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第3話 伝説の始まり

第3話、投稿します。


遅れまして大変申し訳ございません。

……ぶっちゃけますと、休日は家でゴロゴロ昼寝か、MHP3rdに溺れていました。

「 ここは……? 」



目を覚ました青年の視界に入ってきたのは、神殿らしき造りのだだっ広い部屋であった。

キョロキョロ周りを見回す青年、その耳に今度は聞き覚えのない声が入ってきた。



「 ようこそ、おいでくださいました。勇者様 」



若い女性特有の柔らかで澄んだ声。

声のした方を振り向くと案の定、そこには若い女性が……少女と呼べるくらい歳の女性が立っていた。

白を基調とした装束を身に纏った、腰まで伸びた長い金髪に碧眼の美しい少女である。



「 君は……? 」


「 私の名はレミィといいます。

  貴方様を召喚した巫女です 」



召喚……少女が答えたその言葉に、青年は眉を(しか)める。

事態を上手くのみ込めなかったらしく、青年は少女に問い直した。



「 ……なぜ、僕はこんな所に居るんだ 」



青年の再度の問いに、少女は答えた。



「 この世界を救う勇者となって戴きたく、私が貴方を別世界より召喚したのです 」



『 勇者 』『 別世界 』『 召喚 』……


その言葉に呆然とする青年を見据えながら、少女は話を続ける。



「 現在、この世界は滅亡の危機にあります。

  ……悪逆非道な魔王の手によって 」



少女の口から語られる、この世界の現状。


曰く魔王が復活し、魔族の大軍勢を率いて世界を征服しようと人間たちに対して侵略を開始した。

曰く魔王は強大な力を持ち、誰にも太刀打ち出来ないとの事。

曰く魔王に対抗するために、古代より伝わる禁術で異世界から魔王に対抗できる者を召喚したとの事。



「 私は神に祈りました。

  私たちを救い、この世界に光を取り戻してくれる救世主を……

  召喚に応じてくれる、高潔な魂の持ち主を…… 」



少女は真っ直ぐに青年を見て、こう言った。



「 そうして現れたのが、貴方様なのです 」


「 ……!! 」




「 お願いです。勇者様……

  無力な私たちをお救いください。

  どうか、暗黒に包まれんとするこの世界を照らす一条の光となって、私たちをお導きください 」



少女は驚く青年の手を取り、握りしめながら懇願した。



「 ………… 」



青年は思案するように目を閉じ、顔を伏せた。

少女はそんな青年を不安そうに見つめる。


事実、彼女は不安だった。

幼い頃より聞かされていた伝説の『 異界の勇者 』。

強大な力と偉大な叡知を持つ異世界からの救世主。

魔王に対抗できる唯一の可能性。

ゆえに周りの者が彼女にかける期待も大きく、また彼女もその期待に応えようと必死だった。

もし失敗したら……そんな不安と周りからの圧力(プレッシャー)で彼女の心は押し潰されそうだったのだ。


彼女は自分が呼び出した青年が、待ち望んだ『 異界の勇者 』である事を必死に祈っていた。


『 分かった。必ず世界を救ってみせよう 』


目の前の青年がそう言ってくれる事を願っていた。


しかし




「 …………困るよ 」



青年は短くそう呟いた。



「 え……? 」



愕然とする少女。

青年は俯いていた顔を上げ、言葉を続けた。



「 いきなり違う世界に呼び出されて、その世界を救ってくれなんて……

  突然そんな事を言われても困る 」



「 え? で、でも…… 」



期待を裏切る青年の言葉に、戸惑いを隠せない少女。

そんな少女に向かって、青年はさらに無慈悲な現実を言い放つ。



「 僕は望んでここに居るわけじゃない!

