語り屋
ようこそ、本棚の隅へ
ようこそ、本棚の隅へ。ここは不思議な語り屋とその仲間達による何でも屋。別件で全員出払ってるから今ここに居るのは俺だけだけどな。まぁ、ただ待ってるのもつまらないだろ?だからアイツらが帰って来るまで特別に誰もが知ってる伝説と、それに隠された真実を語ってやるよ。
かつて世界は魔王に支配されていた。女神が残したといわれる石板に描かれた四人の勇者が世界を救うべく立ち上がった。さまざまな困難を乗り越え、遂に彼らは魔王を倒した。彼らは英雄と言われ、人々にたたえられた。こうして世界は平和になった。
ここまでは誰もが知っている。真実はこれだけでは終わらないのさ。
が、この伝説には裏があった。世界を救ったのは四人ではなく、五人だった。しかし、石板に描かれて無かった、それだけの理由で彼だけは英雄になれなかった。しかし、彼は世界が平和になったのだから、それでもいいと思っていた。優しかった彼は自ら身をひいた。そんな彼を世界は放ってはくれなかった。魔王のスパイだったのではないか、などという噂が流れた。裏切者。そう呼ばれる様になり、理不尽に家族を殺され、彼自身も殺されかけた。助けた世界に裏切られた彼は、全てに絶望し、消息をたった。
これが伝説の真実さ。あ?彼が今どこに居て、何をしようとしているかだって?そんな事知らないさ。噂じゃあ逆恨みをして英雄達を殺そうとしているとか、また魔王を復活させようとしているとか、いろいろ言ってるけど俺はこう考えるね。
彼は世界に復讐しようとしている。ってさ。
勿論俺は噂の彼じゃないよ。ただの語り屋さ。何でこんなに詳しく伝説の裏を知っているかは、詮索しない方向でよろしく。
そうそう、君に質問がある。今、君は伝説の裏を知ってしまった。もし噂の彼が近くに居るとして、君はどう行動する?何も知らないふりをする?彼がしようとしている事に協力する?それとも彼を殺す?どんな行動をしたって君を責めたりはしないさ。それが答えなんだ、って思うだけ。それだけださ。
ん?どうやらアイツらが帰って来たようだ。じゃあこれで語るのもおしまい。俺も暗い話はあまり好きじゃないし。今度来たらまた別なことを語ってやるよ。世界の隅には普通の人間は一度しか来れないけど。
二度と会えない語り屋より、さようなら。
二度と会えない語り屋より、さようなら