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―怪奇行―  作者: カンナビス
10/19

calm before the storm

「はぁー」

 春と関谷から何があったか聞いた重人は、呆ける様に声を出した。

 部室には重人、春、柳、関谷の四人が思い思いの場所に座っている。

「て事は、その一年と檜高敦子が組んで、何かを行っているという事か」

 関谷がメガネを弄った。

「そうとは限らない。とりあず分かるのは、この二人の超能力者は非常に好戦的で、殺傷力も高いって事ね」

 と、まとめる柳に関谷は「流石は真央美君」 と唸る。

 ――何が流石だよ! 馴染んでんじゃねえよ!

 重人は内心でぶうたれていた。

 自分だけ超能力を持ってないじゃないか。どんな能力かは知らないが、関谷でさえ超能力が使えると聞いて、やきもきするしかない。

 ――くっそ、目覚めろ俺の力! とう! やあ! えいさ!

 当然こんな事で超能力を得られるわけがない。

 そして、こんな重人をよそに他の三人が話を進めていく。

「これからどうしようか?」

 春は尋ねる様に訊いた。

「その佐藤って一年にこちらの情報がつつぬけなんだろ? 檜高も鈴置君が超能力者だと知っていた……このままだと的にされるだけだと思う。戦うしかないんじゃないかな」

 関谷が頷きながら言った。

 柳も同意見なのか一回頷く。

「戦う……か……」

 春はどこかまだ迷いがあった。

 剣道をやっているといっても、それはスポーツとしてだ。私的に人と争うのは、生来、苦手分野の一つであった。

 やるしかないのか、と自分に問いかける。

 背中の痛みはだいぶ引いたが、それでもあの感触は忘れない。

 ――あれと、戦うのか。

「鈴置君?」

「鈴置さん?」

「あ、ごめん……」 春は檜高能力を考える事に没頭していた。

 そんな彼女の姿に、無駄な努力をやめた重人が声を掛ける。

「春、お前は嫌ならやめてもいいんだぜ?」 と彼女の肩を軽く叩いた。

「ばか! 超能力のないあんたこそ!」

 春は頬をやや赤らめた。

「ていうか山田、お前はやめとけよ」

 関谷がメガネを持ち上げる。

 お前なんて足でまといなんだよ。邪魔なだけだ。非能力者め。

 そんな風に思われているんだろう、と重人の怒りがカッと上昇した。しかし、

「これは本当に危ない。お前が腕っ節強いのはわかるが、それでもやめた方がいい」

 関谷から出たのは親身に案じる言葉だった。

「お前……」

 重人はじんと胸に来るものを感じる、はずだった。関谷の次の言葉がそれをかき消したのだ。

「ま、とは言ってもこの中で一番弱いのはお前だがな!」

 関谷は白い歯を見せる。

「やっぱ! お前ムカつくな!」

 重人はぐいっと袖をまくって、今にも殴りそうな体勢をとった。

「おー? 殴るのか。そんなもの能力があるかぎり当たるか!」

「おし、マジでやってやろうじゃん!」

「ちょっと! そういえば関谷くんの能力って何?」

 春の質問に一同がそう言えば、と頭上にビックリマークを作った。

 すかさず重人はジャブをいれる。

「本当は能力なんてないんじゃないか?」

 これを聞いて関谷はフンと鼻を鳴らす。

 そして徐に学ランの胸ポケットから、メモ帳とペンを取り出した。

 何か書くとそのページを破り一回、二回と折畳んだ。

「十秒後、あけてみろ」

 関谷はその紙を重人に渡す。

 一同は、なんだなんだと好奇の目を紙に向ける。

「クシュッ」

 柳が可愛らしいくしゃみをした。

 男子のそれとは違い、近くで見ていなければ気付かない程小さなものだ。

「ほら、開けよ」

 関谷は自信満々で促す。

 重人は言われるままに紙を開いた。

 そこには『真央美君が数秒後にクシャミをする』と書かれている。

 一同は「おお!」 と声を上げた。

 普段そんな風じゃない柳でさえ驚きを隠せないようだ。

 重人は感心した風に「お前、手品の才能あったのか」 と関谷をからかった。

「馬鹿か! 手品なわけがあるか! これが僕の能力だよ」

「くしゃみをさせる能――」

「予知かしら?」

「流石は真央美君。鈴置君が能力者なのも檜高敦子とのやり取りを“見て聞いて”知ったのさ」

 関谷は満足そうに頭を縦に振ると話を続けた。

「まあ、正確には予知というより、可能性の映像化と言った方がいいかもしれない。だから何パターンも見えたりするし、逆に何も見えない事もあるんだ。そういう時は、僕の脳の限界を超えてるって思う事にしてるけどね。いくつも見えた場合は、最も濃い映像がパーセンテージの高いものらしい。何度か試した限りだと」

「お前、その能力ずるくね?」

 自分は能力すら発現していないのに、と重人は些か不満そうである。

「でも――それほど万能ってわけでも無いようね。その説明を聞く限りじゃ」 柳は本のページを捲りながら言った。

 捲る手を止めたページには『予知プレコグニションとは』と書かれている。それから予知に対する仮説や過去に起きた事例などが記されていた。

「ああ、断定は出来ないけど見える可能性は、あくまで僕の脳が無意識にシミュレーションした結果だから。長い時間つかったり、連続で使ったりすると酷く疲れるし、気絶した事もあるんだよ実際。それに僕以外は見る事が出来ないみたいだしね」

