リーランロッテ3
結局振り出しに戻って、庭外れのテーブルは前の面子になった。
ま、まあでもファーランちゃんには友達がいっぱい出来たみたいだし、結果オーライという事で。
いいのかな?いいんだよね?
でも王子の機嫌は結局どうしようもないって事じゃんね。俺のルマスパズル、いつになったら返してもらえるの?
チャラ男さんが、俺の手をべたべた触っている。ねえ、ちょっと前より過剰になってなーい?これ、俺で遊んでなーい?
そんな事はとりあえず置いといて、俺は王子たちに聞きたかったことを尋ねた。それは将来の事だ。
なんかさー、前にクラスの子がチャラ男さんの事、次期王立騎士団なんとかって言ってたじゃん。
それってもう将来決まってるって事だよね?羨ましいんですけど。
で、ふと思ったの。俺の将来ってどうなるんだろうって。俺、貴族の令嬢みたいだし。でも貴族の令嬢って、将来何すんの?
聞いたらさ、チャラ男さんが貴族の娘は家督を継ぐ女主人もいるけど、大抵は他の貴族の所に嫁に入るんだって。
で、そこの家と繋がりもたせて家を有利にさせるんだって。え、それって政略結婚じゃん。
恋愛結婚はないの?って聞いたら、子供時代に互いに惚れあってそういうカップルもいるんだって。
でも、あまりにも身分に差があると好きあってても駄目みたい。なにそのロミジュリ。あれは敵対勢力同士だっけか。
急にそんな事を俺が聞くから、誰か好きな奴でもいるのかって王子に聞かれた。恋バナするのに何でそんなガンつけるの。
そんな男はいませんって答えた。だって俺男だよ?体は女だけど、おっぱいあるけど、おっぱい柔らかいけど、健全な男子高校生なんだよ?
王子は将来どうするんですか?って聞いたら、本気で憐れな顔された。
そういえば王子様だった。王子ってあだ名感覚で呼んでたわ。
ほら、クラスになんかキラキラしたのいたら、王子ってあだ名つけられるでしょ。あんな感じ。
そうかー、王子は王様に進化するのか。他になりたい事ないんですかって聞いたら、考えたこともないって即答した。すげえ。
じゃあ何か浮かんだら私も協力しますよって、お世辞言っといた。やっぱ機嫌をよくするには媚だよ媚。
ほんとに王子が他の仕事したいって言い出したらどうしよう。俺はバイキングになるって、突然ハンマー振り出したら。
ま、まあ、本人が本当になりたいんだったら協力は惜しまないよ。
でもねーちゃんは泣くと思う。いや、俺をサンドバッグに大暴れするかもしれない。
チャラ男さんは前に聞いた通り、王立騎士団に入るんだって。眼鏡くんも似たようなものだって言ってた。
へー、騎士ってかっこいいな。私も入れるんですかって聞いたら、難しい顔された。
剣なんて一度も振ったこと無いんだけどね。
美少年はこのまま王子に仕えてくんだって。いつもお茶とか入れてくれてるの、美少年だもんな。
みんな将来決まってるのか、俺はどうなるんだろう。
俺もいつかどこかに嫁に出されるんだろうかって言ったら、みんな何かを言いたそうな顔してたけど誰も何も言わなかった。
せめて同情する言葉くらいは言ってくれよ!
でもとーちゃんが、俺に喋るな余計な事はするなってうるさいから、このまま家に転がされてる気がするって言ったら、みんな深く納得してた。おい!
ファーランちゃんは、どうするんだろう。ファーランちゃんも、貴族の令嬢だし、お嫁に行くのかな。
……それ嫌だな。ファーランちゃんには、幸せになってほしいけど、傍で見てもいたい。
会いたいなって思ってたら、何とファーランちゃんが俺を待っていてくれた。
ファーランちゃんは、俺に凄く申し訳無さそうな顔をして涙を流した。え、ええ!?一体どうしたの?何で泣いてるの?
