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―怪奇行―  作者: カンナビス
11/19

Let's get ready to rumble!

 四つの人影が東栄学園のグラウンド隅で動いている。一つが先行するように校舎へ近づいた。それが動きを止めると三つの影は後を追うように動く。三つが追いつくと先行していた影はまた動き出す。徒歩よりもやや速く、走るよりも幾分遅い。影は校舎へたどり着くと正面から外れ、回り込む様に進路をとる。(くるぶし)くらいの草を踏みしめ進み、暫くして止まった。緑の灯りが影を照らす。

「夜の学校こえー」

 照らされた人影――重人は辺りを見回しながら、人が居ない事を確認する。誰も居ないと分かり、後ろで待機している三つの影に腕を振って合図を送った。

 それを確認した影達――春、柳、関谷の三人は素早く重人の方へ移動する。その際も関谷はずっと愚痴っていた。春も少し不安そうであり、柳は通常通りであった。

 結局、学校に人が居なくなってから校内を調べてみようという事になり、四人は学校に侵入しているのだ。皆、用意しておいた内履きに履き替えると、忍び足で進む。

「わっ!?」

「どうした山田っ!」

 重人の叫びに関谷が反応した。

「いや、非常口のライトって超怖くね?」

 重人は顔面蒼白である。

 校内外の不良にナイフを出されても全くビビる事の無い重人だが、生来オバケだけは苦手で、それを連想させるものや環境も得意では無かった。

「お前……小学生かよ」

 入ってくる時もあったじゃないか、と関谷は呆れた様子でずかずかと歩き、重人を追い越した。

「おい、マジやばいって! でるかも――奴らが……この世に未練を残し去っていった奴らが」

「山田くん、オカ研には向いてないわね」

 柳は重人の肩を軽く叩きつつ追い越す。

 春も柳に続いて追い越した。

「お前ら祟られるぞ!」

 これほど怖がってくれるならお化けも本望だろう。

 お化け泣かせの三人は重人をおいて先に進んでいく。どんどん離れていく三人を見ていっそう怖くなり、重人は駆け足で三人に追いついた。

「夜間警備の人に見つかったらどうしよう」 春が心配そうに呟く。

 関谷もそのあたりを危惧していたのか「ホントだよ。こんなのよくない」 と愚痴る。

「警備員は校舎から離れた寄宿舎にいるし、巡回時間はおさえてある。あと二時間は大丈夫よ」 柳は淡々と言ってのけた。

「そうそう。それに見つかっても補導されるだけだって」 重人は親指を立てる。

「山田、全然フォローになってないぞ」

 関谷は大きく溜息をつくと辺りを用心深く見回した。

「ここから調べましょ」 柳は足を止めた。

「ん? 一年A組か。佐藤のクラスだといいな」

 重人は目に力を込める。

「ええ、少しでも相手の情報が欲しいわ」

 柳は言いながら引き戸を開けた。

 何の変哲もない教室だ。

 四人は一席一席机の中を覗き見る。

「うお!?」

「どした山田!」

「見ろよ関谷!」

 重人は手招きして関谷を呼ぶ。

「なにか手がかりでも見つけたか!?」 

 誘われるまま机の中を覗く関谷。

「なにかしら?」

「重人でかした!」

 柳と春も駆け寄る。

「ちょ、二人共! まて見るな!」

 関谷が女子二人を身振り手振りで制止。

 それほどまで凄惨なものがあるのかと女子二人が顔見合わす。その顔は緊張感に満ちている。しかし何故か重人はニシシと歯を見せていた。

「山田! お前真面目にやれよ!」

「だって、見つけちまったんだからしゃあねえだろ」

「しゃあ――お前、せめて黙ってろよ! 何で俺を呼んだ!」

 関谷は頬を赤くしながら重人に詰め寄る。

「何があったの!」 春は二人の間に割って入り机の中を見た。固まった。ゆっくり屈めた身を起こし重人に向くと目が据わる。

「鈴置さん?」

 柳が怪訝そうに訊く。

「何でもない」

 春はムスっとしながら踵を返す。これに柳は首を傾げ自分も、と机を覗こうとした。しかし関谷がまたも身振り手振りで制止。

「ま、真央美君は見ないほうがいい!」

「えー、柳にこそ見て欲しいー」

「お前! セクハラだぞ!」

「セクハラ?」 柳は視線を机に。それから関谷に向けた。暫く観察するかのように男子二人を交互に見る。そして何かを悟ったのか「山田くん、真面目にやって」 と溜息をついた。

「へいへい。でも何探せばいいんだよ」

 重人の発言に柳は目を伏せた。重人と同様の疑問が彼女の胸中にもあるからだ。

「あの、」

 突然、春が申し訳なさそうに手を上げた。

「どした?」

 重人が訊くと春は部室へ行きたいと言い出した。

 彼女の言う部室とは実際に席を置く剣道部の部室である。何故そんな所に用があるのか。もしかしたら彼女は、校内に迫っている危険を能力で逸早く察知したのかもしれない。

「鈴置君、今は部室に寄っている暇は――」

「あたし一人で大丈夫」

 春は柳をじっと見た。行かせてくれと目で語っているのだろう。

 柳はこくりと一回頷く。これを合図に春は駆け出した。

「あいつ、何をそんなに急いでんだ?」

「どうやら校内を探るより直接訊くはめになりそうよ」

 柳は拳をつくり、また平手に戻した。

「あいつらがいるのかい!?」

「ええ、多分ね。戦う覚悟しておいた方がいいわ」

 関屋はメガネの位置を直す様に持ち上げる。

 関谷、柳の二人は準備が整った様だ。

 重人は右手で拳をつくり、左手でこれを握ると指を鳴らす。相手は超能力者である。いくら腕っ節が強くても不利は否めない。そう思い奥歯を噛み締めた。

 とりあえず移動しようと関谷が言った。

 どうやら能力をつかったが何も起こって無いらしい。

 ここにいても数秒は安心か。重人は内心でホッとする。

 しかし相手の出方がわからないんじゃ意味がない。

 相手は殺傷力の高い能力だ。後手にまわればそれだけ危険も増す。

 重人は握った拳にいっそう力を込めた。

 

