第4話 商人は逞しい…
フォレスタへと向かう馬車の御者席で俺はクルムから話を聞いていた。
「商人ギルドというのは各街々に支部がありまして、その支部長が商会や商人の仲を取り持つといった感じになりますね。」
商人ギルドは企業体というよりも商人や商会同士の調整役といった役割らしい。
なので全ての商会を従わせようと思えばできるが、それでは自由な商いが失われかねないため基本的には上に立つ様な事はせず情報の共有や問題事が起こった場合の仲裁役、商人の仲介役などを行っているそうだ。
クルムの商会の長は支部長を務めているらしく、フォレスタで一番の商会らしい。
「なるほど…。では商売を行う際は商人ギルドに登録したほうがよろしいのでしょうか。」
今はまだないだろうが、そのうちダンジョンの物を売りに出す事があるだろう。
「商人ギルドに所属してくれるのですか!?主人も喜びますよ!!」
クルムが飛び跳ねそうなくらいに喜んでいるが…、専属になるつもりはないぞ…?
「他にも冒険者ギルドにも入るつもりですけどね。今の所私はフリーですしね。」
「それだけ強くて無所属でしたか…。それはそれで驚きですよ…。」
まぁずっと森の奥で暮らしていたと言ったので詳しく詮索はされなかったが、この世界では珍しい事何だろうな。
クルムと話しながら街道を歩いていると日は落ち、夜になった。
「今日はここで野営をしましょう。食料はこちらで用意いたしますよ。」
「ではお言葉に甘えて…。ってクルムさんが御作りになるのですか?」
「はい、簡単なものなら何とか…。えっと…。」
慣れない手つきで食材と道具を探しているのだが、任せると危なくないか…?
「えっと…。よろしければ私が用意しますよ?」
「いえいえ、命の恩人にそこまでしてもらっては…。」
クルムは恐縮しながら言うが、正直出される料理の味に信用性がない気がする…。
「インベントリから出すだけですので手間は掛かりませんよ。」
そういうと俺はインベントリから銀色の袋を取り出す。これは日本の自衛隊が実際に使っているレーションを再現した物なのだが…。多分FWOにミリオタがいて作ったんだろうな…。
「見た事ありませんが、これは…。」
クルムがレーションを手に取り、まじまじと見ている。まぁ見た事ないのは当然だよな。
「これは保存食で…。この袋をそのままお湯の中に入れて、温めたら袋を破れば中に入っている調理済みの料理が食べられますよ。」
「なんと!?そういう物は見た事も聞いた事もありませんが、旅をする者にとっては喉から手が出るくらい欲しいものですよ!」
クルムは保存できる事と温めればすぐ食べれるという利便性に驚いているようだが、味にも驚く事になるだろうな。
鍋で湯を沸かし、用意した食器に中身のカレーを注ぐ。後は食べるだけだ。
「これはうまいですぞー!!!」
美味しいのは何よりなんだが、ここで叫ぶのはあんまりよくないんじゃないか?
夕食を済ませると、俺は周りに結界を張るために馬車を中心に正方形に魔石を配置した。
「この結界なら夜明けまでは十分持つはずですので安心して寝られますよ。」
「今夜の見張りはどうしようかと思っていましたから、これならば安心ですね。」
魔石の配置を終えるとクルムは安堵したようにため息を着くが、その目は商人らしく光っていた。
おそらく先のレーションと同様にこの結界も売れるだろうと考えているのだろう。
「レーションはそちらでも再現可能ですから構いませんが…。結界は難しいと思いますよ?」
魔石に魔法陣書かないといけないしな。大量生産するためにそれだけの技量がある人を集めるのは難しいだろう。
「そうですか…。残念です…。」
ちなみにレーションのレシピは教えたというか売った。今後売り上げの1割が俺の手元に入る予定である。
「でもこれでレイ様との繋がりができましたし運がよかったといえますよ。」
まぁ俺が居なかったらこの人確実に死んでいただろうしな。そういう意味ではラッキーだったんだろうな。
そんな話をした後、俺達は眠りについた。
朝日が昇ると共に目を覚ますと、クルムもすぐに起きてきた。やっぱり商人は朝が早いのだろうな。
朝食もレーションで済ませ、今日も馬車でフォレスタへ向かう。
「何事もなければ今日の昼ごろには着く予定ですよ。」
クルムはそういうが、何も起こらないだろうな。
だってクルムに気づかれないように馬車の周囲に覇気を飛ばしているので虫の音一つ聞こえてこない。
馬車に揺られながら冒険者ギルドの事、フォレスタの街の事を聞いているうちに街道の先に大きな壁のような物が見えてきた。
「あれがフォレスタかしら…?」
「ええ、森の入り口にしてエトルリア王国の北の防砦都市フォレスタでございます。」
フォレスタに近づくにつれ、防壁の巨大さが明らかになってくる。かなり大きいな…。
「森の魔物からの守りと、隣国からの侵攻を防ぐためのものですのでそこらの都市よりも強固な防壁で覆われているんですよ。」
フォレスタの砦門へ着き、クルムが言った事を理解する。なるほど、確かにこれは戦争用の防壁だな。
フォレスタの防壁は高さが30m以上あり、そう簡単には壁を崩せないだろう。
門も金属でできており、いざとなれば門を閉じて中を岩で敷き詰めれば扉を壊す事もままならない。
「クルム!?無事だったか!?」
門番の一人がクルムに駆け寄ってくる。知り合いかな?
「ええ無事です。この方に助けていただいたので。」
そういうとクルムは門番に紹介する。
「ご紹介に預かりましたレイと申します。身分証は持っていませんので手続きしないといけませんよね…?」
「ごっ…。ご丁寧にどうも…。この街の門番をしているカイトと言います。クルムの幼馴染です。」
カイトと名乗る男は丁寧に自己紹介をしてきたが、ちょっと顔が赤いぞ…。
カイトは門番らしく刈り込んだ頭髪にがっちりとした体の大きな男だ。
ちなみにクルムは少し小柄でぽっちゃりとした愛嬌のある男だ。
「それよりもカイト。無事だったかというのはどういうことだ…?」
俺もその言葉は気になっていた。まるでクルムが襲われているのを知っているような言い方だしな。
「ああ。昨夜冒険者5人と3人の商人と名乗る男達がきてな。態度が怪しかったから取り押さえて尋問したらお前を残して逃げてきただなんて言ったから心配したんだぞ!」
どうやら逃げ出した8人は既に捕縛されて牢に入れられたらしい。まぁ自業自得だな。
「それは済まない…。それよりもカイト。このお方の身分は私が責任を持つから穏便にこの街に入れてはくれないか?」
「書類の手続きはしてもらうが、お前の恩人だし問題なく審査は通ると思うぞ。」
カイトの言葉通り書類作成にやや時間が掛かっただけで特に問題は起きなかった。
「もっと時間が掛かると思っていたのですが…。クルムさんは信用されているのですね。」
「いえ、カイトは私よりも人を見る目がありますので。そうでなければ門番長は務まりませんよ。」
やけに審査が緩く感じたのだがお偉いさんだったらしい。
「それでは行きましょうレイ様。」
審査を終え、俺達は門をくぐり防壁の内側へ入る。
「ようこそフォレスタへ!」
クルムは俺のほうに振り向き、深々と頭を下げて歓迎の意を示した。
ぎりぎり街に入れました…。




