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けものふ  作者: 腰ひかりん
第一章
16/23

忍び寄る影

 

 訓練場から出て俺達は保健室で治療を受けている。

 

 最初は訓練場にいたクラスの皆がいたが、ヤイヤイ騒いでたら

「ここは治療するところです」

と大半は先生に追い出されてしまったので、今は霊獣達の治療で里香と一馬と委員長がいる。


「それにしてもモモ強すぎだぞ」

「はっはっはっ、結局モモたんのワンマンショーやったわ」

「君達また怒られるよ」


 ノエルは軽い脳震盪を起こしてたものの思ったより平気なようで、安静にしてれば直るらしい。

 今は怪我の治療を終えベットで寝ていて、アイリ達はその横で心配そうに眺めているところだ。


「てか、霊獣って普通に治療すんの?」

「軽い怪我なら隠匿して引っ込めとけば霊脈で治るけど、深い時は治療も必要なんだぞ。基本だぞ」

「せや、モモの柔肌が傷物になったらどないするんや!?」

「いや、あの戦闘シーン見せられた後に言われても反応に困るわ!」


 確かにアイリが怪我したって考えたら、一刻も早く治療したやりたいと思うけどさ。

 モモ腕咬み付かれて血ダバダバしてんのに手振ってたじゃん、連戦してたじゃん。

 まあそれで俺も助かったんだけどさ。


 そう思っていると、ドアをノックする音が聞こえた。

 

 扉が開くと茶髪の少女が伏し目がちに入ってくると、すぐさま頭をさげた。

「失礼します。石上と申します。先程の件、本当に申し訳ありませんでした」

「「「!?」」」


 何事かと一瞬キョトンとしてしまったが、おそらくあのピューマの霊獣なのだろう。

 実害あったの俺だけだし、ムカつくの石上だし別にいいか。

「あ、俺のことなら気にしないでいいよ。こっちも石上蹴ったし」

「それよりアンタの方も怪我してるんちゃう?」

「それは、そうなんですが・・・」

「何よりあの男だぞ!自分の家族にあの態度はないぞ!」

 里香はそう言いながら手足をバタつかせ全身で憤慨しているが、ロディーと並んでもどっちが主か分からないくらいロリっ娘なので、駄々こねてる子供に見えてしまう。


 謝りに来てくれたのは嬉しいけど、本当に悪いの石上だ。

 でも、このまま引き下がらいよな、真面目そうな子だし・・・落とし所が無いな。


 そう思っていると一馬がピューマっ子に言いたい事を言い始めた。

「主想いなんやろうけど、何であそこまで従うんや?アイリちゃんに向かって行ったのも、主の事ためやったんやろ?」

「正樹様は今でこそああいう性格ですが、昔は違ったのです。本当は――――」

他人(よそ)様の関係にどうこう言うつもりもあらへんけど、嫌なもんは嫌って言わなあかんやろ」

「モモは妹離れしない(にい)がイヤやぁ」

「モモちゃんウチは『お兄ちゃん大好き』意外は認めません!」

 うっわ、このお兄ちゃん超勝手。


 だがこのやり取りでピューマっ子が、柔らかい顔になって少し笑った。

「そうなれたら・・・とは思います。ただ、正樹様は家の事情で気を張ってらっしゃるのです。私はそれを支えて差し上げたいのです」

 静かに、だがハッキリと彼女がそう言うと、せっかくの笑顔は悲しそうな顔に戻ってしまった。

 

 それを聞いた俺達にはそれ以上彼女に何か言えるよう事も無く、彼女はもう一度謝罪すると帰っていった。

 お家柄の事情で歪んだ性格ってことなのかね、ウチがああいうお気楽家族で良かったよ。


 ◇


 それから暫くして、治療を終えた俺達はそれぞれ家に帰った。

 

 あのピューマっ子との一戦で、アイリが無事だったのが不思議でしょうがない。

 そう思ってふとアイリを見ると、コンビニで買った裂けるチーズを咥えながらキョロキョロしている。


「アイリどうした?」

「誰かいる気がするとよ」

 誰か?嫌だよアイリさん変なフラグ立てないでおくれよ。

 最近色々ありすぎてお腹いっぱいですよ?


 ちょっと緊張しながら、立ち止まって周りを見渡すが特に変なやつはいないようだ。

「何か変な気配でもしたのか?」

「ようわからんばってん、そげん気がしたと」

 アイリはそう言いいながら、首をかしげ不思議そうな顔をした。


 寮まであと少しだし、何もないと思うけど、一応予防線張ってみようかな?

 そう思って、住宅街の見通しの悪い角を曲がりカーブミラー越しに覗いてみる。

 人通りはそれなりにあるし特に目立った動きも無い。

 どうする?誘い込んでどうこうするほど俺に余裕はないし、アイリを巻き込みたくもない。

 

 その時、俺の脳裏にある人物が頭に浮かんだ。


 寮へと少し早足で歩きながら携帯で佳奈美に連絡した。

「はいはーい。柴田君どうしたの?」

「佳奈美、今モエいる?」

「いるよ?代わる?」


 俺は肯定して電話に出たモエに、俺の位置とその側に付きまとう気配が無いか確認してもらう。

「んー・・・特に変な気配はないわよ。人が多くて特定できないし・・・あ、そうだ次の路地を右に曲がって、んで次も右」


 モエの指示に従い、何度か左右に進んだところで人影の無い開けた路地裏に出ると、突き当たりの少し高い壁の上にナース姿のモエがドヤ顔で座っていた。

 緊迫感の無いその格好に呆気に取られたが、冷静に、極めて冷静に問うてみよう。


「おい、何でしょう?そのお姿は」

「はにーとらっぷよ!」

 したり顔で答えるモエだが、「佳奈美ならともかくお前にハニー感はないぞ!」と突っ込みたい気持ちを抑え、肝心な事を聞いてみる。


「それで?何か分かったのか?」

「当然よ。()()よく分からないけど、ほぼ直線的に克己に付いて来てる霊獣がいたのよ・・・それがそこ!」

 モエは漫画のようにビシッと指を指すと、少し遠くの1本の木の上を指差した。

 

