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けものふ  作者: 腰ひかりん
第一章
8/23

事の顛末と後始末と事案

 

 ――――.....................んなさい――――


 うっすらと誰かの声が聞こえた気がして目が覚めると、俺は病院らしきベットの上に寝ていた。

 

 点滴が打たれ、TVドラマで見るような心電図がピコピコと音を立て動いている。

 そんな光景を目の当たりにしてようやくジワジワと実感する。


 俺、生きてたわー・・・。

  

 顔にかかる髪の毛を掻き揚げながら体をゆっくり起こすと、左肩にズキリと痛みが走った。

 というか全身が痛いし頭もまだボーっとしてる。

 

 酸素マスクを外し周りを見渡すと、カーテンが閉め切られた薄暗い個室にうっすらと消毒液の匂いがする。机の上には少し汚れてしまったシルバーリングが置いてあった。

 退院したらルーシーさんのところで土産話のついでに磨いてもらいに行こうと一瞬思ったが、汚れた理由話したら多分また笑われそうなので暫らくやめとこう。

 

 リングをを手に取り、着せられていたパジャマの裾で出来る限り綺麗に磨き、人差し指に嵌めると何故か少し落ち着いた。

 ベッドから降りて外の景色を見たかったが、体に貼られた電極を勝手に外していいものかも分からないので、ナースコールを押してからしばらくボーっと何も見えない窓を眺めていた。


 暫くして廊下の方からパタパタというか、バタバタ音が複数聞こえてきた。


「がぁつみいぃぃぃぃぃぃ!!!」


 一番に飛び込んできたのは白衣の天使ではなく、号泣しているエリ姉だった。

 俺を抱きしめ号泣するエリ姉、温かくて嬉しくて少し涙が出そうだったが、体が絶賛バキバキ中の俺にはトドメになりそうなほどの力加減と突き刺さる角の痛みで余計泣きたくなった。


「エリ姉痛いよ」

「何!?痛いの?安心して、すぐお医者さんに診てもううわ」

「ちがっ!角っ!」

 

 そんなやり取りの中、すぐに医者とスーツの2人組が遅れて慌しく部屋に入ってきた。

 スーツの2人組は霊獣特務部の人らしく、診断の後で落ち着いてから事情を聞きたいらしい。

 

 どうやら俺は一週間ほど寝込んでいたらしく、両親たちも来ていたらしいが、いつ回復するか分からないので一度家に帰ったそうだ。

 ただエリ姉だけはガンとして引かなかったらしく、無理矢理病院内で待ってくれて(立てこもって)いたそうな。

 心配かけたので、今度給料入ったら何か奢ろうと思う。


「第一捜査課の田中です。お話聞かせてもらっていいかな?」

 人の良さそうな丸顔の青年が医者と入れ替わるように話しかけてきた。

 霊獣特務部ってことはこの人達もきっとエリートなんだね、あんまりそんな感じには見えないけど。

 霊獣特務部の人達には事の顛末を全て話した、ここ最近あの界隈で数件はぐれの被害があったそうで、同一犯の可能性が高いらしい。

 先に襲われていた人は残念ながらお亡くなりになったそうだ。


「それにしてもよく生きてたね。でも結果的にはぐれを倒したんだ、お手柄だよ」

 アレ(はぐれ)殺したのって別の誰か様だからお手柄も何も無いんだよなぁ。


「はぁ、でも倒したのは俺の力じゃないですし」

「それでも一応、民間人の協力ということで表彰されるよ。将来有望じゃないか」 

 霊獣も居ない俺が表彰とか、そんな悪目立ちしそうな事は断固お断りだ。

 罰ゲームにしか思えませんよ。


「いや、辞退出来るならしたいんですけど・・・」

「えー!なんで?勿体無い」

「ほら・・・俺この年で霊獣いませんから、ね、分かってくださいよ」

 苦笑いと共に田中さんにお願いすると、上の人に伝えてくれると言っていた。

 

 その間、エリ姉は「そいつ殺す」というパワーワードを延々繰り返し呟いていたが、体が霧散してたから多分だけどもういないよ。


 ◇


 それから2日ほどで退院が許された。

 肩はまだ痛むが体は重いけどほぼ回復していた。

 

 寮まで送ると言われたがそのままの放置すると、いる筈も無い()()()を殺しに探し回るかもしれないエリ姉を駅まで送った。

「克己はお姉ちゃんが守るからね!」

「いや、もう子供じゃねーから安心してよ」

「何かあったらすぐ電話するのよ!そいつちゃんと土に返してあげるから」

「過保護が物騒すぎるわ!」

 

 その後、一向に帰らないエリ姉に家族によろしく伝えてもらうようにと言って見送った後、寮に戻る前に無断欠勤になっていたはずのバイト先にだけ顔を出した。

 

 店に顔を出すと、マスターもタマキさんも大体の事情は知っていた。

「なんかねー、黒戸君て言う可愛いメガネの同級生が教えに来てくれたよ。大変だったね」

マジか!結城すげーいい奴。

「すみません。ご迷惑かけました」  

「私あの子気に入ったからバイトに誘ったんだけど、逃げられちゃった」

 テヘッって顔してるけど、きっとまた強引に勧誘したんだろうなー。

 どうやら結城はワタワタしながらスミマセンを連呼して逃げるように帰ったらしい。

 

 待てよ?今回の事をタマキさんが知ってるという事は、既にルーシーさんにも筒抜けか!

