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札幌小雪のファッション事情~魅力をひきだす専務の魔法~(改題前:ラブリー・ボス)  作者: 市來茉莉(茉莉恵)
【12】 泊まりにおいでよ
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・ニューイヤー プロミス?


 その匂い、専務のシャンプーの匂い。

 はじめて使ったバスルームで、その匂いがしていた。

 目がふっと開く。見えたのは……、見慣れない部屋。


 ハッと気が付いて、眞子は目を見開く。

 ほのかな灯りだけの部屋、カーテンが開けられている窓には夜空、そしてまた雪。


 やだ、寝ちゃったんだ。専務のベッドの上で! 眞子は身体を起こす。


「あれ、起きちゃったんだ」

 部屋着風のワンピース姿のまま、でも身体のうえにふわふわのブランケットが掛けられていた。

ベッドのふちに、専務がラフな部屋着姿で座っている。首には大きなバスタオル、それで濡れた黒髪をふているところ。

 シャワーを浴びた後のよう。それで、シャンプーの匂いで目が覚めたのだと眞子も気が付いた。

「起こしちゃったかな。いま、ここに来たから」

 ベッドに腰をかけたとたん、眞子が目を覚ましたということらしい。

「もう、終わったのですか」

「うん。終わった。眠っていてもいいよ」

 ひとつのベッドに、これから一緒に寄り添おうとしているのに。専務はいつものお兄さんの微笑みのまま、まったく余裕だった。

 今日は、ふたりではじめての夜だから……。すぐにではなくて……。とりあえず、一緒に寄り添うだけのつもりなのかな?

 眞子を大事にしてくれているのかな……。そう思ってしまう。

 でも、眞子も。子供じゃない。それぐらいわかって、承知の上でここにきた。

「はあ、疲れた。でも……、明後日から初売りだもんな。ゆっくり休もうか」

 専務もブランケットをめくって、ベッドに上がってきた。眞子が横になっているすぐ隣に彼も寝ころんだ。

「おやすみ、眞子さん」

「おやすみなさい」

 ふたり一緒にベットで眠ろうとする。

 こんなに、体温が近い。匂いも専務じゃなくて、慎之介という男の人の匂い。

 すごく嬉しいのに、すごく緊張している。

 専務もおなじ? そのつもりできたのに、専務は眞子には触れてこない。

「……俺のこと、どう思ってる?」

 え? 横になったまま天井を見つめて固まっている専務。その硬い横顔を隣で寝そべっている眞子は見つめたまま。

「頼もしい、お兄さんみたいに感じていますよ」

「お兄さんかあ。歳、離れているもんな」

 でも――と、眞子は専務の方へ身体を向けると、眞子の肌と専務の腕が触れてしまった。急にそこに、熱い体温を感じる。

「でも、時々……。頼もしいお兄さんが、お仕事では厳しい目をしているお兄さんが、無邪気に見えてしまう時、とても近くにいるんだって……感じています。そんなお兄さんが、私と楽しそうに笑ってくれると、幸せで、愛おしい……」

