研究棟の彼
本当に申し訳ないです。
蒼眼装備する話は次回になります。
ごめんなさいm(_ _)m
千秋は呟いた後、誰かに覗かれている事に気づいた。
(いつから見らていた?決意した瞬間にバレるなんて、冗談では無い!)
口調が変わるほどに焦っている。
落ち着け俺。この部屋に入れる人間は俺と皐月と管理人と教師くらいだ。管理人と教師はくる理由がないから、恐らく皐月だろう。気配は三人分。茜さんと真加奈さんも一緒だな。
「いつから見てた。」
まだ気付かれてないと思っていたらしく、ドアの向こうでドタバタ音がする。誰か転んだな。
ドアが開いた。
「ち、千秋ちゃん、今、迎えに来たよ。」
今を強調しながら皐月が言う。
「こんにちは、一番ヶ瀬さん。ご一緒に研究棟に行きませんか。」
ポーカーフェイスで茜さんが言う。
「べ、別にお前が刃物振り回してるところなんて見てないからな。本当だぞ。」
なんだこの絵に描いたような馬鹿は。おまけに額が赤くなってる。転んだのこいつだな。
「ま、真加奈ちゃん、そんなこと言ったら見てたのバレちゃうよ〜。」
「あなたもバラしてますよ。もういいでしょう。」
どうやら、眼は見られていないようだ。リビングに入ってナイフを抜いた辺りから見ていたのかな。
四人とも黙り込む。実際は数秒の沈黙だが、千秋には数時間の沈黙のように思えた。
「皐月、さっきは悪かった。すまん。」
意を決して、頭を下げながら謝る。
「え?なんで?」
「なんでって、気分を悪くさせちゃったんじゃないか?」
「そんな事ないよ。むしろ、私が謝るよ。今まで迷惑じゃなかった?千秋ちゃんの力になりたかったんだけどさ。」
「迷惑だなんて思った事もないぞ。」
「本当に?」
「ああ。」
皐月の顔に笑みが広がる。
「それじゃあ、これからも一緒に居てもいい?」
「もちろんだ。頼みたいくらいだよ。」
すると、皐月が千秋の体に抱きついてきた。千秋は突然の事でそれに反応できなかった。
「それじゃあそれじゃあ、これからもよろしくだね。千秋ちゃん。」
「こっちこそだ。もう皐月に心配させるような事はしないし、させない。」
ここに、皐月と居たい。だから、もう皐月が困る事や悩む事はさせない。なぜ、そうしたいと思うかは分からない。でも、俺はそうしたいと思っている。これからは、俺が皐月を守る。
皐月は、俺に抱きついたままとても嬉しそうに笑っている。皐月の後ろで見守ってた二人も安心したように笑顔になっている。
そんな中で笑うことの出来ないのは悲しい事なのだろうか。千秋には分からなかった。
四人は桜並木を走っていた。
なぜかと言うと、集合時間に間に合わせるためである。
「ああもう、一番ヶ瀬が長々とナイフ振り回してるからだぞ。」
千秋の右側を走る真加奈が文句を言ってくる。
「ナイフ振り回すって言い方はやめてくれ。ただの危ない人みたいに聞こえる。」
「そうだよ〜。千秋ちゃんかっこよかったじゃん。」
左側を走る皐月が言う。
「そういう事じゃなくてな。部屋の中じゃ危ないだろ。なあ、茜もなんか言ってやれよ。」
あれ?茜さん見てないけど、どうしたっけ?
