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札幌小雪のファッション事情~魅力をひきだす専務の魔法~(改題前:ラブリー・ボス)  作者: 市來茉莉(茉莉恵)
【13】 魔女の呪いは、白魔術
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・黒魔術も忘れていない(2)


 しかし翌日。様子見なんて甘かったと眞子は思い知らされる。

 麗奈が欠勤してしまったのだ。


 カンナ副社長も唸っていた。『うまく行かなかったんで、へそ曲げたのかね。休むくらいで機嫌が直ればいいんだけれどね』と――。


 だけれど、眞子はそわそわ。あの子、今日、なにしているんだろうと。

 さらに翌日もその次の日も。麗奈は三日も休んでいる。

 眞子は思った。へそを曲げて休んでいるんじゃない。本当に徹也に、横浜まで会いに行っているんだ。女の勘、そう言っている。


 どうしよう。やっぱり専務に報告したほうがいいのかな。

 心揺れて、ひとり悶々としていたその日。

 いつもの着古したニットベストにおじいちゃん眼鏡、ぼさっとした専務が慌てて応接室に戻ってくる。

「眞子さん、俺のスーツとシャツ。揃っているかな」

「はい……。毎日、いつでも飛び出せるようにしておりますよ」

「急に、横浜から三浦さんが来ると連絡があったとカンナから報された。また昼にはここにくるって」

「ほんとうに、急ですね?」

「営業部長が自らやってくるんだから、またよほどこのことなんだろう」

 すぐに奥にあるクローゼットを開けて、専務は着替えをはじめる。

 スラックスにシャツを着て、今日は爽やかなアイスブルーのネクタイを結んでいる。

 結びながら専務がふと眞子に呟く。

「眞子さん、後藤さんと連絡とれたかな」

「いいえ……」

 イベント担当者ふたりの不手際の発覚、麗奈の連続欠勤、そして本社営業部長の突然の訪問。

 専務もなにか繋がっていると予測しているよう。きっとカンナ副社長も……。

「もしかして後藤さん、横浜に行ってる?」

「……かもしれませんね」

 女性として詳しくはまだ、たとえ親しくなった恋人の慎之介という男性にも言えずにいる。

 午後になってすぐ、横浜から三浦部長がひとりでやってきた。

 今日は社長は不在だったため、カンナ副社長と専務と眞子の三人で、社長室へと迎える。

 先日と同じように、横浜シルビアさんとマグノリアの社員でソファーに座り向かい合う。

 煎れた紅茶をそれぞれに置き、眞子が座ったところで、他愛もない世間話でにこにこしていた三浦部長の表情が引き締まった。

「本田さんにも是非と思って。お待ちしておりました。お紅茶、ありがとうございます。いただきますね」

 眞子が落ち着くまで待っていたということらしい。つまり、眞子にも聞いてもらわないといけない話ということに? 眞子が煎れたダージリンの紅茶をひとくちすすると、三浦部長がまずカンナ副社長の顔を見た。

「一昨日、突然ですが、古郡が退職しましたのでご報告させていただきます」

 徹也が、横浜シルビアを辞めた!?

 眞子だけではない。カンナ副社長も専務も驚きで声も出ない様子になっている。

 それでも三浦部長は続ける。

「ですので。しばらく、こちら篠宮マグノリアさん担当の営業なのですが、私自身がさせていただこうと思いまして、お詫びとご挨拶に参った次第です」

 徹也の代わりとして、抜けた穴はまずは三浦部長が担当すると聞いて、一同はほっとはした。

 今度はカンナ副社長が険しい眼差しになる。

「もしかして。先日、こちらマグノリア館で行うイベントにて、ノベルティの発注ができていなかったことが原因なのですか」

「まあ、最後の後押しにはなったみたいですが。古郡は年明けの企画提出からずっと手間取っておりました。彼の不手際でご迷惑をかけたのはマグノリアさんだけではなかったぐらいです。あちこちから、話し合っていることが進まない、約束が守られていないと、まあこんなクレームが相次ぎましてね」

 また三浦部長は、爽やかににっこりしたまま。その笑顔の時、お腹の中はどうなんだろうと眞子はいつも怖くなる。

「年明けから厳しくしたせいもあったようです。彼があげる企画、私が全て却下してなかなか前に進まないので、追い込まれているうちに、いろいろ投げ出してしまったというところでしょうか」

