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第4話 派遣勇者の地味な苦労(?)

第4話、投稿します。

異世界に召喚された勇者は、魔王を倒し世界に平和をもたらすのが仕事である。

しかし異世界に派遣(・・)された勇者は、世界に平和をもたらした後、報酬を受け取るまでが仕事である。


故に派遣勇者である小野寺聖は魔王討伐の前に、召喚側に報酬の約束を取り付ける仕事をしなくてはならない。


そしてその交渉相手が聖の前……玉座の国王であった。



「 レミィよ。

  その者か、異界の勇者とは 」



国王の問いに、聖の横に控えていたレミィが答える。



「 はい、お父様。

  異界の勇者・オノデラ=サトシ様でございます 」



聖を召喚したレミィは『 召喚の巫女 』であると同時に、国王の娘……すなわち一国の姫だという。

その事実をこの場で初めて知りながらも、聖は大して珍しくもない設定だと驚く事きはしなかった。

そんな事よりも聖にとっては目の前の国王の動向に注目していた。



「 うむ……中々よい面構えをしておるではないか。

  勇者よ、余は悪逆非道を繰り返す魔王を討ち滅ぼし、世界に平和をもたらしたい。

  そのために力を貸してもらえぬか? 」



早速と言わんばかりに国王は聖に魔王討伐の件を持ちかけてくる。

その声は力強く威厳があり、流石は一国の王だけあって有無を言わせぬ迫力がある。


無論、派遣勇者である聖がその頼みを断る事はない。

しかしあくまでビジネスとしてであり、報酬の交渉は必須である。

聖は内心面倒だとぼやきながらも交渉のために口を開く。



「 国王陛下、勇者という大役を引き受けるにあたって、ひとつ条件があります 」



――条件。その言葉に周囲の空気が一変する。

聖に向けられていた好奇の視線が、畏怖と緊張を含んだものへと変わる。

聖はそれを肌で感じつつも国王の反応を窺う。

国王は表情を崩すことなく聖の言葉に答えた。



「 ふむ、レミィから聞いておる。

  魔王を倒した後、そなたが元の世界に戻れるよう、その手段を探しておくというものだろう? 」



確かにそれは、先ほど召喚の間でレミィと交わした約束である。

しかし聖から言わせれば、元の世界への送還は召喚した側としては当然の義務である。(もちろん派遣勇者である聖は送還してもらうまでもなく、戻ろうと思えば元の世界へ戻れるが)

臆する事なく、聖は国王に報酬の件を持ち出す。



「 送還の件はレミィと個人的に交わした約束です。

  これは国王陛下、貴方との契約になります 」



予想していなかったであろう聖の言葉に、傍に控えていたレミィが息を呑んだ。

周囲にも緊張が走る。

国王は一瞬だけ眉をしかめるも、すぐに表情を整えて聖に問いただす。



「 ほう、何が望みだ? 言ってみるがよい 」



そして国王の問いに聖は出来るだけ簡潔に答えた。



「 魔王討伐の報酬として、国家予算1年相当の(かね)を頂きたい。

  この条件を呑んでいただけるのであれば、僕は魔王退治を引き受けます 」





「「「「 なっ……!!?? 」」」」



その場の全員が絶句する。

先ほどまで表情を崩さなかった国王も、驚きで目を見開いている。

無理もない。国家予算1年分などというとんでもない額を要求してきたのである。



正気に戻った周囲の人間は騒ぎ出した。



「 国家予算1年分だとっ!? 冗談じゃないっ!! 」


「 ふざけるなっ!! 貴様、何様のつもりだっ!! 」



当然ながら反発の声も上がっている。

もしそんな法外な要求を呑めば、世界が助かっても今度は国庫が助からない。



「 そんな……サトシ様…… 」



レミィに至っては今にも泣きそうである。

曲がりなりにも一度は魔王退治を引き受けてくれた聖が、こんな呆れた額の報酬交渉をしてきたのだ。

彼女にとっては裏切られた心境なのだろう。



「 静まれ、静まらぬか!

