かけうどんと彼
毎度次回予告が嘘ついてごめんなさい。
今回はバトルまで辿り着けませんでした。
でも、頑張って書きましたので、どうぞお楽しみ下さい。
ドゥームは天使と呼ばれることもある。見た目が天使そのものだからだ。
顔は美しいがどんな時でも無表情。
今の千秋の右半分の顔はそれに覆われている。
掌からはビームを撃ち、人を、家を、街を焼いた。
今の千秋の左手の掌はそれと同じ武器がある。
天使のような翼は、羽ばたかずに飛ぶことができる。
今の千秋の背中には全く同じ翼がある。
装備が終わり二組の生徒達は少し蒼眼についてレクチャーした後、教室に戻された。一人を除いて。
今、研究棟のB棟八階には千秋と天津風先生通称、天ちゃん先生と桂木先生しかいない。
(朝の占いはハズレだな。思い出の物を持っていてもこの状況だし。)
千秋は椅子に座っている。というより、縛り付けられてる。「ゆっくり調べたいからね。」と天ちゃん先生にやられた。
千秋の腕や胸や顔、そして蒼眼の様々な所に電極が貼られ、様々な機械でデータを取られている。
「実に面白い。」
千秋の正面に座り、パソコンのディスプレイを見ながら、天ちゃん先生が顔に手を添えニヤつく。さっきは額に掛けられていた下ふちのメガネを普通に掛けている。
「君の蒼眼は本当に面白いよ。鎧はかなり少ない防御面積だ。強度も蒼眼にしては脆い。だが、その他がとてもいい。あのサバイバルナイフはドゥーム金属で作られた物だったから、とても蒼眼に馴染んでいる。何より面白いのは、」
立ち上がり千秋の後ろに回り込む。天ちゃん先生の指が翼に触れる。両方の翼の端から付け根まで指を滑らせる。その感覚が敏感に千秋に伝わる。
「この翼は実に面白いし、興味深い。ここだけ蒼眼にしては異常に硬いんだ。あのメガネ君の大っきいカノン砲でも傷がつけれるかどうか。」
真面目な口調の低い声で、耳元で言われる。天ちゃん先生の指が今度は付け根から端に滑る。なんとも言えない感覚が体に走る。
「それに、この感度。蒼眼は普通、感度なんてないんだよね。」
今度は翼の端を弄られる。
「ここが一番いいみたいだね。」
クスクス笑ながら天ちゃん先生は指を動かす。千秋から変な汗が流れる。
「いつまで遊んでいるんだ。結局それはなんなんだ。」
「蒼眼だね。」
スッと天ちゃん先生の指が離れる。桂木先生のおかげで助かった。あのまま続けられてたら危なかったな。何がって、・・・あれが。
「ただの蒼眼じゃ無いんだろ。」
メガネが怪しく光る。
「そうだね。普通じゃない。私にも、なぜこんな物が出来たのか分からない。あくまで私の仮説だが、一番ヶ瀬君は元から体内にドゥーム金属があったんじゃないかな。」
その言葉にまた汗が流れる。
「ここからは、体内にドゥーム金属が入っている状態だと仮定しての話になる。まるで天使のような翼が出来たのは、その金属が在るべき姿に還ろうとしたせいだろう。全身天使と同じようになるはずだったんだが、ならなかった。非科学的だけど、何か特別な想いがそれを防いだのかな。」
特別な想い、か。ここに居たいって想いだな。俺にはそれしか無いから。
「体内にドゥーム金属が入っている、そんな事が可能なのか。」
壁に寄りかかりタバコを吸っていた桂木先生が天ちゃん先生の話に食いつく。そっちの話の流れは乗らないでくれよ。
「可能か不可能かで聞かれると、人間には不可能だ。ドゥーム金属は肉体に入れると、その肉体の中で有毒な物質に変化してしまう。人間には外につけるのが限界だね。」
「それじゃあ、お前の仮定が成り立たないだろ。」
「ああ、不可能だ。しかし、あくまで人間には不可能ってだけだよ。」
「どういう意味だ。」
「ドゥーム自身が相手の中に自分の体を流し込む事があるんだ。それは、相手を自分に取り込むためだ。流し込んで中からドゥームに変えてしまう。兵器、生物、建物、なんでもにだね。そうやって流し込まれたドゥーム金属は無害だ。」
「流し込まれた相手はどうなる。」
「完全に流し込まれれば、全身がドゥーム金属になり、ドゥームそのものになる。」
「なら、一番ヶ瀬はなぜ。」
「私にばかり聞くな。私だって分からないさ。このことも最近、分かったことだし。」
天ちゃん先生が手を振り回しながら怒る。
「すまない。なら、本人に聞くか。」
やっぱり、そういう流れになるよね。
「分かりません。」
「いや、まだ何も聞いていないが。」
「俺には何も分からないし、知らないです。」
研究室が静まりかえる。
「そうか。天津風、他に分かることは。」
桂木先生が諦めた?こんなに簡単に?
