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札幌小雪のファッション事情~魅力をひきだす専務の魔法~(改題前:ラブリー・ボス)  作者: 市來茉莉(茉莉恵)
【6】 ススメ、損する女
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・はっきり言う! 損する素!

 


 応接室へと戻ってきた眞子は、昨夜の続きをしようとノートパソコンを開いた専務に頭を下げる。

「あの、専務。本日の周知をもう一度教えてください」

「は?」

 きょとんとしたおじいちゃん眼鏡の専務の顔。

「なんだ、聞いていなかったんだ。しようがないな。はい、これ」

 毎朝、専務が朝会で使っている周知のバインダーを渡してくれる。それを手にとって、眞子は改めてお知らせの内容を確かめた。

「らしくないね、本田さん。いつもカンナが忘れるから、きちんと手帳にメモをするアシストなのに。俺のアシスタントになっても、俺が朝会担当専務でも、メモを取っていただろう」

「申し訳ありません――」

 それでも、専務がふっと溜め息をついた。

「まあ、でも。あれかな。後藤さんと話していたから、そっちに夢中だったんだろうね」

 女の子同士のお喋りをしていた。そう思われたらしい。

「気を付けます……」

「じゃなくて――」

 専務の声がイラッとしたものに変わった。おじいちゃん眼鏡の顔だけれど、また父親譲りのシビアな眼差しが眞子に突き刺さってくる。

「あっちが俺達がしたことにイライラしているのはわかってんの。昨日、彼等の邪魔をしにいったんだよ、俺は。彼等のディスプレイ提案を反故にして、違うコンセプトで売ってやろうって乗り込んでいったんだよ。その昨日の今日。攻撃をされるなら、専務の俺ではリスクが高い。アシスタントの本田さんに行くに決まっているじゃないか。しかも、人が好くて押してしまえば笑って許してくれる女の子。そうだろ。攻撃されていたんだろう?」

 まさかの、なにもかも見抜かれていて、眞子は唖然とした。

 それどころか、専務にもきついひと言を言われてしまう。

「損をするのも、いつもこんなときだろ」

 いつも愛嬌ある口調の専務が、厳しく言い放った。男らしい声で。

 昨日、あんなに素敵なモデル男だったのに、今日はあっというまに、いつもの普段着専務になってしまった。なのにいま眞子の目の前で厳しく叱ってくれているのは、凛々しいスーツ姿の専務に見えてしまう。シビアな眼差しで、クールに的確に仕事をしていた大人の男性に、見える。

「あの、攻撃……みたいなものでしたが、その、私が心配しているのは……」

「はっきり言う! そうして言えなかったから、カンナから徹底的に責任を取らされたんだろう」

 そのとおり。納得できずとも、すべて眞子の中に飲み込んでしまった。そういうのが『損する素』と専務は言いたいらしい。

「なにが心配なんだ。上司の俺には、仕事でなにかあるならどんなことでもきちんと相談して欲しいし、報告して欲しい」

 さらに険しいままの専務が言い放つ。

「ほんっとうに、どうして眞子さんはこんなに心配にさせるんだ」

 え? 専務としての言葉に聞こえなかったので、顔を伏せて叱られていた眞子ははっとあげてしまう。

「あ、いや……。その、……。うん、本当に心配なんだよ。ああやってカンナにいいように押し切られるまでになって。もっと、自分のことを言って欲しい!」

 おじいちゃん眼鏡の顔、その顔が真っ赤になって、でもいつものかわいいおぼっちゃん専務の顔で叫んでいた。

「あ、ありがとうご、ございます」

 眞子も驚きのあまり、言葉がうまく出てこない有様に。

「で、なに。眞子さんの心配事は――」

 もうひとりで飲み込まず、専務に相談しよう。眞子も素直にそんな気持ちになれたから。

「次回イベントの企画のことです」

「ああ。アロマのハンドマッサージらしいな」

「え、もうご存じでしたか。古郡さんと後藤さんは今日、カンナ副社長に正式に提案すると言っていましたけれど」

「佐伯さんから聞いた。古郡君が横浜本社の営業部署の直属上司に、すでに提案しているってね」

「そうでしたか――。あのその提案なのですけれど……」

「わかってるよ。本当は眞子さんが提案したんだろ。でも彼が本田さんの代わりにその企画を打ち出し、『自分が考えた企画』として成功させようとしている。ってところかな」

 眞子だけが見えていると思ったものを、専務が既に知っていて見通していたので驚愕する。



今夜はあともう一回、深夜1時に2話分更新予定です。

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