桜並木の彼女達
鳴り響くサイレン。
夜空を照らすサーチライト。
燃え上がり火を吹く家々。
吐きそうになる何かが焼けた匂い。
少年は戦う。逃げるために。生きるために。
少年は一体の銀色の天使に飛びかかり胸を刺した。
父に教えてもらった技を使い。
父にもらった蒼みがかった銀のサバイバルナイフを使い。
天使の胸に突き刺さるナイフを深く刺しこむ。
しかし、天使は死ななかった。
天使の指が少年の右眼を刺した。
血が流れる。
劇痛が走る。
何かが流し込まれるような気持ち悪い感覚に襲われる。
頭の中に声が低い声が響く。
「これは祝福だ。」
それが天使の最後の言葉になった。
天使は輝きを失った。
鳴り響くサイレン。
夜空を照らすサーチライト。
燃え上がり火を吹く家々。
吐きそうになる何かが焼けた匂い。
少年は天使の指を引き抜いた。
少年の右眼から一筋の血が流れる。
どういうことだろう。
眼が見える。
どういうことだろう。
血がもう流れない。
どういうことだろう。
痛みはもうない。
どういうことだろう。
少年の右眼の瞳が銀色に輝いている。
鳴り響くアラーム音。
部屋を照らすサーチライト。
温まり蒸気を吹くやかん。
食欲をそそる肉の焼ける匂い。
・・・あれ?
目を開けると、見慣れない天井が広がってる。
「あっ、千秋ちゃんおきた?今朝ごはん作ってるけど、目玉焼きは半熟派?完熟派?」
「完熟派だ。」
「わかった〜。着替えて来てね〜。」
「お、おう。」
そうだった。同居人が居たんだった。
顔を洗い、制服を着、テーブルの席に座った。
テーブルには目玉焼きとベーコン、食パンにイチゴのジャム。それにインスタントのコーヒー。ザ・朝食って感じだな。
「いただきます。」
「いただきま〜す。」
「悪いな、朝からごはん作ってもらっちゃって。」
「いいって、料理すきだからさ。」
「それなら助かるけど。おい、口の横にジャムついてるぞ。」
そう言いながら、口を拭いてやる。なぜか、皐月をみてると世話をしたくなるな。目が覚めると共に母性にも目覚めたのだろうか。
自分の食事に戻る。すると、皐月が笑顔で言った。
「ありがとう〜。なんだか新婚さんみたいでいいね〜。」
ゴホッ
食パンを吹き出しそうになる。
頼むからそういう変な発言はやめてくれ。心臓に悪い。
食後はゆっくりと過ごした。なぜなら、校舎はすぐそこにあるからだ。
ソファでミルク多めのコーヒーを飲む。皐月も隣で同じコーヒーを飲んでいる。
まだ同居二日目だというのに、違和感や気まずさなんて全く無い。気にしすぎだったようだな。今はむしろ、なんにかとしてくれるから安心感すら覚えるくらいだ。
二人でボーッとテレビを見ていると正座占いが始まった。
「今日一番いい運勢は双子座のあなた。特に、今ミルク多めのコーヒーを飲みながら見てる方。発想力が豊かになる一日。新しいアイデアが次々に浮かんできて、自分でも驚いてしまうかもしれません。それでも、困ったときは正直になりましょう。ラッキーアイテムは思い出の物。」
なんだ、このピンポイントな占いは。
「あっ、私一番だ〜。」
「皐月も双子座だったのか。」
「そうだよ。も、ってことは千秋ちゃんもなんだね。」
だから、昨日は皐月と面倒事に巻き込まれたのか。
「ああ。この占い馬鹿に出来ないからな。昨日の命中率は異常だったよな。」
「・・・なんかあったっけ?」
「学級委員とか男女同室とか。」
「私は別に楽しそうだからよかったけどな〜。」
「そうか?まあ、楽しかったらな、いいんだけどな。」
学級委員なんて、どんな仕事させられるのやら。同室の方は今の所は問題は思っていたより無いな。
「そろそろ、学校行こっか?」
一緒に登校するということなのか。まあ、問題は無いし「そうだな。」と答え立ち上がる。
スクールバックを肩に掛けて、皐月と一緒に玄関を出る。その時、皐月の制服を整えてやる。
寮から出て、桜並木の道りを歩く。
通りにはまだ人は少なく快適に歩けた。
風が吹き、桜の花びらが舞う。
「綺麗だね〜。」
「そうだな。」
その時、後ろから声をかけられた。
「皐月さん、一番ヶ瀬さん、おはようございます。」
「皐月と一番ヶ瀬、おはよーう。」
「あっ、アカネェーと真加奈ちゃん。おはよ〜。」
そう言いながら、背が皐月と大差ないくらいの縦ロールロングヘアー女の子と、背が俺と同じくらいのショートカットの女の子がこっちへ歩いてきた。
どうやら皐月の知り合いのようだ。でも、なんで俺の名前を?
「どうやら、同棲生活うまくいってるみたいだな。」
真加奈と呼ばれた女の子が言った。
「うん、もうバッチリだよ!」
そうそう、バッチリだよな・・・っておい!
