5話 雷神(3)
貯めていた分を投稿しきりました。
次の更新早めに出来るといいな…。
翌日、クロスが目を覚ますとすでにスサノオが起きて朝食の支度をしていた。
先ほど捕ったであろうモルモル―小さい一本角を額に生やしたウサギのような草食動物―を捌き、昨夜の焚き火に曝して焼いている。
その香りにつられゆっくりと体を起こすクロスに、スサノオが声をかけた。
「起きたかい?すっかり安心して寝ていたじゃないか」
「ふふ、久しぶりによく眠れたよ。それに朝食まで用意してもらえるとは、至れり尽くせりだな」
「何を言う、焼いただけだよ」
「それでも食べ物があるのはありがたい」
スサノオは何か諦めたように小さく笑い、こんがりと焼けた枝に刺さったモルモルを渡す。
クロスはそれを受け取ると嬉しそうに齧り付き「うまい」と声に出す。
そのまま何口か急いで食べたところでようやくあたりを見回した。
時間は朝方だというのに相変わらず薄暗い。
夜ほどではないがそれでも夕刻と変わらない暗さだ。
空気は淀み、細かい霧は赤みを帯びて纏わりつく。
嫌になる。
クロスはその感情を振り払うかのように無言で食べ続けた。
スサノオははじめ心配そうに見ていたが、途中から気にするのをやめたのか同じように黙々と食べていた。
スサノオは食べ終えると骨を焚き火に放り投げ満足そうに息を吐く。
クロスもそれに倣い、同じように焚き火に骨を投げた。
「ご馳走になった」
「ああ、いいって。これから儂の馬鹿弟子に会いに行くんだろう?あの馬鹿はどうも自分を過大評価していんのさ。コテンパンにぶちのめしてやってくんな。…ああ、弟子の名前、伝えていなかったね。アイツの名前はタケミカヅチってんだ。よろしくやってくんな。」
「ふふ、善処しよう。タケミカヅチだな、了解した。」
ケラケラと気持ちよく笑うスサノオに思わずクロスも笑ってしまう。
スサノオはオオミタマ大陸の出身で、崩壊以前からここら辺に住み着いていたらしい。
ということはクロスと同じぐらいの時を生きていることになる。
道理で強いはずだ、とクロスは思った。
この世界で生き残るにはもはや力、またはそれを凌駕する知恵しか残っていないのだから。
クロスは纏わりつく霧を振り払うように立ち上がり、握手を求め手のひらを前に出した。
スサノオはそれに気づき、快く手を取る。
少し毛がくすぐったいが、闘った時と違いやわらかくて温かかった。
「世話になった。これも縁だ、いずれ何処かで出会うだろう」
「…あぁ、そうだといいね」
こうしてクロスとスサノオは別れることとなるが、将来共に道を歩むことになるとこの時二人は思ってもいなかったのだった。
◇ ◇ ◇
遥か大地を見渡すほどの高地に大きな樹が生え立つ丘がある。
崩壊後稀にみる鮮やかな緑がその樹と丘を彩っていた。
眼下には岩と砂、ちらほらとかれた草木が見受けられる。
どうやら高地のある部分では生命の崩壊に侵されなかったようだった。
そこに一人の青年が樹の幹に背を持たせて座っていた。
鹿のように立派な双角を額に生やし、新緑の色をした着物に黒い袴、それを覆い被せるような金色の羽織り。
肩には真っ白でふっくらと柔らかそうな毛皮をまとっている。
彼の蒼い瞳は淀んだ空を見上げていた。
そして大きく欠伸をする。
「暇だ!誰か俺を楽しませてくれる奴はいねえのか」
叫ぶと、そのまま後ろに倒れて寝ころんだ。
見上げていた空よりさらに上のほうに目を凝らすと、うっすらと真っ青な空が顔をのぞかせる。
遥か昔に存在していた、楽園のような世界。
空はどこまでも青く、空気は澄み渡り、鮮やかな大地が恩恵を与えてくれる。
彼は残念ながら崩壊後に生まれたためその様子を知る由もないのだが、ある程度の想像はついた。
そのことを教えてくれた師匠がいたから。
だからこそ彼…タケミカヅチはこの場所が好きだ。
目を閉じて、微かに吹く風を感じる。
多少血なまぐさい臭いがするが、もう慣れた。
ここはそういう世界だからだ。
だが目を閉じて想像することで少しは気が楽になる。
しかし、しばらくすると嫌な思い出も一緒に蘇ってしまうので長くは浸れないのだが。
「…師匠、生きてるよな」
目を開けて、また空を見上げた。
相変わらず淀んだ空に彼は眉をひそめる事しかできなかった。
2019/1/21 …お弟子の名前書き忘れてたので足しました。