天ちゃん先生はパソコンの前に戻り、キーボードで何か打ち込む。すると、スクリーンに銀色に輝く天使が現れた。
「一番ヶ瀬君はこれが何だか分かるかね?」
その天使は掌から光を出している。
「Typhoon級A型種。」
「その通り。Typhoon級のA型種は一番最初に発見され、進行してきたドゥームだね。では、こっちは分かるかね。」
スクリーンの画像が切り替わり、A型種によく似たドゥームが現れた。
「これは、・・・C型種ですか。」
天ちゃん先生は何がしたいんだ。こんな事して。
「よく分かったね。その通り、これはTyphoon級のC型種だね。こいつは、A型種によく似てはいるが違う。大きさは同じだが、全てのステータスにおいてA型種を圧倒している。特に、翼と手だ。翼はA型種より大きく、手には鋭い爪がある。」
まるで、俺の蒼眼だ。いや、俺のがC型種に似てるのか。
「つまり、どういう事なんだ。」
「彼の体内のドゥーム金属はC型種の物だろうね。仮にあるならだけど。」
「体内のドゥーム金属の話はもういい。結局、その蒼眼はなんなんだ。」
「これは、蒼眼だ。ただ、普通よりドゥームに近い蒼眼なんだよ。細かく言うとTyphoon級のC型種に近い。ドゥーム金属で作られてるのにこう言うのも変だが。」
「よりドゥームに近い蒼眼・・・。」
桂木先生が何かを考えるように黙り込む。
「まあ、今すぐに起こる問題があるわけじゃないから大丈夫だよ。」
千秋はこの時、天ちゃん先生が、「今すぐに」と、言ったのを聞き落とさなかった。つまりは、いつかは起こる問題があるのだろう。だいたいの予想はつくけど。
こうして、千秋の検査?は終わった。
「戦闘科は午後の授業で蒼眼の慣らし運転するから、第三アリーナに来るように。」
桂木先生はそう言って千秋を解放した。
とりあえず、空腹を感じた千秋は食堂へ向かう。
すれ違う人から目線を感じる。
そりゃそうか。蒼眼がドゥームみたいだったんだからな。噂でもされたんだろう。
数人の女子がこそこそと話す声が聞こえる。
(あの人の蒼眼、ドゥームだったらしいよ。)
(蒼眼がドゥーム?それってあり得るの?蒼眼って人の心の形が表れるんじゃ。)
(あの人自身がドゥームだったりして。)
(えっ、怖。)
(しっ。聞こえたら何されるか分からないよ。実家がヤクザの本家みたいだし。)
残念ながら全部聞こえるよ。耳はいいんでね。それにしても、酷い噂だな。涙があればきっと泣いてるよ。
少し頭にきたが無視して食堂へ向かう。千秋は今、怒り<空腹だからだ。
食堂は賑わっていた。ちょうど昼休みのせいか。これだけ人が多ければ居ることがばれずに済みそうだ。
食券の販売機には行列ができていた。千秋も食券を買うため列に並ぶ。
張り出されたメニューを見ながら悩む。
(日替わり定食か。面白そうだしそれにしてみようかな。いや、でも日替わりって事は当たりの日とハズレの日があるはずだ。ここは安定している物を選ぶべき。よし、天ぷらうどんにしよう。)
天ぷらうどんの食券を買い、カウンターでそれを出す。そして、出来たての天ぷらうどんを受け取る。
それは想像していたより豪華だった。大きなエビ天が二つと野菜のかき揚げが一つ。食欲を誘う湯気。そして、つゆの鰹節の香り。うまそうだ。
早く食べたくなり、空いてる座席を探す。
だが、・・・空いてない。
どうしようかとうろうろしていると。
「千秋ちゃーん、こっちこっち〜。」
この喋り方と呼び方は。
呼ばれた方を確認する。
「ここ座れるからおいでよ〜。」
やはり、皐月だ。窓際の丸い四人掛けテーブルから手を振っている。左右には茜さんと真加奈が座っている。
他に席も空いてないし、お邪魔するか。
その席まで歩いて行き、皐月の正面の席に座る。
「お邪魔させてもらうよ。いただきます。」
予想通りうどんはうまかった。この麺は手打ちだな。ちなみに、天ぷらは最後に食べるのが俺流だ。