  ……勇者よ。

  それは流石に無理というものだ。

  いくらなんでも国家予算1年に相当する額を一個人に報酬として与えるなどと…… 」



騒ぐ周囲を(いさ)めながら、国王は聖に言う。

国王も今の聖の発言には流石に呆れた様子だ。

その眼には聖に対する失望の色すら見える。

せっかく召喚した勇者が、こんな強欲な人間だと分かったのだ。無理もない。

あるいは、よほどの世間知らずの馬鹿だと評しているのか。


どちらにせよ聖は今の発言で、周囲に対する自分の株を大暴落させてしまったのだ。


しかし



( さて、むしろここからが俺の魅せ所だ )



聖にとってはこの事態も計算の内。

聖は言い訳という名の自己フォローを展開する。



「 僕には動機が無い 」



ポツリと聖は呟いた。



「 ……なに? 」



その言葉に王は首をかしげる。

周囲も同様に意味を分かりかねている様子。

そんな周囲を余所に、聖は淡々と呟き始めた。



「 この世界には、僕の護るべきモノが無い。

  家族も友達もいない。思い入れもない。

  そんな世界のために体を張るなんて出来ない。

  ……戦う動機が無いんだ 」


「 それでも、この世界に召喚された以上は使命を果たさなければいけない。

  ……だから、動機が欲しい 」



そして聖は周囲を見回しながら言った。



「 金の亡者……そう思うなら、思ってもらっても構わない。

  国家予算1年分だなんて馬鹿げているとは僕も思う。

  だけど僕がこれから奪うであろう命、背負うであろう命……

  それら全部を抱えて前に進めるだけの覚悟が……理由が欲しいんだ! 」


「 そのためだったら名誉欲だろうと物欲だろうと色欲だろうと何だって構わない!

  僕には最後まで逃げないための戒め、命を賭けて戦うだけの理由が必要なんだ! 」



そこまで言うと、聖はむっつり黙りこむ。



( ふぅ……柄にもなく語り過ぎちまった。

 無口クールを目指す俺としては、キャラが崩れてないか心配だ )



要するに先ほど聖が言いたかった事を纏めると以下の通り。

勇者として魔王を倒す使命感は持つものの、命を賭けて戦う覚悟まではない。

なぜなら、この世界に来たばかりの聖には護るべきモノ……すなわち支えが無いから。

仕方ないから、国家予算1年分という非常識的な報酬を支えに戦いたい。

本当は金なんかどうでもいいし、本当はこんな薄っぺらい動機は不本意だが、それに縋りついてでも戦う理由を持ちたい。


……という微妙に自嘲しつつも、自身を正当化する内容の語り……いや、この場合は騙りが正しい。


(もっと)も聖からしてみれば、

客観上の立場では元の世界から一方的に召喚され、魔王退治なんて厄介事を押しつけられている事になっているのだ。

しかも勇者が世界の命運を変えるほどの大役ならば、この法外な報酬も有りだと聖は考えていた。



( さて、周囲の反応はというと……

 あ、あれ……なんかさっきから、みんな黙ったままなんだが…… )



先ほどから黙ったままの周囲。

国王もレミィも唖然としたまま固まっている。

沈黙の時間が続くにつれ、流石の聖もだんだん不安になってきた。


( あ、あれ……?

 なんか俺……外しちまった?

 う……思い返して見るほど、クサイ台詞を連発し過ぎたような……

 もしかして俺、調子に乗り過ぎた? )



聖が己の所業にひとり冷や汗を流していると、長い沈黙を破って国王が口を開いた。



「 ……分かった 」



「「「 陛下っ!!?? 」」」



「 ……構わん。

  勇者よ、そなたの言い分よく分かった。

  魔王討伐を果たした時、国家予算1年分そなたに払おう。

  だから我々を救ってくれ、勇者よ 」



心情を汲み取ったのか、聖の要求を呑む国王。

曲がりなりにも聖の目論見は成功したらしい。

ニヤリと内心ほくそ笑みながら、聖は返事をした。



「 ……はい 」 ( その言葉、忘れるなよ )



言質さえとればこっちのモノ。先ほどの国王の言葉をこっそり録音する聖。

今こそ真摯な態度で接する国王だが、勇者が用済みになったら……すなわち魔王討伐後は分からない。

後ほどのために、保険として証拠を用意しておく必要がある。

少なくともこれで魔王討伐後、国王はしらを切る事は出来ない。



ちなみに



( サトシ様……

 本来だったら見知らぬ世界のために、命を賭けて戦う理由なんてないはずなのに……

 それでも己を奮い立たせようと、必死に理由を探してらしたのね……///

 ……なのに私ったら

 ……先ほど貴方に一瞬でも失意を抱いた私を許してください……/// )



