天使になった彼
遅くなりましたm(_ _)m
やっと蒼眼を装備する話です。
千秋は建物の外まで連れてこられた。外の桜並木には誰もいない。授業時間中だから当たり前か。
桂木先生はポケットからタバコを取り出し火を付ける。
「本当は体育館裏に連れて行きたいんだが、ここでいいだろ。」
体育館裏ってまさか、教室で答えられなかった時のあれか?あれなのか?
「それにしても、お前、面白いほど表情が変わらないな。」
「・・・すみません。」
「いや、謝らなくていい。私の生徒の過去くらい知っているさ。」
三年前の事は眼の事以外学校に伝えてある。あれは機密事項だからな。俺的にも、あの部隊的にも。
タバコを吹かしながら桂木先生は続けた。
「だが、分からないことがある。三年前の襲撃からだ。一人暮らしをしていたとなっているが、違うだろ。入試の時の試験官との実技訓練を私は見ていた。あの技は他の生徒のような武術ではないな。軍の戦闘術、いや、それ以上の物に見えたが。お前は何者だ?」
桂木先生の話し方は、まるで、銃を突きつけられているように感じる。
「どういう意味ですか。」
「質問の仕方が悪かった。少し昔話しをしよう。約三年前、とある所に軍事企業の社長の娘が居ました。ある日の夕方、娘は企業の情報を欲しがる悪党にさらわれました。娘の両親は警察でけではなく軍にも捜索してくれと頼みます。軍はその企業にお世話になってたため捜索活動に参加します。しかし、警察も軍も足取りすら分かりませんでした。両親が途方にくれていると、その日の夜に娘は家に無傷で帰ってきました。警察と軍は娘になぜ助かったのか聞きました。そうすると、娘は同い年くらいの青みがかった銀色のナイフを持ち、右眼が銀色の少年に助けられたと言う。少年の正体は誰にも分からない。ただ、その事件以来、少年は数回事件に介入し、全て解決している。噂ではその少年は軍の機密部隊の者らしい。」
「それが何か?」
「お前だろ。」
真面目な眼差しで俺を見てくる。
辺りに風が吹き、桜が舞う。
「仮に俺がそいつだとしたらどうするんですか。」
「さあな、私にも分からん。仕事を横取りされたし、殴るかもしれないな。」
笑いながら言ってるけど、こいつならやりかねんな。それと、この言い方から桂木先生は元軍人か?
「先生は軍人だったんですか?」
「今もな。軍人としてこの学校に雇われている。」
軍人も教師として雇うんだ、この学校。怖いな。
「その少年は俺じゃありませんよ。そもそも、俺の眼は黒ですよ。」
桂木先生が黙り込む。しばらくして、タバコを携帯灰皿に捨てた。
「そうか。そう言うならいい。もう戻っていいぞ。私はタバコ買って来る。」
そう言うと桂木先生は桜並木を歩いて行った。
すみませんね。それは軍の機密事項なんで。今は俺はその少年ではないんですよ。今は、ね。
B棟八階に戻ると驚くべき光景が広がっていた。
「千秋ちゃん、おかえり〜。」
皐月が駆け寄ってくる。たけど、皐月が皐月じゃなかった。
皐月は全身青みがかった銀色の鎧を装備していた。
上半身は彼女の胸の大きさ見せつけるような鎧になっていて、目線に困る。両肩には小さな円形の盾が付いている。下半身はスカート状のスラスター、その下にニーソックスのようなグリーブを履いている。そして、両手には肩から続くガントレットを付けている。
見た目はまるで西洋の女騎士だが、装備は剣ではなくライフルだ。見たことの無い型だな。ダネルNTW-20という対物ライフルに似ているが細部が違う。おそらくビーム兵器だ。武装はそれだけのようだ。
スカート状のスラスター、グリーブのスラスター、そして背中にもスラスターがあり、高機動型なのだと思わせる。
