してくれる人はいない。
母親は悩んだあげく、民俗学者との間に子をつくった。それが栗毛の少女だった。
母親は、その娘がある程度ひとりで生活できるようになると、娘をおいて集落を離れることにした。
別れ際、少女と母親は大いに泣いたという。
幸い、集落は、ひとつの大きな家族のようなものだった。
幼い少女が生活で困ることはなかった。
それでも悲しく寂しかったに違いない。
彼女は母親に捨てられたのだ。
ある日、私はその少女と、薬草採りに山に入った。
彼女とレッドラズベリーの葉を摘んでいた時だった。
私は彼女に、母親が恋しくないか、聞いてみた。
少女は言った。
「恋しくないわけない。今でも会いたい」
私は、母親を恨んでいないか、聞いてみた。
「恨むわけない。どんなに愛している人とだって、かならず別れる時がくる。ずっと一緒にいることなんてできない」
彼女は、摘んだ葉をカゴに入れると、私に笑顔を向けた。
「どんなに素敵なウンコだって、ずっとお腹に溜めておけないでしょ」
少女は、まるで春の小川のようにキラキラと輝いていた。