Prolog
彼は、絶望した。
目の前の光景が信じられなかったからだ。
なぜ最強の種族と称された誇り高き我らがこのような屈辱的敗北を知らなければならないのか。
目の前の化け物が己らの姿かたちを真似ようと、その体が腐り落ちては生え、傷ついては回復を繰り返している。
その化け物は同胞を容易く喰らい、誉れ高き故郷を破壊する。
彼の目に、嫌でも鮮明に焼き付いてしまった光景だった。
どこで間違えていたのか、何を間違えていたのか。
それを知る術はもうなく、ただ戦火の炎が彼の故郷を包んでいた――。
―――
――
―…
時は流れ、あの戦火の炎を匂わせる景色は風化した。
しかし、その爪痕は大きく残り、世界は植物も育たぬ荒廃の一途をたどっている。
砂ばかりの荒野を歩く、見るからに高価そうな深紅のローブを纏った一人の男。
しかし、その姿は明らかに人ではない。
艶やかな白銀の長い髪の中から覗かせる、上向きへと対照的に生えた、漆黒の美しい角。
その角の付け根には、左右に2つずつ金でできた輪のピアスが付けられている。
右眼に紅色の瞳を持ち、左眼は眼帯で隠されていた。
だが、整った顔立ちを腐らすには足らなかった。
「ふう…。大分歩いたが、やはりどこまで行こうとも荒れ果てているな」
ローブが汚れることも気にせず、男は大きな岩に腰を下ろし座る。
そして、改めてどこまでも続く不毛な大地を見渡した。
木々は枯れ、わずかに生きている植物も干からびたように砂嵐に曝されている。
太陽は昇ることはなく、常にほの暗い、朱色に染まった地獄のような世界。
けれども、光がないこの世界でその男の艶やかな髪は唯一認められているかのように、薄く淡い白銀に輝いていた。
「果たして、まだ生きている大地があるかどうか…」
独り言をつぶやくが、その甘く響くような声は砂嵐の音でかき消される。
男は伏せていた目を開き、光が差すことのない曇天を見上げる。
「いや、まだあるはずだ。希望を捨ててはならぬ」
そう言うと、決意したように立ち上がり再び歩き出す。
彼の希望、“生きている大地”に向かって…。
初めて投稿します。
中学時代、黙々と考えていた世界観をつい最近なんとなく皆さんにも見て頂きたいなと思いました。
拙い文章ですが、楽しんでいただけたらいいなあと。
短いですが、プロローグという事で。
飽きるまで走ります。
よろしくお願いいたします。