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―怪奇行―  作者: カンナビス
7/19

ちらつく影

 重人、春、柳の三人は宇野宅に着いた。

 ここへ来るまでに柳が危惧している事を話してくれた。

 それは、突如欠席が増えたのは超能力者のせいではないかとの事だった。

 どんな能力かは彼女にも想像すら出来ないようだ。

「どうする? 呼び鈴鳴らしてみる?」

 春はドアの前で今にも呼び鈴のスイッチを押さんとしている。

「待って」

 柳はその手の上から手を添えて止めた。

「何でよ。呼んでみればいいんじゃね?」

 重人は別段やましい事をしているわけでもないのに、辺りを見回しながら言う。傍からみれば、その素振りの方が怪しいという事に気づいていない。

「山田くん、少し落ち着いて。もしも宇野さんが悪い能力者だった場合――」

「チズが……!? そんな、ありえないよ」

「悪気はないの。でもね、超能力も今までは“ありえない”事だったのよ」

「でも――」

 見てられなくなり重人が割って入る。

 とにかくここは柳の言う通りにしておこうと春を諭す。

 春は渋々承諾した。

「それじゃ、窓とかから中を覗ければベストなんだけど」

 柳は家の造りを品定めでもする様に見ている。

 重人は、やった自分の出番だと思った。超能力なんて無くても出来る事はあるんだぜ、と言わんばかりに慣れた動きで窓から中を見た。

 誰も居ない。がらんとしている。宇野ちずるは二階か。車はあるのに宇野の親もいない様だ。と言うより人の気配が感じられない。

「どう?」

 春が心配そうに訊いてくる。

「んー、家族で旅行でも行ってる感じ。綺麗に片付いてるけど人の気配は無いっていうか」

「何か他に違和感とか無いかしら?」

 柳も訊いて来た。

 自分で見ればと言ってもよかったが、ここでひと働きしておきたい。そうすれば超能力が必要な場面で自分が働かなくても差し引き0だ。

 重人は自己満足に一人内心で笑みをこぼした。

「んー、無いと思うけど……あ、いや、うーん」

 重人は何となく自分の家、鈴置家と比べた。

 本棚、居間、台所、凄く綺麗に片付いている。違和感なんて――

「あるっちゃあるかも。綺麗過ぎる。まるでモデルハウス並み。生活感がねえよこれ」

「私も見たいわ」

 柳が言うと重人は目をひん剥いた。

 おいおい、これは俺の仕事だぜ? お前には学校に超のつく信者と、頭脳と、能力があるじゃねえか。まだ足りないか。

「四つん這いになってもらえる?」

 柳は当然の様に重人に言った。

 さあ早く、犬の様になりなさい、と言うところを少なからず想像してしまう重人。

 彼女はSなのかもしれないと重人は思った。

「んな事できるか――ちょ、おいっ――!?」

 断ろうとしたら強引に服を引っ張られ、彼は四つん這いにさせられてしまう。

 これには春も思わず感嘆に似た声を出した。

 自分以外にも彼にここまで言う事を聞かせられる人物がいたのか、と。

 柳は学校指定のローファーを脱ぐと重人の背に足を置いた。

「よいしょ」 不安定なのか、やや屈んで覗き見る。

「くっ、何で俺が、そもそも、お前の身長なら背伸びすりゃ見えない事ないだろ」

「こっちの方が見やすいわ。確かに人の気配がないわね」

 彼女は重人の背から降りると二階の窓へ顔を向けた。

「弁償はするから許してね」

「おいおい何する気だよ」

 柳が右手を握り込んだ。その手を半開きの状態へ、すると二階の窓に何か押し付けたみたいなヒビが入る。

「さ、みんな隠れて」

 彼女は言いながら窓から死角になりそうな場所へと移動した。重人と春もそれに続く。

「ちょっと、柳さん!」

「静かに」

「お、すげっ! 結構大胆な事するな」

「部屋にいるならこれで反応があるはずよ」

 三人は隠れたまま暫し待った。

 何の反応も返って来ない。これは誰もいない、と三人は確信した。

「もう帰ろうよ」

 春が促す。

「そうだな、多分旅行かなんかだろ」

「車があるのに?」

「バスか何かで行ったんだろ」

「そうだよ、柳さんの考え過ぎだよ」

「まだよ」

 柳は歩き出し入口をそっと開けた。

