・魔女の呪いがとける
「いやいや、待ってくれよ。カンナ……、じゃない、副社長! 俺達だって、俺達で手一杯の仕事があるんですよ」
「そうかね。でも、こうもあれこれ滞っちゃねえ。そうだろ、麗奈」
「待ってください! これは私と古郡さんの仕事です!」
必死な麗奈へと、カンナ副社長は冷ややかな視線を向ける。
「麗奈、あんた、今回のイベントをするにあたって、古郡君と一緒にいくつの提案を出したか言ってみな」
そんな問いを投げかけられた麗奈が、ぐっと黙り込んでしまう。
「言ってみなって」
麗奈は答えられないよう……。
「じゃあさ。古郡君はいくつ提案してくれた? どうしてアロマのハンドケアになったのか説明してみな」
「古郡さんの提案が素敵だったので、一発で決まったんです」
「ふうん。他の候補は提案されていなかったというんだね」
「本社の営業さんが提案されたことが、ひとつだけでも素晴らしいものだったからです」
そのやり取りを聞いて、眞子は……ようやっとなにかを悟った気がした。
二人揃って――、眞子の提案にのっかっていただけなんだと。
「あと、アロマのハンドケアのセラピスト。こちらもまったくひとりで決められなかったねえ」
ついに副社長が公然たるここで、麗奈に『セラピストをみつけたのはあんたじゃない』と突きつけた。
眞子に『なんとかなっちゃいました』と勝ち誇っていた麗奈だったから、隣にいる眞子から顔を反らし、うつむいてしまう。
専務も黙ったまま。こちらも叔母様に負けない冷ややかな様子で、叔母さんがすることを眺めているだけ。
「横浜の担当営業のいいなりで、任せっきり。自分の考えはどこにいった、麗奈」
彼女がうつむいたまま、もう顔も上げないし言葉も発しない。
それでも眞子も副社長の言葉に胸がずきんとした。担当の徹也に嫌われたくなくて、彼が思う提案に乗ってしまったことは眞子にもある。
そう、やっぱり。副社長は気が付いていたんだ。いつもの眞子なら、きちんと季節と地方性に合わせた提案をできたはずなのに流されたのだと。だからあの時、あんなに怒られたんだと気が付く。
「それから。このアロマのハンドケアの提案は、古郡君が考えたものではないよ」
麗奈がぴくりと動く。
「眞子が、アシスタントを外れる前に、既に古郡君に提案していたんだよ。あと、私にもハンドケアではないけれど、ネイルケアのイベントはどうかと既に前提案を示してくれていた。お客様の手を癒す提案は既にしていた。エッセンシャル六花も、私がみつけたんじゃない。ハンドケアの提案をずっと前から準備していた眞子が、休暇の日にまめにあちこちの店に通ってピックアップしてくれていたんだよ。企画を提案する前というのは、そういう前もっての地道なリサーチや準備も必要なんだよ」
そういって、カンナ副社長はついに、麗奈の目の前に、眞子がまとめていたセラピスト候補のリスト用紙を差しだして見せた。
そこでようやっと麗奈が顔を上げる。青ざめていた。震える指先で、眞子がまとめたリスト用紙を手に取った。
「六花さんが引き受けてくれるよう、説得してイベントの契約を取り付けてくれたのも、専務と眞子だよ。私ではない。何故なら、眞子が下準備していたものだからそうしてもらった」
それを麗奈は『自分が交渉して約束を取り付けた』と、六花をみつけてきた本人である眞子に堂々と言い放っていたことが明るみになる。
隣で、麗奈が震えている……。眞子に勝ちたくて張った虚勢が暴かれてしまう。
「本社の営業マンだからなんでもできるってわけじゃない。できる男だろうと乗っかれると思ったのかい。あちらは全国に何店舗も担当を抱えている営業マンだよ。コンセンサスも重要で、こちらでできるサポートはなにか考えた上で手が組める。それがシルビアと篠宮を結んでいるんだ。ひらひらとうわっつらだけじゃできないとわかっただろ。やる気の向け方をもう一度よく考えてみな」
そんな諫めるカンナ副社長が、改めて、眞子と専務へと向いた。
目の前で、信じられないことが起きる。
カンナ副社長が、眞子と専務に向かって深々と頭を下げていたから!
「申し訳ない。後藤の指導不足は私の責任だ。こんなに躓くのも滞るのも、全てを黙って眺めていた私が原因。どうか、このイベントを引き継いでくれないかね」
夕方の忙しさでざわめいていた事務所内も、一瞬すっと鎮まったほど。
あの白銀の魔女が自分の責任を詫びたうえで、怒りで除外した元アシスタントと、部下で甥っ子の専務に頭を下げているから。
「かしこまりました、副社長。私と本田で引き継ぎます」
専務がそう受け止めたので、眞子も一緒に頷くしかなかった。それにもうこれ以上、スケジュールを遅らせることはできないだろうから。
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