  ……いつもと変わらない日常を送っているつもりだった。

  ……でも突然目の前が真っ白になって

  ……気が付いたら、ここに居たんだ 」



そこまで一息で言い終えると、再び青年は俯いた。



「 ……少し、一人にさせてくれ。考えを整理したいんだ 」



そう呟く青年に、少女は言うべき言葉が見つからず、また何も言う気にはなれず、

青年が望んだとおり、彼一人を残して部屋から出ていくしかなかった。






一人部屋に残され、神妙な面持ちで思案する青年。

彼が迷うのも無理はない。

いきなり別の世界に召喚されて、勇者になって魔王を倒せだの言われて、真っ当な人間ならばそう易々と了承出来るはずがない。


そう、真っ当な人間ならば(・・・・・・・・・)



「 巫女さんの手、柔らかぇ~~ 」



……お約束として、青年は真っ当な人間ではなかった。

先ほどまでの重苦しい雰囲気は何処へやら、神妙な面持ちはそのままに、口元を緩めて不謹慎な言葉を漏らす青年。


見知らぬ世界に突然投げ出され、不安だとか元の世界に帰りたいだとか、そんな考えは彼の脳内には微塵も存在しなかったのだ。



そう、派遣勇者(・・・・)である彼には。



派遣勇者。

勇者派遣協会有する文字通りの企業戦士。召喚されること前提の職業勇者であり、当然ながら魔王など恐るに足らない。


ただし召喚する側は派遣勇者など知らない。いや、知らされてない。


通常、派遣業務では事前に派遣先(クライアント)との書類を交わして契約が必須である。

その際、業務内容の説明や賃金について取り決めを行うのだが、勇者派遣業界についてはそれは該当しない。

勇者派遣協会の選出した勇者を、召喚ゲートをジャックして送り出す。

召喚側の意思は一切無視。選択権皆無。それどころか協会の存在や派遣勇者のシステムすら知らされない。


『 理由? その方が面白いから。ただのビジネスに成り下がってしまっては、異世界に対する復讐にならない 』……とは協会トップの弁。

驚くべき事に、本当にそんな理由で協会は召喚側との事前交渉を一切行わないのである。


結局のところ、身勝手な召喚行為を続ける異世界側に対して、いかに度肝を抜かせてやるかが協会の最大目的だったりするのである。


青年がこの世界に(わざと)召喚されたもその一貫。

魔王退治を行って、莫大な報酬をタンマリ絞り取ってやるためである。



では何故、先ほどの少女の「 世界を救ってくれ 」という頼みに快く応じてやらないのか?


その理由は実に率直。


( あの巫女さんにカッコいい所をたくさんアピールしないとな……

 まずは思慮深い人間である事をアピール。

 そのためには、即決して短絡思考で動く人間とは思われるわけにはいかない )


そして実に安易。


つまり最初から答えは決まっているくせに、悩むそぶりを見せて人間性を魅せようという作戦である。


とはいえ、彼は至って大真面目。

周囲から好感を持たれるような『 出来る勇者 』を演じるのも、派遣勇者にとっては重要な仕事の一つである。

仕事をするにしても、好感度が高ければそれだけモテるし美味しい想いもできる……それがこの青年の原動力でもある。


そして彼は、そのためだったらどんな苦労も(いと)わないつもりでいた。



「 どれ、忘れないように少し復習と…… 」



そう言うと、青年は懐から掌サイズのメモ帳を取り出しページを開く。

そして真剣な眼差しでページに目を通していく。



彼が読んでいる内容、そのページに書かれてある事。それは……




『 モテる勇者の理想像メモ 』




【 花沢不動産からの意見 】


・むやみに必殺技名を叫ばない。


・常にテンションを抑えつつ、落ち着いた大人を演じる。「無口」「クール」「シビア」さを強調。


・出来るだけ好戦的な態度は見せない。 ※例えチンピラに絡まれても、安易に挑発的な言動はとらない事!


・一人称は「 僕 」で、少し影のある青年。


※ただし、ボス戦( 魔王、ドラゴン、四天王 etc... )などで強敵を前にして、

 仲間達が相手の強さにビビって絶望しかけた場合、その時だけはテンションをMAX。

 一人称を「 僕 」から「 俺 」に変更、口数も多くする。

 普段は無口でクールだが、絶望的な状況下では胸に秘めた熱い魂を全開にし、リーダーシップを発揮して仲間をグイグイ引っ張る。

 そのギャップがたまらなくカッコよく見える筈。




【 TANAKAからの意見 】


・最終決戦での魔王相対時には、必ずこのセリフを挿む。(※ 過去に渋谷さんが使用した伝説のセリフらしい)


 魔王  「 ふははは、どうだ勇者よ!

