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崩壊世界 クリムゾン  作者: OOSAWA
結成編
12/15

11話 旅支度(4)

時間を数えれば2時間ほど経過した頃、タケが枯れ木を片脇にいっぱい、反対側には小ぶりのモルモルが2,3頭ほど、長い耳を蔓で結ばれ揺れていた。


「おーい、捕ってきたぜ。これくらいでいいか?」


そう言いながら近寄ってみると、クロの周りにはタケからしたら物珍しい道具がずらりと並べられていた。

紐付きの鞄に中くらいの革袋、さらにはなにやら怪しげな匂いがする木でできた筒状の箱など。

いつの間にこんなに作ったんだろうか?と首を傾げながら、抱えていた荷物を下ろす。


「すげーな、こんな短時間で」

「おお、無事に戻ったようで何よりだ。うむ、量も問題ないぞ。助かった」

「いいってことよ。んで、お前これどうやって作ったんだよ」

「ふふふ…そういうと思ったぞ。今から作る過程を見せてやろう」


なにやら自慢げと言うか、少年が褒められた時のような笑顔で積まれた枝を何本か手にとる。

タケは興味津々といった様子でクロの隣に座った。


「うむ、素材の量はこのくらいか…久しぶりに作製魔術を使うところを見られるな。少し緊張するぞ…」

「作成魔術?」

「うむ。我が一族のみが扱えるとされる、"原初の魔術" の一つだ。魔神は竜の血を持つことから、またの名をドラゴニジカルとも呼ばれているようだがな」

「へえ、初めて聞いたな。師匠から聞いてんのは、自然の摂理だって捻じ曲げちまうやべー魔術って聞いたけど」


タケがとんでもないことを悪気なく口にするので、クロは思わず作業を止めて苦笑する。


「確かにその通りだ。その気になれば大地を割ることも出来るし、雷を降らせることもできる。しかし、それは原初の魔術の中でも禁術のものだな」

「なんでだ?そんだけの力があれば…」


その先を言おうとしたタケは途端に口を閉ざし、気まずそうに目線を逸らした。

その力があれば、魔神は滅びなかったのではないだろうか?

だが、それを言うのはあまりにも酷だ。

しかしクロは、タケが言わんとしていることを察して小さく首を振る。


「禁術であるのにはきちんと理由がある。まず一つ、魔力を激しく消耗するのだ。自然の摂理を曲げるのだから当然だろう。いかに膨大な魔力を持っている我らでも一人ではできぬのだ。魔力保有量が多い者たちを集めて魔術構築をしなければ発動はできん。元に戻すにも相応の魔力を要するしな」

「魔力保有量…。あー、いい、いい。なんとなくわかるから。んで、他の理由は?」

「うむ。魔力を使い切ると、寿命と関係なく死亡する場合があるのだ。膨大な魔力保有量を持つ我らでも、下手したら簡単に死ぬ。…まあ、要するに相応の準備と覚悟が必要なのだ。だから、禁術としたのだな」

「ふーん。俺が使う雷は禁術じゃねーのか?こうして、枝を燃やすことだって出来るんだぜ。違いが良くわからねえぞ」

「そうだな…簡単に言えば、災害が起こせる魔術は禁術に値するだろう。ここから目に見えるすべての木々が一斉に燃えたり、土地が陥没したり…洪水が起こったりか?口にして伝えると、随分曖昧に聞こえるものだな、すまない」


クロが改めて作業を再開しようとしたとき、途方もない話に半分理解の範疇を超えながらもウンウンと頷いていたタケが、ふとあることを思い出してハッと顔を上げる。


「でもお前、確かに結構な距離がある大地を割ったろ?あれは自然摂理を曲げたんじゃねえの?」


すると図星を突かれたのか、クロはうっと唸り狼狽えた。


「う…うむ…。確かに、禁術の一歩手前までは…いったかもしれんが…あれはだな、私が魔術構築を新たにつくって、小さい範囲であれば大地も割れるようにしたと言うか…その…」


