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札幌小雪のファッション事情~魅力をひきだす専務の魔法~(改題前:ラブリー・ボス)  作者: 市來茉莉(茉莉恵)
【12】 泊まりにおいでよ
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・大人の男ダイニング


 大晦日。それでも、年末商戦に追われるアパレル業界はこの日も営業中。

 年が明け、元旦を迎え翌日。二日からは初売り商戦、バーゲンセールへと繁忙期に突入する。

 眞子も販売店舗のアシスタントとして百貨店のフロアに派遣されるシフトを組まれていた。


 専務もおなじく。専務は本店『マグノリア館』でお得意様を出迎えるために控えることになり、在庫整理業務はしばらく休止状態となりそうだった。


 その前に。ふたりでゆっくりすごそうね。専務とそんな約束。


 ほの明るいダイニングは、柔らかい間接照明に照らされる黒いテーブル。

 そこに専務が買い込んできたデパートのデリカテッセンがいくつも並べられた。

「ワインがいいかな、それとも吟醸酒?」

 普段着専務なのに、どうしてなのかな。ワインボトルを片手にキッチンから眞子に聞いてくるその人は、とっても大人の素敵な男性。

「たくさんは飲めないんです。でも、ワインを少しだけなら」

「わかった。そう思って、香りが良くて口当たりも柔らかい小樽ワインを買っておいたんだ」

 眞子が来るまでに、あれこれ準備してくれていたようだった。

事務所ビルから徒歩十分~十五分。それでも北の都市中心街の片隅にある2LDKのマンション。八階に専務の部屋。リビングの窓の向こうは、北の都市の夜景が見える素晴らしさ。

 中心街に住む独身向けの部屋なのか、ずいぶんとスタイリッシュで驚いた。やっぱり専務っておぼっちゃまなんだな……と実感してしまう。

 リビングの向こうには、ドアが開けられている部屋が見える。そこに、ダークブラウンとベージュという冬らしい温かみのあるファブリックで整えられているベッドがちらりと……。

 そこに視線が向いてしまうと、眞子はドキドキ。あそこで、専務が寝起きしているんだと。事務所でいつも着ているニットのベストが無造作にベッドの上に置かれている。

「じゃあ、ちょっとだけな」

 着古しているベストニットを脱いでしまったから、いまの専務は白いシャツ一枚。

 しかも帰宅して気楽にしたいのか、首元のボタンを二つも外していて、とっても砕けた姿になっているし。あのお気に入りのニットベストを脱いじゃって、シャツ一枚、スラックスだけになった方が、妙に男っぽくて色っぽいってどういうこと? 普段着のくせに、眼鏡だってあのおじいちゃん眼鏡なのに、きらきらしちゃっているんだもの。

 そうして、置いてくれたグラスにソムリエのようにワインを注いでくれる背が高いお兄さん専務を、眞子はほうっと見惚れるばかり。

「どうしたの、眞子さん、ちょっと顔が赤いな。まだ飲んでいないのに」

「なんか。専務に見えないんです……。それにここ、なんだか柔らかい灯りで静かで、心地がいいですね」

 大人の顔をしている彼が、にっこりと柔らかく微笑む。

「専務に見えない――で、正解だろ。今夜は俺は専務じゃないから。それに、ここを気に入ってくれたようで良かったよ。これからいつでもおいで。ここから通ってもいいから」

 うそー。こんなお洒落な大人のおつきあいができそうになるだなんて思わなくて。眞子はもう、ふわふわ夢心地。

食卓は整い、眞子と専務は向きあって座る。そしてグラスを持って、スタイリッシュなシェードのランプの下で乾杯をした。

「眞子さんの実家は、江別だったよな」

「はい。元が農家だったんですけれど。祖父の代で辞めてしまって、父は農協職員です」

「でも、あそこらへんは地元の食材を活かしたファームレストランや、オーベルジュもあるよな。土産物のピクルスが絶品」

「私も知ってます! あそこの瓶詰めのピクルスですよね」

「そうそう、あれ。俺、お気に入りなんだ」

「では、実家に帰省したらお土産に買ってきますね」

「ふたりで行ってみたいね。オーベルジュ。泊まってもいいし……」

 目の前で、マリネをほおばりながらワインを飲む専務は、おじいちゃん眼鏡なのに……やっぱり色気漂う大人のお兄さんだった。

 でも仕事ではできない気さくな会話をずうっと続けてしまう。笑って、時々、仕事の話もして。でも専務がいつもの調子の良さで茶化して、また違う話題になっている。

 いままでもランチで他愛もない会話は重ねてきたけれど。今夜はそれがずっと……。気が付くと、食べるものがなくなり、眞子もワインをいつもより飲んでいた。

「疲れたみたいだな。さて、片づけようか」

 手伝います――と立ちあがったけれど。

「いいから。先にシャワーでも浴びておいで。先に休んでいていいよ。俺は少しだけ残している雑務があるから気にしないで」

 出来合ものばかりだから片づけるのも簡単と笑って、専務は眞子をシャワールームへと案内してくれた。

 シャワーを浴びると言うことは……。でも、眞子もそういう気持ちで来たのだからと、仕事で着ていたブラウスとスカートを脱いでしまう。

 シャワールームもそんなに狭くはない。それにシャワールームの外にある洗面台が広くて、またお洒落にしてある。男らしい、シンプルな、でも外国製のような小物が選ばれている。

 普段着でぼさっとしているけれど。やっぱりセンスがあるアパレル一家の長男さん。ひとつひとつが丁寧に選ばれているよう。

 それに、俺はやることがあるから先に休んでいいよ――みたいに、がっつり眞子に迫ってこない余裕も大人。眞子もほっとしてシャワーを浴びた。


 ナイトウェアは、部屋着風のワンピース。それといつも自宅で羽織っているカーディガン。その格好で、リビングに戻った。

「お先に。でした」

 黒いダイニングテーブルはもう食べたものは片づけられていて、専務は事務室とおなじ眼鏡の横顔で、ノートパソコンに向かっていた。

「うん。もうくつろいでいいよ。好きにしていいから」

 どこか素っ気ない。でも、いきなり妙な雰囲気になるより眞子は安心する。

 そのまま、バッグを置かせてもらった専務のベッドルームにはいった。ふんわりとしているベットに腰をかける。

 ワインを飲んだせいか、いつもよりまぶたが重たい……。そのまま、ぱふりとベッドに横になってしまう。

 横になると、開いているドアの向こうに仕事をしている専務が見える。

「ここも、専務の匂い……」

 やわらかい毛足のベッドカバーに、はじめて感じる男の人の匂いに、いつもの専務のエキゾチックオレンジの香り……。

 そのままふっと眞子は目を閉じてしまう……。

 ここ。はじめての部屋なのに、どうしてこんなに心地がいいのかな。

 専務が仕事をしている姿を見つめたまま……。眞子はまどろんでしまった。



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