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13cards  作者: 天野 美羽
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酒場(ビスキイン)

――ギリッシュ王国 ダンダグラス地方 ライラックタウン 酒場――




俺とルナは、西部劇によくあるような酒場の入り口を手で押し開け中に入った。


中はかなり繁盛しており、基本的にはむさ苦しい男が多かったが、若い女性も少しは居るようだ。


ちょうどカウンター席が2つ並んで空いていたので、俺は左側、ルナが俺の右隣に座る。


「これでクエスト完了と。お疲れ様」


ルナが伸びをしながら言う。


「ここに座るまでがクエストなのか?」


「いやいや、この辺は私の気持ちの問題だ」


「ふーん」


俺は酒場の中をキョロキョロと見回す。


当然だが俺は未成年だし、特にこの手の店に縁があるわけでもないので、こういう大人向けな店に入るのは初めてだ。


あるテーブルでは葉巻を咥えながら仲間内でポーカーと思われるトランプゲームをしているオジサン集団もいるし、酔った勢いなのか腕相撲なんてしている若い男二人組も居る。


その時、ピピピ、と音がしてルナの正面に小さくウィンドウが出た。「メッセージを受信しました」と書いてある。


ルナがそれをクリックしてメッセージウィンドウを読み進める。


どうやらメッセージウィンドウの内容は受信者本人しか読めない仕様になってるらしく、俺の方から見てもただの真っ青なウィンドウだった。まったく文字が書かれていないように見える。


「……ちょっと出てくるよ。君は席をとっておいてくれたまえ」


「えっ、どこ行くんだよ」


「すぐ戻る」


そう言ってルナは早々に店から出て行く。


「とっておけって言われても……俺荷物なんて持ってないし……」


置く物が何も無いんじゃ仕方ない。座られそうになったら一言言えばいいか。


「ご注文はお決まりになりましたか?」


カウンター越しにこの店の看板娘と思われる女の子が俺に聞いてくる。


清楚な黒髪ロングに、ルナと比べてだいぶ小柄な体型。たぶん155cm前後だろう。営業スマイルだとは分かっていても、その笑顔はとても眩しかった。


「えっとー、ビ……じゃなくて、メロンソーダで」


「かしこまりましたー」


危ない危ない。つい店の雰囲気に飲まれてまだ頼んではいけないものを注文するところだった。


俺の左側でビールを飲んでた筋肉質な男がそんな俺を見て小馬鹿にしたような笑いを浮かべ、ジョッキいっぱいのビールを一気飲みして俺に自慢気な顔を見せ、お金を机に置いて去っていった。


「お待たせしました。メロンソーダです」


「はやっ!!」


俺の前にメロンソーダが出される。しかもアイス付きだ。丁寧にストローとスプーン両方入っている。


「あのー……失礼ですが、お見かけしないお顔ですね。余所から来られた方ですか?」


「あー……まあそんなところかな……たぶん」


我ながら歯切りの悪い返事で返す。仕方ない、俺自身もよく分かってないのだから。


そこへ全身黒フードの男が俺の隣りに座った。ルナにとっておけと言われた席だ。


「あ、すいません、そこ……」


と言いかけ言葉が止まった。


フードで顔がよく見えないが、左目に黒い眼帯アイパッチをしている若い男だった。第一印象、正直、怖い。


「いつもの」


男が小さく、しかしハッキリとした声で注文する。


「かしこまりました。ところでその……そこの席、このボロボロさんのお連れ様が戻ってくる予定なのです。申し訳ありませんが、お譲りいただけないでしょうか?」


女の子が俺の方を見て少しだけ笑い、慌てて取り繕うように抑えて言う。ボロボロさん、って……確かにまだ囚人もどき服がメインだけど……。


「……」


「……」


「……」


3人の沈黙が重なる。格好のせいかもしれないが、この男からはなんか殺気のようなものを感じる。


そしてゆっくりと男の口が開かれた。


「…………持ち帰りで」


「ありがとうございます!!」


男は立ち上がり、懐から財布を出してお金をカウンターに置いた。その時に、俺の右手のエースリングに一瞥くれたような気がするのは、俺の被害妄想だろうか。


女の子は男に瓶に入ったミルクをカウンター越しに渡してお金を受け取った。


男が受け取る時に小さく「あっつ」って聞こえたから、多分ホットミルクなのだろう。


男は店を出て右側に曲がっていった。


「……あー怖かった。なんだったんだ今の男。見るからに怪しい格好だし、眼帯してたし……海賊?」


俺は眼帯イコール海賊というただの偏見で言ってみる。


「えっ? あっ、違いますよー」


女の子は笑いながら答える。


「まぁあまり詮索しないであげてください。あの人にも色々事情があるのですから。それに、大事なお客様の情報を守るのも、店員の大事な努めです」


もっともだったので、これ以上首を突っ込まないでおく。


「ポテトおかわり!! 山盛りね!!」


後ろのテーブルのどこからか、元気な女の子の声が聞こえた。「ちょっとアヤカ、これでこのお店に入ること7回中ポテト664皿も食べてるわよ!」と追加注文を止めようとする、少し小さめの女の子の声も聞こえてくる。


そんな会話や男たちのくだらない冗談をこっそり聞いたりしながらメロンソーダを飲んでいると、突然、店の外から男の叫び声が聞こえた。




「喧嘩だ喧嘩だー!!」




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