「どうして、そんないきなり、退職するだなんて」

 カンナ副社長もそこは不思議そうだった。

「さあ、親の体調が崩れたので実家に帰ることになったとは言っていましたけれどね。確かに厳しくはしましたけれど、できていないから却下するだけのこと。いままで如何に、営業先の皆様のお力で彼が輝いていたかということです。こちらでも『本田さん』という梯子を外された途端、古郡は見事に落ちていったでしょう。北海道の気候を考慮したディスプレイも提案できず、とりあえずの仕事ばかり。皆様のアドバイスがあって従っていたからこそ、彼は仕事ができていたんです。ですから。全ての梯子が外れて、こうなったのだと気が付いて欲しかったのです。梯子はもう部長の私しかかけていない。そこで必死になって欲しかったんですけれどね……」

 要領のよい甘えた営業しかできていなかった男だと、春に就任したばかりの三浦部長に化けの皮を剥がされ、正体がすっかりばれると逃げ出したということらしい。

「まあ、そこまでの男はこれまでも沢山いましたし、彼もそのうちのひとりにすぎません。他のできる男に任せるだけです」

 三浦部長からすれば『後を追うほどでもない、もう終わったこと』ということらしい。

 だけれど、眞子はどうしてかドキドキして不安な気持ちになっていた。

 麗奈、どうしたんだろう。どするのだろう。横浜で無事に彼に会えたのだろうか。これからお腹の赤ちゃんはどうするのだろうかと……。

「二月のイベント担当は、篠宮専務と本田さんが引き継いでくださったようですね。助かりました。ありがとうございます」

 三浦部長に頭を下げられ、専務と一緒に「こちらこそ、お願いいたします」と恐縮する。

「ええっと。古郡と一緒に担当されていた後藤さんはどうされていますか」

 できればお詫びのご挨拶をしたいと三浦部長が言いだした。カンナ副社長がそこは申し訳なさそうに頭を下げる。

「私の指導不足でございます。古郡君がイベントですべき手配を忘れていたのは、後藤のきめ細かいコンセンサスができていなかったからです。それを放置していたのも私です。そのため、担当から外しました。その翌日から欠勤しております」

「あらら……。若さですかね」

 そんな砕けた口調を使いながらも、三浦部長の顔は呆れているものだった。

「私もまだまだでございました。本田を外して後、二人がそれぞれ今後どうするのか気が付いて欲しいと試すためにそのままにしていたのが悪かったのです」

「だからって、出来なかったものは出来なかったのですからねえ。それにカンナさんはきちんと裏で最低限のフォローはしていたでしょう。結局は本田さんの提案だったため、ハンドケアのセラピストも既に本田さんが準備してくれていた。後藤さんに任せきりでなにもしなかった古郡と、自分ひとりでなんとかしたいという若い後藤さんができなかったセラピストさんへの見極めと交渉も慎之介さんがしてくださったからなんとか展開できていましたようですし。ノベルティにしても、セラピストの方が機転を利かせて確保してくださっていた。それも本田さんがお客様として何度も通われていたという信頼があったからこそ、なんとかしてくださったのでしょう。なかなかありませんよ、こんなこと」

 そう言ってくれる三浦部長が眞子へと僅かに身体をむき直す。

「古郡の落ち度でありましたが、助けて頂きました。ありがとうございます。これも本田さんの前もって見通してくださった準備のおかげです。いままで古郡もどれだけ助けて頂いていたことでしょう。きっと楽をし過ぎていたのでしょうね。いままで気が付かず申し訳ありませんでした」

 ずっと片想いだった男の末路に、眞子は複雑な心境だった。そんな彼をできる営業さんと思っていたのだから。

「ですが、これから篠宮専務と本田さんとお仕事させていただけること、私、楽しみにしております。部長に就任してからこちら、ずっと気になっていたお二人でした」

 また専務と眞子は『ありがとうございます。こちらこそ、今後もよろしくお願いいたします』と返した。

「専務、眞子。もういいよ。三浦さんと話したいことがあるんだ」

 ボス同士でひっそり話したいことがあるから、席を外して欲しいということらしい。

 専務はすぐに立ち上がり社長室を出て行こうとしたが、眞子は専務の後をついていきながらもまだ心残りがある。

「三浦さん」

「はい、なんでしょうか。本田さん?」

「古郡さんのご実家はどちらなのですか」

 三浦部長がギョッとした顔になり、カンナ副社長も顔色を変えた。さらに専務まで。

「眞子さん、それは……どういうつもり」

「後藤が古郡さんに会いに行っているのではないかと思っているのです」

 思い切って告げたことに、今度は三浦部長とカンナ副社長が通じあっているように顔を見合わせた。

「それをいまから三浦さんと話すんだよ。安心しな。麗奈のことは私が探し当てるよ」

 カンナ副社長も気にしてくれていたことを知り、眞子はやっと安堵する。でも、妊娠のことは知らなさそう……。

「行こうか、眞子さん」

 専務に背中を押され、眞子は彼と一緒に社長室を後にした。



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