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 次の朝、私はゆっくりと体を起こしました。

 明るさはいつもと変わらない薄暗さ、でも魔法使いの彼はこの時間が「朝」だと教えてくれました。

 目を反対の部屋に向けると、彼が横になっているのが見えました。

 よかった。今日は眠れたんだ。私は胸をなでおろしました。しかし、そろそろ一回目の食事が運ばれてくる時間です。

 起きなければ、また彼は叩かれてしまう。だから私は思い切って私から挨拶をしました。

「おはよう」

 しかし、彼は起きる気配がありません。

「朝、おはよう」

 もう一度私は声をかけます。しかし、彼は起き上がりませんでした。いつものように、「おはよう」とは声をかけてくれなかったのです。

 私は冷たい格子を掴み、立ち上がりました。

 衣服がところどころ裂け、そこから傷ついている皮膚が見えました。

 ゾクり。

 私の中で一つの感情が湧き上がりました。今までに感じた中で最も大きな感情です。その感情は、私の中で抑えられず、大きな魔法は手の中で破裂しました。

 格子は解け、私は彼が横たわる部屋の格子も焼き尽くしました。

 ヒタヒタと彼に駆け寄り、そっと彼に触れました。冷たい。そう感じました。

 爆発の音により、地下には多くの「人間」がやってきました。彼らは暫く遠巻きに私達を見ていました。

 私はすっかり軽くなって傷ついた彼の体を抱き起しました。

「おはよう」

 体を揺すっても、彼は「おはよう」と返してくれません。

 このとき私は初めて気が付きました。あの、最初に出会った人間と同じように私はもうこの魔法使いに彼に会うことは出来ないのだと。

 「死」と言うものに私は初めて触れました。

 ぽろぽろと、私は自分の目から水が出ていることに気が付きました。この感情は何なのだろう。

 次に私は強く握りしめられた彼を抱くその手に水色の卵の形をした宝石が握られていることに気が付きました。

 水色の魔法、これまで私が生み出せなかったものです。それを見た「人間」の一人が言いました。

「魔女が、魔女が水色の魔法を生み出せるようになった」

 その場にいた人間は喜び、互いにその歓喜の気持ちを共有していました。

 そうか、これが「悲しい」という感情なのか。私は理解しました。そして、似たような感情をあの「人間」がいなくなったときにも感じていたことに気が付きました。

 喜ぶ人間の姿が私の目に映ります。私は「悲しい」のになぜ彼らは「喜び」を感じているんでしょうか。酷くそこになにかの食い違い、歪みを感じました。

 喜ぶ人間の中にはあの酒臭い男たちもいました。

「いやぁ、昨日は殴りすぎちまったかなって焦ったんだけどよ。男の方しか水色の魔法使えないだろ? よかった、これで大丈夫だ。そろそろこいつも十六だ。子どもを産ませるか?」

 次に私の中に生まれた感情は、怒りでした。私は男たちの顏を覚えていました。だから、その男を強く睨み付け、どうにかしてやろうと思いました。

 すると、男の体から炎が出てきます。私は驚きました。魔法は宝石にするしか使い道がないと思っていましたし、実際にその作った魔法を人間が使っているところを見たことがなかったからです。

 人間たちは恐怖におびえた顔をこちらに向け、ある者は剣を抜いていました。

 しかし、私は少し賢くなっていました。彼らは私を殺せない。知っていたのです。この世界にはもう私しか魔法使いがいないことを。

 私は抱きかかえていた彼をそと床におろし、ゆっくりと立ち上がると彼らの元へと歩いていきました。

 燃えていた彼は死にました。私ははじめて人を殺したのです。

 ゆっくり歩き、他に魔法使いの彼を虐めていた男をさがしました。その男は、みっともなく震えています。わけのわからないことをわめきながら、彼は震える手で剣を抜きました。

 ああ愉快。その時私は黄色の魔法を生み出し、彼は感電してしまったようです。

 手に持っていた水色の魔法。これに力を込めると、彼が持っていた剣のように形を変えることができました。氷の剣です。

 私はそのまましばらくそこで暴れました。

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