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闇殺しのフェイカー  作者: 見島けんぴ
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プロローグ

闇夜の晩、冷えきった空気の中、屋敷の廊下から耳を凝らせば僅かに聞き取れるほどの乾いた足音が響く。

窓から差し込む唯一の照明、月明かりに映るのは腰に暗器を携えてながら前後一列になって僅かな距離を取りながら歩く二人の人影。

灰色の薄いフード付きの外套を頭頂から足元まで纏い音を立てずに廊下を進んで行く。

前方を行くのは長身の中年の男。フードの中から僅かにはみ出た金髪、顎元には整えられた髭、そして奥に光る鋭い切れ長の瞳には獣のように人を仕留める威圧感がある。

後方を行くのは男よりもかなり身長の低い女。外套の上からでも分かる身体の凹凸、胸元まで伸びた真紅の髪は、月光に反射し格好とは釣り合わずに手入れが行き届いていると分かる。

前方を歩く男を見据える瞳は大きく、影を落としていてもしっかりとした顔のパーツからは、整った顔立ちであるということが伺える。

二人の外套たちは最奥の扉の前で足を止めると、男が外套下の服のポケットから、白紙に屋敷内の構造が描かれた一枚の地図を取り出すと、それを二人して覗き込む。

部屋の扉の下からは、中の照明の明かりが溢れ出している。

「もう一人の対象ターゲットはこの部屋だな」

「そう。早く殺って帰るわ」

もう一人、と言った男の外套には、灰色の外套膜の上から浴びた、真新しい真紅の液体が染み込んでいた。

男は髭を触りながら女をなだめるように言う。

「まぁまぁ焦んなって。対象ターゲット覚醒者アウェイカーの可能性だってある。覚醒状態を解放リリースして乗り込み先手を打つのがベストだ」

瞬間、男は全身から淡い光を放つ。

光はモヤモヤと男の周りを纏い、空気が歪んだように見える。

「ジジイ一人で十分だと思うけど?私も覚醒状態になる必要ある?」

女は無表情のまま、まるで興味がないといった風にジジイと呼ばれた男に問う。

男は両の掌を頭の横で天井向けて掲げてみせる。

「おいおい買い被りすぎだぜ?念のためお前も解放リリースしとけ。もしかしたら強敵かもしれねぇだろぉ?」

「ん。了解」

一つ頷くと、続いて女も淡い光を纏う。

暗闇に映る二つの影は、暗器に手を添えると、じゃらじゃら、ちゃき、っとそれぞれの音を立てながらそのまま手に取る。

男が手にするのは長さ二メートルほどの鎖の両端に鎌が付いたなかなか目にしないような、扱いが難しいと思われる武器。

両鎌の刃元には拳一握りぶんほどのつかが付いており、男はそこに手をかけ握り締める。

女の方が握るのは、刀。刀身全体が漆黒で刃こぼれの無い艶やかな刀身は僅かな月明かりを反射して、殺意を覗かせる。

男はそっとドアノブに手をかけると、首だけで後ろを振り向く。

「俺が先攻して仕掛ける。お前はもしもの時の援護だ。いくぞ──さん、に、いちっ」

勢いよく扉が放たれると、二つの侵入者の人影がオレンジ色の照明に当てられる。

室内は広く、書斎と思われるこの部屋は予想以上に広い。

二つの影は、突入した勢いのまま暗器を手に室内を駆ける。

奥の長机に腰掛けていた黒髪の男性は突然の侵入者に驚嘆すると、急いだ様子で立ち上がると、全身に淡い光を纏わせる。

机の下に隠して持っていた二つの短剣を手にするや、全身から短剣へと光が伝っていく。二つの影に立ち向かうように構えた。

「ちっ。やっぱり覚醒者アウェイカーってか。油断するなよ」

そう女に言い捨てると、外套の男はぶんぶんと鎖鎌を振り回し、そのまま回転力に乗せて黒髪の男性、対象ターゲットへと放った。

淡い光に包まれた鎖鎌は、風を切りながら目に見えぬ速度で、黒髪の首を刈り取ろうと迫って、そのまま命を途絶えさせようと──

「甘い。我ら一族の覚醒者の血筋を舐めるな」

黒髪は仰け反りながらも、器用に両手に握りしめた短剣を使って鎖鎌を弾き飛ばしたのだ。仰け反った状態から即座に蹴撃しゅうげきを男へと放つも、男はそれを上手くさばく。

「なんだこいつぁ?かなり厄介な対象ターゲットだな。おい、出番だサリアっ!」

「ん」

後方に控えていた外套の女、サリアと呼ばれた彼女は、人間の視力を欺くような速度で黒髪へと迫ると、仰け反り状態から体勢を立て直した彼へと連撃をかける。

一斬、二斬、三斬、四斬──わずか一秒にも満たない刹那の瞬間に数連撃と仕掛けてゆく。

黒髪は苦々しい表情を浮かべながら額の汗を散らし、必死に両の短剣で正確に一撃、また一撃と捌いてみせる。

「なんなんだ……っ。貴様らは……⁉︎」

だが、全く速度を落とすことのない刀の斬撃──否、どんどん攻撃速度の上がる斬撃について行くことができず、捌き切れない黒髪は、頬から宙へと鮮血をほとばしらせる。脇腹から噴水のように鮮血を撒き散らす。

