第3話 空の旅と商人さん
投稿遅くなってすみません。
鬱蒼と木々が生い茂った森の中に俺は転移した。後ろを振り返ると巨大な世界樹とダンジョンへの入り口が鎮座している。
「一ヶ月あっという間だったけど本当に色々あったな…。」
思い返せばエドガーやアリスに会う切欠となったのは、俺が先走ってここに転移したのが始まりだったな。
エドガー一家とアリス達、シュリ達が仲間になりラースと戦って従魔にして…。
いかんな…。思い出に浸るといつまでたっても出発できないわ。
「さて、いきますか。」
後ろ髪を引かれる思いを断ち切るように一人気合を入れ、インベントリから飛行用の杖を取り出す。
「よし…。いくぞっ!」
杖に跨り、俺は大空へと飛び出した。
「前にも飛んだけどこんな風になってたのか…。」
世界樹を背に俺は空を飛んでいるのだが、地平線の向こうまで緑色の森が辺り一面を覆っていた。
飛ぶ前に歩いていくか、空を飛んでいくか少し悩んだのだが空を飛ぶ選択は間違っていなかったようだ。というよりも歩いたら森から抜け出すだけで何週間かかるんだ…?
「エドガーが言うには…。一番近い街が南の方向にあるんだったかな…。」
以前エドガーから世界樹のダンジョンに一番近い街は南の方角にあると聞いていた。大き目の街らしいので空からでも見逃す事はないだろう。
俺はワールドマップを表示して現在地を確認してみた。
「本当にゲーム通りの場所にあったんだな…。」
ゲーム時代俺のダンジョンはイタリアのミラノから北東方向の山中に作っていたのだが、今展開しているワールドマップでも同じ場所に俺のダンジョンが記載され、俺のマーカーがその場所に映し出されていた。
「ここから南というと…、現実世界のベルガモ辺りかな?」
森の傍に町を作っているという事で、ここから南にあるという事なら位置的にはベルガモで間違いないと思う。
「まぁとりあえず行ってみるか。」
そう独り言を言い、俺は南に向かって空を駆けた。
「グルルルルルッ…!」
狼の魔獣の唸り声が私の馬車を囲んでいる。冒険者の護衛を5人も雇い安全な行商のはずだったのにどうしてこうなったんだ…。
私の名前はクルム。人族の商人だ。
王都へ森の都フォレスタで取れた特産品を運び、王都からフォレスタへ荷を運ぶ道中で狼の魔物の群れに襲われた。
護衛で雇った冒険者5人は私を置き去りにして真っ先に逃げ出していた。冒険者ギルドから腕の立つ5人と聞いたのにこの有様だ…。
馬車は3台あるのだが、3人の御者も冒険者と一緒に逃げ出していた。私一人では馬車3台は動かせない。
「いっそのこと馬車2台を囮に…。いや逃がしてはくれないか…。」
1頭の狼が私を睨みながら徐々に近づいてくる。もうだめか…。
妻と子の思い出が走馬灯のように頭をよぎる。よく尽くしてくれる妻、日に日に大きくなり先が楽しみな息子…。
だめだ…。まだ私は死ねない!
「グオオォォォォッ!」
そんな私の想いとは裏腹に狼は私を食い殺すため、飛び掛ってきた。
「ひっ!?」
短い悲鳴が私の口から出て、身が固くなり目を閉じてしまう。
ドンッ!
短い地響きが私の前から轟いた。狼はどうなった…?
