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 イースターエッグ企画作品

 使用した色は「水色」

 水色の魔法を求める少女のおはなし。

 私は外の世界を見たことがありません。

 温かいと言われる太陽も、透きとるような青さの空も、季節を運んでくるという風も、見たり感じたりしたことがありません。

 薄暗く、少し肌寒くじめじめとしたこの今見える部屋だけが私の世界なのです。

 歩き回ると、奥行きが五歩ほど、横が七歩ほどの部屋です。壁は全て石でできています。しかし、そんな中でも四方八方石で囲まれているわけではありません。鉄、という冷たい物質でできた格子になっている壁があります。

 しばらくして、感情を植えつけられるために見せられた本で、ここが地下牢と言うところにひどく似ていることに気が付きました。

 松明と言われる炎が暗い部屋をぼんやりと照らします。

 私は物心ついたときからここに居ました。この石に囲まれた部屋では一人でしたが、厳密に言うと私は一人ではありませんでした。

 まずは、食事を運んでくる人。彼は自分を「人間」と名乗りました。彼に言わせると、私は「人間」ではないそうです。「ヒト」という言葉は当てはまるけど、「人間」ではないそうです。難しいことはよくわかりませんでしたが、彼は私によくしてくれたと思います。

 一度、彼は私に外の世界を見せてあげると約束してくれました。しかし、それっきり彼は私の前に現れることはありませんでした。外の世界とはどのようなところなのか、私にはわからなかったので、少し残念に思いました。

 次にやってきた男は、私に「悲しいか」と聞きました。私は悲しいという言葉の意味も感情と呼ばれる湧き上がる気持ちもありませんでしたから「いいえ」と応えました。

 その男はひどく残念そうにしていましたが、それっきりその男と会話をすることはめっきり減りました。その男は今でも一日に三回私に食べるものをくれます。

 もう一人、私の生活に関わっている人がいます。それは、この格子の向こうにいる人です。

 私よりも少し大人な男の人。彼は通路を挟んで反対側の部屋に居ます。私と同じように彼もまた、狭いところに住んでいるのです。

 彼は色々な話を私にしてくれます。彼は私達のことを「魔法使い」だと言いました。その中でも私のように女の魔法使いは「魔女」と呼ばれているそうです。

 昔はたくさんいた魔法使いも、いつしか私と彼だけになってしまったようです。

 「同じだね」と彼は言いました。しかし、彼と私には年齢や性別と言ったものとは別に、もっと違うものがありました。それは、私たちをお世話してくれる人の「魔法使い」に対する態度です。

 人間と呼ばれる人たちは、多くのいじわるを彼にしていました。私は何もできませんから、ただそれを見ていたりしましたが、最近では見るのもおぞましく、ただ耳を塞いで体を丸めてそれが終わるのを待っているしかありませんでした。


 そもそも、私達「魔法使い」が何故こんなところに居るのか。ここで何をしているのか。

 私はいつも当たり前のようにやっていることがあります。それは、魔法を生み出すことです。

 後で知りましたが、「魔法使い」と「人間」の違いは魔法を生み出せるか否かなのです。それ以外は何も違わない同じ「ヒト」なのです。

 魔法を生み出すためには「感情」と呼ばれるものが必用です。人間は「心」とも読んでいました。私が感じる「怒り」「喜び」「悲しみ」といった感情が全て魔法の源となります。

 私たちはそれを体から出し、卵型の宝石にすることで魔法を生み出しています。これを「人間」が割ることで、「人間」にも魔法が使えるようになります。

 怒りの赤は「炎」や「熱」を生み出し、悲しみの水色は「水」や「冷気」を生み出します。様々な感情を知り、そのたびに生み出せる魔法が増えていきました。

 しかし、私はいつまでたっても「水色」の魔法を生み出すことができませんでした。

 私を世話してくれる人間は言います。

「今世界はゆっくりと崩壊に向かっている。太陽は陰り、水は地から失われている」

 だから彼らは水色の魔法を必要としているのです。水がなければ人々は生きていけません。

 私は悲しいという感情をいつまでも芽生えさせることができませんでした。

 そのかわり、私の前に住んでいる男の人は綺麗な水色の宝石を多く生み出すことができます。

 私は彼に、「悲しいの?」と問うたことがありました。たくさん虐められて、悲しいのかもしれない。

すると、彼は笑いながら首を振りました。

「僕が悲しいのはね、たくさん叩かれるからじゃないよ」

 彼は叩かれて赤くなった頬を撫でながら言いました。その撫でる手も、たくさん踏まれて青く痣になっています。

「僕が女だったら君がここに連れてこられることもなかったのかもしれない。こんな狭い所で、外の世界も知らず暮らす君がかわいそうだ」

 彼は声を一段と低くしてそう話しました。何故彼が「女」という性別にこだわるのかわかりませんでしたから、私はその日、三度目のご飯を運んできてくれた人間に聞きました。すると、人間は言いました。

「魔法使いを生めるのは女だけだ。魔法使いと人間の女が結婚しても、生まれる子供は人間だ」

 私は「結婚」や「生まれる」という言葉や仕組みが分かりませんでしたから、そのまま黙っていました。すると、その男は私にもわかりやすく説明してくれました。

「お前が魔法を作るように、『人』を作ることができる。魔法では作れないが、女はそれを生み出すことができる。その為にお前は生かされている」

 よっほどわかりやすくなりました。

 魔法使いが魔法を生み出すように、「女」は「ヒト」を生み出すことができるのです。

 これによってわかったことがありました。彼ら「人間」によって必要なのは、「魔法使い」を生み出すことができる「魔女」なのです。だから彼らは私によくしてくれるのです。

 ですが、「男」の彼はどうなるんでしょう。

 毎日毎日彼は多くの魔法を生み出します。多くの種類の魔法を生み出すようになって最近分かったことですが、魔法を生み出すには多くのエネルギーを消費します。多くの魔法を生み出した後には、たくさんの睡眠が必用です。諸説あるようですが、先日もらった本に書いてあったのは、魔法は「感情」とその人の「命」でできているようだということです。

 私はまだ水色の魔法を生み出すことができません。

 最近では、恐怖の感情からくる「黒い魔法」を作ることが多くなりました。

 その原因は、やはり人間が私の向かいに住む彼に向ける悪意です。この黒い魔法は、一部の間で高価な取引がされているようでした。「戦争」というものに役立つとか。

 人間は面白っがって私に多くの黒い魔法を生み出させようとしてきました。

 私の向かいに住む男の魔法使いは言います。

「黒い魔法を生み出してはいけないよ。世界が滅びてしまうから」

 優しい彼は、自分ではなく、世界の心配をしていました。その頃、私の心には少しずつ新しい感情が生まれだしていたのです。


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