「私の蒼眼かっこいいでしょ〜。」
満面の笑みを浮かべている。
「ああ、すごいな。」
目線に注意しながら答える。皐月の胸って意外と大きかったんだな。
皐月の蒼眼も中々の出来で目を引いている。しかし、その上を行く者が一人いた。
(あれは確か、江嶋なんとかだな。あれはあれですごいな。)
彼の蒼眼は例えようの無い形をしていた。今は開けているがフルフェイスの兜に、全身分厚い装甲の鎧で覆われている。装備は七連装ビームガトリングと大口径のビーム砲の連装砲を両腕に付けている。どちらの砲身も一メートル程だ。更に、背中には真っ二つに折りたたまれたカノン砲が二個ある。使う時は両肩に展開されるのだろう。しかし、これと言って目立つスラスターは付いていない。おそらく空中戦は無理だろう。脚部にスラスターが多いからホバー移動するのかな。それにしても、メガネキャラに似合わぬ重装備だ。
彼の周りには男子生徒が集まっている。そりゃそうか。あんな厳つい装備してれば話しかけたくもなるよな。そういえば、考えてみると俺はまだ男子と話したことないな。
あれ?集まっている男子が散っていくぞ。どうしたんだろ。
「実力無い奴らが俺の周りにまとわりつくな。鬱陶しい。まるで、ハエだな。ハエはハエらしくその辺のクソでも食ってろ。」
うわー。浮くどころの話じゃないよ。真面目なメガネ、略してマジメガネだと思ってたのに、イメージぶち壊しだな。やっぱり人は見かけじゃないな。
「あいつ、感じ悪いな。実力の無い奴らってお前も同じクラスだろうがってんだよ。」
皐月と一緒にこっちにやって来ていた真加奈が文句を言ってきた。
「噂だと彼も試験官を倒したらしいですよ。だから、実力は二組を超え一組のはずなんですけどね。」
真加奈と同じく一緒に来ていた茜さんが言った。
「千秋ちゃん以外にも試験官さんを倒してた人いるんだね〜。」
皐月が少し残念そうに言った。
「一番ヶ瀬君、君で最後だ。さあ、奥の部屋で着替えてきたまえ。」
天ちゃん先生に呼ばれる。
「千秋ちゃんがんばってね〜。」
「いい蒼眼が装備出来るといいですね。」
「期待してるぜ。面白いの作れよ。」
多分、俺は騎士風の蒼眼になる。蒼眼は、西洋の騎士の鎧になることが多いからだ。武装は様々だがな。剣だったり、皐月みたいにライフルだったり、マジメガネみたいに重武装だったり。
天ちゃん先生の指示通りに奥の小部屋に入る。しかし、そこに置かれている服に問題があった。
(皆全身に装備する蒼眼だったから気づかなかったけど、これは何かのコスプレみたいだな。)
下は膝下くらいの長さのスポーツインナーみたいな物、上は半袖ヘソ上十センチくらいのスポーツインナーみたいな物で、上下とも色は黒だ。上の服の正面の襟にはV字の銀色の機械が付けられている。どっちもすごい吸着感でピッチピチだ。下のあれまでピッチピチにならないようにはされてるけど。見たり伸ばしたりしてると天ちゃん先生の声がスピーカーから流れた。
「見た目に騙されるなよ。このコスプ、じゃなかった、この専用スーツはな、色々と特別な機能が付いているんだぞ。」
今、コスプレって言いかけたよな。天ちゃん先生もそう思ってるんじゃん。
「防弾使用だったり、体温自動調節だったり。更にすごいのが、その首にある機械だ。簡単に言うとスマホだ。画面は空中投影で、電話、位置情報、動画の送受信などなんでも出来るぞ。」
説明を聞き流しながら着替える。着てみると着心地はとても良かった。ただ、腹が出てるのはな。俺お腹冷やしやすいんだよな。
「それにしても、一番ヶ瀬君は結構いい体付きしてるんだね。」
そりゃまあ、結構鍛えてるからね。・・・見られてる?
