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けものふ  作者: 腰ひかりん
第一章
14/23

俺達の戦いはこれからだ

 

 アイリが正式に霊獣と認められてから暫く経っていた。

 

 俺の専攻授業は、誰もが中学時代にお勉強する基礎中の基礎、

『れいじゅうといっしょにこうどうしましょう』

を日々受け続けている。

 

 そう、このエリートだらけの学校でだ・・・マグレで超進学高校に入学したが九九を1から教わるような訓練、だが俺とアイリは俄然やる気だ。


「よーし、じゃあアイリ、次はグッと力込めてバッと上に跳んでみろ」

 山根先生の合図でピョンピョン跳ねていたアイリが、しゃがみ込み手をグッと握り締めて上を向くと腕を上にあげてビョーンと跳んでいく。

 

 これが超高い、軽く数mは飛んでスタンと着地する。

 アイリはどうやら瞬発力や跳躍力に秀でているらしく、先生もアイリに何が出来るのか色々と試してみるのが面白いらしい。

 アイリも珍しく山根先生には人見知りをあまりせず、言われるがままに楽しそうにやっている。


 だがその間、俺は結構つらい。

 胆力の出し入れは水道の蛇口の調整みたいなもので、通常ぐらいに動くのであれば水道をチョロ出しでいいが、アイリが全力で能力を引き出すには胆力をドバ出ししてやらなければいけない。

 体力というよりも精神力、マラソンの後半で心が折れそうになる心に鞭を打って走り続ける、その根性的なところを使う感覚。

 何より集中力が続かない。

 

 だがこれを空気を吸うくらいの感覚で自然にこなせなければ、お話にもならないらしい。

 山根先生曰く、人の胆力と霊獣の霊力は相互に流れていて、これを上手く混ぜることが基本。

 さらに、霊獣が胆力を使うように、その混ざって入って来る霊力を人が使い武具に流し込んで戦う、早い話がどっちから見ても同じ顔の金太郎飴状態が理想なんだそうだ。


「くはぁーきっつ、もう限界!」

「なんだ克己、もう限界か?アイリはやる気満々だぞ」

 肩で息をしたままぶっ倒れた俺に先生が話しかけてきた。

 少し離れたところで、アイリは楽しそうに手でウサギの耳をしながらピョンピョンしている。


「アイリに胆力流すだけでコレとか、対人戦とかありえないっすマジで」

「アイリは戦闘素質あるのにもったいないぞ。よし、プロテイン飲むか?」

「お断りします」

 暫く休んで訓練を続けを繰り返し、これをまともに制御できるまでは数週間掛かった。


 ◇


「だからアイリは戦闘課になって私がサポートするのよ。速さと感知のゆーごーなのよ」 

「モエそれじゃアイリちゃん一人で戦うことになるじゃない」

「ようわからんのばい」

「モモはガーって来たらドガァってするんやで。あ、アメちゃんあげよか?」

「お店では持ち込みは禁止なのですよ。あ、エルちゃんモエちゃんのソーセージ食べたらダメなのです」

「ノエルちゃんはしっかりしてるねぇ」

「克己アイスコーシーお代わりや!」


 当喫茶店は現在、某団体様の御来店で大忙しです。

 

 いやまあ、例の諸々の件で世話になった方々をお呼びしたんですが、会話の自由度がハンパない。

 アイリも最近、クラスの連中には人見知りしないようで仲良くやっている。

 