 胸の奥から熱いなにかが溢れてしまう。その思いのまま、眞子はすぐ目の前にある専務の肩先に頬を寄せてしまった。

 眞子から専務の体温に寄り添う。

「眞子、」

 彼が起きあがり、眞子におおいかぶさった。眞子の目の前に、眼鏡をしていない専務の真顔。

 もう、専務の眼差しじゃない。時々、仕事の時も眞子に見せてくれた男っぽい眼差し……。

 なのに躊躇っているから……。眞子からそっと彼の頬に触れた。

「眠らせてあげたかったんだけれど……」

「眠りたくないです。こうしていたい」

 男の眼差しを、眞子もじっと見つめる。

 くちびるにそっと柔らかいキスが落ちてくる。

 眞子もそのキスに、くちびるを預ける。

 専務の手が、眞子の肌に触れる。

 キスを繰り返しながら、触れられているそこが熱い。でも、眞子も専務の首に抱きついて、止まらないキスをいつまでも。


 そうして、静かにそっと。雪が降り積もる深夜、ふたり一緒に素肌になる。

 なんだろう。すごく、すごく、しっとりした大人の女になった気分。

 ずっと仕事ばかり。男の人は私なんて見ていない。それなら仕事しよう。それしかないじゃない。そう思ってきた。

でも、そんな眞子のこと。見てくれていた男の人。

「すごい、いい匂いだ。それに、熱い……、眞子の肌」

 専務の揺れる黒い瞳が、眞子の身体中をじっと見つめている。

 私も、むせかえるような専務の、男の人の肌の匂いかんじている。

 その匂いを混ぜるようにして、彼の肌と眞子の肌が熱く重なる。


 まだ。慎之介さんと呼べなくて。

 でも眞子は、肌のあちこちを愛してくれる専務にすべてを開く、預けて、そのままとろけてしまう……。

 川辺にある教会から新年の鐘の音。彼との新しい毎日がこれから……。



―◆・◆・◆・◆・◆―



 明け方に少しだけ眠れた。

 ずうっと素肌の彼と抱き合って眠って……。

 すっかりベッドルームが明るくなっているのに気が付いて、眞子はむっくりと起きあがる。

 ブランケットにくるまっている身体は、裸のままだった。

「う……ん……」

 ひさしぶりの、男の人との夜だったせいか、身体がけだるい。

 でも……身体の奥に甘い疼きが残っていて。眞子はそっと頬を熱くした。

「お、やっと起きたかな」

 もう白いワイシャツにネクタイを締めている専務がベッドルームを覗いた。眼鏡をかけているけれど、いつものおじいちゃん眼鏡。すでにキリッとしたモデル男並の姿になっている。

「おはようございます……、専務……」

 まだ寝ぼけた顔でとりあえず挨拶をすると、彼がおかしそうに笑う。

「その専務って、いつかやめような」

 いまはまだ恋人になったばかりだから、そのうちな――と笑ってくれる。

「俺、いまから父親の自宅へ新年挨拶と、家族揃って会社安泰祈願で神社での初詣祈祷にも行ってくるから」

「え、もうそんな時間なんですか」

 裸だけれど、見繕いしようとベッドを降りようとしたけれど、ベッドのふちに座った専務にまた毛布にくるまれてしまう。

「いいよ。まだ休んでいて」

「新年なのに。朝からこんな姿で……」

「俺だって毎年、この時間は、この部屋でぼさっとして起きるよ」

「そうでしょうけれど」

 眞子――。専務が裸でいる眞子の頬に触れる。

 かっこいいネクタイを締めた姿、でもおじいちゃん眼鏡。それでも眞子は頬が熱いまま、彼を見上げた。

「昨夜……、俺、すごく嬉しかった。いまも目の前にいてくれて、こんな朝、こんな新年、幸せだよ」

 そのまま裸でベッドにいるだけの眞子に、キスをしてくれた。しかもそのキスが、長い。でも、眞子もうっとり浸ってしまう。

「俺が留守の間、なんでも勝手に使って良いよ。リビングで映画を観てもいいし、冷蔵庫にも少しだけど簡単に食べられるもの置いているから。親父の家でいろいろ料理が出るんだけれど、いつも持ち帰ってくるから、それで二人の新年会をしよう」

 こんなゆったり素敵な新年は眞子もはじめてで。にっこりと微笑み返して頷いた。

 最後に専務が、眞子の乱れた黒髪をそっと愛おしそうに撫でてくれながら、ささやいた。

「来年は、俺と一緒に、篠宮の新年会に連れて行くよ」

 え? 篠宮のって……。篠宮社長とかカンナ副社長とか、人気モデルだったお母様のいる自宅へ連れて行くってこと?

 それって……。眞子が茫然としていると、専務はなにもかもわかった顔でにっこり微笑み、素肌の眞子をぎゅっと抱きしめてくれる。

 家族に、一族に紹介するってこと?

「あ、そうだ。隣の部屋は俺の衣装部屋みたいになっているんだけれど。クローゼットを覗いてみて」

「クローゼットですか……」

「うん」

 専務はそれ以上はなにも言わず、しばらくするとビシッと黒スーツで決めて、出掛けていった。



―◆・◆・◆・◆・◆―



 お言葉に甘えて、眞子は専務のぬくもりが残っているベッドでしばらくゆったりして、シャワーを浴びる。

 お洒落な大人の、独身男性の住まい。センスがいいその部屋でひとりお留守番だったけれど、明るい陽射しが入ってくるリビングで眞子はとても満ち足りた気分。


 専務が言っていた隣の部屋のクローゼットを開けて、眞子はびっくりする。

「え、これ……、私の?」

 クリスマス前に素敵な服をプレゼントしてくれたばかりだったのに。

 専務のスーツがずらっと並んでいる隅っこに、スカートにブラウスにワンピース、数日は着回しができるだろう服が取りそろえられていた。

 また素敵な服ばかり。

 着てごらん、きっと似合うから。これがあるから俺の部屋からでかけようよ。一緒にいよう。そんな専務の声が聞こえてきそう。

 こんな素敵な気持ちにさせてくれるだなんて――。

 肌に残っている専務のくちづけの痕。それを感じながら、眞子はブラウスを手に取る。

「専務、好き……、大好き」

 明日からまたきっと、専務と本田さんになって忙しさに追われる日々がやってくるけれど。

 でも。今年はずっと彼と一緒にいたい。仕事じゃない時間もずっと一緒に……。




次回更新は本日、朝6時です

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