まるで親に悪事がバレた子供のように忙しなく視線を動かしている。

タケはなんだかそれが面白くて、思わずクロににじり寄る。


「ほお?意外と王子サマも悪いことしてんなァ…」

「ちっ、違う!たしかにあれは禁術から着想を得て作った私の魔術だが、実際には薄い重力の膜を作り、地面に切り込みを入れてるのだ!それで地中に切り込まれた重力をそこから横に押し出すように膨らませてだな…」

「分かった分かった。だがよ、そう簡単に大声でネタばらしするもんじゃねえぜ」

「は、謀ったな…」


ニヤニヤと笑って慌てふためくクロを眺める。

重力がどうたらとか言ってたが、タケには難しすぎてよくわからなかったし、それよりもクロが狼狽えている様子が面白くてたまらなかった。

クロは眉を寄せてすねたようにそっぽを向いた。


「全く、からかわれるとは思わなかったぞ。して、話が大幅にそれてしまったが、最後の道具を作るからな」

「へーへー、よろしくお願いしますよ」


ジト目でタケを一度見ると、ひとつ咳払いをして枝を両掌に乗せて腕を突きだす。

クロは一度深呼吸してから目を閉じて魔力を枝に流しはじめた。


「作成魔術は、名前の通り作りたいと思ったものを生み出す魔術のことだ。しかし、非常に高度な魔力操作と作りたい物に対するイメージや知識が必要になる。作る物によって使用する魔力も変わり、精巧なものを作ろうとすれば集中力も必要だ」


両掌に乗せられた枝が端から震えだす。

枯れ枝全体に魔力が行き渡ると、薄い光の膜を纏って手のひらから数センチ宙に浮いた。


「私は既に作りたい水筒の形を長考し、事前に頭に叩き込んである。あとは魔力を流し込みながら素材の内側で魔力操作するだけだ」


暫くすると、束になっていた枝が少しずつうねる様に動き始め、まるで枝が自らの意思を持って織り込んでいるようにやたら編みされていく。

そうしてやたら編みし終えた枝の一部から徐々に、今度は編み漏れた隙間を埋めるように小さな根が伸び、全く隙間を埋め始めた。


タケは水筒が出来る間、クロから作成魔術に関する様々なことを聞いた。

有機物である植物をはじめ、無機物である金属や石なんかも加工することが出来ると言われ、古代の魔神達の中では作製魔術に秀でているものが鍛冶師や細工師、織匠といった職に就いていたこと。

その中には作製魔術は使わず一から手作業を好む者や、基盤となる形だけ作製魔術を使用しあとは手作業をする変わり者もいたが、通常の大半の物は作製魔術で作りだされていたらしい。

そのほうが楽だし素材だけあれば、その場で作ることが出来るからだ。

例えば…剣や盾、鎧などをはじめ、生活必需品である包丁や鍋、食器類に衣服、装飾品であっても知識がありイメージさえできれば造作もないことだった。

ちなみに、クロが持っていた方位術具(ほういじゅつぐ)のようなものは言うなれば精密機械であるため、作製魔術で部品を一つずつ作って組み立てていたらしい。

なんでも、知識やイメージが明確でなおかつ腕が立つ者でも10個に1個しかきちんと動くものができなかったそうだ。

素材を無駄にするわけにもいかず、確実に完成できる方法を選んだというわけだが、前述したように手作業をしなければ完成しないような代物は変わり者が作るものだ。

方位術具(コンパス)なんてものは竜になって空を飛び地上を見渡すことができる魔神には不要なので、当時は画期的な性能であっても見向きもされずインテリアとして扱われていた。


