・俺の、私の、ラブリー・ボス(1)
シークレットバーゲンは若干数売れずに終わった商品もあったが、概ね売り切ることができた。
価格を下げたことと、売れ残り感を出さずに商品を綺麗にみせたこと、招待という特別感をだしたことも功を奏したよう。
事務所に帰り、専務と共に社長に売り上げと消化率を報告。
――専務、眞子さん。よくやった。
社長から『大成功』と笑顔で評してもらえる結果に。
社長も息子が難題を乗り越えたことに、とても誇らしげだった。
その社長が、もうひと言。
「次は結婚式だね。楽しみだ」
社長がさらにいつにない微笑みを浮かべてくれる。
篠宮家の親族にも、眞子の実家の家族にも、この結婚はすんなりと受け入れてもらえた。
義理のお父さんになった篠宮社長からも、慎之介の母親の『葵さん』からも快く受け入れられて眞子は安堵している。
専務が速攻で決めてしまった【ご挨拶の日】には、ドキドキして篠宮家に出向いたけれど、篠宮社長も母親の葵さんも、そしてカンナ副社まで同席していて、『やっぱり慎之介は眞子さんを気に入っていたか』と息子の様子などバレバレのようだった。
そして東京で人気モデルだったお母様の葵が、年齢不詳の超美人で眞子は気圧されたが、かわいらしい愛嬌連発のおおらかさで『ああ、なるほど。専務のおおらかさはお母様譲りなんだ』と実感した。
そのお母様が『私のことは、家族の間では、葵――と呼ぶように』と強く言いつけられてびっくりする。そこで専務が初めて教えてくれる『母さんとか呼ぶとめっちゃ怒るから。子供の頃からずっと葵か葵さんと俺も弟も呼んできたんだよ。外では母とかきちんと呼ぶようしつけられてはいるけどさ』。だからお母様のことは『葵さん』と呼ばなければいけないらしい。ちなみに専務が副社長のことを『カンナ』と呼ぶのもおなじ意味ということで、初めて甥っ子が叔母を呼び捨てにしていた経緯を知った!
なんでも、社長の奥様である葵さんと、妹のカンナ副社長は、どちらも仕事だったり広報活動だったりで忙しいらしく、若い頃から家事が苦手。きちんとしている几帳面な篠宮社長が家事を取り仕切っていたとのこと。当然、専務と弟さんも手伝うようになって、だから専務はいまでも家事がきちんとできるとも知った。ちなみに弟さんは料理人で、ススキノに小さなお店を構えているとのこと。
専務曰く『うちは、男がいかに女性達を輝かせて、彼女達らしく生きてもらうかが男らしさ――なんだよ』とのこと。
お母様の葵さんとカンナ副社長は姉妹のように仲が良く……、仕事も極めてきた気の強い女二人が敵に回るとすごいことになるらしい。だからいつのまにか『篠宮家の女王様(葵)と、お嬢様』を中心に男達が動くのだそう。それでも女王様とお嬢様がわがまま放題できるのも、しっかりした『主』である篠宮社長がいるからこそ。最後、社長が冷酷な顔になると強気の義姉妹は大人しくなるとのことで、きちんとバランスが取れているから大丈夫――と専務が教えてくれていた。
――『眞子さんも、慎之介にうんと甘えたらいいのよ。この子、うちの人(篠宮社長)に小さい頃からきちんとしつけられているから、遠慮なく使って良いのよ』
にっこり優美に微笑むハリウッドセレブのようなお母様。でも、眞子はその笑顔に妙な迫力を感じてしまい『やっぱり、嫁としてきちんとしてこう』と心得ることにしている。
専務が『早くふたりで住みたい!』と熱烈に切望したため、眞子はいままでの独り暮らしの部屋を引き払い、年度初めの四月を迎える前に入籍だけしたばかりだった。
専務と眞子の結婚は『電撃婚』と言われ、マグノリアの社員の皆が驚いた。
横浜シルビアの三浦部長もびっくりして、お祝いに駆けつけてきてしまったほど。
それから眞子は事務所で四人目の『篠宮』になってしまったので、いま会社ではカンナ副社長のように『眞子さん』と呼ばれている。
「眞子さんのドレスはもう決まったのかな」
社長も息子の『再婚』が無事に決まり、ちょっと見たことない笑みを見せてくれるように。
「まだなんです……」
このシークレットバーゲンが終わったらゆっくりと試着に行こうと思っていたところ。
「慎之介、なにしているんだ。うちは年中無休みたいな職業なんだから、勤務中に抜け出してもいいから時間を作ってあげなさい」
「わかってるって」
お父さんの前になると、やっぱりおぼっちゃまなんだなあと眞子はいつも微笑ましく眺めている。
「ああ、それと……」
まだなにかあるのかと、専務の顔がすっかりお父さんに敵わない息子のしかめ面に。
だけれど、そこで篠宮社長がにっこりと突然の爆弾宣言。
「眞子さんなんだけれど、常務に就任してもらおうと思っている」