「おっ、天ぷらうどんか。意外と豪華だな。いいな。」
真加奈が物欲しそうに天ぷらを見つめている。
「そういう真加奈も中々豪華な物を食べているじゃないか。」
「いいだろ。山盛りトンカツ定食だ。」
真加奈の前には、山のように盛られた白米と山のように盛られたトンカツと山のように盛られたキャベツと山のように盛られた春野菜の煮物がある。普通サイズの味噌汁も付いているが、なぜだろう。すごく小さく見える。
真加奈は、山のようなその定食を半分ほど食べ終えている。
「・・・そんなに食ってたから背が高かったのか。」
「そういうことだ。」
「胸の栄養が背に行ってしまっていると思ってましたか?」
茜さんがニヤつきながら呟く。
「確かにそうぐはっ。」
殴られた。溝うちを。グーで。思いっきり。
分かってる。今のは俺が悪かった。
「む、胸は関係ないだろ。」
「ごめんなさい。怒らせるつもりはなかったんですよ。胸なんか全く無くたって真加奈は真加奈ですから。」
「ああ、悪かった。けど、まだ微かな希望があるだろ。成長期なんだし。」
素直に謝る。確か、そうすれば大丈夫って占いで言ってた。
「なんで哀れむような目線なんだよ。それに、茜はさりげなく無いって言ってるし。」
「まあまあ、私のイカの刺身あげますから機嫌直して下さい。」
茜さんは刺身定食を食べていた。マグロ、ハマチ、甘エビ、アジ、イカの盛り合わせと、普通サイズの味噌汁と春野菜の煮物の定食だ。茜さんは自分の皿から真加奈の皿にイカの刺身を移している。
「ただ単に茜が苦手なだけだろ。」
「・・・イカには胸の成長を促進する作用があるとか、ないとか。」
「しゃーないな。食ってやるよ。」
茜さんがニヤつく。騙されてるよ。イカにはそんな作用無いから。素直に信じちゃう真加奈も真加奈だけど。
「茜さんはイカ、嫌いなのか?」
「はい。あの感触がどうも苦手で。それにあの匂いは好きになれません。」
そう言って、茜さんは食事に戻った。
「千秋ちゃん、あの後大丈夫だった?」
皐月が聞いてくる。皐月は、揚げたての天ぷらの盛り合わせ、三種類の煮物、カニの足が入った味噌汁、鶏ゴボウの炊き込みご飯、の定食を食べている。見た所、一番うまそうだな。なんの定食だろ?
「特に何も無かったよ。ちょっと蒼眼調べてお終いだった。それよりなに食べてるんだ?」
「?炊き込みご飯だけど〜。」
「そうじゃ無くて、なんの定食だ?天ぷらと炊き込みご飯の定食なんてなかった気がするんが。」
「ああ〜、これね。日替わり定食だよ。」
千秋の中に衝撃が走る。あの時変に考えないで選んでいれば。
「おい、一番ヶ瀬。早く食べないと麺が伸びるぞ。」
はっと我に返る。たとえ皐月の定食がいくらうまそうでも、俺が食べてるうどんもうまいんだからね。
ツンデレ風な発言をしながらうどんを食べる。エビ天が一つに野菜のかき揚げが一つ。
あれ?エビ天が足りない?俺は食べてないぞ。最後に食べるのが俺流だからな。
視界の隅に何かを咥えている真加奈が入る。
「真加奈、それはなんだ。」
「エビ天。」
「いや、それは分かっている。俺のか?」
「溺れてたから救出してあげてたら、こうなった。ごめん。」
おそらく、さっきの胸の話の恨みをエビ天で晴らしたのだろう。
「まあ、いい。」
なぜなら、俺にはもう一匹のエビが・・・いないだと!?
「キリストは言ったわ。『右のエビ天をとられたら、左のエビ天も差し出しなさい』と。」
もう一匹は茜さんが咥えていた。これじゃあ、かけうどんに、・・・かけうどん?
千秋の最後の砦、野菜のかき揚げがいなくなっている。
またかと思い真加奈を見る。しかし、自分のトンカツを頬張っている。茜さんはエビ天を味わっている。まさか。
「やっぱり、うどんのつゆ吸ったかき揚げは美味しいね〜。」
もうやだ。
千秋は天ぷらうどんだったかけうどんをすするのだった。
次回こそバトルします。