誰かに何か言われたの?友達と何かあったの?って聞いたら、首を横に振って、友達はみんないい子たちですって言った。
それは良かったけど、じゃあどうして泣いてるの?って聞いたら、俺の胸にすがりついて謝ってきた。
クラスの子達と一緒にいるのが自然になって、俺の事ないがしろにしちゃってごめんなさいって。
俺といるのも楽しいけど、クラスの子達とのおしゃべりが尽きる事無く楽しくて、ついそちらへと傾いちゃったんだって。
馬鹿だなあ。そんで優しいなあファーランちゃんは。
そんなのは当たり前だって伝えた。近くにいる、クラスの友達を大事にするのは大切な事で必要な事だって伝えた。
いざ何かあったら、すぐに駆けつけてくれるのは最も傍にいる人なんだからって。
俺の教室、ちょっとファーランちゃんからは遠すぎるからねえ。駆けつけるのにも時間がかかっちゃうよ。
ファーランちゃんをここぞとばかりに抱きしめた。柔らかくて、いい匂いがした。
うえっへっへ、これぞ女の特権よ。
落ち着いたファーランちゃんに、将来の事を聞いてみた。ファーランちゃんは、他にきょうだいもいないので、家を継ぎたいと言っていた。
婿を取るのもいいかもしれませんね、て笑ってた。ねえ、そのお婿さん俺じゃ駄目かなあ。
時折、いっそ平民に落ちた方が楽なんじゃないかって思うときもあるんだって。
俺中身平民だけど、確かにこんな結婚も自由にできないって事はなかったよ。
そこらへんは自由だけど、それゆえに全く縁がないんだけどね。俺、ファーランちゃんが初めて手を握った女の子かも。
ねーちゃんは論外。ねーちゃんは論外だからね。
こっちの平民ってどんな暮らしなんだろう。知ってるのかなってファーランちゃんに聞いたら、存外悪くなさそうだった。
というか、ゲームのザ一般市民って感じ。ねえ、俺中身は平民だし、実は平民生活、合うんじゃないの?
思い立ったが吉日って事で、そうと決めたら実行に移したくなった。
家に戻ると、俺は箪笥とか棚とかをひっくり返す勢いで何かいいものがないか漁った。
メイドのねーちゃんが、その有様を見てひっくり返りそうになっていた。
報告を受けたとーちゃんが部屋に飛び込んできて、今度は何を起こしたんだって問い詰められた。
とーちゃん、あんまカッカしてると血圧上がっちゃうよ~。
エリ婆ちゃんに怒られて、俺も片付けを手伝った。ねえ、俺貴族の娘なんだよね?
次の日の学校で、俺は休み時間を計画を練る時間に使った。
いつもの庭はずれではない、別の端っこの方で、テーブルと椅子を占拠してペンを走らせる。
占拠なんてしなくても、誰も近寄ってなんて来ないけどね。
えーと、何が必要かなあ。食料は必要でしょ?お金だって少しは無いと。でも、お金ってどうすればいいんだろう。
そのお金で、どっかアパート借りないと。敷金礼金、家賃の相場はいくらなんだろう。
ネカフェなんてないよね?ないかなあ、ないよなあ。
冒険者ギルドってあるのかな、駆け出しの薬草集めとか定番じゃん。
まーなかったら、どこかバイト募集見つけるしかないなあ。俺レジのバイトはした事あるから、接客でもいいよ。
他にはえーと、ホームシックになったら困るから、部屋のぬいぐるみ一つ持っていこうかな。
あー、風が気持ちいいなあ。ちょっとだけ、横になっちゃおう。テーブルの上に頭を乗せると、うとうとしてきた。
風が優しく頬や髪を撫でてくれる。あーやばい。寝そう。
はっと目覚めると。俺はまだテーブルの上に伏せっていた。
あ、やべ!俺の計画表は?ほ、あった。俺の腕の下敷きになってよれよれになってたけど、何とか飛ばされずに残ってた。
危ない危ない。この超重要機密事項書類スペシャル計画が、どこぞのスパイや秘密結社に情報が漏れたら大変だ。
俺はわくわくと、自活の不安のドキドキを胸に計画決行日を待った。
やってきました馬車旅行。こちら現地レポーターの俺です。今日はここ、町の馬車待合所からお送りしております。
ちなみに俺の家の近所です。便利!
とーちゃん達には、友達の家に遊びに行くって伝えてあります。お泊りするから、長く帰って来れないよって。
やけにとーちゃんはすんなり認めてくれたっけ。それで、何故か俺の両肩に手を乗せて、くれぐれも相手側に粗相のない様にって念を押された。
肩にのったとーちゃんの手が俺の肩にめりこんで痛かった。
でも相手側ってなに?そんなのいないけど。っていうか、友達がそもそもいないんだけど。あ、泣きそう。
俺は旅行鞄を握り締め、行き先を考えていた。
勢いで飛び出してきたけどさあ、俺町の外のこと何にも知らないんだよね。
っていうか家のことも何にも知らないけど。学校だって自分の教室と食堂と散歩コースしか知らない。
あ、ファーランちゃんの教室はチェック済み。俺ってストーカーじゃない?大丈夫?
遠出なら馬車は必須だろうってここに来たけど、どこ向かえばいいんだろう。
面倒だし、もうこの町で平民になろうかなあ。
でも、さあ平民生活スタートだ!って両手を太陽に伸ばした瞬間、とーちゃんが俺を抱えて連れ戻しそう。
まあいいや、運を天に任せよう。てきとーにどこか遠くに行ってもらおう。ふふふ、ちゃんと虎の子も持ってきてるのだ。
立ち上がって鞄を掴もうとしたら、傍らに置いたはずのそれがない。え?どういうこと?
