同室の彼女
「この学校の敷地内には校舎、戦闘科のドーム、開発科の開発棟、研究科の研究棟、サポート科の通信指令施設、そして学生寮がある。午前中は全員が校舎で一般教育を受けて、午後はそれぞれの学科ごとの施設に移動し授業を受けるようになっている。」
面倒くさそうに桂木先生が説明している。
「ここからは、お前達の話だ。まず、学級委員を男女一人づつ決める。やりたい奴はいないか?」
教室が静まりかえる。
「誰もいないから出席番号一番と二番の奴でいいよな。」
一番と二番って皐月と俺じゃないか。文句を言おうとしたら、皐月が元気に「分かりました。よろしくね、千秋ちゃん。」と手を握ってきた。
「それじゃ、決定で。はい、拍手ー。」
教室に拍手が鳴り響く。俺の意思は関係なしかよ。
「次は寮の話な。ここの寮は全部二人部屋だから。部屋割なんだけど、自由にしていいよ。ただ、学級委員は同じ部屋で確定な。」
学級委員って皐月と俺じゃないか。文句を言おうとしたら、皐月が元気に「分かりました。よろしくね、千秋ちゃん。」と手を握ってきた。なにこれ、デジャヴかな。
流石に、立ち上がり文句を言う。
「ちょっと待って下さい!男女で同じ部屋はまずいと思います。せめて隣の部屋とかにしてください!」
「いや、そういう規則だからな。どちらにせよ、このクラス男子十一人、女子十一人だから一組だけ男女のペアができちゃうんだよ。いーじゃねーか、お前ら仲が良さそうだし。」
「だからって、」
「あぁ?まだ文句あんのか?」
桂木先生が突然俺を瞳孔の開いた目で睨んだ。
「いえ!ありません。」
素早く返事をし、席に座る。
怖ーよ。あんな目で睨まれたら百獣の王ライオンも裸足で逃げたすよ。あっ、あいつら元から裸足か。
まだ、俺の全細胞が「逃げろ、生きるために。」と騒いでいる。俺は、もうあの教師に二度と文句は言わないと誓うのだった。
(年頃の男女で同じ部屋なんて、気まずいだろ。周りからの目線もあるし、皐月からの目線もある。自分の部屋でも気を抜くことは出来ないな。やはり、気まずいだろ。)
後に聞いた話だが、学級委員は男女一人づつではなく、ただ二人いればよかったそうだ。
「明日からは普通に授業始まるから今日中に寮に荷物入れとけよ。」ということなので俺も自分の荷物を受け取るために学校を出る。あの人が届けてくれるはずだから。
しかし、学校を出た瞬間最悪な事が起きてしまった。
「若、この亀有鮫五郎、お荷物を持ってまいりました。」
黒いスーツ、サングラス、金髪オールバック、額から頬まで走る切り傷、高身長。そして、路肩に止めてある黒いセダン。
そんな野郎が俺に頭を下げている。周りからの目線がまずい。
「お、おい。なんでそんな格好で来た。」
「社長が正装で行けって仰られたので、しっかりした正装で来ました。おかしな所でも?」
「どっからどうみてもヤクザだよ。終わった、俺の高校生活開始一日目で終わった。」
「落ち着いてください、若。まだ一日目ですよ。諦めないでください。」
「もう周りからの目線が痛いよ。」
そんなやりとりをしてると、桂木先生がタバコを咥えながらやって来た。誰かが呼んだのだろう。
「あのー、うちの生徒にようでも?」
ほら、不審者見る目だよ。多分俺がヤクザに絡まれてる様に見えたのだろう。
「若のお荷物を届けに来ました。」
「若?もしかして一ノ関のことか?」