しかしクロは、それらを専属の細工師に強請りいくつか貰っていた。

どれもこれも素晴らしい職人技であるし、なにより人の手で作られた温かみがあって、クロはそれが好きだった。


「…細長い壺の形状で、飲み水が少しでも多く入るよう器の壁はやや薄く作ったぞ。コルクか手ごろな石で蓋をするために、飲み口は中側に狭めていく形だ」


口に出した方が形にしやすいのか、いつもより饒舌になっている。

素材にした枝は最初、死んだセピア色をしていたにも関わらず、隙間を埋めた部分は息を吹き返したかのように鮮やかな黄褐色になっていた。


「ああ、そうだ、危うく忘れるところだった。容易に持ち運べるよう、紐を結ぶ為の輪を飲み口付近に作らなくてはな…」


枯れ枝を数本、飲み口より少し下部分に当てるとさくらんぼ程の大きさで輪っかが作られた。

その後、クロが魔力をゆっくり流し込むとようやく全体が鮮やかな黄褐色に染まった。

持ち運ぶ為の紐は、モルモルの皮を鞣して革紐にしたものだ。

輪っかに固く結んで状態を確かめると、一つ頷いてからタケにも見えるよう掲げた。


「ふう…意外と大仕事だったな。少し輪の位置が不格好ではあるが…まあ良い出来だろう」

「す…すっげー!!これ、禁術だろ!禁術!こんな魔術使えたら、その…よくわかんねーけどとんでもねーぞ!」


タケは興奮した様に鼻息を荒くして、少年のように目を輝かせている。

覚えたての言葉だからか、禁術という言葉を悪意なく連呼していることにクロは怒る気にもなれず苦笑する。


「うーむ…。作成魔術はあまり大きなものを作ることはできないし、死んだ物にしか使えん。今でいえば、モルモルの革や枯れ枝だな。それに、実はもう試していたのだが生きたまま使おうとしたが使用できたことはないのだ。作成魔術は破壊系統の魔術ではないからだろうな、ただ魔力を与えるだけだったのだ」


既に生物実験していたことに対し若干の恐怖を覚えたタケだったが、それよりも「魔神ってマジすげー」という単純な思考で頭がいっぱいになっていた。


「じゃあ、死んだモンに魔力を注ぐと、一瞬生き返ったみたいな感じになんのか?」


クロは自身の顎に手を添えて、数秒思考したあと頷いた。


「大方間違ってはいないだろうな。もう死んでしまって空になった器をどうしようが、自然の摂理の外なのだろう。…しかし、そうすると人に対してはどうなってしまうのだろうな?墓を掘り返すほどの無礼は学んでおらぬし、何よりそれは自然の摂理ではなくただの外道だ」

「ああ、俺もそんなことするもんじゃないと思うぜ。これは、枝とか革とかに使うもんだ。でも石は元々死んでるのか?ムキブツ…とか言ってたよな」

「うむ。どうやら石や土、水、空気など、呼吸をしないものについては空の状態であるようだな。だから比較的簡単に扱えるようだ」


話しながら水漏れや蓋のしまりに不備がないことを確認するために、湧き水が出ている場所に歩みを進める。

面白そうな話の続きを聞くため、興味津々なタケはそれに続く。


「私の雷がタケの雷に劣るのはそのせいだ。私は空気中の細かい塵などを擦ることで自然に近い雷を発生させるが、それは雲の中で行われるような大きさの粒ではなく…また話が逸れそうな顔をしているな、雲の話は止そう。とにかく、帯電体質であるタケは突き詰めていくとタケそのものが自然の摂理であると考えても良いだろう。多少異質ではあるが、それがこの世全てを破滅に導くものでもあるまい」