慌てて見回したら、俺の鞄を掴んだにーちゃんが、知らない馬車へと積み込んでた。
は!?ど、ど、どろぼう!急いでそいつを追いかけ、俺は荷物が入れられた馬車へと飛び込んだ。
勢いよく転んで、ダイブする形になったけど、これはこれでアクション映画みたいでちょっとかっこいいと思ってしまった。
「置き引き野郎め!待て!」
だが泥棒のにーちゃんは、荷物を運び入れると馬車から離れてった。
入れ替わりに俺が馬車の中に、飛びながらインしたので驚いて悲鳴を上げてた。
痛い……。うつ伏せで馬車に転がって、急いで体を起こそうとすると背中から両脇を掴まれた。
ヤバイ!泥棒に仲間がいたぞ。このまま背中からブスっとされちゃうかもしれない。俺、ピンチ。
だけど聞こえてきたのは泥棒のナイフの音ではなく、盛大なため息だった。
「本当にお前は、どこにいたって頭のおかしいことしかしないな」
驚いていると、そのまま体を持ち上げられて馬車の座席に座らされた。ついでに、俺のドレスについた埃を掃ってくれる。
何と、王子が目の前にいた。え?どういうこと?
「王子が、鞄泥棒?」
首をかしげて呟くと、王子がギンッて睨んできた。ひいぃ、だって俺の鞄持ってったじゃん。
王子が指差す先には、俺の鞄が置かれてた。良かった、俺の鞄ちゃん。
これにはこの先必要な物がいっぱいつまってるんだ。
鞄を抱きしめて安心してたら、馬車がガタタンと動き出した。
え?どこ行くの?っていうか、王子がいるのも馬車に乗せられてるのも意味わかんないんだけど。
焦って馬車のドアを掴もうとしたら、王子に押さえ込まれてしまった。
ぎゅうぎゅう締められて、大人しくするから離してください!って泣きついたら解放された。
大人しく座って王子にこれはどういうことか聞いたら、今から王子の別荘に行くんだって。
それで何で俺の鞄を盗むのと関係が?って言ったら、いい加減そこから離れろと突っ込まれた。
長期休暇がはじまるし、休息兼ねて別荘へ行くから俺を招待してやるって言ってた。いや、招待してやるって、これ拉致では?
言おうとしたけど、めちゃ睨まれたからやめた。でも何で私を?って聞いたら、暇そうだから、だって。酷くない?
確かに友達もいないし、友達とどっか遊びいく予定なんてないんだけどさ、俺には壮大な計画があったわけじゃん。
俺は町へ行って、平民王になる!パンピーオブパンピーを目指してるわけじゃん。
そりゃ、王子も?友達……ってわけじゃないだろうけど、同年代の知人とプチ旅行とか、楽しそうではあるけどさあ。
ぶつくさ言う俺に、王子は今から行く別荘は、近くに大きな町もあって活気があり俺好みかもしれないぞって言った。
……町!町が近いって、凄い都合がいいじゃん!さすがに家を飛び出して近所で生活、ってちょっとかっこ悪いかなって思ってたし。
俺は大喜びで、ぜひ!って飛びついた。王子がちょっと笑ったかのように見えた。
馬車は結構長く走って、俺はいつの間にか居眠りしてた。
起きたら膝にブランケットがかけられてたんだけど、王子かな?
今どこだろうって、馬車の窓から外を覗いたら、でっかい町が見えた。
うおお、見知らぬ土地!見知らぬ町!
外はもう暗かったんだけど、灯る家々のライトが幻想的で、ザ・ファンタジーって感じ。
目をキラキラさせて窓にはりついたね。王子にはしたないって怒られるかと思ったけど、珍しく何も言ってこなかった。
王子の別荘に着いたら、別荘からいっぱい使用人みたいな人がぞろぞろ出てきた。
別荘でかいな!うちよりでかいんじゃないか!見上げてぼけっとしていたら、荷物の運び入れは全て終わっていたようで、王子に腕を引かれた。
中も外観に違わぬ豪華さよ、って感じだった。とーちゃん、俺がもっとしっかりしてたらうちの屋敷もこんな立派なの建てられたかもしれないのに。
ごめんなあ、とーちゃん。あ、こっちの世界のとーちゃんね。元の世界はどう逆立ち下って無理だから。
そもそもこんな屋敷あったって、トイレ行く度に漏らしそうだし。こんな高級な棚やテーブルにプラモ並べるの、申し訳ないし。
ナイスミドルな紳士とメイドのねーちゃんに部屋を案内されて、そこに俺の鞄を見つけた。これくらい自分で運んだのに。
二人にお礼を言うと、もったいないお言葉って言われた。紳士は執事さんだったみたい。名前はセバスチャンじゃなかった。
さて計画の第一段階は進んだぞ。どこからが第二段階だよって質問は受け付けない。
地元から離れた町に来れただけで、これもう計画完遂って言ってもよくない?
