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13cards  作者: 天野 美羽
3/9

指(クリック)

身長は俺よりやや高め。174cmってところだろうか。かなり細身の足長でモデルとしても十分通用しそうなレベルだ。


銀色の長い髪に、右目に単眼鏡モノクルを付けている。胸は控え目だが、それが逆にモデル体型の良さを引き出しているかもしれない。


白のタキシードに白のマント。格好や背丈は男っぽいが、髪や肌や顔などはやはり女性独特の何かを持っている。


「クエスト……?」


俺はゲーム内でしか聞かないような単語を聞き返しながら立ち上がる。


「そう、君を救助するように言われた。依頼主は知らない人物だったが……報酬が高かったのでな。しかもSランクのクエストともなれば、解決に当たれる人間もかなり限られる」


「えっと……」


何を言ってるんだこの人は? さっぱり話が掴めない。


「誰が俺を助けろと……?」


「さっきも知らないと言っただろう、まったく君は変わった人だな。……これを見てみたまえ」


そう言ってその白服の女は右手の人差指をXを書くように振る。


すると、青色半透明のウィンドウのようなものがそいつの指先に出てきた。まるでRPGゲームのステータス画面みたいだ。その画面に指先でタッチを繰り返しながら手際よく操作すると、一通の手紙のようなものがその女の左掌の上に実体化した。


「普通、クエストというものは酒場の掲示板に発表され、私のような暇人はそこから選んで任意に受けるのだが……これは私宛に直接メッセージメールの形で送られてきた。よほど高難易なことなのか内密にしたいのか……と思い中を開けたらこれだ」


白女は俺に手紙を差し出してくる。


「……読んでいいのか?」


「もちろんだ。被救出人は救出を依頼してくれた人物の依頼内容、特に報酬の欄を謁見する義務がある。ちなみに私の名前はルナ、よろしく」


「あ、俺は」


「ショウだろう? 知っている」


「なんで俺の名前を知ってるんだ?」


ルナは手紙を指差す。


俺は便箋型の封筒から中に入っていた1枚の紙を取り出し広げる。




題名:知人を助けて下さい

種類:救出

依頼主:リシア

ランク:S

前金:180000μ

報酬:3200000μ


アビス城に囚われの身となっている私の知人ショウを牢獄から救出してください。




「……これだけ?」


あまりにもそっけない内容に俺は少しあっけにとられる。


「これだけと言うか君、これは私が今まで受けてきた依頼の中でも格別に不可解なものだぞ。まず前金。依頼者は普通前金なんてものは払わない。相手が受けるだけ受けて前金貰ってトンヅラする場合もあるからな。しかもこんな多額をだ。よっぽど私を信頼しているのか、かなりの富豪家なのか……。しかしここでもう一つ。私はこれでも少々顔が売れていて広い方でね。大概の富豪家の名前は網羅しているのだよ。しかしリシアという名前は聞いたことがない。こんなに気前良く払える家の人間の名前を私が知らないはずがない。君に聞けば何かわかるかもと思ったのだが」


「いや、俺もこの人のことは何も知らない……」


「そうか……まぁいい。まずはクエストの完了が先決だ。装備は持っているか?」


「装備?」


「そう、装備だ」


「……?」


「……」


「?」


「……まったく君は、よほど強く頭打ったりでもしたのか? いいか、私の真似をしてみろ」


そう言ってルナはさっきと同じようにまたX字に指を振る。ウィンドウが出る。


俺も倣ってやってみる。何も起きない。


「……それ出ないぞ」


「そんな馬鹿な。いいか、こうだ」


もう一度同じようにやってみる。やはり何も起きない。


「……ところでさっきから気になっていたのだが、君のそれは装備じゃないのか?」


そう言ってルナは俺の指輪を指差す。


「え、これ?」


俺は自分の右手の指輪を指差す。


その時、偶然にも左手の人差し指が指輪の赤い宝石にわずかに触れた。


その瞬間俺の眼前にも自分のウィンドウが表示された。




ショウ  Lv.14 HP:278/278 MP:131/131 状態:ノーマル




メインと思われるウィンドウにそう表示されてあり、その下にバーのようなものが2本あった。おそらく赤いバーがHP、青いバーがMPを表しているのだろう。


メインウィンドウの右側には付箋のようにタブがいくつかあり、アイテム、装備など分類されていた。本格的にRPGに似ている。


「これか?」


俺は装備タブを指差しながら聞く。


「そうだ。ん……? ちょっと待て!!」


ルナが俺のウィンドウを自分にとって見やすくするため、俺の隣に回ってくる。


「おい声が大きいぞ、それに近い」


「SS持ち……」


「?」


ルナはどうやら右のタブの一番下にあるSSというタブに興味があるようだった。


「これがどうかしたのか?」


「SS……スペシャルスキル……。これは一部の人間しか持ってないのだよ。大多数の普通の人間はまずこのタブ自体を持っていない。存在しないのだ」


「そうなのか……でもなんで俺がこれを……」


「それは分からないが……これは大変なことやと思うよ。コレは教育やろうな」


「え」


なんか急に関西弁が聞こえた気がしたんだが俺の気のせいなんだろうか。


「なお私もSSタブを持っている模様。知り合いというか、一回だけ他にもSSタブを持っている人物を見かけたことがある。でもそれっきりだ、私の広い人脈でも。君が2人目。それぐらい貴重なのだ」


