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魔王の城

 まず見えたのは広い空間だった。玄関ホールというのだろうか。左右には二階へと続く階段があった。ヨーロッパの貴族が住むような屋敷を想像してもらえれば、分かりやすいだろう。


 真正のいる場所は日本であるが、その空間だけ、別の国のようであった。


天野(あまの)真正(しんせい)様でしょうか?」


 気配もなく、音もなくその人は影とひなたの境界線に存在していた。


 だんだんと近づいてくるごとに、その姿があらわになる。


 見た目は老紳士。服装は見た感じ執事服というやつだろうか。真正にはそうとしか見えない。この場の雰囲気には合っている。


 いきなり声をかけられたことにうろたえつつも、なんとか真正は丁寧な言葉を絞り出す。


「あっはい……、今日からここに……入居させてもらう天野真正です。よろしくお願いします」


 相手の雰囲気に圧倒されつつ、基本的なあいさつを探り探りに言う。噛まなかっただけ、マシな方だと思える。


 「ようこそ、天野様。私、大上(おおかみ)と申します」


 流れるような動作で一礼。つられ、真正も慌てて礼をする。真正がここまで緊張したのは、卒業式の礼以来かもしれない。


 「早速、お部屋へご案内します。皆様も天野様のことを楽しみに待っておられます。お荷物をお持ちしましょうか?」


 「いえ、これだけなので大丈夫です……」


 これから過ごす上で必要になる衣類などは、明日に送られてくることになっているので、今の真正の荷物は、一日分の着替えに、半強制的に親から持たされた一メートルほどの布袋に入った家宝だけ。わざわざ、他人の手を借りるまでもない、


 「それではこちらです」


 真正は大上に誘導され、屋敷の廊下を行く。


 廊下には所々に絵画や彫刻が飾られており、屋敷の高貴ではあるが、若干の不気味な雰囲気を醸し出すのに一役買っていた。


「この建物って昔誰か住んでたんですか?」


 沈黙に耐えかねて、真正は尋ねる。何かしゃべらなければ、雰囲気に飲まれそうだったのだ。


「はい、昔ある家族が住んでいたとうかがっております。建てられたのもその方だそうで。転居される際に、売り出したそうですが、なかなか買い手がつかず、今のような体系になったようです」


「まぁ、そうですよね」


 こんな屋敷を建てるような人物を想像しながら、真正はずっと気になって疑問を口にした。


「大上さんも、ここに住んでいるんですか?」


 真正の疑問ももっともである。ここがホテルならまだしも、ただの貸家に大上のような執事のような人などいない。ならば導きだされるのは、住人ということだけである。


「住んでいるわけではありません」


「はい……?」


 真正の予想はあっけなくハズレた。だが、他にはなにがあるのか、真正には全く想像がつかない。


「私は掃除人でございます」


「掃除人……ね」


 掃除人という言葉を反芻しながら、真正は合点がいった。なるほど、それならば何もおかしいことはない。掃除人という言い方に若干の疑問を抱きながらもこの話は終了した。


 その後は、なぜ一人暮らしをするこのになったか、趣味は何かというとりとめない話に花を咲かせつつ歩いた。大上はあまり突っ込んで聞いてくることはなく、終始笑顔で話している。その点に真正は好感を持った。


 大上の趣味が爪を磨くことだと言ったときには驚いたが。


 大体のことを話終えた頃、二人の目の前には大きな扉があった。


 つくづく、この屋敷は魔王の城のようだと真正は思う。今まで歩いてきた廊下といいそんな雰囲気である。


「この先に皆様が待っておられます。それでは、これからの暮らしが良きものとなるよう……祈っております」


 大上はまた流れるように一礼し、もと来た道を歩いていった。


「ありがとうございました!」


 背を向け歩く大上に、感謝の言葉を言い、真正は扉と対峙した。魔王を目の前にした、勇者のような心境である。


 扉を開けることに少し躊躇したが、勇気を出し開け……目の前に光がまたたいた。


 




 




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