だって後は町行って仕事と部屋探すだけだし。これだけ大きければ、アパマンいっこくらい見つかるでしょ。
鞄の中の虎の子に、本物かわからないけどリーランロッテの宝石類も持ってきた。
ごめんねリーランロッテ、俺の夢の為に糧となってくれ。君の宝石、使わせて貰うよ。イミテーションだったら、末代まで恨むからな!
さていつにしようかと考える。夜のうちの方がいいのかな。闇にまぎれて姿を消すってかっこいいし。
あー、その前に王子にお礼言っておいたほうがいいな。ここまで連れてきてもらったんだし。庭はずれでのお茶も、楽しかったし。
平民になったら、あの学校の連中とは話すこと何てできなくなりそうだし。
部屋を出て、王子の部屋を聞いたらメイドのねーちゃんが教えてくれた。行ったら使用人のにーちゃんが殿下は入浴中ですって。
執事さんが王子のいるお風呂場教えてくれたんだけど、あの若さを見つめる様な微笑ましい顔はなんだったんだ。
ノックをすると、なんだ、ってぶっきらぼうな返事が聞こえた。
俺が声をかけると、中で身じろぎする音が聞こえた。何しに来た、お前には恥じらいがないのかってドア越しから怒りの声が聞こえる。
お礼を言いに来たのに酷いよー。王子の説教が一区切りついたのを待って、俺は今までのお礼をちゃんと言った。
「結局ちゃんと友達はできなかったけど、皆さんとのお茶は楽しかったです。ここにも、連れて来てくれてありがとうございました」
そう締めくくって戻ろうとしたら、いきなりお風呂のドアが開いた。
素っ裸王子なんて誰得だよー!って思ってたら、バスローブ羽織ってた。
何故いまそれを言うって聞かれたから、お礼言う機会がないかもしれないからって答えた。
何故ないのかって聞かれたから、どう答えようかなーって考えてたら、いきなり抱きしめられた。
急いで拭いたのかもしれないが、湿った感触が俺を包んだ。高い体温もドレスの厚い布を通して伝わる。
え?どうなってるのこれ。何で俺抱きしめられてるの?……王子?って聞いたら、更にぎゅっとされた。
えーなにー。もしかして、湯船でうたた寝して、怖い夢でも見たんだろうか。
怖い夢でも見たんですかー?って言って、脇から必死に腕伸ばして頭いい子いい子してあげた。
美少年ならまだしも、これやったら王子ぶち切れるかなあ。ぶち切れたら俺、湯船に沈められるかなあ。
湯に浮く自分の広がった銀髪を想像してぞっとした。湯煙殺人事件が起こって王子は崖っぷちで罪を告白するはめになるかもしれない。
だけど王子はそれ以上何するでもなく、じっとしてるから俺もいよいよ困ってしまった。
小さく息を吐く音が頭の上でした。ゆっくりと腕を離されて、王子が少し屈んで俺に目線を合わせた。
「今日は大人しく部屋にいろ。夜の町は物騒だ」
俺が素直に頷くと、満足そうにまた風呂場に戻ってった。あれ、何で町行こうとしてた事知ってるんだろう。
しかしそうか、物騒か。じゃあやっぱ明日にしようかな。よくよく考えたらさ、部屋や仕事探すにしても、夜じゃやってないじゃんね。
酒場とかならあるかもしれないけど、俺高校生だよ?お酒の種類なんてわからないし飲めないよ。
よし、今日は部屋に戻って寝よう。一人頷いて部屋に戻ると、テーブルに食事が置いてあった。うわー、助かるー。
飛びついて腹ごしらえ。ベッドの上には寝巻きも畳んで置いてあったので、感謝しながらドレスを脱ぐ。
ふ、俺も一介の男子高校生にしてネグリジェを優雅に着込むまでに至ったか。
悟り顔でベッドにもぐりこむ。明日こそ、俺の平民デビューだ!
起きて支度して、俺はドアの隙間から忍者の様に部屋を出た。普通に、おはようございますとメイドのねーちゃんに言われた。
町に行ったら、まずは着替えを買いたい。ズボンを履きたい。
なかったらスカートでもいいけど、今着てるようなドレスじゃなくてシンプルなのがいい。
動きやすいほうがいいし、ドレスなんて平民らしくないもんね。
屋敷を出たら、道なりに進めば町に出れる。道の先に町があるのは見てとれる。
歩き出そうとしたら、使用人が慌ててお一人ですか?と止めに来た。
あーそうか、貴族の令嬢は一人で歩き回らないのかな。屋敷の周り見て回るだけですって言って、それっぽく屋敷の裏手に行く振りをした。
使用人のにーちゃんがどっか行ったら、身を低くして小走りに道へと走った。
秘技!忍者走り!ただ中腰で走ってるだけだけど。
町に行って、服屋さんに入った。ショーウィンドウとかはなかったけど、おおむね前の世界と同じ様に衣類が並べられている。
さーどれにしよっかなー。どうせなら、かっこいいのがいいなー。
悩んでいると、店のおばちゃんが貴族の方がこんな店にって困惑してた。
やっぱドレスでわかっちゃうよね。私はこっちの服の方が好きです、って笑ったらおばちゃんが恐れ多いですって笑った。
おばちゃんに俺に合うサイズとか聞いて、いくつか選んだ。お会計もちゃんとできた。虎の子のお金万歳。
虎の子っていっても、お小遣いなんだけどね。とーちゃんに、友達と遊ぶのでお小遣い欲しいんですけどって言ったら、すんなりくれた。
俺は驚いたね。だってね、前の世界のときは、お小遣いほしいってとーちゃんに言うと、なら俺と姉を倒してみせよ!って掴みかかってくるんだよ?
