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けものふ  作者: 腰ひかりん
第一章
3/23

新生活1歩目

 

 試験が終わった1か月後、どういう理由かは分からないが正式に入学が認められた。


 あれから筆記試験があったわけだが正直勉強は得意じゃない。

体で覚えることはすんなり覚えられるが、暗記物・・・特に歴史なんかは人物とか年号とか覚えられる気がしない。

聞いたこと無いような問題もチラホラあったが、マークシートだったことと勝率60%のチビた鉛筆転がしの結果としか言いようがない。

ありがとう心の友よ。


 デカい体育館での入学式が行われ、賢そうな爽やかメンが代表挨拶をした後、貧血で倒れる人が出そうな校長の話がある。

この辺りは東京だろうがどこだろうが一緒なんだね。

漫画にありそうな劇的な入学式を少し想像してただけに拍子抜けだ。

 

 普通だった入学式が普通に終わり、俺は学校から15分ほど離れた学生寮へと向かうことにする。

クラスでまとまり自己紹介的な始まりかと思ったが今日は入学式だけして解散らしい。

必要なものとクラス分けの名前が書かれた紙をもらい明日から登校になるので、渋谷の街を少しブラブラしながら渋谷の少し外れにある寮へと歩いた。

 

 夢の一人暮らしだ。

とはいえ期待と不安が入交じり過ぎて、盆暮れ正月とメリークリスマスが一緒に来たような気持だ。

 

 寮はワンルームマンションが2棟並ぶ形の学生寮は男子用と女子用で分かれている。

ただ、1階のエントランスと2階の食堂は繋がっていて完全に女子寮と別れているわけではないらしい。

しかし、色々な意味で青春を謳歌しようとする者は必ずいるようで、男子が女子棟へ行くのは禁止されている。

 この寮は門限など厳しいことは無いが、女子寮とは廊下で繋がっているので風紀についてはかなり注意された。

青い果実の身としては、その注意はフラグであって欲しいと願うばかりだが、バレたら即退寮らしい。

バレなきゃいいんじゃね?という勇者は必ず2~3名出るそうだが何故か必ずバレると後で聞いた。

 

 部屋へ入ると6畳ほどの部屋には机や棚・クーラーまでが常備され、霊獣と暮らす前提なのか2段ベットが置いてあり、窓からは街の景色が見える。


「これから東京で生活なんだなぁ」

 そう一人呟きながら窓を開けると、ビルだらけの街が見え喧噪とゆるい風が顔を通り抜けた。

 

 ベットに体を投げ出し横になりながら少し考える。

 結局、試験の時のアレ(魂結の儀)は何だったんだろう?

 確かに何か感じたし、結城が言っていた声・・・ではないが声のような気もした。

 条件?タイミング?想像力?何か足りないのだろうか、そんなことは聞いたこと無いし中学時代に召還出来たやつらよりむしろ成長している今を考えれば当てはまる物がないのだ。

 わからん。

 何かムシャクシャした感情にベットに身を投げ出し悶えていたが、考えてもしょうがないと思い気分転換に外へ探検に出てみることにした。


 1階に降りてエントランスに行くと、日向で白地に鼠色のマーブル模様がある1匹の猫が寝ていた。

 

 アメショーか?誰かのペットだろうか?

 しかぁし!これはモフらずにはいられない毛並みだっ!

 驚かして逃げられないようにそっとだ、そぉっと実行だぁ!

 0コンマ1秒程考えたのち逸る気持ちを抑え、手を伸ばし片手で軽く背中を撫でる。

 

 これよ!!

 

 この至福の時が俺の乾いた心を洗い流してくれるのよ、猫も逃げる様子はないので人には慣れているようだしこれは・・・GOだ!

 すかさず両手に切り替え、頭や顎は撫でさせてくれるが尻尾は触られるのが嫌らしく避けられてしまう。

 そして猫の体勢が変わったところで腹を撫でようとした時だった。


「ちょぉおっアンタ!お、乙女のどこ触ろうしてんの!!」

 その瞬間、目の前に顔を赤くした童女が立っていた。

 セミロングの髪型でスカート姿、両手で胸を隠し警戒している。

 

 そして驚きを隠せずにいる俺を指差し、

「アンタこれ立派なジアンよ!ジアン!チョーシのって撫ですぎ。反省しなさい」

 次の瞬間、仁王立ちの童女に怒られ俯き、正座で説教を受ける15歳の高校生の姿があった。

 つらい・・・。


「で?アンタの相棒は?」

「いない・・・」

「は!?アンタここにいるって事は生徒なんでしょ?」

「お、おう、生徒だがいない。つかお前霊獣なの?」

「霊獣よ。買い物行くから待っててって言われたの。そのくらい分かりなさいよ」

「分かるかい!待っているついでにもう少しモフらせろください」

 突然の展開に気が動転したまま、欲望にまかせて言い放つ俺の後ろから声がした。


「モエ?」

 振り向くと、女子生徒がこちらに歩いてきた。

 

 黒髪のショートカット、活発そうな凛としているのに可愛い感じのその子の表情は少し困惑気味だった。

 それもそのはず、いい年した高校生が童女の前で絶賛正座中なのだ。


「佳奈美聞いて、胸揉まれそうになったの」

「え!?」

「ちょっ、まっ、いや言い方っ!言葉足りてないと俺ただの変質者だから」

 俺はこの後、そりゃもう無茶苦茶頑張って事の顛末を女子生徒に説明した。

 

 最初はドン引きして携帯を今にも発信しようかと身構える佳奈美という少女は、最後は納得してくれたが、これからは気を引き締めてモフらねばならないと身をもって自覚した。

 