 今は訓練でのアイリの評判を聞いて、一緒に組んで戦闘する引き抜き合戦になっているが、残念ながら君達のレベルに()()ついて行けんのだよ。


「アイリちゃん人気者だねー、お姉さん妬けちゃう」

「あいつらの前だと人見知りしませんからね」

 幼女フィーバーにテンション高めのたまきさんとも、アイリは最近よく話すようになった。

 さすがに店の手伝いまではできないが、暇な時のたまきさんの心のオヤツ(おもちゃ)になっている。


 自由人達のテーブルに注文の品を持っていく。

「あいよー、アイスコーヒーお待ちどうさん」

「なんや、美味しなるオマジナイとかあらへんのかい?」

「代わりにお前のだけ料金が高くなるオマジナイかけといたから安心しろ」

「コーヒー冷めるばい」

「ぷらいすれすよ、ぷらいすれす!あ、あとウィンナーましましで」

「あ、私ケーキ食べたいかも」

「「わたしも!」」


 おまえら人の奢りだと思って容赦ねーな。

 あとアイスコーヒーは元から冷めてます、むしろキンキンです。


 自由人達をかまっていると、用事を済ませた委員長が入ってきた。

「お待たせー、賑やかだね」

「いらっしゃい委員長。何にする?」

「アイスコーヒーください。あ、啓太達は自主連するから無理だってさ」

 はぐれの夜に来てくれた奴等には一応全員声掛けたんだけど、今日は何人かは来れないらしい。

 いや、今来られても結構ピンチだから逆に助かるが、今度別のかたちでお礼しよう。


 実は、委員長達の秘密の公園特訓には俺とアイリも参加させてもらっている。

 そのせいもあって、最近では俺が動きながらアイリが力使うことにも随分慣れてきた。

 だからその御礼もあって今日は是非来てもらいたかったのだ。


「そういえば委員長、最近ノエルちゃん調子いいみたいね」

「確かにあの速さは反則級やな」

「そうかな、でももう少しパワー付け無いと決め手に欠けるんだよ」

「アイリちゃんも速いのです。速さましましなのですよ」

「アイリちゃん、今度モモとやろうや」

「克己が良かって言うたらね」

「克己!というわけで決まりや!」

「何の話だよ、あ、委員長アイスコーヒーおまっとさん」


 どうやら知らない間に放課後の自主連に付き合う話になってるらしいが、参戦するかは別として実際に模擬戦は見たことが無いので、興味はあったから丁度良い機会かもしれない。

 俺はこの日、大量の給料の消費と共に模擬線を観戦する機会を得たのだった。


 ◇


 戦闘課の訓練場は結構広く総合グラウンド程の大きさで、サッカースタジアム的な造りになっている。

 周りのスタンド席でもチラホラ学生が観戦しているようだ。

 

 俺が着いた時にも既に何組かが模擬戦の真っ最中で、ガチなのか練習なのか分からないほど白熱した戦闘を行っている最中だった。

 最前列の座席にアイリはちょこんと座ると、最近お気に入りの裂けるチーズ[スモーク味]を食べ始めたが、目は戦闘風景に夢中になっている。

 意外と興味あるのかもしれない。


「アイリちゃん・・・こ、こんにちは」

「お、克己ここにいるの珍しいじゃん」


 暫く場内の戦闘を観戦していると、クラスの啓太と蠍の霊獣デイジーが話しかけてきた。

 啓太たちは()()()事件の時、駆けつけてくれた恩人でもある。

 啓太はお調子者でムードメーカー的存在だが、時々空気を読まずにオチャラケるのでよく周りから叱られている。

 黙っていればイケメンなのに・・・。

 片や蠍の霊獣デイジーは強そうな霊獣のイメージなのに、前髪を目元までおろしてうつむき加減で常にオドオドしている子だ。


「あれ?啓太達も参戦すんの?」

「いや今日は見物、昼間に一馬が克己に見せ付けたるんやぁ!って言ってから、冷やかしにきた」

「モモあんなに可愛いのに蹂躙してるんだろ?何か信じらんねーよな」

「デイジーもそこそこ小さいけど強ぇーぞ。モモっ子なんぞ一刺しで瞬殺だ」

「でも、こないだ・・・負けたよ」

 お調子者の啓太とオドオドしてるデイジー・・・コレでよく相性合ったな、聞いてた召還設定おかしくね?


 そうこうしてる内に一馬たちが場内に出てきた、相手は同じクラスの里香と麗羅らしい。

 里香は戦闘課で狼の霊獣ロディーが前衛、麗羅は戦闘補助課で蜘蛛の霊獣ローズが後衛か、一馬組VS里香組・麗羅組の構図だが、モモは一人でやるのかよ!