とーちゃんは相撲が好きだから、いつも俺のトランクスをハイレグにして絨毯に転がすの。
ひっくり返ってると、ねーちゃんが邪魔って踏みつけてくの。あれ、俺かわいそうじゃない?
服を買って着替えも完了した。そこには丁度いいズボンがなかったから、シンプルなワンピース。
ワンピース着るのも脱ぐのも一回ですむし、洗うのも一枚でいいから便利だ。
ウエストでリボンをきゅっと締めるだけでいいし、同じ様なのいくつか買った。
次は住む所か仕事か、ぶらぶらしながら探そっか。あ、ちょっとちょっと、屋台あるじゃん。やべえ、美味しそうな匂い。
俺は串ものを何本か買って食べながら町ブラした。広場の噴水で歌ってる人がいて、絵を描いてる人がいて、うきうきでチップを弾んでしまった。
だって見た目は外国旅行だもん。たのしー、観光たのしー。いや、俺の目的生活基盤を整えることだった。
心で自分を叱咤して、ちゃんとお店を探す。バイト募集とか入居者募集の張り紙はってないかなあ。
あ、住居って普通裏通りとかだよね。メインストリートはお店が建ち並ぶもんだし。
お店とお店の間の細い道にはいっていく。うおー、ドキドキする。ちょっと暗がりなのが悪っぽくて緊張する。
でもこういう人通りが少ない所に、凄いレアな物売ってるお店とかあったりするよね。今の所そんなの見あたらないけど。
見上げると、何階にも渡って小さな小窓が見える。住居スペースなんだろうけど、これは集合住宅なのかな。
一階に行けば、管理人さんとかいるのかな。とりあえず手近な建物の玄関に入る。すいませーん、ここ空き部屋ありますかー?
ないよって言われた。そんな、即答ってさあ。しかも、怪しそうな目で見ないでよ。俺、怪しいものじゃないよ!
住む場所探してるんですけどって言ったら、宿屋へ行けって言われた。すぐ近くにもあるからそっちへ行けって。
シッシって追い払われた。陽気な日は変な奴が現れてやだねって背中から聞こえた。え、俺の事じゃないよね?
言われた通り、宿屋の看板掲げた建物があった。でもさあ、高いんじゃないの?泊まる場所じゃなくて、住む場所が欲しいんだけど。
取り合えず見つからなかった場合を考えて、そこの宿屋にも入ってみる。一泊凄く安かった。ええー、ほんとに?安すぎない?大丈夫?
受付の婆ちゃんが俺をじろりと睨みつけた。こわい。あんたみたいのがここに泊まるのかって聞かれた。俺みたいのって何?
鍵は絶対にしめなって、鍵を放り投げられた。うわっとっとって慌てて受け取った。俺まだ泊まるなんて言ってないのに。
前払いだよ!ってまた睨んでくるから、逆らえなくて言われるまま払ってきた。取り合えず三日分。
階段上ろうとしたら、すっごいいかついやつらが俺の行く手を阻んだ。何この筋肉ダルマ!
「おう姉ちゃん、えらい美人じゃねーか。俺達と同じ部屋に泊まろうぜ」
へっへっへって、いかにもごろつきですって顔で言ってきた。
知らない人と泊まるわけないでしょう、気を使って仕方ないって断ったら、変な顔された。
受付の怖い婆ちゃんが、騒ぎは御免だよ!って怒鳴ったら、いかにもごろつきコンビはしぶしぶ俺に道を空けた。
鍵の番号みながら部屋を探して入る。狭いしベッドと質素な椅子と机しかないけど、あの値段なら十分だよね。
俺の平民ライフの第一歩がとうとう始まったんだ。これがきっと、ねーちゃんの言う平民落ちエンドってやつなんだ。
ねーちゃん!どうねーちゃん!俺平民エンド迎えたよ!所でエンディング迎えたらどーなんの?
