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―怪奇行―  作者: カンナビス
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黒幕

 武道館に入った重人達は直ぐに足を止めた。二人共訝しむような目を武道館内中央へ向ける。

 その視線の先には見たこともない男子がたっている。

 重人は軽く首を傾げつつ視線を更に奥へ向けた。 

 ――何で檜高が……春!?

 幼馴染の姿を認め重人はホッと安堵した。

 それから左右を見ると自身の右手側数メートルに柳が立っている。

「あら、二人共」

 彼女は涼しい顔で重人と関谷に声をかけた。

「おう、やっぱ無事か柳」 

 重人はニッと笑ってみせる。

 関谷もそれに続いて掌を向け挨拶がわりとした。

「重人!」

 春が叫びながら重人に駆け寄った。

「おう、春も元気そうで何より」

「馬鹿! あんたその腕どうしたの!?」

「いや~名誉の負傷っていうかなんていうか」

「速く病院に行かなきゃ!」

「う……大丈夫だって」

 彼女の潤んだ瞳に重人は一歩後退する。

「あの」

 と声を当てられた気がして重人はその方向へ目を向けた。

 声の主は見知らぬ男子だった。

「誰だよおめえ」

 重人は目を据えて睨んだ。

「やっぱ知らないですよね自分の事」

「ああ」

 答えながら重人は記憶を辿る。全く見覚えがない。

 黒いミディアムヘアー。整っているとは言い難いがどこか愛嬌のある顔。背丈は170cm前後といったところか。

 着ている制服を見る限り東栄の生徒なのは間違いなさそうだった。

「どうも、一年B組の寺子進(てらこすすむ)っす」

 寺子は照れくさそうに後ろ頭をかきながら自己紹介をした。

「一年だあ? こらぁ!」 

 重人が怒鳴る。一年と聞いて彼の頭に佐藤拓己が浮かんだからだった。

 ――佐藤の仲間か? まあ、この場にいるならそうだろうな。

 思いながら重人は睨んだ。その瞳に黒いモノが広がっていく。

 それを感じだ春、関谷は一歩退いた。

「重人……?」

 幼馴染の声をうけて彼はハッとした様に目を瞬いた。

「なんでもねえよ」

 重人は改めて寺子を見据えた。

「えーと、もう鈴置先輩と柳先輩には一通り話したんですが――」

 寺子は言いながら困った顔をしている。

「君が黒幕なのか?」

 訊いたのは関谷だった。

「どうも関谷直志先輩」

 寺子はにやつきながら鼻で笑う。

「なにが可笑しいんだよ」

 重人は目を細め身構えた。

「彼じゃないわ」 

 答えたのは柳だった。

「真央美君、黒幕を知っているのかい!?」 

 関谷は大袈裟に体を柳へ向ける。

 重人は眉を顰めた。

「まあ、もう役目果たしたんで」

 言いながら寺子は出入口に向かって歩きだした。

 重人はすれ違いざま寺子の肩を掴んだ。

「誰が黒幕だ?」 

 脅す様に眉間にしわ寄せして目を剥いた。

 寺子は特に怖がる様子もなく笑顔をつくり

「やめた方がいいですよ。この距離じゃ自分の方が強いっす」 と言って手の甲で重人の腕を払う。

 重人は傷の痛みで顔顰めた。

「すいません」 寺子は軽くお辞儀をすると武道館から出て行った。

「どういう事なんだい」 

 関谷が柳と春をリズムよく見た。

 重人も彼女らを見た。その目に力が篭る。

 春は目を伏せている。

 柳は一息吐くと口を開いた。

「こういう時ってあっさりと言っちゃっていいのかしら?」

 聞いて重人はずっこけた。

 彼女に焦らすつもりはない。

 ただただ人付き合いが苦手なだけなのだ。

「いいよ。むしろサクッと言っちゃってくれ」

 重人は腰を摩りながら起き上がる。

 関谷は固唾を呑んだ。この現実離れした事態の原因が遂に……。

「なんだか、こんなにしんすると言いにくいわね」

 ――なんだよ、早く言えよ。

 重人は心の中でぼやいた。

「もう! 何なのあんた達! いつもそうなの? 焦れったい!」

 声を荒げたのは重人と向かい合うかたちで一番遠い所にいる檜高だった。

 春はまあまあと両手の平を胸の前で小さく動かす。

「てか、なんで檜高がいんだよ」 

 重人が訝しげに檜高を見た。敵側のこいつがなんでまだいるのか。何故、寺子と共に出て行かないのか。しかしもっと気になったのは彼女の表情だった。妙にやわらかい。穏やかと言ったほうが正しいのかもしれない。

 噂とは随分印象が違うなと重人は思った。

 よく見ると腕が異常に腫れている。

 ――春にやられたな。

 思いながら同時に、彼は春へ目配せした。

 もうダチになったんだな、と。

 重人の視線を受けて彼女はへへへと笑みを溢した。

「わたしが話すよもう」

 檜高が言うと柳は一回咳払いした。

 あとは任せたという事なのだろう。

 一同が一斉に黙った。

 既に黒幕を知っている春や柳まで緊張の面持ちだ。

「確かに話しづらいわね」 檜高は舌を出した。それからハハハと一人で笑う。

「野中先生よ」 言ったのは柳だった。

 檜高は眉を寄せて柳を睨んだ。わたしのセリフを取らないで、と。

「マジか」

「うむ」

 重人と関谷のリアクションは思いの他小さかった。

「意外と驚かないのね」 

 柳は言いながら、予想通りだったのかしらと重人と関谷へ目を向けた。

 重人は俯く。その胸の内は平静だった。野中だと知って驚かなかったわけじゃない。

 しかし、この事態に慣れてしまったのか「ああ、そうか」 と妙に納得する自分がいた。

「とりあえず、これからどうする?」 

 関谷が全員に尋ねる。

 春は「まず重人と檜高さんを病院に」と身を案じた。

「そうね」

 柳は言いながら物思いにふける重人を見た。何か変わったかしから、と彼女は頭を傾けた。

 断続的に天井を打つ音が鳴り始めた。

 それが建物を包むように広がる。

 次第にテレビの砂嵐みたいなノイズが武道館内を徐々に侵した。

「響くわね」

 柳は肘を曲げ右掌を天井に向けた。

「今日の天気予報は快晴だったはず」 関谷は目だけを天井へ向ける。

「不吉ね」

 柳が呟く。

 何か悪い事が起こるかもしれない。

 皆一そんな顔をしている。

「兎に角、移動しよう」

 関谷が言うと、皆、無言で出入口に向かった。

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