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第5話 敵前アピール

第5話、投稿します。


少し構想を変更……予定していた落とし穴はもう少し先に……



世界の最果て。暗雲広がる大空の下、荒れ果てた大地に悠然とソレは存在していた。


魔物たちの統率者……魔王の根城、すなわち魔王城である。



その最奥に位置する大広間にて



「 最近、人間どもが異世界から勇者を召喚したらしいじゃねぇか 」



筋骨隆々の肉体の上に髑髏を象る黒い鎧を纏った、粗暴そうなオーガ族の男が言う。

彼は『 剛力のゴルドバス 』。

『 剛力 』の二つ名が示す通り、魔王軍最強のパワーを誇る魔族四天王の一角である。



「 へぇ~~~、ソイツってどんなヤツ? 」



ニヒルな笑みを浮かべながら軽い口調で話を振るのは、年の頃13~14くらいで幼さの残る吸血鬼の少年。

先ほどのゴルドバスとは対照的に小柄だが、軽装ながらも禍々しい深紅の鎧を纏っている。

彼は『 神速のセロス 』。

『 神速 』の二つ名が示す通り、魔王軍最速のスピードを誇る魔族四天王の一角の二人目である。




「 ん、こんなの 」



そう言って片手をかざす、ローブ姿の青い長髪の少女。

彼女が手をかざした空中に、人間大の巨大な鏡が出現する。

そして鏡の表面が波打ち、その中に一人の人間の姿が映し出される。

彼女は『 幻夢のリュシン 』。

見た目は人間と変わらないが、この少女は黒魔術行使に特化した魔女であり、

『 幻夢 』の二つ名からは少し分かりづらいが、魔王軍最大の魔力を誇る魔族四天王の一角の三人目である。


彼女が現在行使しているのは、遠見……すなわち遠く離れた光景をリアルタイムに映し出す魔術である。



鏡が映しているのは一人の人間の青年。

見たところその特徴を挙げるとするなら、黒目黒髪のスラリとした長身。

眼鏡を掛けている事も相まってか、理知的な印象を受ける端正な顔立ち。


そして他に気になる点を挙げるならば、青年の肩に乗っている猫くらい。


茶と黒と白の三色の毛柄を持つカラフルな猫。

そんなモノが勇者らしき青年の肩に、当たり前のように乗っかっているのだから、中々にシュールな光景に見える。


しかし魔族四天王たちにとっては、それ以上の興味を引かれるような事ではなかった。



「 けっ、あれが勇者だとぉ~~?

  ヒョロヒョロしてて全然大した事なさそうじゃねぇか! 」


「 アハハッ、ほんとほんと!

  見るからに弱そぉ~~♪ 」


「 うん 」



細身でしかも眼鏡を掛けている事がそう印象付けているのか、青年を口々に酷評する魔族四天王たち。

しかし



「 油断してはならん 」



そんな彼らを(いさ)めたのは、白髭を生やした耳の長い老人。

彼こそ魔族四天王最後の一角、『 智謀のラグラッド 』。

彼は長寿を誇る種族・ダークエルフであり、魔王に仕える最古参の人物であった。



「 異界から呼ばれた勇者が、我々魔族にとって天敵である事は事実じゃ。

  魔王陛下が敗れる事など万一にもあり得ぬが、用心するに越したことはないぞ 」



魔王の右腕として、過去幾度となく異界の勇者を迎え撃ってきた彼は、

勇者が決して油断ならない相手である事を知っていた。

最古参ゆえに四天王のまとめ役も務めている彼は、残りの若い三人の言動をこうして(たしな)める事も多い。



しかし



「 へぇ~~じゃあさ、ボクが少し遊んできていいかな? 」




四天王最年少、セロスが口を開いた。



「 人間の勇者がさ、どれくらい強いのか前々から興味あったしね~~

  少しはボクを楽しませてくれると嬉しいしな~~ 」



まるでラグラッドの忠告など聞いてなかったように、おちゃらけた口調で話すセロス。


若くして魔族最強の四天王の座についたセロスは、自身の実力に絶対の自信を持っていた。

また魔族こそ万物の霊長と信じており、人間をはじめとする他の種族を下等なモノだと見下していた。

そんな典型的な魔族である彼は、異界の勇者とは云え、たかが人間が自分たちに敵うとは微塵も思っていなかった。



「 おいおい、テメェだけで勇者を一人占めか?

  オレだって勇者と闘ってみてぇよ 」



セロスに触発されたかのように、ゴルドバスも口を開く。

彼もまたセロスと同様に自身の実力に自信を持っており、常に自身の力を示すための強者を求めていた。



「 でも弱いんなら、別にボクが始末しちゃっていいよね~~? 」


「 けっ! 好きにしな。

  どっちにしろオレはよえぇヤツには興味ねぇからよ 」



老将ラグラッドは、自身の忠告にまったく耳を貸そうとしないセロスとゴルドバスに溜息をついた。



「 やれやれ、これだから若いもんは……

  ん? どうしたのじゃ、リュシン?