俺は荷物を置いて、鍵をしっかり締めて宿屋を出た。さあ次は仕事探しだ。
狭い路地を抜けて、大通りへと戻る。賑やかな喧騒が耳に戻ってくる。
さあ、探すぞ!俺は気合を入れた。
日が暮れて、気が付くと俺は両手にお菓子と屋台料理を抱えていた。
え?どうなってるの!?俺は今までの行動を思い返す。
求人募集してないかなーって、日用品売り場に近寄ったら、その手前の肉の串焼きに引き寄せられた。
俺接客経験ありますよーって、細工屋さんに入ったら、その隣の甘い香りを撒き散らすお菓子屋さんにふらついた。
じゃあいっそ、食品扱うお店ならって入ったら、焼きたての香ばしいパンに涎が落ちそうでとてもじゃないけど無理だった。
結局また観光で食い倒れツアーしただけじゃん!俺はあほなのか?はいそうです。
がっくりと肩を落として、裏通りへと入る。
気落ちはしてるけど、抱える袋から匂う美味しそうな香りに心躍っちゃって、おいおい体は正直よなあってなった。
この裏通りって、背の高い住宅が密集してるから仕方ないけど、陽が落ちると、ほんとに暗くなるなあ。
宿屋への道はちゃんと覚えてるから、ちょっとくらい暗くとも大丈夫だけど。
なんて思ってたら、いきなり口を塞がれた。あれよあれよと言う間に更に暗がりに連れ込まれる。
ちょっと!誰だよ!何の目的!?突き飛ばされた場所は、小窓すら見当たらない路地。
背後には、ごみが詰め込まれているのか、汚れに匂う積まれた袋。
地べたに座りながら、突き飛ばした奴をみあげると、顔は見えないがそのシルエットはどう見ても宿屋の筋肉ダルマだった。
その手には闇の中光るナイフを握っている。え?俺ここで殺されちゃうの?バッドエンド迎えちゃうの?
ねえねーちゃん、リーランロッテに死にエンドルートってあったの?ねえ、ねーちゃん!弟のピンチだよ!助けて!
筋肉ダルマは二人いて、ハアハア言いながら近付いてくる。ひい怖い!俺どうなっちゃうの!
抜けた腰で、必死に腕を動かしてずりずり後ろへ下がる。でも筋肉ダルマは俺の顔にナイフを突きつけた。
大人しくすれば殺さねえよおって、生臭い息と一緒に俺の顔に吐いた。怖い!怖い怖い!
ぎゅっと目を瞑ったら、チャキって音が聞こえてぐえって声が二回聞こえた。
恐る恐る目を開けたら、カンテラを腰に吊るし、黒髪をさらさらと揺らしためっちゃ美形のにーちゃんが俺を見下ろしていた。
足元には、筋肉ダルマが二体、転がっている。
「殺しますか?」
美形のにーちゃんは静かに口を開いた。
はじめ何を言ってるのかわからなかったけど、しばらくして筋肉ダルマの事だってわかった。
慌てて頭を横にぶんぶん振った。美形のにーちゃんはわかりましたと答えた。
筋肉ダルマを懐から取り出したロープで縛り付けたと思ったら、片腕でそれぞれ引き摺ってどっか行った、
俺は動けなくてずっとそこに座りこんでたんだけど、美形のにーちゃんはまた戻ってきて俺に手を差し出した。
助けてくれたんだよね?お礼を言いながら、引っ張って貰う。だけどすんごい情けないんだけど、俺腰が抜けてた!
ヒーローものでよく悪の手先に子供やヒロインがさらわれるけどさ、あんな命の危険にさらされてよく腰抜かさないよな。
うわーんて泣いてた子供も、ヒーローが助けに来たらめっちゃ元気に駆け出すし。あんなん絶対無理だよ、怖くて身が竦んじゃうよ。
失禁だってしちゃうかもしれない。あ、でも全国枠でおしっこ漏らすのは苦情きちゃうか。
俺はそのまま立てずにべちゃって地面にダイブした。
体は地面に抱きついたけど、顔だけは美形のにーちゃんが手を差し入れてくれて無事だった。
腰が抜けちゃってって言ったら、なんてこったい、お姫様抱っこされた。
やーすいませんねえ、ってへこへこ謝ったら、美形のにーちゃんは微かに笑った。
どうせだし宿屋に運んで貰うことにした。部屋の前で、あ、鍵をださないとって慌てた。
鍵は紐に通して首から提げてある。これなら無くさないしね。胸元のボタンをはずして、紐をひっぱって鍵を取り出す。
鍵を渡すと、美形のにーちゃんは俺を抱えたまま器用にも鍵を開けて中へと入った。
俺をベッドに座らせてくれる。改めてお礼を言って、ヒーローさんはどこから来たんですか?って尋ねた。
ヒーローはわかりませんか?って、くすりと笑ってまた懐から何かを取り出した。
ぶあつい眼鏡だった。そのまま顔にかちゃりとかける。
「眼鏡くん!」