私が目を開けると、そこにいたのは金髪の美しい少女とその少女に踏み潰された狼の亡骸であった。
南に向けしばらく飛んでいると森を抜けた。しかし街は見当たらないな…。
街道らしき道は見つけたから辿ればいけるだろうが…。右か左かどっちに行けばいいんだろうな…。
そんな事を考えていると、眼下で8つの人影が右から左へと走り抜けていった。
「なんだ…?何かに追われているのか?」
8人が逃げてきた方向に探知を発動させると、マップに赤いマーカーが輪のように幾つも写り、その中央に黄色のマーカーが1つ写っていた。
「くそっ!囮かよ!」
黄色のマーカーの元へ急行すると、3台の馬車が狼に囲まれていた。
3台の馬車の先頭に1人の男が立っていて、その男に狼が飛びかかろうとしていた。
「間に合えっ!」
俺は杖を収納すると狼に向けて空中を突進していった。
「助けに着たわ。怪我はない?」
狼を踏み潰し、腰を抜かして倒れている男に声を掛ける。
「あ…。あぁ大丈夫だ…。それより貴女は…。」
「少なくとも敵じゃないわ。」
そう言い放つと狼の群れの中で一際大きく、顔に大きな傷跡を持つ個体と相対する。
「さて…。狼の群れの長なら賢いはずだけど…。」
そう呟き俺は殺気を放つ。覇気でもいいんだが後の男が気絶しかねないしな。
「グルルルッ…。アオオォォンッ!」
狼のボスは殺気を当てられるとびくっと体を痙攣させ、一吠えすると仲間達と共に森へ駆け出していった。
「ふぅ…。もう大丈夫よ。」
男へ声を掛け振り返ると、男は気絶していた。殺気でも駄目だったらしい…。
「命を助けて頂いたのと…、ご心配おかけしました。」
自己紹介を終えると、男は深々と頭を下げて礼を述べる。
「いえ…。お怪我がなくて何よりです…。」
俺は視線を逸らしながら礼を受け入れた。
実を言うとクルム、助けた男なのだが気絶して倒れたときに打ち所が悪かったのか頭から血を流していた。
完全に俺のせいだから気絶している間に治しておいた。
「それにしても何故ここに一人で…?」
まぁ先に見つけた8人に囮にされたのだろうけど、とりあえず聞いてみるか。
「はい。私は商人でこの先にあるフォレスタに荷を運んでいる途中でした。ここで狼の魔物の群れに襲われて護衛として雇っていた5人の冒険者と3人の御者に逃げられてしまいまして…。」
やはり想像通り囮にされていたようだ。それでもこの男は恨み言を言わないし人が良過ぎるんじゃないか?
「例え皆逃げ出さなくとも貴女が来なかったら全滅していた可能性がありますし…。思う所はありますが恨む事はできませんよ。」
「そうですか。でもこの先どうなさるおつもりですか?」
流石に1人で馬車3台は操れないだろうし、捨てていくのもなぁ…。
「フォレスタまではあと1日ほどで着きますし、運がよければその後に人をやればあるいは…。」
苦しそうにクルムは言うが、1日ここにおいといて無事な可能性はかなり低いだろう。
「よければ私が馬車2台を操りますよ。もちろん相応のお礼は頂きますけど。」
「よろしいのですか!?お礼はもちろん命を助けて頂いたので私にできる事なら何でも仰って下さい!」
流石商人だな。商人にとって荷を置いていくのは苦しい事だから、それを避けられるのであればどんな手も尽くすだろうと思ったが…。お礼だけじゃなく恩も感じているようだな。
「えっと…。そんな大層な礼はいらないわ。これから向かう街の事について教えて頂くだけでいいですよ。」
エドガーからは詳しい話は聞けなかったからな。商人ならもっと深い情報まで持っているだろう。
「はい!何なりとお聞きください!」
「では馬車を走らせながらお話を伺いましょう。」
そういうと俺は2頭の馬の額に手を当て、魔力を流す。
「それは…。従魔術ですか?」
エドガーが肩越しにこちらを覗いている。使っているのは【調教】なのだが、従魔術というのがこちらでは一般的なのだろうな。
「そんな所です。これでこの子達に言う事を聞いてもらえば大丈夫ですよ。」
「ブルルルッ。」
2頭の頭をそっと撫でると任せろと言わんばかりに鼻息を荒くする。
「すっ…。凄いですね…。商人ギルドはおろかうちの商会に欲しいくらいです…。」
まぁ馬が自由に操れれば行商以外にも使い所多そうだからな。後で商人ギルドと商会についても聞くか。
「まぁそれはおいといて…。いきましょうか。」
そういうと俺は2頭の馬に指示を出し、先頭で馬を操るクルムの隣に座って出発した。
クルムは下僕にしませんでした。
何故かって?ずっと庇護するわけじゃないしなぁ…。
でも今章でのキーマンの一人になる予定。




