・専務は邪魔者
もしかすると。私、ちょっと気持ちが変わったかも?
専務とキスをして、大晦日に一緒にすごす約束。
その日、眞子はきっといままで以上に大人の女になる……。
そう思うと、つい新しい洋服を手に取っていて、しかも買っている。
その服がいままでと違う……。しっとりと大人の女性ような。専務が選んでくれたような品のあるもの。
それを着て出勤しただけで、気持ちがきらきらしちゃっている。
ひさしぶりの旅行バッグに、いまいろいろ詰め込んでいるの。
ランジェリーも新しくして、ほんとうに彼と旅行に行くような気分。
ちょっと女っぽいお洒落をして、白い雪道を歩いて出勤。
コートもこのまえ買ったばかりで、着るだけでほんとうに気分がいい。
エレベーターを降りて、今日も眞子は在庫管理室になっている応接室へと向かう。
「おはようございますー。そちらはいかがですかー」
久しぶりに麗奈に行く道を遮られた。
でも、もうなにを言われても悔しくもない。
「うん、いろいろ順調だよ。麗奈はどうなの。年明けにはイベントのお知らせ発送するんだよね」
「もちろん、準備万端ですよ。あ、そうだ。専務、大丈夫ですか? 落ち込んでいません?」
もうそう言われただけで、眞子は顔をしかめたくなる。眞子がいる場所を貶めるための言葉が並べられるに決まっている。しかも専務の、先日の敗北を利用して。
「この前、横浜から三浦部長が来られたじゃないですか。聞きましたよ。場所取りを失敗した専務には、改装オープンのイベントは任せられないっていわれちゃったみたいですね」
「ええ、そうね。それで、横浜シルビアさんがいっさいを仕切るから、古郡さんから企画案を出してもらうということになったみたいね」
麗奈がまた勝ち誇った微笑みを見せた。もう眞子にはわかりきったこと。
だから。こちらから言ってやる。
「年明けの古郡さんの第一案がどんなものか、楽しみね。麗奈も手伝うのでしょう。大事なイベントになるみたいだから、どうなったか教えてね」
「えー、それは私と古郡さんとの極秘になると思いますよー」
「じゃあ、改装オープンの時にわかるのを楽しみにしてるね」
「ほんとうは、専務がやりたかったはずですよねー。でも、場所取り失敗しちゃったみたいだから、もう期待されていないみたいだし。私と古郡さんで頑張りますから心配しないでくださいね」
ああ、それが言いたかったのね、はいはい。
眞子は思わずにっこり。もう聞き流したが、眞子がまったく悔しがらないためか、逆に麗奈の方が不機嫌になった。
「私、そのうちに横浜に行くと思いますから」
「え、どうして?」
麗奈の敵意剥き出しの視線が眞子に突き刺さった。
「古郡さんのところに行くって意味です」
眞子は眉をひそめる。どういう意味なのかと。
「古郡さんに成功してもらって、横浜シルビアでもピカイチの営業マンになってもらうんです。専務は邪魔。この前も、こちらがカジュアルダウンと決めたのに、勝手にディスプレイを始めて、ガンガン売っちゃうし。あの時! 結局、私と古郡さんのコンセプトはずれていたとされて、あっという間にウィンドーのディスプレイをダウンからコートに変えられたのも、専務が邪魔をしたから! 場所取り失敗したんだから、もうひっこんでいればいいのよ。専務が企画したって、どうせまた失敗するんだから、古郡さんに任せてもうなにもしないでいればいい。私達の邪魔をしないで!」
この子はいつもなにか不安があると嫌味を言いに来る。今度は眞子じゃない。専務がやることに危機感を募らせていた。このまえのディスプレイ。自分たちが提案したコンセプトは採用はされたが、効果はないとの結果にされた。それはコートを売り上げた専務のせい。そんな専務が大きな失敗をしたんだから、もうしゃしゃりでるな。徹也の邪魔をするなと麗奈は猛烈に抗議をしたかったのだ――と。
「専務もそのつもりだよ。手を出すことはないと思う」
でも麗奈はそうして落ち着いている眞子にも苛立ったのか、いつも以上の形相で眞子を睨み去っていった。
眞子は溜め息……。でもなんだか麗奈のことが心配になってきた。古郡徹也を盲信しているあの姿が痛々しくも思えてくる。少し前の眞子と一緒、でも、眞子と違うのはそれが率直に全面に出て露わになっていることだった。
それに『横浜に行く』ってどういうこと? 横浜シルビアに引き抜かれようとしているってこと?
会社同士の付き合いはあれど、こちらは地方の一族経営の小さなアパレル会社、あちらは全国大手の大企業。単なるアシスタントは、そうそう引き抜きなんてされないはずなのに?