レミィは聖の術中にどっぷり(はま)っていた。









「 ここは魔法研究室です。

  我が国きっての大魔導士たちが集まり、魔法の研究を行う場所ですわ 」



聖を先導しながら、部屋の説明するレミィ。

レミィに案内され、聖が向かった先は山のように大量の書物を収めた研究室だった。


――魔法について知りたい。

国王との交渉を終えた後、そうレミィに言った聖。

するとこの部屋に連れてこられたわけだが、なるほど――――


聖はグルリと周りを見回す。


天井は高く吹き抜けになっており、やたら大きな本棚が階層ごとに並べられ、ジャンル別に管理されているらしい。

部屋を見回すとおそらくここの研究員だろう、いかにもインテリ然とした魔法使いらしき人物たちが、あちこちで熱心に本を読んだり何やら唸りながらノートに書き写していたりした。

まさに研究室である。


レミィはその中から一人の人物を見つけ出すと、聖の所へと連れてきた。

眼鏡を掛けた長い銀髪の中年男性で、耳が尖っているところから恐らく亜人種のエルフだと推測できる。



「 サトシ様、紹介いたします。

  こちらは我が国随一の魔導師、カストゥール様です 」



レミィに紹介され、カストゥールと呼ばれた人物が丁重に礼をした。



「 貴方の魔法教育担当となります、カストゥールです。

  これからビシバシいかせてもらいますので、覚悟しておいてください 」



このカストゥールという人物が、聖にこの世界の魔法を教えてくれるらしい。



「 オノデラ=サトシです。

  宜しくお願いします 」



聖もこの先、世話になるであろうカストゥールに挨拶を返す。


実際のところ、聖がこの世界の魔法を学ぶ必要などない。

聖の習得している勇者派遣協会認定の魔法は、最適化された術式により、消費魔力や発動時間といった点で抜群の使い勝手を誇る。

それこそどの世界に渡っても、大抵は通用できる程である。


しかし異世界の魔法技術となれば、大抵それを手に入れようとする輩は出てくるもの。

故に聖はしらを切り、魔法など知らぬ使えぬで通す事にしていた。

よって魔法についてはテンプレどおりに現地調達して、元から習得していた魔法はいざという時まで封印しておく事にしたのだ。

いざという時の言い訳はその都度に考えればよし、聖はそう結論付けていた。


またもや嘘を重ねる事になるが、出来るだけ厄介事に巻き込まれないようにするための措置だと、聖は割り切る。





「 それでは早速、魔法授業を開始します。どうぞこちらへ 」



そう言うと、カストゥールは一人分の机と椅子が並べられた席に聖を案内する。

そして聖が着席するのを確認すると、自分は席の前方に設けられた黒板の前に立つ。

レミィは壁際まで移動し、これから始まる二人の授業を見学するようである。



「 え~~では、まずは基本的な所から始めましょうか。

  魔法の系統は基本的に火・水・風・土の四つがあり、それらを総称して四大系統といいます。

  それから………… 」



カストゥールの講義が始まると、聖も持参したボストンバッグを開き、中で丸まって寝ている相棒猫・奈々子の下からルーズリーフを引っ張り出す。

一応は授業であるためノートを取り、形だけでも教師の顔を立てようとするのは現役学生ならではの性である。



「 四大系統にはそれぞれ対応した精霊が存在し、

  火属性なら火の精霊、水属性なら水の精霊、風属性なら風の精霊、土属性なら土の精霊、

  魔法発動は、呪文を介してこれらの精霊と交信する事により…… 」



しかし講義の内容は、どれもどこかで聞いた事のあるような、ありふれた内容ばかり。

早くも退屈してきた聖は、時間の有効利用とばかり夏休みに出された課題の消化に取りかかり始めた。所謂(いわゆる)『 内職 』というヤツである。

こんな事態を予想してか、聖のルーズリーフには予め問題集の内容が書き写してあったのだ。



「 四大系統にはそれぞれ、

  火属性は攻撃特化、水属性は治癒特化、風属性は移動特化、土属性は防御特化、

  そういった特徴が挙げられ…… 」



カストゥールの講義を軽く聞き流しつつ、黙々と夏休みの課題を消化していく聖。

カストゥールの視点からでは、聖は真摯な態度でノートを取る真面目な生徒に見えている事だろう。

これも現役学生ならではのスキルである。



「 さて、それでは実際に使ってみせましょう。

  まずは火属性 」



そして魔法の四大系統について一通りの説明が終わり、カストゥールによる実践に入る。

この時ばかりは聖もノートを取る手を休め、カストゥールの構える杖に注目する。



「 轟け、炎龍の咆哮よ!