「先生、一ノ関じゃなくて一番ヶ瀬です。」
「そこはどうでもいい。お前、若なのか?」
いや、どうでもいいは酷いでしょ。
「違いますよ。そう呼ぶなって何度も言ってるんですけど、聞かなくて。」
「若は若ですから。」
俺は大きなため息をつく。
「つまり、一番合戦はヤクザの一族だったのか。」
「違います!この人は貴志さんの秘書さんです。それと、一番合戦じゃなくて一番ヶ瀬です。」
この先生、俺の名前覚える気ないだろ。
ちなみに貴志さんとは、橘貴志、父の妹の夏巳さんの夫だ。父が死んでしまってから、橘夫妻の養子になった。貴志さんは民間軍事企業の社長で、夏巳さんもそこの研究員だ。
「なんだ、つまらん。あんまり怪しい格好で学校に近づかないでください。生徒が騒ぐんで。」
「すいませんでした!」
鮫五郎が盛大に謝り、桂木先生は学校に戻っていった。
「それじゃあ、若。お荷物を運びますね。お部屋はどちらですか。」
「いや、いいよ。流石にそこまでやらせたら悪いよ。それに校内関係者以外立ち入り禁止だし。」
これ以上人目に付くのは避けたいから、帰ってもらおう。
「そうですか、分かりやした。それと、若が一人で住んでいたアパートの部屋ですが、家具全て処分しました。本当によかったんですか。」
「ああ、どうせ今日から寮生活だしな。大家さんには話してあるから大丈夫だろ。」
「そういうなら、いいですけど。あと、社長が会いたがっていましたので暇ができらた柊家にも顔出してください。」
「分かったよ。早く行け。」
「若、最後に。ご入学おめでとうございます。柊家とともに自分も応援してますから、がんばってください。」
鮫五郎そう言って車に乗った。最後の最後に思いもしてなかった言葉を言われ、俺は何も言い返してやることができなかった。ただ、走り去る彼に手を振ってやった。
別れのシーンはいい雰囲気だったが、周りの人から見たらヤクザに荷物を届けさせたやばい奴にしか見えなかったのだった。
荷物を自分の部屋に入れるため寮に運ぶ。
キャリーバッグが一つと大きめボストンバッグ一つ。まるで三泊四日くらいの荷物だが、これで俺の荷物全てだ。
寮はマンション型で、十一階建て。学年ごとに一つの寮を使うため、三棟建てられている。
入り口にある案内板を見て驚く。
(一階が食堂、二階から一組で、三階が二組か。で、九階まで各クラスの階で、十階に遊戯室とトレーニングルーム、十一階に調理室とコンピュータルーム、地下一階は大浴場。まるでホテルだな。)
部屋にある設備も豪華だ。トイレと風呂が各部屋にあり、簡易キッチンまで付いている。手軽に作りたい人は部屋で、本格的に作りたい人は調理室で、料理なんか出来ねーよって人は食堂でって感じだな。
とりあえず、エレベーターで三階に上がり自分の部屋に行く。
しかし、部屋の前である事に気づいた。
この展開は、風呂上がりの同居人にばったり会うパターンんだ。昔やってたアニメでも最近やってたアニメでも定番の展開だ。
ドアをノックする。
反応・・・無し。
なぜだ。シャワーの音もしない。誰もいないのか?と指紋認証でロックを解除する。
部屋には誰もいない。
風呂も明かりはついていない。
部屋には何も無い。おそらく、俺の方が早く部屋入りしたのだろう。
そう来たか。
恥ずかし。さっきの俺、恥ずかし。何考えてんだよ。そして、何に期待してんだよ。馬鹿なの?阿呆なの?