「えーと…自然の力には勝てないってことか?」


タケがウンウン唸ってから一言にまとまった言葉に、困ったように肩を竦める。


「要約すると、そうだな」

「けどよ、俺はお前の白い雷には負けたぜ?」

「…すまないが、それはタケよりも私の魔力量が多く、質も良いからだ…」


それまで楽しそうに目を輝かせ話を聞いていたタケが、がっくりと項垂れる。

こればかりはどうしようもない、言わないでおくとそれもそれで拗ねそうだしな…とクロは思う。


「ま、まあ、タケよ。私は電気を出すのにタケの5倍は魔力を使うと考えてくれ。タケはその体質上、電気を…」

「いかずち!」

「そ、そうだ、雷を操るのが簡単なはずだ。少しの魔力で操れるからな、それはすごいことだぞ。誇るべきだ!」


タケがどれほど偉大かを証明しようとしたのか、慌てて立ち上がり身振り手振りを用いてまくしたてる。

その様子を見て、タケも自分が大人げなかったと苦笑してみせた。

すぐに俯き、横目でクロを見つめる。


「それならやっぱり、俺はいらないんじゃないか?」


それに対し、クロは眉を下げながら手で制して首を振る。


「断じてそのようなことはない。…そう思わせてしまったのなら、謝罪する、すまない。しかし断じて、そのようなことはないのだ…」


なにやら尋常ならざる雰囲気を感じ取ったタケは、そのまま口を閉ざしてしまった。

しばしの沈黙の後、クロがもう一度「すまない」と言って立ち上がる。

水筒を作るのに余った枯れ枝を、すっかり火が消えた焚き木に積んでいく。


「だが、らしくないな、タケ。腹が減っているからだろう?」

「…フン。そうかもしんねーな。今日の朝飯は俺が作るぜ、いろんな道具作ってくれたお礼だ。まあ…もう昼頃なんだろうがな」


少々乱暴にクロが持っていた枯れ枝を奪うと、枝に静電気で火花を散らせて火を起こした。

小ぶりのモルモルを慣れた手つきで解体していく。


「今までは毛皮なんて捨ててたけどよ、これ、いるんだろ?傷つけないように努力する」

「ああ、助かるよ」


なにやら嬉しそうにニコニコとしているクロにムズムズしたタケは、これは奴に腹が立ってんだな!と思うことにして、解体したばかりの毛皮をクロに放り投げたのだった。


その日の夜、焚き木を挟んで寝そべっていた二人は、明日の旅立ちに胸を躍らせていた。

タケは初めての外の世界をその目で見ることに。クロは未知なる出会いとその友に。


「いよいよ明日、出発か。どこに向かうつもりなんだ?」

「うむ。ここより南に行こうと思う」

「南…ってぇと…」


そこでタケは少しの間考え込んでから、渋い顔をする。


「もしかしたらアイツに会うかもしれねえのか…」

「なんだ、知り合いがいるのか?」

「知り合いっつーか、腐れ縁っつーか…とにかく、俺が苦手な奴だ」

「タケが苦手とするくらいの人物か…なんともクセのありそうなお方だな」

「いや、むしろお前のほうが馬が合うと思うぜ。ただ俺は…一度やらかしているからな…」


そういって遠い目を夜空に向けるタケ。

なにやら事情がありそうだ、彼の言う"アイツ"と会うのは避けるべきだろうか。

話を聞きながら思案していると、タケがそれに気付いたのか慌てて首を振る。


「だけど、戦力としては申し分ないと思うぜ。これは俺の問題だ、クロは気を遣わなくていい」

「しかしだな…」

「いーって。ま、ちったぁ騒がしくなるかもしれねえがな」


ニシシ、と悪ガキのような笑みを浮かべる。

なんだか引っかかるところもあるが、仲間は欲しい。

もし会うことがあれば、素直に仲間に引き入れてみようと思うクロだった。


「まあそれはいいとして…何か目的があって東に行くのか?」

「うむ。昔、私を助けてくれた時に叔父が言っていたのだ。南に行け、そこに緋色に輝く(つるぎ)があれば、持ち主に『我こそが龍の花』と伝えろ、とな」


少しの間だけ、懐かしむような表情でクロは目の前の火を見つめた。

穏やかだったが、タケには彼の瞳の奥に深い悲しみを見た。


「…そうして東に向かっている途中で、タケに会ったということだな」

「……そうか、災難だったな」


その叔父はもういないのだろう。

恐らく、“第一次世界崩壊(ファーストコラプス)”によって住んでいた土地を追われている最中に言われたのだ。

きっと、彼を最後まで守りきりその役目を終えたんだ。


だからタケは、あえて何も聞かずにそう答えた。


「ま、今度は俺が守ってやるさ」

「む?どういう事だ?」

「こっちの話。さっさと寝んぞ、あんまり起きてっと腹が減って寝れなくなるからな」


クロは追求しようと口を開きかけたが、渋々と言った表情で毛布代わりにしているマントを口元まで寄せた。

それを見て満足したタケも、小さく丸まった。



「また明日…」

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