「同棲じゃなくて同居だ。皐月もつっこめよ。」
「あぁ〜、そっか。あはは。」
「仲が良さそうでよろしいですね。」
微笑みながらアカネェーと呼ばれた女の子が言った。
今の会話からなぜそう判断する。
「この子の相手するの大変だと思うけどよろしくな。私はこいつの面倒見るのだけで手一杯だからさ。」
「もー、ひどいよ。」
「こいつって私の事ですか?ねぇ、私の事なんですか?」
アカネェーさんは真加奈さんの手を振り回す。
「ああ、そうだよ。頼むから大人しくしていてくれ。」
アカネェーさんの動きがピタリと立ち止まる。
「もしかして、私の事嫌いなのですか?」
振り返るとアカネェーさんの瞳で潤んでいた。
「お、おい。悪かったって。なっ、泣くな。」
真加奈さんが慌ててしゃべる。
「私の事、嫌いですか?」
アカネェーさんが潤んだ瞳で真加奈さんを見つめている。
「き、嫌いじゃ無いけど。」
「嫌いですか?」
アカネェーさんが更に聞く。
真加奈さんが固まって変な汗をかいてる
「き・ら・い・で・す・か?」
これがトドメになった。真加奈さんはゆっくり口を開いた。
「す、す、」
「す?」
「好きだよ!」
真加奈さんが顔を真っ赤にして大声で言った。
「私も大好きですよ!」
アカネェーさんもそう言いながら真加奈さんに抱きついた。さっきまでの目の潤いが無くなってる。だけど、今度は真加奈さんが涙目だよ。これ絶対真加奈さん遊ばれてるよな。
朝からなにこれ?
確かにアカネェーさんの相手をするだけで真加奈さんは手一杯だろうなと心の底から思ったのだった。
そんなやり取りを終え、再び歩き始めた時、俺はある疑問を問いかけた。
「二人は何組なんだ?」
「え?」
「え?」
二人が驚いてこっちをみる。皐月は「千秋ちゃん、それは無いわ〜。」とため息をついた。
何のことだ?俺はクラス聞いただけなのに。
「私たちも二組ですよ。」
「昨日の自己紹介聞いてなかったのかよ。」
そうだったのか。聞いてなかった。
「す、すまん。聞いてなかった。」
困った時は正直になろう。占いで言ってたし。
「まあ、いいか。私は、渡辺真加奈。学科は通信科だ。皐月と茜とは中学からの付き合いだ。」
「私は桜木茜です。学科は開発科です。真加奈さんが言った通り私たちは中学からずっと親友ですよ。」
「同じ中学出身で同じクラスになれるなんて運がよかったな。」
「知らないのですか?この学校実力別ですから、同じ中学とか関係無くクラス分けされているのですよ。私たちはだいたい同じ学力だから一緒になれたんです。」
「そうだったのか。知らなかった。」
「入試の時にやった筆記試験と実技試験の結果でクラス分けしたんだよ〜。」
「それは、戦闘科の話だろう。開発科と研究科と通信科はそれぞれ専門の筆記試験だったぞ。」
「そういえば、やったな。あれ、教官倒すの大変だったよなー。」
「えっ、教官倒したんですか?」
「ああ、駄目だったのか?」
「ええー、千秋ちゃんすご〜い。」
「教官倒すほどのレベルなら一組に入れるだろう。なんで二組にいるんだ。」
いや、俺に聞かれても。
「よっぽど筆記試験の方が酷かったんだろうな。」と言いながら、校舎に入った。
教室に入ると俺は刺さるような視線を浴びた。
(仕方ないか。女の子と同居する羽目になった上、ヤクザに荷物持って来させた野郎だと思われてるんだからな。)
俺は自分の席に座る。三人組はまだ集まって楽しそうに話している。
少しすると桂木先生教室に入ってきた。もちろんタバコを吸いながら。
「今日は午前中に戦闘科の蒼眼の装備をやるぞ。戦闘科以外の生徒は見学するだけになるけど、よく見とけよ。開発科は蒼眼でも装備できる装備の開発、研究科は蒼眼の研究、通信科は蒼眼への的確な指示、どの科も蒼眼あっての物になる。見ておいて損は無いぞ。」
生徒達はざわついている。そりゃそうか。いきなり装備すると言われたらな。そういうことは前以て言っといて欲しいな。
「装備する前に少し蒼眼について話そうか。赤坂、蒼眼の限界稼働時間は?」
「二時間です。」
「その通りだ。だが、実際はそれ以上の時間活動できる。なら、なぜ二時間とされている。一千秋、答えろ。」
誰だよ、一千秋って。名前と苗字が混ざってるぞ。
「先生、一千秋じゃなくて一番ヶ瀬です。」
「もうこのやり取りは飽きた。答えろ。」
飽きたなら覚えろや。
「えっと、・・・分かりません。」
「後で体育館裏来い。後ろのメガネ、答えろ。」
えっ?冗談だよね。今時、体育館裏なんて冗談だよね。
「なっ、江嶋です。蒼眼はドゥームの体を構成する金属から作られた兵器であり、その動力は装備者となる人間の生命力です。しかし、二時間以内の使用なら疲れる程度で済まされるが、二時間以上使用すると装備者の寿命をすり減らすことになります。なので、限界稼働時間は二時間とされています。」
「その通りだ。この程度の事もわからない奴は死んで出直して来い。」
なにそれ、遠回しに俺に死ねって言ってるのか。
「ああ、言い忘れてたが戦闘科の奴は自分のお気に入りの武器、持って来るといいぞ。その武器ごと蒼眼を装備する事が出来るからな。」
その装備ごと蒼眼を装備するってどういうことだ?
「その装備ごと蒼眼を装備するってどういうことですか?」
皐月も同じ質問を持っていたらしく先生に質問した。
「百聞は一見に如かずだ。実際に見れば分かるさ。自分のお気に入りの武器が無い奴は別に無理に探さなくていいぞ。蒼眼が自動で精製してくれるからな。」
普通の奴はお気に入りの武器なんて持ってないだろ。俺だって無・・・持ってた。一個だけ。
「今、一組の奴らが装備してるから一時間後に研究棟のB棟八階に集まるように。では、解散。」
生徒達はバラバラに動き出す。
俺は寮の自室にある物を取りに行った。