「へー……」


やっぱり口調が少しおかしい気がするのはさておき、俺はSSタブに指で触れてみる。メインウィンドウの部分がさっきのステータス画面とうって変わり、何も表示されていないただの青色の半透明画面になった。


「まだ一個もスキルを持っていないようだな……まぁ仕方ないね。レベルも低いようだし、SSタブだけでもまだまだ解明されてないタブだというのに、その中のSSが覚醒する基準は本人にもわからないのだ。偶然に偶然を重ねて覚醒させていくしかなかろう。私もそうしてきた」


「は、はぁ」


「さてと、とにかく装備だ装備」


「そうだった」


俺は装備タブを指で押す。


「ちなみにこの動作をクリックと言うのだ。知っているだろうが念の為」


「分かった」


知らなかったから念の為覚えておく。


装備ウィンドウはSSウィンドウに比べると細かい作りになっていた。




頭部:--- --- 胸部:--- --- 胴部:--- --- 腕部:--- --- 脚部:--- ---


右手:--- 左手:--- 右指:エースリング --- 左指:--- ---




「エースリング……この指輪のことか?」


俺は自分の右手人差し指に嵌ってる、母さんから貰った指輪を見る。


「どこかで聞いた名前だな……」


ルナが何かを思い出すように顎に指を当て考え事に耽る。その間に俺はウィンドウのエースリングという文字をクリックしてみる。




すごいゆびわ




説明画面にはただそれだけが表示されていた。簡潔というか、手抜きにも程がある。まるで幼児が考えそうな説明文だ。


説明画面の上の部分に、各ステータス値への具体的な補正値が表示される画面があるのだが、どこも+にも-にもなっていなかった。プラマイゼロの装備品ということになる。


俺は画面の最上部左側の、左矢印ボタンをクリックして画面を装備ウィンドウに戻す。


装備ウィンドウを眺めながら、よく見ると手を除いて各部位につき2つ装備できるようになってるんだなーとか考えていると、さっきまではなかった装備ウィンドウ上部のボタンに気づいた。




最強




これはアレだ、これを選ぶと、自分がアイテム欄に持っている装備アイテムの中から、自動で一番攻撃力と守備力が高くなる装備を選んでくれるっていうボタンだ。RPGゲームでは割と一般的にある。


まあ俺は装備アイテム一個しか無いんだから今は関係ないだろうと思いつつも、なんとなく最強ボタンをクリックしてみた。


その瞬間、おかしなことが起きた。




頭部:シークレットヘルム --- 胸部:--- フェニックスウィング 胴部:バイブルベルト --- 腕部:ファントムアーム --- 脚部:スターターシューター ---


右手:エターナルソード 左手:マッシブシールド 右指:エースリング --- 左指:イージスリング ---




「!?」


俺は驚いてつい声を出す。


「どうした? おぉ、装備を持っていたのだな。ふむふむ……どれも初めて見るものばかりだが、性能が高いのが私にはすぐ分かる。14レベルなのにやるなあ君は。さすがダテにSS持ちじゃない。それに、よく似合っているぞ」


ルナは俺を見ながら冷静に感想を述べる。


俺も自分を見てみると、格好が少し変わっていた。


灰色のボロ布一枚なのは相変わらずだったが、その上から腰の部分で黒いベルトをしており、両腕には銀色の篭手をしていて、足も銀色の靴を履いていた。しかし変わったのはこの3つだけで、頭部の兜、翼?、剣、盾、左手の指輪は俺には見えなかった。やっぱりなんかのバグか?


メインウィンドウに戻ってみるとステータスの数値が変わっていた。




ショウ  Lv.14 HP:4725/4725 MP:2368/2368 状態:ノーマル




「よし、これで準備は整ったな。一刻も早くこんなカビ臭いところからは出るに限る。君は武器を持っていないようだが……まぁ篭手と靴さえあればなんとかなるだろう。私のSSは戦闘回避のものが多いしな。君は私の後ろにしっかりついてくればいい」


「……戦闘!? まさか、戦うのか!?」




「当たり前だろう。ここは『剣と魔法のファンタジーRPGの世界』なのだから」





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