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札幌小雪のファッション事情~魅力をひきだす専務の魔法~(改題前:ラブリー・ボス)  作者: 市來茉莉(茉莉恵)
【3】 恋と仕事は別じゃない
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・地味な専務もきらっとしちゃう?


 翌日。専務が眞子を見るなり言った。


「だめだ本田さん。それはいけない」


 始業前、『本日はどのようなことをすればいいですか』と彼のデスクに尋ねに行くと、これまたもっさりとした不精ヒゲとボサ頭と瓶底眼鏡になってしまった専務が真顔になって慌てた。

「俺が許可するからこっちにおいで」

 デスクを立った長身の彼が眞子の手を取った。一瞬、ドキリとしてしまった眞子だったが、彼の力にひっぱられ事務所の外、フロア廊下に出される。

 そうして、朝日が射し込む廊下の窓辺で向きあった。

「泣き明かしたんだ……」

 不精ヒゲのもっさり専務が、溜め息混じりに眞子を見下ろす。眞子も真っ赤に腫れてしまった目元を押さえた。

「こんなになるとは思わなくて」

「昨日、本田さんがカンナのアシスタントを外されたことは、事務所のスタッフもかなり動揺しているんだよね。そこにきて翌日、外された本人がそんな顔じゃあ、他のスタッフがまた落ち着きをなくす」

「申し訳ありません……」

「そんな謝ってほしいわけじゃないよ。俺だってカンナがいきなり言いだしたことに驚いたし、酷いコトするなと思っていたんだから……」

「ですが気持ちは切り替えてきたつもりです。もうここでは泣きません」

そうでなければ、目を腫らした意味がない。ここでうじうじしても、なにかをなくすだけ。

 すると。いつのまにか、眞子の頭の上に男の人の大きな手が乗っていた。ぽんぽんと撫でてくれている。びっくりして専務を見上げると、彼が瓶底眼鏡の奥の目をにっこり緩めてくれている。


 眞子は目を擦りたくなる。ボサボサのだらしのない専務なのに? なんか、きらっとして見えちゃったんだけど??


「泣いてすっきりしたならそれでよし。俺だってカンナのやることにお手上げ状態なんだから。まだどうしてこうなったのか、わかったようなわからないような……」

 ん? 専務は少しなにかを見抜いている? 眞子はふとそう思って彼を見上げた。

 昨日、出掛ける前はあんなにかっこよかったのに、あっという間にいつものボサボサ専務に戻っている。ありふれたシャツにデニムパンツという非常に飾り気のないシンプルな姿で、整えていない黒髪をぼりぼりかいている。

 先ほど、きらっと見えちゃったのも、やっぱり目の錯覚だと眞子は一人強く頷いた。

「今日もそこの応接室で俺と仕事をしよう。昨日のデーターを準備しておいて」

「わかりました」

 そして眞子も、在庫の多さに驚いたことを思い出す。

「専務、あの在庫の数なんですけれど」

「そうなんだよ。あれを一年内にどうにかしろというのが、親父から、もとい社長からの厳命な。ここ半年やっているけどまったく進まない」

「そうでしたか。私、さっそく、アイテム分けいたします。専務は急ぎの仕事があるならそちらを優先にしてください。でも進捗の指示はしてください」

 眞子もしっかりと返答をすると、専務が満足そうに微笑む。そして眞子をジロジロと見下ろしている。

「なんですか、専務」

「いやあ、俺ってほんとラッキー? 絶対に一人では無理だと思っていたからさ。アシスタントがついて、しかも副社長の片腕ともいわれていた本田さんがついてくれるだなんてね」

 いつものちゃっかりおぼっちゃまの笑みを見た眞子は、なんだが嫌な予感……。

 本田さんにしかできないよ、頼めないよ――と、変なお願い事ばかり頼みにやってくるあの顔と一緒!

「んじゃあ、頼んだよ。俺、先に外部に届けなくちゃいけないものが数件あるから。11時頃まで任せていいかな」

「は、はい……。かしこまりました」

 一緒に仕事をしようと言ってくれたのに。眞子が急ぎがあるならそちらを優先してくださいといった途端、眞子に在庫整理を任せて自分は事務所に戻るとあっさり手のひらを返された。

 んじゃあねえ。と、専務が嬉しそうに事務所に戻っていってしまう。

 一人取り残された眞子は、ハッとする。

 まさか。専務のいいように遣われている? もしかして。いままで時々だった無茶なお願いを、これからは毎日!?

 眞子はゾッとする。嫌だ、絶対に嫌! 在庫整理をとっとと済ませて、早くなんとか副社長のアシスタントに戻してもらって、徹也との華のバイヤー担当に戻してもらうんだから! ――と。



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