モンスターハウス
それは、よく晴れた満月の夜
もし、夜寝ているときに女性の悲鳴が聞こえたらどうするだろうか?
大抵は、普通に目を覚まし、なんだなんだと野次馬根性丸出しで現状把握だろうか。もしかしたら、外に飛び出すかもしれない。
少年ーー天野真正もその例に漏れないはずだった。
まず悲鳴が聞こえた瞬間に目を覚まし、自分の部屋を見回す。そこまでは普通だった。
うずくまっている人影をみとめるまでは。
寝惚けているせいだろうか。普通なら自分の部屋に自分以外のだれかがいるのだから、うろたえる場面であろうが、おもむろに布団から抜け出し、人影に近づく。
そうして肩を叩く。大丈夫ですか?と。
人影が顔を挙げるような動きをしたが、部屋が暗いのとまだ目が覚めていないのと相まってよくは見えない。
一分ぐらいしただろうか。部屋の暗さにも慣れ、幸いなことに窓から月明かりが射し込み、部屋の様子があらわになる。
まず気づいたのは、その人影が女性であるということだった。髪は黒いロングヘア。うずくまっていたせいか、髪は顔の前に垂れ下がっていた。
流れで、顔、その下へとそのまま視線を下げることができなかった。視線は顔を見て固定された。
垂れ下がる髪の切れ目から除く、野性的で動物的なすいこまれるような真紅の瞳。そして……半開きになった唇から滴り落ちる紅い滴。
今度は彼が絶叫する番であった。
◇◇◇
天野家には、先祖代々から続くおかしな風習がある。
曰く、一人立ちできる年齢になれば、旅に出させる。
天野家とは、武家の血筋を引くらしく、昔のことでは武者修行の一環としてのことだという。現代では高校生くらいの年齢になると一人暮らしをさせてみるというものになり、祖父や父にも耳にタコができるほどその話は聞かされていたので、覚悟はしていた。
そうして、高校入学の季節、生家から送り出され、知らぬ間に決められていたアパートへと向かっていたわけだが……
「なんだこのホラーハウスは……」
思わず、両手に持っていた荷物を落としてしまった。
そこには、お化け屋敷と言えばそのまま使えそうな洋館があった。入れば二度と出てこられなさそうな、わりとガチめの。
親から聞いた話では、家賃が比較的安く、住民と協同生活、いわゆるルームシェアのようなことができる物件だという。
協同生活という点では、不安なこともあるが、一人暮らし初心者な真正としてはやはりありがたい。家賃が安いというのももちろんありがたいだろう。
だが、これはない。
決して、ぼろいとか今にも崩れ落ちそうなどではなく、雰囲気からしてやばい。
しかし、借りてしまったのだから住まなければなるまい。色々抗議したいこともあるが、親としても色々探して一番いいものを見つけてくれたのだろう、そこは感謝すべきではないかと半ば強引に納得する。
どうにか意を決し建物内に入ろうとしたものの、足取りはおぼつかない。
自動ドアなのだろうか、ギギイィ……ときしむような音を響かせ、入り口が勝手に開く。
この時点で、真正の目には涙が浮かんでいた。
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