一話
エタった作品数知れず。
続きが読めることを期待をするな。
吐いた息に形が宿る季節。
母なる日本アルプスの山々に抱かれ、わたくし繭住雪華こと、
「雷ぃッ!まえ見ろ!まえ!」
〔コートネーム:雷〕は競技雪合戦の地区大会決勝戦に出場しているのでした。
雷がファーストの雪壁に潜り込んだすぐ後、ゴン、という音と共に雷の前の雪壁にクレーターのような穴が開いた。
気がした。
〔語句説明:競技雪合戦〕
各チーム五人+一人に分かれて行う雪合戦。
前半五分、後半五分の計十分で争われる。
コートの広さは、縦42m横25m。
勝利条件は大将を倒すか、制限時間内に相手より多くのポイントを取ればいい。
六名の内、コート外で雪玉を作るメンバー一人と盾役一人を除いた残りの四名は相手の雪玉に一度でも当たった時点で退場となる。盾役は一回まで雪玉にあたっても試合を続行することができる。
大将以外を倒すと一ポイント、敵陣にある旗を奪うと三ポイント。陣地はコートの中心からファースト、セカンド、サードの三つに分かれており、旗があるのはファーストとセカンドのみ。旗を奪われると、その旗に対応した陣地を相手に奪われる。
敵陣に入れる時間は、ファースト:9秒、セカンド:6秒、サード:3秒。
ヘルメット、フェイスガード、肘当て、膝当て、レガース等々の防具をしっかりと着用しないと試合に出ることが認められないほどの危険なスポーツだが、徐々に日本のウィンタースポーツの中で人権を獲得し始めており、近々全国大会が行われることになっている。
「ちょっと、相手の球、殺意高すぎじゃない?」
辟易と漏らす雷に、隣の雪壁に隠れていたチームメイトの筒木寝〔コートネーム:楽〕から声がかかる。
「お前のせいだろ。これに勝った方が負けた方の言うことをなんでも一つ聞く、なんて追加ルール作りやがって…」
「あ、あの時は!売り言葉に買い言葉で…」
しゅんとする雷。
その両手には既に反撃用の雪玉が握られていた。
「でもでも!これで長年の西町と東町の因縁にケリが付くと思えば!」
これぞ怪我の功名ってやつね!と雪玉を掲げドヤ顔で言い切る雷に、
「おう、そのせいで親連中まで熱くなってやがんだ。こりゃ下手なプレーできないぞ…」
楽は悲観的な言葉を漏らした。
敵陣後方を覗くと、東町のおにぎり屋の長男坊が蒸気機関のような鼻息を吹き出しながら、かなり圧縮されて殺人レベルにまで固まった雪玉を量産していた。
「見てよ楽、東町の姫ともあろうあの女が、おにぎり君を後ろに従えてると思うとなんかジワジワ来ない?」
「バカ言え。あの球に当たったら、たとえプロテクターをつけてたとしても骨持ってかれんぞ。気ぃ引き締めろよな」
「あーい」
雷は気の抜けた返事をしながら、事前に打ち合わせた作戦を反芻していた。
一方、敵陣、
「おーっほっほ!西町のカナヅチともあろうお人が、ただの雪玉一発で腰を抜かしてしまわれたのかしら?カナヅチとやらも別に大したことありませんのね?おーっほっほ!おーっほっほ!」
国分寺才華〔コートネーム:姫〕がピンクの縦ロールを揺らしながらサードの雪壁の上に仁王立ちし高笑いをキメていた。
「才華ー!この試合は東町の勝利で決まりのようね!」
「もちろんですわ!お母さま!」
国分寺家の母と娘による大声での勝利宣言に、会場は苦笑いに包まれた。
「イカヅチだっての……楽、あんたこっからあのアホ面のこと狙えないの?」
「無茶言うな。さすがにこっからじゃ雪玉が崩れる。おとなしく作戦に従えよ」
「はいはい」
実際は、先ほどの剛速球を放った敵のキーマンが常に睨みを利かせているため、うかつに球を投げられないというのもあった。
早々に試合を決めなければ、おにぎりが固めた球がキーマンの強肩によって流星群のように降り注ぎ、その間に雷と楽のいるファーストの旗を取られるのは誰が考えても行き着くシナリオだ。
「前半は相手フォワードのけん制と1フラの防衛、攻めるのは後半残り一分を切ってからね……」
気が向けば続きを書きます。
いつもそんな感じ。