仮に想像した通りになっていたら、しゃべる事すら出来ない関係になっていたはずだ。助かったといえば、助かったのか。
数分間恥ずかしさに悶え苦しんだ後、荷ほどきをした。
俺の荷物はいたって少ない。
衣服とか生活必需品と勉強道具だけだ。
本当に必要な物だけを詰めた。
荷ほどきもすぐに終わり、暇になって室内を散策した。
リビングはフローリングの上に白い絨毯が敷かれ、茶色の三人掛けソファと茶色の低いテーブル、ソファに座った時の目線の先には、ラックの上に置かれたテレビがある。簡易キッチンの方には木のテーブルに木のイスが向かい合うように置かれている。
寝室の床は畳で押し入れに布団が二つ入っていた。並べて寝ろってことだよな。寝れねーよ。後でなんとかしなくては。
トイレは洋式。
風呂はユニットバス。
簡易キッチンは小さい流しとIHクッキングヒーター、冷蔵庫と電子レンジとポットが設置されている。
俺が住んでたアパートよりすごいぞ。だって、あのアパート風呂無かったし。ちなみにトイレは和式の共用だった。流石、国立だな。税金に感謝だ。
散策を終えソファで一息つく。なかなか座り心地がよくうとうとしていると、ドアをノックするような音が聞こえた。
はーい、と答えつつドアを開けると凄まじい量の荷物を持ったダンボール二つ積み上げて持った誰かが立っていた。顔がダンボールで見えない。
「よかった~。両手塞がっててさ、あけれなかったんだよ。ちょっと、手伝ってくれない。」
「皐月か。どうした、その荷物。」
皐月の両手を見ると俺のより大きいサイズのボストンバッグを一つづつ腕に下げていた。背中にはパンパンに膨れたリュックを背負っている。
ひとまずダンボール二つを持ってやる。ズシリと重たい。鉄アレイでも詰めてきたのか?
「あはは。必要なもの詰めたらさ、こうなっちゃった。」
舌を出して笑っているがとんでもない重さだぞ。必要なものって何だよ。
リビングに運び入れてソファに座った。皐月はその場に座り込んだ。
「千秋ちゃん、部屋に来るの早いね。荷物は?」
「知り合いに届けてもらったからすぐに部屋に持ってきた。」
どうやら俺は、ちゃん付けに慣れてしまったようだ。
「あー、下で聞いたよ。ヤクザに荷物運ばせてたって。あと、若って呼ばれてたんでしょ。千秋ちゃんってヤクザの跡取りなの?」
「それは全部誤解だ。その人は貴志さんの秘書で、見た目と服装がちょっとワイルドすぎるだけだから。荷物も頼んだら届けてくれただけで、呼び方もその人が勝手に。」
下で聞いたって噂されてんのかよ。どうしたものか。
「貴志さん?」
「ある会社の社長。俺の義父だ。」
「そうなんだ。それじゃあ、私は荷ほどきするね。」
気を使ってくれたのか、皐月はそれ以上聞いてこなかった。
荷ほどきした皐月の荷物は普通じゃなかった。
リュックとボストンバッグ二つには、衣服などの生活必需品が大量に詰まっていた。普通じゃないのは、残りのダンボールだ。プレステみたいなのが二台、Wiiが一台、デスクトップパソコンが一台。
ここで何をするつもりだ。早速リビングに設置し始めたし。これが皐月の必要なものか。
全ての機械の設置と衣服の収納を終えた皐月にお茶を淹れてあげた。
それにしても、皐月は俺を男と認識しているのだろうか。さっきから普通に真隣に座りお茶を飲んでいるんですけど。もしかして、名前か?名前のせいなのか?