 その後、彼女は「本状 佳奈美」という戦闘補助課の同じ新入生であることが分かり、その猫の霊獣は「モエ」というらしい。

 入寮して足りない物を買いに出かけようとするところだそうだ。

 

 なぜかモエが迷惑かけたということで頭を下げて謝られたが、Tシャツからチラッと見えた健康的な体から放たれる谷間には心を奪われそうになった。

 が、ガン見することは自重して目線を外した。


 佳奈美は、何も予定がないならバイト情報でも見てみれば?といって、廊下の先にある掲示板の張り紙の場所を教えてくれた後、モエと出かけていった。

 そういえば生活費などは仕送りしてもらえるが、時間があれば遊行費はなるべく自分で稼いだほうが良いかもしれない、服も買いたいし。

 そう思いエントランスの奥にある掲示板を見てみることにした。

【店内警備:実務経験者優遇。時給1200円+褒賞付き】

【ぴよちゃんを探してください:見つけた方にはお礼いたします。】

【体力自慢募集:郊外にある山の中での作業。優しい上司が待ってます。独自通貨ガバス支給】

 ざっくばらんに張られたバイト募集の張り紙は、この学校特有なのか警備や護衛などの高給バイトから街のごみ掃除までさまざまだ。

 

 その中に【ホール募集:アットホームな職場です】と書かれている張り紙があった、いいじゃないかアットホーム!

 きっと家庭的な夫婦とかが経営してるのかもしれない。

 喫茶店のホールで賄い付き、時給はそれなりだが出勤に関しては応相談となっているので時間の余裕はあるかもしれない。

 渋谷のお洒落カフェでバイトとか、もうそれだけで超東京人っぽい。

 

 街を見て歩くついでに店だけでも見てみようと思い、そのチラシを持って外に出かけることにした。


 ◇


 人が魚群(ゴミ)のようだ。


 これが東京に着いて初めて思ったことだ。

 交差点は弾幕系のシューティングゲームより避けるのがハードモードだし。

 歩道ですら祭りでもあるんじゃないかってくらい歩きづらい。


 歩き始めて5分で人ごみに酔う感覚を初めて味わった俺は、休憩を兼ねてバイト候補の店に向かうことにした。

 

 チラシに書いてあった地図を頼りに、ホテル街に入り込んだり怪しいお姉さんに声をかけられたりしながら、やっとの思いで店の前に着く。

 外観は都会っぽい洒落たカフェではなく、意外にも路地裏の古めかしい佇まい。

 店内には客もそれなりに入っているようだ。

 

 意を決して店内に入ると、白いYシャツにエプロン姿のウェイトレスが1人で忙しそうに接客していた。

 アンティーク調の落ち着く感じの店、カウンターの奥では背後に立つと撃たれそうな面持ちのマスターが黙々とコーヒーを入れている。渋い。

 勝手が分からず入口でマゴマゴしていると、好きなと所に座っていいと声を掛けられ窓際のボックス席が空いていたので座ることにした。


「お待たせしましたー」

「え?いや、まだ何も頼んでないです」

「あっごめんなさい!」

 ウェイトレスがいきなりピラフをテーブルに差し出してきた。

 慌てた表情のウェイトレスは、お辞儀をすると別のテーブルに小走りに去っていった。

 最初何かのサービスなのかと思ったが単純に間違えたらしい。

 1人でホール回しているようなので確かに忙しそうだ、バイトの手が欲しいのがわかる。

 

 そうだ何頼むか決めてなかった、そう思いメニューを開き衝撃が走る。

 

[当店のおすすめ ウィンナーコーヒー:¥600]

 

 コーヒー1杯の値段の高さにも驚くが、ウィンナーコーヒーという響きのインパクト!

 コレはウィンナー味のコーヒーなのか・・・。

 コーヒー味のウィンナーなのか・・・。

 主役はどっちだ!

 いや、コーヒーの欄に書いてあるということは、きっとコーヒーなのだろう。

 だがウィンナーの存在理由が分からん。

 セットメニューか、漬けて食うのか?旨いのか?

 

 注文を決めかねて絶賛迷走中のその時、さっきのウェイトレスに声をかけられる。

「さっきはごめんなさい。ご注文お聞きしますね」


 まずい、非常にまずい。

 このまま未開の土地へ足を踏み入れるべきか、それとも無難にコーヒーを頼むべきか。

 ここで「コレナンデスカ?」と聞くのも良いだろう。

 しかし、ここのバイトに応募する可能性があるのだ、にもかかわらず、

「へ?ウィンナーコーヒーも知らねーの?」

 とか言われて不採用になる可能性まであるぞ。


 メニューを凝視しつつ、額に脂汗が滲むのを感じながら思考すること約0.5秒。

「う、ウィンナーコーヒーください」

 

 言ったー!言ってしまった!言ってやったぜコンチキショイ!

 もう後戻りは出来ないが良いじゃないか、だって僕もう立派な東京人だもの。

 そう考える俺にウェイトレスが微笑みながら言った。


「ウィンナーは関係なくて、コーヒーの上に泡立てた生クリームが浮いたものだけどいいですか?」


 バレてたー!!!!

 

 きっと困惑していることを悟って教えてくれたのだろう。

 嗚呼・・・田舎者と思われただろうか、バイトの夢も遠のいただろうか。

 うん、また別のところ探そう・・・そう思いながら遠い目のまま、


 俺はウィンナーコーヒーを注文した。


もう少しで話が動かせる予定です。もうしばしお付き合いください。

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