  さっきから黙っておるが……  」



騒がしいセロスとゴルドバスとは対照的に、四天王紅一点のリュシンは先ほどからずっと黙ったまま、ジッと鏡を見つめていた。

元から口数が多いほうではないが、魅入られたようにずっと鏡の中の青年を見つめ続けていたのだ。


ふと、黙ったままだったリュシンが呟いた。



「 ……この人間(ヒト)、こっちに気付いてる……? 」




「 ……なんだって? 」

「 ……なに? 」

「 ……なんじゃと? 」



リュシンの言葉に、セロスとゴルドバスも反応した。


彼らはリュシンの言っている事がすぐには理解できなかった。

しかしリュシン同様に鏡を覗き、そこで初めて気付いた。


鏡に映されている青年は、ずっとこちら(・・・)を見上げていたのだ。

まるでこちらの視線に気付いたかのように、鏡を通してジッと彼ら四天王たちに視線を返しているようであった。



しかしそんな筈はない。


この鏡の中の光景は、遠見の魔術で遥か遠方を映し出したもの。

これは魔王軍最高の魔力を誇るリュシンだからこそ、出来る芸当なのだ。


当然ながらこの青年が居るのは、遥か遠方の人間たちの国である。


遠見の魔術で遥か遠くから偵察しているというのに、それに気付かれるなどあり得るのだろうか?



「 偶然じゃよ。

  飛んでいるハエを目で追って、偶然に視線がこっちを向いたとかじゃろうて 」



数瞬だけ考えて、ラグラッドはその可能性を否定した。

理由は上記に述べたとおり、そんな事はあり得ないと結論付けたからである。



「 ………… 」



しかしラグラッドが否定したところで、リュシンはどうしても不安を拭えなかった。

彼女には、この人間の青年が偶然こちらを向いているようには思えなかったのだ。


――偵察しているつもりで実はこちらが偵察されている。

鏡に映る青年の視線が、こちらの行動全てを見透かしている……そんな気がしたのだ。



「 そうそう、何かの偶然だって~~

  ま、とにかくアイツはボクのオモチャだから。

  ヒマつぶしの相手くらいに楽しめるなら、

  君たちにも回してやってもいいかもね~~ 」



「 へっ! よく言うぜ。

  気に入った獲物はすぐテメェで一人占めしようとするくせによ 」



「 へっへ~~~♪ 」



リュシンとは対照的に、セロスとゴルドバスはまるで気にしていない様子。



「 ……そう、かもね 」



二人の能天気さに呆れつつ、リュシンも考え過ぎだと、その可能性を捨てようとした。


その時だった。



『 THEエリートにして美の貴公子・小野寺聖。夜露死苦 』



突如聞こえてきた声に、四天王たちの視線が一斉に鏡に向いた。


そして驚愕で固まらざるを得なかった。

鏡の中の青年は、今度はこちらに向かって手を振っていたのだ。



『 そしてこれが俺の嫁の…… 』


『 ンニャァアアア…… 』


『 奈々子だ。こっちも夜露死苦 』



そして猫を抱き上げ、こちらに向かって掲げる青年。

猫の顔が鏡いっぱいにドアップで映し出される。



『 ほら、奈々子の変な顔 』



青年の指で、グニャリと猫の顔面が歪む。



『 フシャーーーッ!! 』


『 うおっ!? こら、奈々子! 引っ掻くなって 』












「 サトシ殿、どうなされた?

  あちらに何か? 」



先ほどからあさってを向き、コソコソ何かしている聖にカストゥールは声を掛けた。

手を振ったりボソボソ喋ったり猫を掲げたりしているが、その先を視線で追っても、そこには天井があるだけで他には何もない。

傍から見て、聖の行動は挙動不審以外の何物でもなかった。



「 いえ、何でもありません。

  ハエが飛んでいたみたいだったから…… 」



――そうだとして、あの不審行動には一体どんな意味があったのだろうか?

そんな疑問を抱きつつ、カストゥールは話を進める事にする。



「 まあ、それはさておき……

  私は依頼の手続きを済ませてきますので、

  サトシ殿は適当に寛いで待っていてください 」



そう言って、ロビー中央の受付カウンターに向かうカストゥール。



「 いらっしゃいませ~~

  ギルド中央本部へようこそ 」



ハキハキとした口調で受付の女性が応対してくる。


聖たちが現在いる所は、王都にあるギルド中央本部。

なぜそんな場所に訪れているのかというと、これも勇者としての冒険の一環である。



「 すまない、私はこういう者なのだが…… 」



そう言うと、カストゥールは懐から身分証を取り出し、受付嬢に見せる。

その途端、受付嬢の表情が驚愕で固まる。



「 あ、あの高名な……!?