「ちょっと柳さん! 不法侵入になっちゃうよ!」

「なんか面白くなって来たな」

 重人は乗気で柳に続く。

「ちょっと、重人まで――」

 春も恐る恐るといった感じで重人の後ろに続いた。

 この場合、お邪魔しますと言った方がいいのだろうか、と重人は一瞬悩んだ。他人の家に勝手に上がり込む経験は素行不良の彼でも初めてだった。

「誰もいないわね」

「早く出ようよっ」

「春はビビリすぎだって」

「あんたは何でそんな生き生きしてんのよっ。いい、其の辺の物とかに触んないでよ!」

「それは触れととっていいんですかね」

 重人はタンスの前で手を引く様に動かして見せる。

「山田君、遊びに来たんじゃないのよ」

 柳からの叱咤が飛んだ。

「へいへい」

「下の部屋は何も無さそうね。上へ行ってみましょ」

 そう言うと柳は静かに、それでいて淡々と階段を上がっていく。

 二階には幾つかドアがあった。近い順にそっと開けていく。

「そこがチズの部屋だよ」

 春はドアの前に立つ柳に言った。

 開けるの? 本当に開けるの? 見るのが怖い。

 色々な想像が春の中で駆け巡っていた。

 柳はそんな彼女を尻目に躊躇なくドアを開ける。

「そんな!?」

 柳が声をはった。

「なに!?」

 春は前にいる重人を押しのけて宇野の部屋に入った。

「え?」 

 そこは何の変哲もない春がよく知る宇野の部屋だ。

「冗談よ」

「ちょっと! 柳さん笑えないから!」

 春は頬を膨らませて彼女へ詰め寄る。

「はっはっは! 柳もやるじゃん! 春の顔見た? え? とか!」

 重人は大いに笑いのツボを刺激されたのか腹を抱えて爆笑している。

「ねえねえ、重人?」

 春は重人へ向き直ると満面のを見せ、ど突いた。

 見事に負傷している顔面へヒットし、重人は蹲り悶絶するしかなかった。

「まったく!」

 春はむすっとしながら部屋を見回す。入口から見て正面床に四足の低い机。その左に液晶テレビ。右にベッド。それからベット側の壁には宇野の好きなアイドルのポスターが貼ってあり、テレビ側の壁には柳が割った大きな引き窓。そして机の奥の壁は備え付けのクローゼットがあった。凡そ六畳半を目一杯つかっている。

 変わりない。何度も足を運んだ、お泊りもした。 

 ――チズの部屋だ。

「どうやら本当に家族でどこかに出かけただけの様ね」

 柳は張り詰めていた緊張を解く様に一息ついた。

 重人はつまらなそうに物色している。

 春はよかったよかった、と徐にクローゼットを開けた。

 服が十着以上並んでいる。ジャンルも様々だ。

 ――うん、ここも何時もどおり……。

「あれ……?」

 春は微かな違和感を感じた。

「どうしたの?」

 柳は春へ目を向ける。

「おいおい、春なんだよ。服が並んでるだけじゃん。にしても多いなー。春なんて二、三着くらいで着まわしだよな」

「うん。そう、普通そうなのよ。沢山持ってたとしても部屋着と、お気に入りくらいしか実際に袖を通さないの」

「かぁ~! これだから女って奴は……」

 俺なんて、と重人が愚痴ろうすると、

「おかしいのよ――」 春は震え混じりに呟く。

「あ、ああ」

 彼女の狼狽っぷりに重人は誂うのを止めた。

「鈴置さん?」

「チズの、お気に入りの服が全部揃ってるの。ううん、チズの持ってる服はこれで全部の筈だから――」

「宇野さんは出掛けたわけではないって事……ね……」

「うん」

「おいおい、何だよお前ら。顔こえーよ! てかよ、旅行って限らねえじゃん? 例えば病気して入院とかよ」

「それにしても替えの下着と服くらい持っていくはずよ」

 春は動揺しきっている。

 宇野に何かあったのか。彼女がその『何か』の原因なのか。

「これはいよいよ本格的に調べる必要がありそうね」

 柳は二人に語りかける様に言う。

「こりゃ、ここら一帯を調べるしかなさそうだな」

「うん。正直チズが関係してるって聞いて、まさかと思ったけど本当に何かに巻き込まれたとかなら助けたい」

「じゃあ手分けして探しましょ。ただ無理はしない事」

 柳が言うと、重人と春は静かに頷いた。

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