  バーニングストライク!! 」



カストゥールの呪文を唱えると、杖先から龍蛇を(かたど)った炎撃が放たれる。

アナコンダくらいの大きさで、相対する者に畏怖を与える迫力と存在感がある。

炎の龍は天井近くまで上昇すると、輪を描くようにグルグル旋回する。



「 どうですかな? 勇者殿。

  初めて魔法を目の当たりにした感想は 」



そしてカストゥールの言葉とともに消滅する炎の龍。



「 えぇと、まあ……凄いと思います 」


( 厨二! 詠唱も技名も厨二だ!

 あと火炎が龍の形している事に何の意味が?

 まあ、おかげで迫力はあったけど…… )



聖の感想に満足したのか、カストゥールはウンウン頷きながら杖を構える。



「 では続いて風属性。

  蒼空よ、天翔ける虹の羽衣を与えたまえ!

  エナジーフライト!! 」



突如、カストゥールの背中が光り輝き、その背に一対の七色に輝く光の翼が出現する。

そして光の翼を羽ばたかせ、広く高い天井を存分に利用して優雅に飛翔するカストゥール。



( オッサンッッッ!?

 いい歳したオッサンが背中に光の翼を生やすとかマジやめろって!!

 いや、そんなドヤ顔したってサマになってないからっ!? )



その後もカストゥールによる魔法実演は続く。

指先を少し切って瞬時に治したり、床から石の壁を出現させたりと……


とにかくどれも詠唱といい技名といい、果ては演出(エフェクト)といいゲーム等に出てきそうなモノばかりであった。

聖も真面目に見学するフリをしながら、内心ではすっかり醒めきっていた。



( こんな無駄に厨二っぽいものじゃなくて、他にもっとマシな魔法はないのかよ……

 頼むから俺にマトモなツッコミをさせてくれ……

 あ、そう言えば…… )



ふと一つの疑問が頭の中に浮かび、聖はカストゥールに質問してみた。



「 そう言えば、僕を召喚した魔法はどの系統に属するのでしょうか?

  異なる世界同士を繋ぐのだから、相当に高度な魔法だと察しますが 」



異世界から召喚とは言うが、次元の壁を隔てた世界同士を繋ぐのはそう簡単な事ではない。

先ほどの厨二魔法よりも、聖はそちらの方に興味があった。



「 ふむ、中々いい質問ですな。

  実は四大系統のどれにも該当しない魔法も存在し、それらは総称して無属性魔法と呼ばれます。

  異世界から貴方を召喚した魔法も、これに該当するわけですな 」



そう言ってカストゥールは無属性について説明を始める。

曰く、無属性には召喚術の派生である離れた空間同士を繋ぐテレポートや、物質を別の異なる物質に変える元素変換などがある。

曰く、四属性のような見た目の派手さが無く、戦闘には役立たずなため一般には浸透していないという。所謂(いわゆる)日蔭者であった。



( いやむしろお前ら、厨二みたいな魔法より無属性ってヤツの研究をしろよ!

 こっちの方が比べるまでもなくすごいだろ! )



思わず聖は頭を抱える。

テレポートも元素変換も、元の現代科学ですら確立されていないほどの高い技術。

しかし戦闘用魔法に比重が置かれるこちらの世界では、あまり重要視されていないという。

現代社会との価値観のギャップにショックを受ける聖。



( そういえば前々から思ってたけど、

 召喚って異世界から人とか物を取り寄せる事が出来るなら、逆に送り出す事も出来る筈だよな?

 というより、むしろ出来て然るべきの気がする。

 目的は反対だけど次元にトンネルを開いて別世界同士を結ぶってのは同じだし )



その事を質問してみようか迷う聖。

少なくとも勇者派遣協会では、別世界同士をトンネルで繋げて自在に社員を行き来させている。


しかしこれは質問というよりツッコミに近い。

聖を召喚したレミィ自身も、元の世界に送り返す術は無いと言っていた。

召喚術自体が古代から禁術らしいし、仕組みにはブラックボックス扱いなのかも知れない。


だとすれば質問するだけ野暮と言える。

そんな質問されても、恐らく目の前のカストゥールは返答に困るだけだろう。



「 勇者殿? どうなされました?

