Happy Valentine's Day
バレンタイン当日に即興で書いてみたものを投稿するのをすっかり忘れていました。2人のキャラが割と扱いやすいというか、好みなのでいつかの機会に再登場してもらうかもしれません。
それはさておき、大学に入ってから2月は休みなのでバレンタインは自分に関係なくなってきました。もう貰える日はこないんですかね……(泣)
「うー……」
「何をそんなに唸ってるのよ」
「だってさー……。あー、もう駄目!」
「さては明後日のこと?」
テスト期間が終わりやっとゆっくりできると思ってカレンダーを見たら、まさか明後日がバレンタインデーだなんて。何も準備していないどころか、何を作るかさえ考えていない。別に友達にあげるくらいなら難しく考えることなく作れるのに。
「愛しの金城くんにあげるのに簡単なものは作れないもんねー?」
「結子、しー!他の誰かに聞かれたらどうするの!」
「教室には私たちしかいないんだから大丈夫よ。ほんと梢は心配性なんだから」
そうは言われたってもしかしたら廊下に誰か偶然通りかかって聞かれちゃうかもしれない。そんなことを考えていたら気が気じゃなくなって、私は机に突っ伏した。結子はそんな私の気持ちを考えようとせず、鞄に忍ばせておいたお菓子のレシピ本を読んでいた。先生が通りかかって没収されちゃえばいいんだ。そう願ってみるが誰かが通る気配はなく、むなしくなるだけだった。
「別に梢は料理苦手じゃないんだしさ、むしろ得意な方でしょ?何をそんなに悩むっていうのよ」
「料理とお菓子作りは違うんだよー。しかも、本命ってなんだかんだ作ったことないからどういうのがいいか分からないし、本気で作りすぎたら引かれないかなって思っちゃうし、そもそも金城くん甘いもの苦手だった時のためにちょっとビターなのとかも混ぜておくべきかなって」
「はーい、ストップストップ。とりあえずあたしと一緒に色々作ってみようよ。その中から良いと思ったのを渡せばいいわけだし」
結子は椅子から勢いよく立ち上がり、本を鞄の中に放り投げた。思い立ったらすぐ行動が彼女らしい。
「って、どうせ私が作ったやつをいくつか自分が渡す用にするつもりでしょ?」
「そ、そんなわけないじゃん……。あたしだってお菓子くらい作れるし……」
「この前のお菓子作りの生地の時と完成後のビフォーアフター画像がTwitterで1000RT超えるくらいのインパクトがあったのは覚えてるかな」
「すいませんでした。梢様、私めにお菓子の作り方を伝授してください」
今日は土曜授業だったから明日は日曜で1日休み。結子が地球外の物質を作ったとしても十分時間がある。私たちは何を作るか考えながら、とりあえずスーパーに向かうことにした。
「まずは……チョコでしょ?」
「それがないと始まらないしね」
「万能だしホットケーキミックス買っておく?」
「一応買っておこうか。小麦粉とかはうちに結構あると思うし、粉はそれだけで大丈夫かな?」
「さきいか美味しそうだなー……」
「こら、結子はどんなお菓子を作るつもりなの」
私たちの家から近いスーパーはバレンタインシーズンだからかチョコレートのコーナーやお菓子作り用のコーナーがあった。チョコレートの方が品数が結構減っているから、作らない人が多いのか。
「これはもらえない多くの男性が自分用に買ったと見た……!」
「それは言わないであげようよ……」
色んな会社が色んなチョコを出しているからどれを使うかは悩んだけれど、結子の、余ったらそれは普通に食べればいいという案によって一通り買ってしまった。(私の味覚がおかしくなければ)どのチョコも味に大きな差はないからどれを使っても大丈夫だとは思う。買った物は私の家に置いておくことにして結子は自分の家に帰った。23時頃に「明日楽しみすぎて眠れない。遠足前の小学生状態だわ」というメッセージがきたけど、とりあえず既読無視をして寝ることにした。
13時からうちに集まって作る予定だったから時間には余裕があったけれど、8時に目が覚めてしまったからそのまま起きることにした。目が覚めた理由は彼女が既読無視をしたことを怒ったのか、スタンプをめちゃくちゃ送ってきてその通知音のせいだけれど休日だからといって寝すぎるのはあまり好きではないから今回は許すことにした。暇だから午前中から行くと最後に送られてきたから準備をしておこう。
「おはようございますおばさん。今日はお手数をかけさせてしまうので、これはお詫びの品です」
「もう結子ちゃんったらお詫びだなんて言わないで。うちの子とキッチンくらいいくらでも貸してあげるんだから」
下の階からお母さんと結子の話し声が聞こえてきた。私のお母さんの前だと何故か礼儀正しくなるんだから、私といるときももう少ししっかりしてくれたらいいのに。そんな叶わぬことを願いながら身だしなみを整えて階段を下りた。
「で、あのことはおばさんに言ったの?」
「あのことって?」
「そりゃあ、今年は本命がいることよ。愛しの彼に作るって言ってないの?」
