『水のはじける音』
私は都心のマンションに一人暮らしをしている。独身なわけだから時間にも余裕があり、好きなことをして、食べたいものを食べれる。仕事も割と給料がいいし、達成感もある。
だが最近、一つだけ悩みがある。どうも最近、ウチの蛇口の様子がおかしいのだ。
しっかり締めているはずなのに夜になるとピチャンピチャンと水のはじく音が聞こえてくる。しかも奇妙なことに、見に行ってみると水はなぜかしっかり止まっているのだ。
最初はねじが緩んでいるんだろうと思ってペンチできつくしめなおしたりした。だけど夜になるとやはりピチャンピチャンと聞こえてくる。
そんなの気にしなければいいという人もいるだろうが、私は割と神経質なのだ。一度気にしだすと気になって眠れず、そのまま朝まで一睡もできなかったこともたびたびある。
寝不足な日々が続き、そのためか仕事でもミスが多くなってきた。同僚の一人がそれに気付き、話しかけてきたので相談してみることにした。同僚はそんなに気になるならと、一度私のマンションに泊まりに来てくれることになった。
夜。
私は同僚と一緒にマンションに帰宅し、眠るまで酒でも飲んで雑談をしていた。
そろそろ話も尽き、酔いも回って眠たくなってきたので眠ることにした。今日は酒も飲んでいるんだ。久しぶりに熟睡出来るだろう。俺は安心して床に入った。
どれぐらい寝ていたのだろうか。突然目が覚めた。
『ピチャン、ピチャン』
あの水をはじく音が聞こえる。
私は隣の部屋で寝ている同僚を起こし、この音を聞かせようとした。しかし同僚はそんな音全然聞こえないという。
そんな馬鹿な。なぜこいつにはこの音が聞こえないのだ。私は訳も分からず台所へ向かい、蛇口を確かめた。しかし蛇口からは水は落ちていなかった。この音は私にしか聞こえないのか?いったいこの音はなんなのだ。
翌朝。
結局私は一睡もできぬまま、毛布にくるまっていた。すると突然、玄関からチャイムが鳴る音が聞こえた。開けてみるとそこには警察官が二人立っていた。
「朝早くすいません。実はこの部屋の上の階で首を吊った男の死体がみつかりまして。数日間放置されたままだったみたいなんですけど、なにか知っていないですかね・・・」
私の頭の中ですべてがつながった。
毎晩聞こえていたあの水のはじく音。
あの音のの正体は・・・
私のベッドの真上で首をつって死んだ男から滴り落ちた、血のはじける音だったのだ。