  もしや分からないのですか? 」



聖が悩んでいると、突然そのカストゥールが声を掛けてきた。



「 ……あ、いえ……特に何も…… 」



いきなり声を掛けられた事に少し驚いた聖は、どもりながらもそう答えた。

余計な発言をして波風を立てまいと、先ほどの疑問は頭の中に仕舞っておく事にしたのだ。


しかしカストゥール、教師としての立場からか聖の微妙な返答を良しとせず、



「 勇者殿……分からない事があれば、聞かなければいつまでたっても分かりませんぞ?

  そもそも貴方が無属性について知りたいというから、こうして説明しているのではないですか 」



聖にそう追求してきたのである

雰囲気的に、何か質問しなければいけなくなったらしい。



( この野郎、人が気を遣ってやってるというのに…… )



先ほどの疑問をぶつけてみようか迷う聖。

しかしこの場にはレミィも居る。

建前として元の世界へ送還してもらう約束はしたものの、

この質問は聖を召喚した張本人である、レミィに対してのツッコミにも聞こえなくはない。


ふと、レーズリーフに解いていた物理の課題が目に留まる。



「 ……元素変換について質問いいですか? 」



苦し紛れに、聖は元素変換の方にツッコんでみる事にした。



「 はい、何でもどうぞ。

  魔法の事で私に分からない事など無いですからな 」



そのカストゥールの得意気な返事に、聖は遠慮せずに聞いた。



「 変換前と後でエネルギー保存は成り立つんでしょうか? 」



「 …………はい? 」



質問の意味を理解しかね、唖然とするカストゥール。

すぐさま聖は質問の意味を補足する。



「 ええと例えば元素変換して物質Aから物質Bを作る、それすなわち元素の核の構成を組み替える事と同義だと思うのですが、

  その場合、核を束ねる結合エネルギーの一部が余剰となるはずで、その余剰エネルギーは一体何処に消えるのかという疑問です。

  余剰エネルギーがそのまま熱として解放されれば大惨事になると思いますんで 」



聖のいう大惨事とは原子核エネルギーの解放、

すなわち原子核をホイホイ分裂させたり融合させたりして核爆発は起きないのか? という危惧の質問である。



「 ……………… 」



口を開いたまま固まるカストゥール。

先ほどの説明でも、聖の言いたい事が伝わっていない様子。

むしろいっそうワケが分からなくなったといった感じである。



( ……これも禁断のツッコミだったか )



カストゥールの表情から、自分が禁断のツッコミをしてしまった事を悟る聖。

結論、ファンタジーにエネルギー保存則を持ち出すのは野暮である。



「 ……それは……その…… 」



聖の質問に答えきれないカストゥール。

口をモゴモゴさせて、何とか気の利いた言葉を捻り出そうとしている。

魔法の事なら何でも聞けと、そう先ほど得意気に言ってしまった手前、素直に分からないとは言えないのであろう。



「「 ………… 」」



聖とカストゥールの間に沈黙が続く。

この微妙な空気に先に耐えきれなくなったのは、聖だった。



「 そ、そうか、精霊ですか!?

  元素変換に限らずあらゆる魔法については

  元素一つ一つに宿る精霊が、魔法発動に必要エネルギーの供給や余剰エネルギーの回収を一手に担ってくれる。

  そうですよね!? 」



何とかこの微妙な空気を掃おうと、必死で適当な仮説をでっち上げる聖。



「 ……っ!? あぁ、そうです! その通りです!!

  流石は勇者殿、よく分かってらっしゃる! 」



すぐさま聖の言葉に乗っかるカストゥール。

彼も国随一の魔導士としての面目を保とうと必死なのである。



あはは~と笑う聖とカストゥール。



無口クール勇者を目指すはずだった聖だが、初っ端からペースを崩され早くもキャラが崩れつつあった。




しかし少し離れた壁際で二人の様子を見ていたレミィは、




( す、凄いわ……何言ってるのかさっぱりだけど

 サトシ様、我が国随一の魔法学者であるあのカストゥール様と互角に討論してらっしゃるわ。

 異界の勇者だけあって学も御持ちなのね……/// )




恋は盲目というか、特に聖のキャラ崩壊に気付いていなかった。

予定していた聖への落とし穴が書けませんでした……orz

聖に落とし穴が訪れるのは、次回になる予定です。

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