振り返ってみると、涼しげな顔で自転車に乗ってた。しかも、あの自転車見たことあるぞ。
「あー、私の自転車ー。」
だよな。だって、俺を轢いた自転車だもん。
「茜、ずるいぞ。走れよ。」
真加奈が言う。少し息が乱れてきている。
「私が走るの苦手なの知ってますよね。」
「走るの苦手なのか?茜さんなんでも出来そうに見えるけどな。」
「一番ヶ瀬、勘違いするな。こう見えて、茜は勉強以外なんも出来ないからな。」
意外だ。なんでも出来るお嬢様だと思ってた。
「アカネェーはお金持ちだから色々メイドさんにやってもらってたからね〜。」
お嬢様は合ってたんだ。それにしても、今時メイドなんているんだ。
「中学時代は楽でした。家事は全てメイドさんにやってもらってましたし、疲れるような事のない生活でした。」
憂鬱そうな顔で呟く。
「そのせいで運動音痴になったんだろ。」
真加奈さんが言うと、その言葉に茜さんは素早く言い返す。
「音痴じゃありません。苦手なだけです。やれば出来ます。・・・多分。」
「それじゃあ、自分の足で走ろうぜ。やれば出来るんだろ。」
「・・・お先に〜。」
「あっ、待てよ茜。せめて乗せてってくれよ。」
本当に茜さんは走り去った。自転車で。
研究棟に着いた時、真加奈さんは息も絶え絶えだった。
「もう、真加奈さん。だらしないですよ。」
自転車を駐輪場に止めてきた茜さんが笑顔で言う。
「それにしても、皐月さんは相変わらずとして、一番ヶ瀬さんもすごいですね。息が全く切れていませんし。」
皐月は少し息を切らしながらあははと笑っている。
「まあ、男子だしな。後、俺の事は下の名前で呼んでいいぞ。苗字は長いだろう。」
今まで相当な訓練してきたからな。この程度じゃバテないさ。
「そうですか。それじゃあ、これからは私のことも下の名前で呼んでください、千秋さん。」
下の名前のさん付けは新鮮だな。
「私も下の名前を呼び捨てでいいぜ。千秋。」
息がまだ切れてる真加奈さんも下の名前で呼ぶことになった。実は俺は前から二人の事は下の名前で呼んでんだけどね。
「それにしても、この建物でかいな。」
千秋たちの目の前にある建物は上から見ると十字の形をしている。一つ一つが馬鹿デカかい。
「この建物は全九階建てで、一階はロビー、二階からはA棟B棟C棟D棟になっていて、それぞれ違う研究施設になっているみたいですね。」
「じゃあ、B棟ってどれ〜?」
「確か北の所です。」
研究棟に入り、エレベーターでB棟の八階へ上がるとその階は丸々実験室になっていた。
一つだけ椅子の置かれたガラス張りの部屋が真ん中にあり、その部屋を中心にごちゃごちゃと機械やらケーブルやらが繋がれている。
「なんとか間に合ったな。」
「桂木先生居ないねー。」
クラスメイトは全員居るみたいだが桂木先生は見当たらない。周りを見渡しているとある物に目が留まる。
(あれは、ドゥーム金属か?)
ガラス張りの部屋の椅子の隣に置かれた高さ二メートル、直径一メートルくらいの透明な円柱状の容器に銀色のそれは入っていた。それはまるで液体ようだ。
「その通り。」
突然後ろから声を掛けられる。
「あれは人が装備できるように加工されたドゥーム金属さ。要するに蒼眼の原型だね。」
振り返ると白衣姿の笑みを浮かべた女が立っていた。長い髪は適当に後ろで束ね、メガネを額に掛けている。顔は若く見えるが目の下のクマがすごい。誰だ?
「全員居るな。」
桂木先生も隣に立っていた。いつのまに来ていたんだろう。
「私は天津風響。生徒達からは天ちゃん先生って呼ばれてるからそう呼んでくれていいよ。君たちの担任の桜ちゃんとは高校からの付き合いなのだ。担当教科は研究科だけだから研究科以外の生徒とはあまり会わなくなるね。ひとまず今日はよろしく。」
「学校では桂木先生と呼べ。」
桂木先生がため息をつきながら言う。
「そんなことより早く始めろ。」
「もう、桜ちゃんは人使い荒いな。そんなんだから結婚できないんだぞ。」
その天ちゃん先生の一言にその場が凍った。桂木先生が笑っているけど笑ってない。やばい笑い方だ。瞳孔が開ききっている。
「響、てめぇ表出ろや。」
「それじゃあ、装備初めようか。」
桂木先生の怒りを無視し、天ちゃん先生は笑顔のまま作業を始めた。
「準備終わるまでに少し説明するね。まず、奥の部屋で専用の服に着替えてもらうね。それから、あの部屋の椅子に座ってもらうね。やることはこれでおしまい。後は全自動だから。あっ、武器持ってきた人居たら手挙げて。」
俺は右手を上げる。左手でベルトに挟んできたナイフを取り出す。
クラスメイトの視線が俺に集まる。なぜなら、予想通り武器を持っていたのは俺だけだからだ。やっぱり、普通は持ってないよな。普通は。また、クラスから浮いたな。
「あれ、居るんだ。ちょっと武器見せて。」
俺はナイフを鞘に収めたまま渡す。天ちゃん先生は少しだけ鞘から抜いて覗く。すると、天ちゃん先生は真面目な顔になった。
「君、これはどこから?」
「死んだ父から。」
「君、名前は?」
「一番ヶ瀬千秋です。」
「なるほど。・・・まあ、いいでしょう。」
天ちゃん先生はナイフを鞘に収め俺に返した。どうしたんだろう。
「二番ヶ瀬、ちょっと話がある。」
惜しい、一本だけ線が多いだけだから惜しい。
「先生、二番ヶ瀬じゃなくて一番ヶ瀬です。」
「そんな事はいいから、早く来い。」
桂木先生は首を後ろから俺を掴み引きずっていく。
まさか、天ちゃん先生の八つ当たりに俺を。それとも、教室で答えられなかった時のあれか?あれなのか?
桂木先生は千秋を建物の外に連れ出した。
次回こそ蒼眼装備します