 するとアイリが小学生の()()()()のようなポーズをとると、ビュンと木の麓まで跳んだ。

 俺は慌てた、変な奴だったら危ないだろうが、だがそんな心配を余所にアイリは真顔で木の上を指差した。

「みっけ!」

 いや隠れんぼじゃないよアイリさん。


 慌ててアイリに駆け寄ると、そこには1匹の茶黒い梟がいた。

「おチビさん達凄いねぇー。感知系かなぁー?」

 梟はそう言いいながら木から降り立つと、髪の長い色白な女性へと姿を変えた。


 俺はその顔に見覚えがあった事で、やっとホッとできた。

 ()()()事件の後、病室に事情聴取で来ていた捜査員の1人だったからだ。

 

 すると物陰からもう1人、丸顔の人の良さそうな青年が笑いながら出てくると声を掛けてきた。

「とうとう見つかっちゃったか。怪我は大丈夫?」

「田中さん・・・でしたっけ?お久しぶりです」

「この人凄いわ、全然分からなかった」

 モエが目をパチクリさせながら呟くと、田中さんは笑顔のままモエに諭すように答えた。


「感知してる事がバレバレだからね。感知がバレ無いように感知しないと」

 何その禅問答?と思ったが、きっとソナーを打ってそれを相手も感知する的なことなんだろう。

 サラッと言ってる事がエリートすぎて、特務部が優秀な人揃いなんだと再確認したわ。


「それで?田中さん達は何を?」

「あれ?聞いてない?君達の監視役だよ」

 そう言えばアイリの検査の時にアヤカさん言ってたっけ。


「そんな事なら怪我する前に出てきて欲しかったっす」

「僕達はあくまで君とアイリちゃんの監視だからね。学生のイザコザには表立って出ては行けないんだよ」


 笑顔のまま冷たく言い放つ田中さんだが、きっとアイリが暴走(はぐれ化)する前提でしか動けないって事か。

 まあ、俺達の生活に支障ないし、見てくれてるって事なら何かあった時の保険にもなるから悪い事じゃないしな。

 ここはポジティブに考えよう。


 じゃあ寮に戻るんでといって田中さんと別れ、モエと3人で帰る途中にモエが呟くようにアイリに言った。

「影から護衛が見守ってるなんてVIP待遇ね。何か悔しいわ」

「アイリ達セレブばい」 

 いや、君たち違うからね。一歩間違ったら()()()()()()()()()()()方だからね。


 そう思っていると、アイリとキャイキャイ話していたモエが真剣な表情で俺の顔を指差し、今日の報酬を強請ってきた。

「今日の報酬はウィンナーましましよ」

「じゃあ今度店来たら、ウィンナーコーヒーというものをご馳走しよう」

「何それ美味しいの?」

「おうとも、コーヒーにウィンナーを浸けて食べるセレブなやつだ」

 キラキラした目で問いかけるモエに少し罪悪感はあったが、勢いでボケきってしまった。


 その夜、ネットで調べて事実を知り憤慨するモエの声が女子寮に響き渡った。


 ◇


 ~都内某所にて~


 雑居ビルの一室で数人の男達が卓を囲み、重苦しい空気の中で話し合っていた。


「召還者を殺し()()()を放ち、世間の恐怖を煽るのには成功している」

「だが、もっと()()()が暴れ霊獣が危険なものという風潮をつくらなくては世論は動かない。このままこれを続けるのか?」

「リスクが高い割に成果が少ないのではないか」


 霊獣のいる人材の優位性、高官などエリートと呼ばれるのは一握りの霊獣保持者である。

 実際問題、霊獣がいるのがあたりまえのこの社会で、実力の低い霊獣や召還に成功していない者は、落伍者扱いとなっている。

 それ故の、劣等感からくる批判も世の中には少なくもない。

 それ故に、男達は世間を霊獣の恐怖に貶め、霊獣召還の無い世界を目指すという歪んだ構図ができていた。


「次の段階は、すでに進めている」

「意識のない()()()に自分の指示で行動させる方法か?」

「あれはまだ当分先なのだろう?」

「主のいる霊獣に、強化薬と偽って打ったサンプル体はどうなった?」

「暴走状態()()なったが、すぐ戻ってしまったそうだ」

「また失敗ではないか」


 ある男は確信に満ちた表情で、ある男は顔を顰め糾弾し、ある男は疑心暗鬼になりながらも語り続ける。


「だが、先日おもしろいデータが取れたそうだ。期待できるらしい」

「その件で協力者から、もう少しサンプル体がほしいと連絡があった」

「またか、いいように利用さているのではないか?」

「利用されているフリでいい。目的は違えど結果は同じだ」

「個体はどうする?何度も成長した霊獣の確保は難しいぞ」

「幼歳の()()()では、すぐ排除されてしまう」

「適度に育成済みの個体で育てるそうだ。可能か?」

「わかった。手配しよう」


 男達は顔を見合わせ、決意を表すように席を立った。


「「「「人の世のために!」」」」


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