 コレはまずいですよ。

 店に行ったら盛大にイジられるの確定じゃないですか。

 ほとぼり冷めるまで店には近づかないようにしよう。


「体が治るまで無理しなくていいからね」

 と、タマキさんには言われたが諸々お礼したい相手もいるし、明日は土曜で学校も無いから暇なので、

「また明日からよろしくおねがいします」

 と言って寮に戻った。


 ◇


 寮に戻ると、玄関口のベンチに座って話している佳奈美とモエがいた。

帰って早々癒される。


「ただいま帰ってまいりました」

「お、おか・・・・・・バカ~!!!!!!」

 ちょっと罰が悪そうに頭を掻きながら2人に挨拶すると、モエが叫びながらダッシュで胸に飛び込んできた。


 あれれ?俺モエにいつフラグなんて立ててたんだろう?

 どっちかっつーと佳奈美が飛び込んで来てもいいパターンじゃね?

 ・・・という淡い期待。


 抱きかかえたモエが、俺の胸元におでこをグリグリしてるのを見ながら、クスクス笑いながらも少し涙目の佳奈美が声をかけてくる。

「お帰り。モエがね、あいつがヤバイ!あいつがヤバイ!って教えに来たんだよ」

 

 どゆこと?と思ったが、屋根の上で夜の散歩中だったモエが何か嫌な気配を感じて近づいてみたら、丁度俺がハグレに無駄な抵抗(仰向けのまま殴る)をしているところだったそうだ。

 すぐに霊獣特務部とクラスの連中にLEIN回して、駆けつけたときには俺がぶっ倒れていたそうな。


「つー事は、クラスの連中もこの事知ってるってこと?」

「うん、知ってる。霊獣もいないのに素手で()()()殴ってるから助けて!ってまわした」

「もう凄ぇ恥ずかしいやつじゃん!どんな顔してクラスいけばいいのか分かんねーよ」

「それでさ、あれって本当に素手ではぐれ浄化をしちゃったって事なの?」

 気恥ずかしさで落胆する俺に、佳奈美が食い入るように質問してきた。

 たぶんここが一番聞きたかったんだろう。

 

 俺はあの夜の顛末を佳奈美に話し、気になっていたことを逆に聞いた。

「駆けつけたとき他に誰かいた?霊獣特務部の人とか?」

「ううん。一番早く着いたの私達だったから誰もいなかったと思う・・・あの時は死んじゃったのかと思って気が気じゃなかったし」

 

 誰も居なかったということは、結局()()()が消えたあの光は何だったんだろう?


「そーよ!あれだけ心配させたんだから、損害倍賠償よ、そん がい ばい しょー」

 考えにふけっていると、おでこグリグリをやめて顔をあげたモエが糾弾してきた。


「よし、じゃあ世界の半分をお前にやろう」

「そんなのいらない!世界の半分をウィンナーにしなさい」

「もうそれ、世界の半分ウィンナーに食われちゃってるからな。でもモエ本当にありがとな。お前いなかったら俺死んでたわ」

 そう言いながら片手でモエの頭を撫でまわす。

 

 照れ顔でアワアワしながらモエは

「いつまで抱いてんの、ジアンよ!」

と言いながらジタバタすると、腕をすり抜け部屋の方に走っていった。


「佳奈美もありがとう。心配かけてごめん、あと俺ともLEIN交換してください」

 俺は佳奈美にいろいろな意味で頭を下げた。

 

 佳奈美はケラケラ笑いながら、いいよと言って気軽に教えてくれた。

 きっと俺からは率先して送れないかもだけど、他の奴が知ってて俺が知らないのはちょっと悔しいのだ。

 LEIN交換した後、佳奈美がゆっくり休んでねと言いながら部屋へ戻って行ったので、俺も部屋へ戻ってあの日着ていた服の整理をしていた。


 洗濯はしてくれてたみたいだが全部ズルズルボロボロだ。

 一番ショックなのがルーシーさんのくれたパーカーだ。

 肩口は縫えば何とかなりそうだが背中の刺繍がボロボロに・・・気に入ってたのになぁ。


 憂鬱な気分になりながらベッドへ横になり、佳奈美から聞いた話を思い出し考える。

 

 佳奈美が駆けつけたときは誰も()()()()()

 駆けつけた時にはもう去ってたって事か?

 でもそんなヒーロー的な奴なら、死にかけの俺を介抱くらいしてくれててもいい気もする。

 でもあの青白い閃光で救われたのは事実だし・・・誰だったんだろう?

 もういいや、今日は[はぐれ退治=浄化]だって学んだことと、モエに変なフラグが立ってたことを収穫としてもう寝よう。


 そして、自分から佳奈美に率先して連絡は出来ないだろうという考えは、すぐに覆ることとなる。


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