眼鏡くんだった。眼鏡くん、その眼鏡の奥に美形な顔を隠してたんだね。
なんでいつもその眼鏡かけてるんですか?って聞いたら、目を隠してるんですって言った。
ああ、美形を隠してるんですね。モテてモテて仕方ないですもんねって言ったら、
「違います」
間髪いれずに言われた。目の色が珍しい黒い色をしてるから、隠してるんだって。黒髪に黒い目だから、悪目立ちしてしまうって。
黒って珍しいんですか?って聞いたら、ちょっと驚いた顔してた。
だって俺日本人だよ。珍しい所か、黒髪黒目だらけだよ。ねーちゃんは金髪にしてたけど。頭プリンだけど。
私、そんな人一億人ぐらい知ってますよって得意気に言ったら、どこですかって聞かれた。
この世界じゃないから、なんて言えばいいかな。すっごい遠い国です。他にも、その十倍黒髪黒目の人がいる国もあるんですよって教えてあげた。
眼鏡くんは笑ってた。眼鏡くんがこうやって笑うのは珍しいな。いつも静かに王子の傍で黙ってるから。
眼鏡くんは、俺がこれからどうするのか聞いてきた。俺は内緒だけど平民になるんですよって教えてあげた。
命の恩人だからね。とりあえず三日はこの宿にいようと思いますって伝えた。
眼鏡くんは三日ですか、って呟いた。眼鏡くんも平民になります?って冗談で聞いたら、それもいいですねって。
眼鏡くんいなくなったら王子が困るんじゃないかなあ。まー、本当に平民になりたいんだったら眼鏡くんの人生だしいいと思うけど。
今日は泊まっていきますか?ベッド一つしかないから、狭いですけどって言ったら、ちょっと困った顔をして、そういう事を言っては駄目ですよって窘められた。
眼鏡くんなら知ってる人だから安全じゃんね?そう言ったら、私だって安全でない時がありますよって笑った。
筋肉ダルマに対して、殺しますか?って聞いてきた声が頭に蘇った。
俺を殺す気なんて、ないよね?ないよね?ねえ眼鏡くん、俺達知らない仲じゃないんだしそんな事しないよね?
俺はもみ手で眼鏡くんに、今日いっぱい不本意で買い込んだパンや惣菜、お菓子を勧めた。
遠慮したけど、一人で食べるより二人の方が楽しいですって言ったら頷いてくれた。二人で食べた夕食は美味しかった。
起きたら眼鏡くんがいた。食べたら寝ちゃって記憶ないんだけど、眼鏡くん部屋にいたのかな。それとも一度出てったのかな。
一日たったけど、王子の別荘で俺がいなくなった事流石にばれてるよね。どうなってるんだろう。捜索隊とか出されてたら困るな。
あの王子のことだから、あほが一人消えただけだって思ってるだけかも。やだ、ありえそう。
眼鏡くんが今日の予定を聞いてきたから、仕事を探しますって答えた。
眼鏡君くんもついてきた。やっぱ平民になりたいのかな。今日こそは見つけるぞ!
結果は惨敗でした。なんで!どうして!今度はちゃんとお店の人に、スタッフ募集してないか尋ねてまわったんだよ?
でもどこも足りてるって駄目だった。仕方ないので、眼鏡くんと一緒にまた観光してまわった。
一人で観光もいいけど、誰かと一緒にまわるのも楽しいね。一緒に見てあれはああだ、これはこうだって言いながら見て回るの楽しかった。
友達いないけど、友達と旅行してる気分味わえたよ。眼鏡くんの返事は最小限なんだけど、ちゃんと俺の話を聞いてくれたし、一緒に見てくれた。
何の収穫もなく、宿屋に戻った。収穫はないけど屋台飯はいっぱい買った。眼鏡くんが払ってくれた!昨日のお返しだって。
今日も眼鏡くんと一緒に食べた。これも美味しいですよって小麦粉の皮で包んだシュウマイみたいなやつをつまんで持ち上げたら、俺の指ごと食べられた。
俺の指を舐める眼鏡くんに、実は食い意地結構はってるんですねって言ったら苦笑された。
食べ終わったら歯を磨いてベッドに入った。この宿さー、水使うのに外の井戸から汲んで来ないといけないんだよね。
眼鏡くんがたっぷり運んでくれたから楽だったけど。
眼鏡くんはどうするんだろうと思って聞いたけど、気にしないで下さいっておでこ撫でられた。
俺子供みたいだなーって思ってたら寝ちゃった。子供時代にそんなことしてもらったことないけどね。
ねーちゃんがいつもチョップしてきた記憶しかない。寝る前にチョップって。
おねんねさせてやるよって、ベッドにバックドロップされるよりはましか。
起きると、眼鏡くんが部屋に入ってきた。昨日も今日もタイミングばっちりだなあ。
もしかして寝てないとかないよね?ちゃんとどっか戻って寝てるよね?