  しょ、少々お待ちください。

  ここの責任者を連れてまいりますので 」



そう言って受付嬢は、カウンターから出てフロア奥の部屋へと消えていった。

そして責任者らしい中年の男性を連れて来る。



「 ようこそおいでくださいました、カストゥール様 」



平身低頭とまではいかないが、丁重にカストゥールを出迎えるギルド責任者。

先ほどの受付嬢の反応といい現在のギルド責任者の態度といい、国随一の魔導士という肩書は伊達ではないらしい。



「 うむ、実はですな…… 」



ギルド責任者に事情を話し始めるカストゥール。



聖たちが、このギルドを訪れた理由。

それは王国古くからのしきたりが関係していた。


異界の勇者には魔物(モンスター)と闘うだけではなく、国王から様々な試練が科せられる。

魔王を倒すために必要な強さを得るためだ。

今回、聖たちが向かう『 光の神殿 』には、魔王を倒す牙となる『 聖剣 』が眠っているとされている。

しかしその聖剣を手にするには、番人である守護獣を倒す必要がある。

そして過去に聖剣を手にする事が出来たのは、歴代の異界の勇者たちのみ。


つまり光の神殿に赴いて聖剣を手に入れるのは、聖が真の勇者である事を示すための恒例儀式というわけである。


そして強敵である守護獣との戦闘の際、共闘者の存在……すなわち試練を共にする仲間が認められている。

その仲間を募るために聖たちはギルドに立ち寄り、カストゥールが責任者に掛け合ってギルド一押しの腕利き冒険者を紹介してもらっている最中なのである。


聖は周りを見回す。


王都中央に位置する本部、しかも昼間というだけあり、

ロビーは凄い数の冒険者で溢れかえっている。

人間はもちろん、カストゥールのようなエルフや獣人。

ファンタジー世界の名に恥じず、に多種多様な人種が集まっている。



( この中から俺の仲間が決まるのか )



聖の試練仲間の定員は3人まで、聖を含めて計4人で試練に挑む事になる。

カストゥールはあくまで聖の案内人という位置づけであるため、仲間の三人はこのフロアの冒険者たちから選ばなければならない。



( 出来れば3人とも全て美少女で占めたい。

 けど、やっぱり世の中そう上手くはいかないだろうな。

 ……チクショウ )



そんなどうでも良い事に聖が悩んでいると、カストゥールが戻ってきた。



「 サトシ殿、話は着きましたぞ。

  これから責任者より腕利きの冒険者を紹介してもらえるそうです。

  さ、奥の待合室に行きましょう 」



責任者の男性に案内され、カストゥールと奥の部屋へと歩き出す聖。







「 フリー○様~

  ギルドカード更新をお待ちのフリー○様~ 」



カウンターの受付嬢の呼び声に、聖はピタリと足を止めた。



( なん……だと……? )



この受付嬢は今、何と言ったか?

聖の聞き間違いでなければ……否、聞き間違いである筈が無い。

この受付嬢、某宇宙の帝王の名を口にした。二回もである。



「 更新完了いたしましたので、新しいギルドカードを発行いたします。

  カウンターまでお越しください 」



その呼び声に、大勢の冒険者の人ごみの中から、一人の人物が姿を現わした。

軽装の鎧に腰に剣を携えたいかにも冒険者風な格好をした男性、他に特徴を挙げるとすれば長身で眼鏡を掛けている事くらい。


聖は驚愕しつつも、ある意味納得していた。



「 いやはや、ギルドとは実に便利ですね。

  至るところに支部が存在し、路銀が尽きそうになればその場で稼げる。

  私のような根なし草にとっては有り難いシステムです。

  ……おや? 」



一人で語りながら、その男は聖に視線を向けた。



「 どうもこんにちは 」



ニコニコ笑顔を浮かべながら、男は聖に挨拶してきた。

そして聖の横を通り過ぎ、カウンターへと向かっていく。



「 どうも 」



聖もすれ違いざまに男に会釈する。



考えてみれば驚くほどの事ではない。

この男のことである、いつどこに出現しても不思議ではない。



某宇宙の帝王を偽名に用いたのも、

単にギルドの受付嬢に「 フリー○様 」と呼ばせたかっただけなのだろう。

現代日本人なら誰でも一度は思いつくイタズラ心、それ以上でも以下でもない。



「 サトシ殿? どうされましたか?

  あの男が何か……? 」



急に立ち止まったかと思えば、ずっと同じ男を見続ける聖に、

不思議に思ったカストゥールが声を掛けてきた。



「 いえ、何も…… 」



そう答えながらも、聖は心の中で呟いた。



( 渋谷さん、この世界に来てたなら連絡くれりゃいいのによ )


もう一方の作品は、もう少し派遣勇者の方を進めてから更新しようかなと……orz

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