 超強気なのか、ただ力の差があるだけなのか見物だな。

 

 モモは入ってきて軽く体操をすると、こちらに気が付いて一馬に何か話すと両手で手を振ってきた。

 アイリは答えるように裂けるチーズを振っていたが、勢い余って落としそうになり慌てていた。


「里香達って強いの?」

「うん、パワーも速さもあるし、モモ同様に咆哮あるしね」

「咆哮!?」


 説明しよう!そう言いながら啓太が教えてくれたのは、肉体を使うだけの通常攻撃とは違う特殊攻撃の方法で、モエのような戦闘補助系に特殊な感知能力などがあるように、戦闘系の霊獣にも特殊能力が個々にあり咆哮とは口から衝撃波のような物を出すらしい。


 実際に戦闘が始まるとモモが熊化して体もかなりデカくなった。

 すぐにロディーも狼化してお互いの咆哮をぶつけ合い、両者の毛なみが風に激しく押し流される。

 咆哮の打ち合いはパワーが上だったモモに軍配があがり、ロディーが押し負けよろめいた。


 追い討ちをかける様にモモがロディーに飛び込んだが、ローズがモモの足に蜘蛛の巣を撒き散らし絡め、モモの足がもつれ勢いが止まったところに、体制を立て直したロディーが逆にモモの頭上から飛び掛る。

 モモは足を止めたまま腕でガードし、そこにロディーが喰らい付く、その隙にローズはモモの後ろに回りこみ、更にモモの動きを止めようと糸を吐くが、そこに反転したモモが腕を喰い付かれたままロディーを叩き付ける。

 

 糸が絡み動けなくなったロディーと、巻き添えを食らったローズにモモが瞬時に詰め寄り、寸止めしたところで勝負は終わった。


「おいおい瞬殺かよ、スゲーな!」

「あの咆哮合戦で勝負付いてたな。ロディーが回避して足で翻弄してたら勝負はまだ分からなかったよ」

「そんな駆け引きあんの?つか一馬たち何もしてなくね?」

「ああ、たぶん今回は霊獣戦だったんだよ。本番は人との駆け引きもあるしね」

 

 通常は人+霊獣で戦い、霊獣の能力を使わせないために人から攻撃して胆力送れないようにするか、もしくは力の強い霊獣を先に倒して優位な状況を作るのか、圧倒的な力の差がある場合どちらを優先するかで局面は大きく変わるらしい。

 今回の模擬戦は後者の場合の想定ということのようだ。

 

 里香達はそのまま場外に下がっていったが、モモは腕から血が出てるにもかかわらず、何も無かったかのようにこっちに向かってブンブン手を振っている。

 モモさん恐るべし。

 アイリも食い入るように一挙一動を見ていたが、ゲームしてる時に体動いちゃう人みたいに何か動きがあるたび左右にピクピク動いていた。


 次に入ってきたのは委員長達だ、ノエルは既に狐化していてモモも迎え撃つ構えになっている。

 てか、モモ連戦かよ。

 今度は人と霊獣一緒の戦闘らしく、一馬も委員長も木刀を持っている。


「今回ってどうですか?解説の啓太さん」

「モモは連戦だけど疲れも残ってないようだしパワーでは断然一馬君たちが有利、だから俺ならスピード勝負で一馬相手にして体力削いだ後、弱体化したモモを攻撃ですな。まあモモが大人しくしてるとも思えないから、そこをどう抑えるかだけど」

「お前ただのお調子物じゃないんだな。ちょっと褒めてやろう」

「酷ぇ言いようだ!」


 最初はお互い様子を見ていたが、意外にも先に動いたのは委員長だった。

 委員長がモモの右側面に走り込み、モモがカウンター気味に振り下ろした手をかわすと、体を捻りながら木刀を膝裏に叩き込み、モモの体勢が崩れ背中から倒れた。

 

 委員長の襲撃と同時にノエルが一馬の正面に一気に飛び込むと、そこから上下左右縦横無尽に飛び周り翻弄しながら一馬に攻撃を当てていく、モモを転倒させた委員長も即座に一馬を攻撃対象に切り替え、2人で連携しながら一馬に攻撃している。


 一馬はなんとか2人同時の攻撃を捌き、時々反撃しながらも何発かは喰らっているのに、何故か声に出して楽しそうに笑っている、あいつヤバイ。

 モモは起き上がると委員長達を一馬から引き離すべく数歩踏み込み、薙ぎ払うように両手を振り回した。

 委員長はモモの動きに気付き、即座に攻撃を木刀で受け止めたが勢いを殺しきれず吹き飛ばされ壁に激突した。

 一方のノエルもモモの手をヒョイっとかわし、一度距離を取るためか後ろに大きく飛び退いた。


 その時、急にアイリが席から立ち上がった。


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