眼鏡くんがまた予定を聞いてきた。大通りのお店が駄目だったから、町の奥の方まで行ってみると伝えた。
大きい町なので結構歩きますよって言われたけど、そんな事は覚悟の上だ。とにかく、早く仕事を見つけなくちゃ。
平民ルートって、何か名前的にもっと気楽で平凡そうな印象がしたけど、凄い大変じゃない?
いや平民だって生活が大変だってわかってるよ?でもさ、俺そのスタートにもまだ辿りつけてないんだよ?
気合だ気合だ気合だーって町を歩いた。町の奥にもいっぱいお店があって、また違った雰囲気があった。
衛兵っていうの?手前の町より多かった。王子の別荘に続く道の手前にもいたんだけど、こっちではよく見かけた。
眼鏡くんが言うには、屯所があるんだって。あーだからかー。あとこの町の領主の屋敷もあるんだって。へー。
で、色々まわったんだけどさ、やっぱ駄目だった。何でだよ!俺そんなに使えなさそうに見える?
え、ちょっと待って。こんなに大きい町なのにさ、全滅ってありえる?いや全部は回ってないけどさ、それでも結構な数だよ?
うおおおん、何でなんだよお。へこんで噴水の縁に座り込んだら、眼鏡くんが切り分けた果物買ってきてくれた。……美味しい。
ねばったけどやっぱ駄目で、今回も収穫なく宿へ戻ってきた。何の成果も得られませんでしたー!
そういえば宿も三日だったなって思って延長を申請したら、受付の婆ちゃんは初めてここ来たときみたいにじろりと俺を睨んで、無理だねと言った。
え、なんで?って問い詰めたけど、空きがないとか、俺の部屋は次が決まってるとか、言ってきた。
うっそだあ、だって人歩いてるとこ見たことないよ。満室だったら、もっと階段とかこの玄関とかがやがやしてるじゃん。
何言っても結局断られて、踏んだり蹴ったりだと泣きそうになりながら部屋に戻った。明日からどうすりゃいいのさー。
眼鏡くんが買ってくれたご飯を食べて、どんよりした気持ちで荷物を片付けた。次見つからなかったら野宿かなあ?
そうなったらしばらくプライベートな空間ないしと、体を拭くことにした。毎日しろって?た、ただちょっとその暇がなかっただけだよ。
眼鏡くんが水桶にたっぷり汲んできてくれたので、ばっしゃばっしゃとふんだんに使い拭いた。
このワンピース脱ぐのも着るのも簡単でいーわ。被るだけだもん。
部屋を出ていた眼鏡くんに使い終わった水桶を渡す。
自分でやるって言ったんだけど、力仕事くらい頼ってくださいって言われた。今日は昨日よりもいっぱい歩いたからか、欠伸がもれる。
明日は泊まる場所まで探さないといけないし、もう寝ようかな。ベッドにもそもそ入って、そうだと思い出す。
「ねえ眼鏡くん。ちゃんと寝ていますか?ベッド、使いますか?気になるなら、私床でも平気ですよ?」
他人と並んで寝るのが苦手な人っているからね。神経質だったり、潔癖症だったりで。
ベッドと掛け布団でわけてさ、俺はこの掛け布団くるまりながら床でも全然寝れるよ。
眼鏡くんは俺にゆっくり腕を伸ばすと、肩に触れた。しばらく動かなかったが、俺をベッドに優しく押し付けた。
近くに寝る場所あるから大丈夫だって、今日は疲れただろうからゆっくり休めって言われた。寝る場所あるならじゃあ大丈夫かー。
俺は安心して眠った。リーランロッテ。呼ばれた気がした。俺は何にもない所に立っていて、誰が呼んだんだろうって辺りを見回した。
そしたら背後から、りーらんろってえええええ、ってでっかいねーちゃんの顔が浮かんでた!
さんざん追いかけられて逃げ惑っていたら、ねーちゃんてば口から炎吐いてんの。とうとう人間やめちゃったよ!
その炎に首元まかれて、あっついあっついって胸元掻き毟った。首元とか鎖骨とか、じりじり焼けてくよー。
殺されるう!って思ったらねーちゃんは人間サイズになってて、俺にチョークしてた。
まわりの景色もねーちゃんの部屋になってた。足元にはあの乙女ゲーのパッケが転がってて、見たら思い出した。
前に眼鏡くん攻略キャラにいたっけかなー、覚えないなーって思ったけど、パッケにのってるの素顔だった。
だからわからなかったんだねえ。ねえ、ねーちゃん、この黒髪のキャラ普段ぶあつい眼鏡かけてるんだよー。
首ひねって話しかけたら、そこには誰もいなかった。ねーちゃんの部屋も消えてて、また何もない空間に俺は立ってた。
俺はねーちゃーんって大声で呼んだ。ねーちゃーん!今までも結構ギリギリだったけど、人間やめちゃだめだよー!
ゴン。そんな音と頭の痛みと共に目をあけると、俺は宿のベッドからはみだして、頭から床に落ちてた。