       これが我が真の魔力よ!! 」


 勇者  「 ………… 」


 魔王  「 どうした? 我が真の魔力を前に恐怖で声も出ぬか? 」


 勇者  「 ……井の中の蛙。

       ……いや、鳥なき里の蝙蝠(こうもり)と云ったところか 」


 魔王  「 ……なに? 」


 勇者  「 羽ばたく鳥のいない狭い田舎で、少し飛べるだけの蝙蝠が幅を利かせる。

       ……ちょうど俺の前にいる誰かさん、

       俺という鳥のいない、閉ざされた里の蝙蝠(まおう)さんのようだとな 」




【 ニャンコ師匠からの意見 】


・戦闘でモンスターや盗賊など生き物の命を奪っても女々しくならない事。(※ 無論、演技での話)


※塞ぎ込んで自暴自棄になるくらいが人間味あるかもしれないが、度が過ぎれば仲間からウザがられる危険あり。特にヘタレという印象を抱かせてはいけない。

 必要悪だと割り切りつつ、命を奪ったという現実をしっかり受け止めるという真摯な態度をキッチリ見せる。


 なお上記の内容を演じるのは思いのほか難しいため、以下のイベントで誤魔化す手もあり。


 敵とはいえ初めて生き物(モンスター、盗賊 etc... )を殺してしまった勇者、その頬を涙が静かに流れ落ちる。


 ヒロイン「 勇者様……泣いておられるのですか? 」


 勇者  「 ………… 」


 ヒロイン「 お気持ちは分かりますが彼らは敵、仕方な…… 」


 勇者  「 違うんだ 」


 ヒロイン「 え……? 」


 勇者  「 ……僕は、彼らを殺してしまった事が悲しいんじゃない 」


 ヒロイン「 で、では何故……? 」


 勇者  「 ……感じないんだ。

       ……殺したのに、何も感じない 」


 勇者  「 殺したら、罪悪感で僕の心は潰れてしまうかもしれない。

       そう思っていた、そうなると思っていた……

       それなのに、なぜ僕の心はこんなにも空っぽなんだ? 」


 ヒロイン「 勇者様…… 」


 勇者  「 今まで気付かなかった……

       僕は、こんなにも残酷な人間だったのか…… 」


 勇者  「 その事実が、悲しいんだ…… 」


※いつでも泣けるスキルが必要





以上が青年が同業者たちにも意見を募り(まと)め上げた、所謂(いわゆる)「 ぼくのかんがえたかっこいいゆうしゃ 」であった。



( アイツら……人ごとだと思ってこんな無茶な意見ばかり寄越しやがって……

 超ナイス、グッジョブ!

 シュッ、シュッシュッ!! )



シャドーボクシングしながら、青年は脳内キャンバスに自らを投影した理想の勇者を描いていく。



( この勇者……カッコ良すぎだろ。モテモテ間違いなしや。

 ああイカン、妄想が……宇宙のように際限なく膨らんでいく。

 いや、むしろ俺の頭の中で宇宙が爆誕(ビッグバン)しそうだぜ! )