「ほほう」

 重人は嬉しそうな声を上げた。なんだ蓋をあければ弱点だらけではないか。

「ま、それでも能力が無い誰かさんよりはマシだけどな!」

「なにぃ!」

 重人と関谷はまた言い争いを始めた。

 柳が「それより!」 と止めに入り言葉を続ける。

「今は、どうやって相手に対抗するかを考えなきゃだめね」

 神妙な面持ちの彼女を見て二人は争いを止めた。

 言うとおりだ。今考えるべきは他にある、と重人はない頭をひねる。

 結局のところ佐藤を操っている人物が誰か分からなければ、これからも生徒が消え続けるだろう。

 だが佐藤がすんなり教える筈はない。

 四人で考えているうちに窓からさす日差しも随分弱くなってきた。

 これ以上ここで考えていても埒があかなそうだ。

 このまま家へ帰るか。

 何食わぬ顔で、また明日も同じように学校へ行き、同じように授業を受ける事が出来るのか。

 きっともう今までの様にクラスメイトを、クラスメイトとして見れない。

 授業中の居眠りも、弁当を食う事も、安心して出来ないだろう。もしかして姿を消した生徒達は、自分と同じような心境に耐え切れず○区(ここ)を離れたのかもしれない。もし、そうならいい。何とかして佐藤達を止めた後にまた帰ってきてくれれば、と重人は心底思った。

「それにしても何でだ?」

 関谷が怪訝な表情をしている。

「どうしたの?」

 春は首をかしげた。

「いや、ふと今疑問に思ったんだけど、佐藤は何で山田を殺傷しなかったのかなって。警察が来るまでに少しは時間があったわけだろ? 能力的に何もせずに退くのは合点がいかない」

「そりゃ決まってるだろ?」 言いながら重人は顎をしゃくる。

「なんだ?」 関谷は眉を寄せたまま重人へ視線を向けた。

「俺の圧倒的オーラってやつだろうな」

 重人は鼻を鳴らす。それを見て春と関谷は深い溜息をつく。

 こいつの思考回路はどうなっているんだ。関谷はわりと真剣に考え目を細めた。

「意外と間違ってはいないのかも」

 重人をフォローしたのは柳だった。しかもその表情は真剣である。

「ちょっと、柳さん?」

「真央美君……本気でいっているのか?」

 重人はニシシと歯を見せている。

 柳は視線を三人へ流す。

「いえ、山田くんのオーラはしらないけど。超能力を得たからといって、その人の本質はそうそう変わる事は――いいえ、忘れてちょうだい」

 聞いた三人は互いに顔を見合わせると首をかしげた。



 数メートル四方の空間。ここは鼻の感覚を鈍らせる。暗いせいで視力もあってないようなもの。像を認識するのが精一杯だろう。

「いい加減、倉庫(ここ)で待ち合わせするのやめませんか?」

「わたしに言わないであいつに言えばいいでしょ」

 その暗闇で二つの像が会話をしている。

 一つは小柄。もう一つは小柄な像よりもやや背が高い。しかし華奢だ。

「……」

 小柄な影は黙り、倉庫内を周りだした。舌を打つ音が鳴り像の動きが速くなる。

「てか佐藤さ、あいつらの動きはどうなの」

 華奢な像の言葉が小柄な像――佐藤拓巳を捉えた。

 佐藤は動きを止めて華奢な象へ向く。

「ん?」

「なにとぼけたふりしてんのよ。どうせワンコで尾行してんでしょ」

「今呼び戻しましたよ」 言いながら佐藤は手を掲げた。

「わたしは鈴置春をやるわ」

 華奢な象が言う。その声には怒気が篭っている。

「檜高先輩、なんでそんなに鈴置先輩に拘るんです? そもそもあんたの目的は――っと、失言」

 華奢な象――檜高敦子は佐藤へ鬼気を飛ばす。暗闇の中でもはっきりとわかるほど高ぶった気が彼を黙らした。

「ふん、気に食わないのよあの子」

「それが理解できないんですよね僕には」

「そうでしょうね」

「だってですよ? 基本的なスペックは檜高先輩の方がうえじゃないですか?」

「ふん。煽てても何もないわよ」

「そんなつもりはないです」

「てか、他の二人はこないの?」

 檜高が髪をかきながら言った。女子特有のその動きは暗闇の中でも艶めかしさがある。

「どうでしょう。“あの方”が呼んだのは僕らだけなんじゃないですか」

「彼、は仕方ないにしても寺尾の奴は何やってるのよ」

 檜高が忌々しそうに舌を打つ。

 佐藤は「ああ」 と感慨なさそうに声をだした。

「で、あいつはまだなの! 呼び出しておいて」

 最初から握っていたのか手に持っているスマフォの画面をタッチする。明かりで顔が照らされた。時間を見る。

「もうこんな時間か」

 言いながら画面に触れメールの受信がないかチェック。一件きていた。それを開く。

「ふーん」 檜高は眉を寄せながら声を出した。

「なんてきてたんです?」

「今日は動かないらしい。二人で始末しろだって」

「まあ、僕と檜高先輩なら余裕でしょう」

「ええ、でも柳真央美は要注意よ。あれは何を考えてるかわからない」

 檜高は顎に手を当てる。

 佐藤の眉が上がる。そして、

「そうですか? 僕にはあの人の事なんとなく分かるんだけど」

「は? 笑しにきてるの? 校内一のいじめられっ子だったあんたが、校内で別格扱いされてる奴をどう分かるっていうの」

「だからわかるんですよ。天才と馬鹿は紙一重っていうでしょ」

「意味わかんないわね。これからどうする?」

「尾行させてた犬を待ちます」

「そうだったわ」 この言葉を最後に二人は会話を止めた。

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