 一方、春は部室に向かって走っている最中だった。

 部室は校舎と一体になっている東区第四武道館の中にある。その入口は一階。初めから一階にいた彼女からは近い距離だ。にもかかわらずその顔は焦燥感に駆られている。

「急がなきゃ」 

 春は走りながら呟いた。

 花壇の花が、植木が、壁が、床が、この学校のあらゆる物が何かに怯えている。

 それを感じた瞬間、頭に思い浮かんだのは檜高敦子だった。

 背中に痛みが走った。あの奇妙な感覚が蘇る。

 ――きっと居る。彼女が近くに。

 春は武道館の入口前で内履きを脱ぎ、中に入った。直ぐ左手側にある引き戸の向こうが部室である。元は倉庫らしく柔道部、空手部などの部材も所狭しと置いてある。

 グローブ、道着、サンドバッグ、トンファー、竹刀。春は散らかり気味の部室で忙しく目を動かした。

 探し物がある様だ。

「どこだっけ!」

 夜の部室で電気もつけず、捲れるスカートも気にせずに探し物する。新聞部がいたら一大事かもしれない。

「見つけた!」

 遂にお目当ての物を見つけたのか、ホッと胸を撫で下ろす。

 途端、武道館内の灯りがついた。

 春の心臓はドクンッと大きく音を立てる。

 ドッ ドッ ドッ 静かな武道館内に足音が響く。

 靴を履いたままだ、と春は思った。同時に、武道館を使う部の者じゃないと確信する。

 春は見つけた物を両手で握りしめて祈った。

 ――重人……。

「春ちゃーん。春ちゃーん。ここでしょー」

 春の祈りは通じなかった。一番見つかりたくない人物が迫って来ている。

 ――どうする。お願い……力をかして。

「やるしかない」 春は呟いた。

 心を落ち着かせる。

 ――やる。やれる。

 念じ、覚悟を決めた。

 ――そうだ。戦う為にこれを取りにきたんだ。

 春は部室から出た。不安、恐怖が混じった、しかし精悍な剣士の表情(かお)で檜高を見据える。

 檜高は左手に持った学校指定のスポーツバッグを揺らしながら口を開いた。

「やっぱりいた! もう、別の人かと思って心配したよ」

「なんで、あたしを狙うの」

 これを聞いて檜高は笑い声を上げた。胸の前で何度も手を叩き合わせる。

「あんたさー、人の話きいてた? この前いったでしょ~。ムカつくからだよ!」

「……そう。でも、だからって黙ってやられるわけにはいかないから!」

 春は右手に持っている物を構えた。

 木刀である。右手で鍔の拳半個したを握り、左手は添える様に柄を握った。

「うあ~流石! 様になってるね。 じゃあ私は――」

 檜高は右手を春へ翳した。

 ――あれがくる! 

 春は摺足で右に素早く移動する。

「あん? あんた――」

 構えを其の儘に左へ、右へ、摺足で素早く小刻みに動く。

「ちょっと! 動くんじゃねえよ!」

 檜高が怒鳴った。

 倉庫で檜高の能力を体験した時から現在までの短い時間で“もしかしたら”という予測を春は立てていた。

「やっぱり、テレキネシスね」 春は力の篭った目を檜高へ向ける。その脳裏には部室で見た超能力の本が思い起こされていた。そこに書いてあった超能力の中で、これが一番合致している。念動力テレキネシス念力サイコキネシス。同一とされる事もあるが、彼女が見た本では別物として紹介されていた。

 『物体に思念を送り込んで、その物体を直接操作する。サイコキネシスとの一番の違いは思念を作用させる媒体の有無である』

 春は柳の話を思い出す。

 ――超能力には個人差があり得意不得意がある。

 あの時。自分が逃げ出した時に檜高は追ってこなかった。本当に自在に操れるなら、直ぐに操ればいいだけだ。そして投げた石が当たっただけで力が解けた。

 ここから春は答えを導き出していた。

「その力――」

 この力には相当な集中力がいる。柳と同じく距離が関係するのかもしれない。物体を直接操るのなら、その大きさ、質量も関係があるのかもしれない。少なくとも自分サイズの人間を操作するには、完全に止まっている状態でなければ無理なのではないか。

 現在のやり取りでこれは確信に至った。

 動き続ける。的を絞らせない。能力を発動してから体の自由がなくなるまで間がある。この間に動けば操られない。

 これに対し檜高の目が据わる。そして忌々しそうに舌打ちをした。めんどくせえ。そう言っている様である。

「もう、やめよう」

 春は言った。平静を装っていた。これは懇願だ。これ以上はやりたくない。私的な戦いで剣を振るいたくない。

 試合では味わった事のない感覚が春の全身を走っていた。

 剣道の大会では早く戦いたい。絶対に勝つ。という意気込みが自然と湧いてくるものだが、これはなんだ。打ち込む隙があっても打ちたくない。こんな感覚があるのか、と落としそうになった木刀の握りを改めた。

「んなこと言って、勝った気になんなよ!」

 言いながら檜高は三歩四歩後ろへ下がる。それから持っているスポーツバッグを開いた。すると、パパパとバッグの中から何か飛び出し宙を舞った。

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