「上のカメラからバッチリ見えてるよ。いや〜、あれも男子の中で一番大きいよ。一番ヶ瀬なだけに。ピッチピチになるようなスーツじゃなくてよかったね。」
天井に付けられているカメラが動いている。
なにが一番ヶ瀬なだけにだよ。
天ちゃん先生を無視し部屋から出ると、皆の視線が下腹部に集中する。女子は顔を赤くしながらチラ見し、男子からは嫉妬にも似た目線を感じる。チャック全開だったかな。いや、これチャックなんて付いて無いし、なんでだ。
「あっ、ごめん。さっきの会話は皆にも聞こえてたから、君のあれが一番ヶ瀬って事はバレてるよ。てへ。」
天ちゃん先生が舌を出しながら謝ってきた。
「あー、あれって○んちんの事だったんだ。」
多分、あれの意味が分からなくて皐月が茜さんに聞いたのだろう。茜さんは顔を真っ赤にしながら皐月に耳打ちしていた。
もうやめて、とっくに千秋の社会的地位はゼロよ。
千秋はガラス張りの部屋に入った。
「まあ、掛けたまえ。」
天ちゃん先生に言われた通り椅子に座る。まるで、歯医者の椅子のようだな。
「ナイフはそのまま右手に持ったまま力抜いてね。」
今、千秋の右手にはあのサバイバルナイフが握られている。
「そこに座っても顔色一つ変えないなんて、珍しいね。あ、さっきのメガネ君もそうだったかな。」
話しながら天ちゃん先生は手元の端末をいじっている。
「よし、始めようか。誰かこのスイッチ押したい人は居るかな?」
あの、そんなことして平気なんっすよね。そんなことやりたがる奴なんて・・・。
「私押したいです。」
居たよ。皐月だ。あの子何考えてんの?
機械の前に出て来てこっちを見つめてくる。まさか、本当にお前が押すのか?
「大丈夫。このボタンは誰が押しても変わらないから。」
いや、気持ち的な物がだいぶ変わりますよ。
ぽちっ。
・・・え?押した?今、押した?せめて、押す前に何か言おうよ。
皐月は笑顔で親指立た腕をこっちに向けてる。全然笑えね。感情が無いからとかの問題以前に笑えねえよ、それは。
すると、横に置かれていたドゥーム金属が液体化し千秋を包み込んだ。視界が銀一色になる。自然に目が閉じた。
目をゆっくりと開ける。どのくらい目を閉じていたのだろう。一瞬だったのにとても長く閉じていた気がする。
(そうだ、俺の蒼眼は。)
立ち上がり自分の体を見る。見た目は騎士風だが、全体的に装甲が薄い。てゆうか、無いぞ。上半身は腹筋丸見えな胸当て、肩は三枚の鱗が重なったような肩当て、下半身はグリーブだけ。
唯一目を引く所は両腕だろうか。
右腕は肘からガントレットがあり。手と一体化したサバイバルナイフだった物が握られている。今は、片刃の剣になっている。
左手も肘からガントレットに覆われているが手が違う。掌には謎の半球が、指先には鋭いクローがある。掌の半球はビーム兵器だ。
だんだんと自分の装備を理解していく。
「蒼眼の装備者は、その蒼眼を自然に知る。蒼眼が脳に干渉し直接、その蒼眼の扱い方を流し込むからだ。」
天ちゃん先生が話してる。ガラス張りの向こうを見るとクラスの皆、俺を見つめている。
ある者は、驚いたように見開いたような固まった目で。ある者は、恐怖を思い出したような虚ろ目で。ある者は、悪魔を見るような震える目で。
「君の蒼眼は実に面白い。そう思うだろう、桜ちゃん。」
いつの間にか戻って来ていた桂木先生が、壁に寄っ掛かりタバコを吸いながら千秋を見つめている。
「ふっ、少年は天使になったか。」
天使になった?なんのことだ。
天ちゃん先生が手元のスイッチを押す。すると、天井から大きな鏡が降りてくる。そこに映る姿は衝撃的な物だった。
「天使だ。」
思わず呟く。
千秋の背中から天使の翼が生えていた。更に、顔右半分には天使の美しい顔が付いている。
翼は指先のように細かく動かせ、肌のように感覚もある。もう、千秋の体の一部になっている。
鏡に映る女神の顔は無表情だが、笑っているように見えた。
その日、少年は天使になった。
次回、戦います。