「ふぅ~、私は調理室見に行くけど、千秋ちゃんはどっか見に行かないの?」
「そうだな、トレーニングルームでも見に行こうかな。」
思っていたほどの気まずさは無いく、ひとまずなんとかやっていけそうだな。
皐月と一緒に部屋を出た。エレベーターで上に上がる。その時、皐月が「千秋ちゃんは今日の夜ご飯どうするの?」と聞いてきた。
「まだ決めてなかった。どうしようかな。」
「じゃあ、部屋で待っててよ。私が作ってあげるから。」
「いいのか?」
「うん。私料理するの好きだし。」
皐月と別れた後、トレーニングルームに入ると千秋はまた驚いた。
(下手なジムよりいい設備だぞ。)
本当に税金に感謝だよ。
部屋に戻ってからやることがなく、気づくとソファで寝てしまったいた。
(ん?なんか、美味しそうな匂いがする。)
立ち上がるとテーブルには、カレーライスと皿に盛られたサラダが並べられていた。
キッチンには制服の上にエプロンを着た姿の皐月が洗い物をしている。
「あっ、千秋ちゃんおはよー。夜ご飯はカレーライスですよー。」
「本当に作ってくれたのか。ありがとう。」
「大した物じゃないけどさ、食べてよ。」
「いや、すげーうまそうだよ。」
手を洗い、席に座る。反対側には皐月も座った。
「いただきます。」
「いただきま~す。」
そのカレーは想像以上にうまかった。
「うまい。こんなにうまいカレーは初めてだ。」
「もう大袈裟だよ。」
皐月は嬉しそうに微笑む。
お世辞とかじゃなく、本当にうまい。
「なんでこんなにうまいんだ?」
食べながら、聞いてみる。
「カレーなんて簡単だから誰が作っても美味しくなるよ。」
「いや、簡単だからこそ奥が深いんだよ。とりあえず、おかわり。」
「食べるの早いね~。そんなにお腹空いてたの?」
「そういえば、昼飯食べてなかったな。」
「だからだよ、空腹は最高の調味料って言うしさ。」
「その分を引いたとしてもうまいよ。」
その後も雑談をしながら食事を続けた。結局、更ににもう一回おかわりをし、完食したのだった。
食後、皐月は大浴場に行ってくる、とはしゃいで部屋を出て行った。誰かと約束でもしていたのだろう。俺は部屋の風呂で済ますことにしよう。
三十分ほど湯に浸かり、風呂から出る。リビングに着替えを忘れた事に気づき、タオル一枚で部屋の廊下に出た。しかし、廊下へ出たのは間違いだった。
出た瞬間、皐月が部屋に帰って来たのだ。普通逆じゃない?
「・・・。」
固まる俺。
「わぁー、千秋ちゃん腹筋割れててかっこいー。」
叫ばれると思っていたのに、想像もしていなかった言葉で恥ずかしさが百パーセントを超えた。アニメのヒロインもこんな気持ちなのだろうか。
次の瞬間、リビングに走りこみソファに置かれた服を素早く着る。
皐月は何事もなかったかのようにソファに座り、テレビを見ている。やっぱり、俺は男として認識されてないようだ。普通、あんな事があったら、なんかもっとさ・・・。もう、いいや。寝よ。
寝るといえばなんかやらなきゃいけないことがあったような。ああ、歯磨きだな。
ついでに明日の準備もしておこう。
歯を磨いたし、明日の準備もしたし、寝る準備はできた。後は布団を敷くだけ・・・。
これだぁぁぁ!
部屋の広さからして、離れて敷くことが出来ない。隣に敷くしかない。どうする。
「皐月ちゃん、もう眠いからお布団敷いて~。」
「歯磨きしたか?」
「ん~、今する~。」
そうじゃなくて、どう敷けばいいんだよ。ひとまず、隣に敷いてみる。
「わぁー、新婚さんみたいだね。」
「な、何が?」
「あはは、冗談だよ。おやすみー。」
皐月は布団潜り込む。おいおい、隣男子でも気にしないんかい。
「お、おやすみ。」
今から何かするのも面倒になり、部屋の照明を消し、布団に入る。
(今日一番運が悪い人は双子座のあなた。特に今、牛乳を飲みながら見ている人は要注意!今日は何かと面倒事に巻き込まれがちな一日。でも、そこで新しい出会いがあるかも。)
朝の占い当たったな。面倒事に巻き込まれたし、そこで皐月との出会いがあった。まぁ、考えてることはいまいち分からないが悪い奴ではなかった。そこまで、気まずい空気にもならないし、なんとかやっていけそうだな。
「これから、よろしくな。」
寝ている皐月に呟き彼も目を閉じる。
その夜、彼は夢を見た。