「いいい、言うわけないでしょ!お母さん、いい年して娘の恋愛に興味深々なんだから下手なこと言うと喰いついてくるんだよ」
「ちなみに渡す時告白は?」
「いいから作るよ!!」
結子が変なことを言うせいで作ってる途中でちょくちょく金城くんのことを考えてしまって落ち着いていられなかった。その度にからかわれたから、手伝ってあげないと脅すと静かになったからしばらく作業に集中していた。
「そういう結子は気になる相手とかいないの?」
「ん、あたし?いるよ……目の前に」
「……からかってる?」
「違う違う。あたしは恋より友情だからね。その辺の男より梢の方が大好きだよ」
照れもせずにはっきり言い切る結子は何だかかっこよくて羨ましかった。私も彼にはっきりと言える勇気があったらいいのに。まあ、同性に言う好きと異性に言う好きは違うから仕方ないと思うけど。
悩んでいるうちに美味しそうな匂いが漂ってきて、オーブンから完成の音が聞こえてきた。作ったのはお手軽で食べやすいと思ったからマフィンだ。最初はケーキを作ろうと思ったけれど、結子にそれはちょっと重いんじゃ……と言われて仕方なく変更した。たしかにホールケーキを渡すのはちょっと変かなと後から私も思った。
ラッピングはセンスのある彼女に任せた。100均で売っているものを上手に組み合わせて、お店で売っているようなものに仕上げてくれた。こんなに難しいことをいとも簡単にやってしまうのだからお菓子作りくらい余裕だと思うのだけれど、それとこれは全然違うらしい。
「よし、決戦は明日ね。上手にできたしこれなら大丈夫よ」
「明日なのに今から渡すくらいの緊張してる……。結子、一緒にいてくれない?」
「いやいや、あたしがいちゃ駄目でしょ。ちゃんと一人で渡すこと。ちゃんと正門とかで待ってるから良い報告教えてね」
プレッシャーをかけられ、その日の夜は私が遠足前の小学生のように眠れなくなってしまった。でも、寝不足そうな雰囲気やクマを見られたくないし、頑張って寝なきゃと考えているうちに眠っていた。
次の日、朝からずっと緊張していたが何とか靴箱に放課後教室で待っててくださいという手紙を入れることに成功した。変に意識してしまって、逆に彼を見ないようにしていたが嫌な印象を与えてしまってないだろうか。やっぱり甘いものが苦手とかだったらどうしよう。結子がこっそり仲良い男子から大丈夫だと聞いておいてくれたけれど不安になってきてしまう。気がつくとHRの先生の話が終わっていた。女子のチョコの交換会が始まり、チョコは持ってくるの禁止だと先生が注意しようとすると先生の分もあると渡されて今回だけは特別だと許されていた。
そのせいで教室から人がいなくなるのはいつもより30分くらい長かった。気がつけば教室の中は彼と私だけになっていた。
「それで、俺に何の用事だ?」
「あ、えっと……その……あの」
2月14日に待っててと言ったら用事は1つしかないでしょ!と思ったけれど、そんな鈍感な一面も私は好きなのだ。だから、好きな部分を改めて認識してしまって心拍数が一気に高くなる。ただ、これを渡して好きですって言うだけなのに、それだけなのに出来ない。体の後ろに隠している物を前に出すだけなのに。
「言いにくいことか?大丈夫。俺、誰にも言わないから自分のペースで話していいぞ」
違う!そうじゃない!でも、その優しさが今はずるい!かっこいい!ばか!
心配そうに顔を覗き込んできて体温が一気に上昇しているのが分かった。絶対、顔真っ赤になってる。そんなところ見られたくない。恥ずかしい。
「こ、これ……余っちゃってさ!せっかくだから金城くんにもどうかなって!味の感想とかはいいから。じゃあね!!」
一瞬の出来事で詳しくは覚えていなかった。もしかしたら、投げて渡していたかもしれない。そもそも、ちゃんと手渡ししたっけ?机の上に置いて逃げてこなかったっけ?告白どころか、余りものをあげるみたいな言い方しなかったっけ?
目に涙がたまって視界が滲んできた。せっかく結子が手伝ってくれたのに、失敗しちゃった。私の馬鹿。なんで、こんな時くらい勇気を出せないの。靴を履きかえて走ると約束通り正門で結子が待っていた。その姿に安心して涙がどんどんこぼれていく。
「結子……ごめんね。私失敗しちゃった。気持ちちゃんと伝えられなかった……」
「そっかそっか。でも、ちゃんと渡せたんでしょ?」
「渡せたけど変な渡し方しちゃったかも……どうしよう。嫌われたかな……?」
「んー、大丈夫だよ。だって、手紙入ってるし」
「手紙……?」
「ごめんね。あんたがちゃんと言えないだろうと思って実は、好きですって書いた紙を入れておいたんだ」
「はあ……?馬鹿!結子のばかあ!ありがとうだけど、何してくれてるのさ」
「代筆じゃないようにその4文字しか書いてないし、大丈夫かなって」
「明日からどうやって過ごせばいいのー……!」
私は泣きじゃくって結子の肩をしばらく叩き続けていた。ちなみに、この後私が金城くんと付き合う話はまた別な機会に――。