「 あの、勇者様…… 」



背後から聞こえた声に、青年は速攻でシャドーを中断。

何事もなかったかのように、腕組みして再び真摯な面持ちへと戻る。


青年を召喚した少女が戻ってきたのである。


少女が口を開くより先に、青年は言った。



「 一つ確認したい。

  ……僕は元の世界に帰れるのか? 」


「 …… 」



一瞬の戸惑い。

そして申し訳なさそうに少女は答えた。



「 ……申し訳ありません。それは無理です。

  異世界から人や物を召喚する術はありますが、異世界に送り出す術というのは…… 」


「 …………そうか 」



諦めたかのように呟く青年。

そしてそんな青年を見て、慌てる少女。



「 あの、本当に……申し訳あ「 僕は! 」……!? 」



咄嗟に謝ろうとしたところで、遮るように青年が言葉を挿んだ。



「 僕は君を……まだ君たちの事を信用したわけじゃない 」



「 ………… 」



悲しげな顔で、沈黙する少女。

どんな罵詈雑言が浴びせられるか……次に青年が発せられる言葉が怖くて仕方ないのである。



「 でも、ここでゴネていても何も解決しないという事ぐらい分かっているつもりだ 」



「 え……? 」



青年の意外な言葉に、キョトンとする少女。

青年はさらに言葉を続ける。



「 ギブアンドテイク 」



「 …………? 」



わけが分からない。

彼女のさらにキョトンとした顔がそう物語っている。

そんな少女に苦笑しながら、青年は説明した。



「 交換条件だ。

  僕が魔王を倒して、この世界を救う。

  君たちは、僕が元の世界に帰るための(すべ)を探す。

  ……それでどうだろう? 」



「 あ、あの……それって…… 」



その言葉の意味を理解しかけて、少女の瞳が歓喜で潤み出す。



「 僕に世界を救うなんて大層な事が出来るかは分からない。

  それに見ず知らずの人たちのために、命を賭けて戦うなんて僕の柄じゃない 」



青年は一息つき、しっかりと少女を見据えて



「 ……でも最低限、自分に出来る事だけはやるつもりだ 」



そこまで言い、青年は再び一息つく。



( そう。今はこれでいい。

 初っ端から世界を救おうって決意は早急だ。

 初めはやや自己中で捻くれた動機で充分。

 決意とは、積み重ねの中で固めていくものだ )



「 ……というわけで宜しく頼む 」



ぶっきら棒にそう言うと、青年は少女に手を差し出した。



「 あっ……は、はいっ!

  宜しくお願いしますね。勇者様! 」



慌てて青年の手を両手で取り、握手する少女。



(さとし)だ 」



「 え? 」



「 僕の名前だ。

  小野寺(おのでら)(さとし)……サトシと呼んでくれ 」



オノデラ=サトシ……その名を大事に胸に刻みつつ、少女も青年に大事な名を預ける。



「 はい、サトシ様。

  最初に紹介しましたが改めまして……

  私の名はレミィ……レミィと呼んでください 」



「 ああ、宜しく頼む。レミィ 」



仏頂面を少しだけ緩めて、フッと笑いかける聖。

伝家の宝刀・勇者スマイルまだ出さない。

最終兵器として、最後まで温存し続ける所存である。



( とりあえずさわりは、これでO.K.と……

 しかし、ここからが大変だぞ。

 何しろ報酬の話をしなければならないんだし…… )



むしろ次からが本番。

派遣勇者にとっては召喚側に報酬の約束を取り付ける事が、一つの大きな山場なのである。



( しっかし今日だけで俺、何回嘘ついたんだろう?……こんな可愛い娘に対して……

 いくら仕事のためとはいえ、まるっきりクズ()じゃねぇか? )



ふと、田舎の父親と母親の顔が脳裏に浮かぶ。

(さとし)……聖人のように育ってほしいと、その名を付けてくれた両親に対し、急に申し訳なく思えてきたのである。



( お父さん、お母さん。

 貴方たちが生み育ててくれた子供は、こんなどうしようもないクズ()に育ってしまいました。ごめんなさい。

 いつか真っ当な人間になると誓います。

 ですから今だけは、この素晴らしい青春を謳歌させてください。お願いします )



次元の壁を幾つも隔てた田舎の両親に謝りつつ、青年……小野寺聖はこれから始まる冒険に心を躍らせるのであった。





一方、聖を召喚した少女……レミィはというと



( はう~~~っ……////

 サトシ様……カッコイイですぅ……/// )



実のところ、聖の地味な努力は早くも実を結ぼうとしていた。


次回、順風満帆で発進したはずの聖に思わぬ落とし穴が……

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