「はっはっ。なんなんだと言われてもなぁ? 残念ながら名乗れるような仕事柄じゃねぇんだなこれが」

苦戦する黒髪へと質問の答えを返しながら、隙を見つけて男は鎖鎌を一振りすると、黒髪の片腕が派手に血を撒き散らしながら吹き飛ぶ。

「がぁぁぁあっっ⁉︎ 腕が……っ」

黒髪は焦燥と痛みに襲われ叫びをあげる。

だが、二人の外套は慣れていると言わんばかりに血を見ても全く表情を崩さない。

再び男が鎖鎌を振ると、黒髪の反対の手に握られた短剣に強い衝撃が走り、その手から短剣は飛ぶように床へと転がる。

すかさず隙を見たサリアは一閃、黒い刀身を黒髪の心臓へと深く突き立てた。

口元から鮮血が滝のように溢れ出し、二人の外套を更に赤く染め上げる。

断末魔の叫びを最後に、床に痙攣しながら倒れ伏した黒髪の死体を二人の侵入者は見下しながら、武器を腰元へと仕舞った。

しゅぅぅと全身を纏っていた光は消える。

「任務完了だ。死体処理はお前に任せるぞ」

「ん、面倒臭い。なんで私?」

苦笑しながら男は髭をいじると、ため息を一つ吐いて呆れたように言う。

「……ったく。じゃあ俺がやっとく。お前は周囲の警戒を──」

男が言いかけた時、放たれた反動で閉ざされていた扉が、きぃぃ、と錆びついたような高い音を立てながらゆっくりと開いた。

「…………」

姿を現したのは僅か十歳前後と見られる少年。

漆黒の艶やかな髪の毛に、サファイアのような深蒼の双眸を覗かせる少年の顔立ちは愛らしくも感じられる。

しかし、床に真紅の液体を散らしながら倒れた父親の姿を目にするや、その表情は一瞬にして氷のような冷徹な顔立ちへと変わる。

哀しみから、寂しさから、後悔から、嘆きから──否、そんなものからではなかった。

少年は父の死体のかたわらに佇む、自身よりも悠に身長のある二つの外套たちを見上げた。

「俺はまだ死ねない」

声変わり前の、年相応の高い声で誰にとなく呟くや、恐れる事もなく足を踏み入れ、歩を進める。

見兼ねたサリアと呼ばれる女が冷徹な声音で男へと問う。

「あの子、殺る?」

男は顎髭をいじりながら、少し考え口を開く。

「んや、必要ない。相手はまだクソガキだ。ちょいと眠らせてやるだけでいいだろ。解放リリースする必要もない」

「ん。わかった。暗殺者としては良くないと思うけど、ジジイが言うなら」

男は近く少年へと此方こちらから向かっていくと、少年と男の距離は一歩進めば手が出せるというところまで詰まる。

「悪りぃがクソガキ、こりゃ俺らの仕事なんだ。お前に罪はないがちょいとばかし眠ってもらうぜ?」

いつのまにか手にした煙草を咥え、煙を吐きながら少年へと小馬鹿にするような笑いを浮かべ言う。

「じゃあ──」

と、何かを口にしようとして拳を突き出そうと男が前に出た瞬間。

淡い光が空を切って移動すると共に、床の絨毯が爆ぜた。何により爆ぜたのかは、人力による踏み込みのものだ。

男の突き出した拳が捉えたのは、空気。

そして、少年よりも高さのある男の鳩尾みぞおちは、淡い光を纏った少年の拳が思い切りねじ込んでいた。

「がっは……っ」

遠くで男が激しく吐血した様子に、ずっと無表情でいたサリアの表情も明らかに驚きのものはと変わっていた。

「まさか、この歳で覚醒者……⁉︎」

少年は続けざまに超速で足払いを掛けると、男は宙を舞う。無防備の男を少年は軽快な足捌きで間合いを図ると、回し蹴りを男へと叩き込んだ。

強打された男は部屋の壁際に寄せられた本棚へと激突し、雪崩のように本が落ちていく。

積み重なった本の山の中から、息を荒げながらも愉快そうな大声量が漏れた。

「かっはっはっ!まさかこんなとこに逸材が居たなんてなぁ」

男は立ち上がって、その全身を光に包みながら続けざまに言う。

「サリア。持って帰るぞ、これ」

「ん。了解」

直後、少年へと目にも留まらぬスピードの二つの淡い光が攻め込んだが、少年の目では追いつくことすらできなかった。

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