・懐かしいきらめき
見つかったといっても、彼女が急に帰宅する眞子の目の前に現れたのだ。
事務所ビルを出て、いつもどおり専務より先に彼の自宅へ帰宅する。そのマンションへ向かう雪道で、だった。
グレーコートにストールをまいて歩いている眞子へと、急に立ちはだかるように現れる。いつもの麗奈の現れ方で。
「麗奈!」
びっくりして、でも彼女が目の前に現れたことで眞子は安心する。
それでも麗奈の顔はきつくなっていて、そして目元も疲れ切って黒ずんでいる。それを見ただけで、彼女が打ちひしがれてここにいるとわかった。
「教えて、眞子さん。彼の実家はどこなの」
「会えなかったの。横浜で――」
「だって! あの人を、三浦さんとカンナ副社長が辞めさせたんでしょ!!」
「古郡さんから辞めるといいだして、実家に帰ったと聞いているけれど。連絡つかないの」
「つくわけないでしょ! 携帯の番号も変えられちゃったんだから!!」
まだ彼を信じているの? でもそんな麗奈を見ていると眞子は泣きたくなる。もしかすると、この姿は眞子だったかもしれない。眞子もわからなければ、徹也になにもかも許していたと思うから。
彼が辞めたんじゃない、辞めさせられた――と思っているその洗脳されたような彼女をなんとかこちらに戻さなくちゃ。眞子がそう思っていると、麗奈から思わぬことを言い出した。
「あいつ、ぶん殴ってやらないと気が済まない!! 甘いことばっかり言って、仕事もなにもできなくせに! だから、教えて! あいつの女にもこんな腐った男と別れた方がいいって言ってやるんだから!!」
あーーん!! 泣き叫んで、麗奈が雪道の上に膝から崩れ落ちた。
銀色のロングダウンコートに、黒いパンツスタイルの麗奈が雪の上で熱い涙を流し続けている。
麗奈、目が覚めている? わかってしまったんだ、麗奈にも……。眞子もそっと彼女のそばに、雪の上に跪いた。
「麗奈。暖かいところに行こう。身体冷やすといけないでしょ。それに疲れているでしょ。暖かいお店に入ろう」
横浜まで会いに行って疲れただろうし、冷やすとお腹の子にも差し障ると気遣ってのこと。
徹也に最低限の責任を取ってもらわねばならないけれど、それはまたこれから考えるとして――。それに。最後に麗奈は眞子を頼ってきてくれたんだとわかったから。
そうだね。麗奈は……。もしかして、良いことも悪いことも。嬉しいことも悔しいことも。もしかすると、眞子にだから本音でぶつかってきてくれていたのかも。初めて、そう思ったら涙が滲んできてしまった。
「行こう、麗奈」
彼女に触れると、麗奈もやっと帰ってきてくれたかのようにして『眞子さん』と抱きついてきた。
その麗奈が眞子の胸元で呟く。
「……して、なかったんです」
「え?」
「妊娠、してなかったんです」
驚いて、眞子は胸元にいる麗奈を見下ろした。
「麗奈、本当に?」
「産婦人科で検査したら、お腹にはなにもいないって。ただの生理不順だって――いわれました」
眞子も腰から力が抜ける。麗奈と一緒に雪道にぺたんと座り込んでしまった。
「もう~、どんだけ心配したと思ってるのよ!」
あの麗奈が、素直に『ごめんなさい』と謝ったので、眞子もどうしようもなくなって彼女を抱きしめてしまう。
「傷ついただろうけれど、でも、よかった……。おかえり、麗奈」
わがままし放題でも、眞子を頼って帰ってきた後輩。彼女が後からカンナ副社長のアシスタントとして配属された頃は、一緒にランチに行ったり仕事を助け合ったりしてきたんだものね。それがいつのまにか、追い越したい追い越されなくないのライバルになっていただけ……。そこに、若い私達が見る目もなくて見た目だけであの男に恋をしてしまったから、よけいにこじれた。
「麗奈、ずっと前にふたりで行った『おじや』のお店があったじゃない。行こうよ、ね」
疲れて帰ってきただろうけれど、麗奈も素直に頷いてくれる。
二人で立ち上がって、肩を寄せ合って雪道を歩き始める。
もっと素敵な男性を見極める、大人の女になろうね。
おなじ男に騙された二人が、その夜にかわした言葉だった。




