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13cards  作者: 天野 美羽
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 プロローグ

――西暦2337年 日本 東京 空ヶ谷区 某所――



「翔ー!! ご飯出来たわよー!! 早くしないとカレーにカルピス入れちゃうわよー!!」


ベッドで仰向けになって携帯ゲームをしている俺を、階下から呼ぶ声がする。声の主はもちろん、おせっかい焼きで昔からお隣の家に住む幼馴染美少女……なんかではなく、母さんだ。


「今行くー!!」


下に聞こえるように返事したあと、俺はのそのそと起き上がる。


「今いいところだったのに……」


俺はセーブだけして、折りたたみ式の画面を閉じてスリープモードにする。




下のリビングに降りると、この時間にしては珍しくオヤジが仕事から帰ってきていた。


息子から見ても冴えない風貌。いい年して茶色に染まった少し乱れた髪。微妙にプリンになっている。無精髭にメガネ、平均的な身長に少しだけ出た腹。とにかくどこにでもいそうな普通の父親。性格は割と温厚だが真剣な時は真剣。しかし基本的にぐーたら人間。「喋ることが唯一の能」と本人は言っている。


「はい、ここから自分で入れてねー」


と言いながら机の中央にカレー鍋を置くのは母さんだ。


オヤジと違い、フランス人形・ロシア人形、絶世の美女なんて言葉じゃ収まり切らないほどのとにかく美形。チート級。神様がこの人だけ溺愛したのではないかと思うほど。これでも4◯歳なのだが、20代前半と偽っても遜色が無い肌のツヤ。今は料理の邪魔にならないよう金髪を一つ結びにしている。40代にしてなお抜群のプロポーションを誇っており、本人もそれをしょっちゅう自慢している。結婚前は世界的大金持ちのお嬢様だったらしいが、父親との入籍の時に財産のほとんどを実家に残したらしい。もっとも、持ってきた分だけでも一生遊んで暮らせる分はあるとかなんとか。まあ今は見ての通り普通の専業主婦。ちなみに金髪は地毛だ。


こんな正反対な二人がどうやって出会ったかというと、母さんの家にオヤジが執事として拾われて云々という経緯があるのだが、それはまた別のお話。


「おっ、今日も美味そうだなー。20年前とは比べ物にならないぞ」


オヤジが鼻をヒクヒクさせる。


「もうっ、それは言っちゃダメって言ったでしょう? 私だって成長してるんですからね♪」


「そうだな、ママの成長は留まるところを知らないな♪ 特にその豊満な胸とか胸とか胸とか」


オヤジが手をワシャワシャさせながら母さんににじり寄る。俺の父親が今、ただの変態オジサンに成り下がった。


「やめてくださいーっ!! 子供が見てます」


「おっ、翔いつの間に降りてきてたのか、父さん気づかなかったぞ。お前もついに忍者の力に目覚めたか」


「んなわけねーだろ……。つーか忍者なんていねえし」


俺はため息混じりにそう言いながら自分の席につく。両親の人目を憚らないイチャイチャはいつものことだ。なんで俺の下に弟妹が出来ないのか不思議なぐらいだ。オヤジの小ボケ癖もいつものこと。




『いただきまーす』


それぞれ自分でライスの乗った皿にカレーをよそい、挨拶して食べ始める。


オヤジと母さんが隣に座り、俺は二人の正面に来る形だ。


「ところで翔よ。お前も18歳になったわけだが」


「俺まだ17だけどね」


また小ボケ。適当に構ってやる。


「む、そうだったか。17というと、ママがちょうど俺と出会った年齢だなぁ」


「あの時のパパはホントに頼りになりませんでしたねー。本の整理を手伝ってもらってたら勝手に乙女の秘密を盗み読んだり、お皿洗いを頼むと2%のお皿が必ず割れて帰ってきたり」


「あの時はあの時だよママ。大事なのは今だ」


「そうね。翔。貴方に大事なものを渡さなきゃいけないの」


「俺に?」


そう言うと母さんは自分の右手の薬指から指輪を外して、俺に差し出してきた。もちろん右手だから結婚指輪では無いことは明白なのだが、俺は母さんがそれを外してるところを見たことがなかった。俺が物心ついた時には既にそれは母さんの指にあった。子供ながらに大切な指輪なのだろうと直感していた。もしや「外れない」のではすらと思ったほどだ。


指輪を手にとってみる。まじまじと見るのはこれが初めてだ。指輪全体に複雑な模様が絡み合っていて、赤い小さな宝石が一つ付いている。裏面?を見ると、A◯◯◯◯ S◯◯◯◯i◯aと名前みたいなものが彫られていた。字が読めなかったのは掠れてるせいなのか、それとも元々俺の知らない文字なのか、それすら分からない。


「これね、大事な指輪なの」


「……まあ……なんとなくわかるけどよ……、でもなんで急に俺に?」


「俺がだんだん衰えてきたからだ息子よ。年は取りたくないもんだなぁ」


「オヤジが年取ることと母さんがこれを俺に渡すことに、何の関係があるんだよ」


「私達はね、その指輪を守らなきゃいけないの。だから若い貴方に託さなくちゃいけないわ」


「うーん……」


どうも話が結びついてないというか、盛大に端折られてる気がするんだが……。


「とにかく、俺がこれを持ってればいいんだな?」


「そうだ。これからずっと嵌めているのだ。風呂の時も寝る時も」


「錆びたりしないのか?」


我ながら安っぽい質問だと後で思った。母さんがもし本当に今までずっと嵌めてきたのなら、風呂の水ごときで錆ないのは明白なのに。


「大丈夫よ。それどころか、象が乗っても壊れはしないわ。でも奪われちゃダメ。誰かに貸したりもダメ。いい? 絶対よ」


母さんがいつになく真剣な目で俺を見てくる。オヤジが真剣な話をする時と同じ目だ。まったく、こういう時ばっかり似たもの夫婦だな。




「分かった。なんだかよく分かんないけど、俺が守るよ」


そう言って俺は指輪を嵌めた。




嵌めた瞬間、指輪からまるで人間のように滑らかな機械音声が流れた。




「Welcome to Thirteen Cards」



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