第2話 派遣勇者、発進
第2話、投稿します。
異世界での物語が始まるのは、次の話からです……orz
時刻は朝6:30。
派遣勇者・小野寺聖の朝は早い。
特に今日という日は、聖が待ちに待っていた日である。
朝風呂でサッパリ眠気を吹き飛ばした聖は、いつもより気合い三割増しで洗面台の前に立ち、身支度を整えていた。
「 湯上りタマゴ肌♪ 」
気合いが入り過ぎているせいで、今の聖は少々言動がおかしい。
年頃の少女にでも為り切ったつもりか、バスタオル一丁で熱心に肌の手入れをする聖(♂)。
ある意味、おぞましい光景と云える。
「 おや? 誰? このお湯も滴るハンサム君?
……って、鏡に映った自分だったか!! 」
くどいかも知れないが、今の彼は多少言動がおかしい。
今日という日が特別なため、かなり気が昂ぶっているだけだ。
決してコレが、彼の本性と云うわけではない。
「 鏡や鏡、この街で一番ハンサムなのは、だ~~~れ?
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はい♪ 勇者・小野寺聖でございます♪
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えぇっ!? 本当っ!? 」
いい加減しつこいかも知れないが、今の聖は大いに言動がおかしい。
とうとう裏声まで出して、一人芝居まで始めてしまった聖。
自身を何度もハンサムと称し、己に酔いしれる愚行っぷり。
気が昂ぶり過ぎて、ついに限界を超えてしまったようである。
聖は眼鏡を掛けると、指で淵をクイッと押し上げる。
「 ハンサムですけど、なにか? 」
……ここまで来ると、もはや救いようが無いかも知れない。
確かに小野寺聖はハンサムである。
しかし、それは別段おかしな事ではない。
何故なら、彼は派遣勇者だからである。
聖が属する勇者派遣協会は、とある4つのステータスを元に一般の若者から、派遣勇者へのスカウトを行っている。
派遣勇者に求められる4つの資質、それは以下のとおりである。
一つ目……魔力。
派遣勇者は火力が命。どんな大魔術もポンポン行使出来なければならない。
二つ目……体力。
派遣勇者は身体が資本。武器や格闘も何でもござれでなければならない。
三つ目……知性。
派遣勇者は文武両道。如何なる時も知的を漂わせていなければならない。
四つ目……容姿。
派遣勇者は歯も命。どう足掻いたところで第一印象なんて所詮は顔で決まる。
この4つの条件を満たす以上、その人間性にさえ目を瞑れば小野寺聖はハンサムで文武両道な勇者様と云えるのである。
己の容姿を自覚して身だしなみに気を使うのも、云わば派遣勇者としての義務である。アイドルと同じである。
「 奈々子~~~
今の俺ってカッコイイか? 」
「 んみゃぁ…… 」
聖が話し掛けたこの部屋のもう一人の住人、洗面所のドアの横で丸まっていた奈々子(三毛猫)は興味が無さそうである。
気だるそうに、聖の問いに欠伸で応える。
「 今日も美人だね、奈々子。
俺と結婚してくれ 」
「 んみゃぁ…… 」
相変わらずの一方通行。聖のボケを悉くスルーしていく奈々子である。
ところでペット禁制の筈のアパートで、何故三毛猫なんてモノが居るのか?
聖がこっそり飼っていると云うわけではない。
「 俺たち一応、相棒同士なのに殆んど口聞いてくれないよね、奈々子 」
「 んみゃぁ…… 」
相棒……聖と奈々子は相棒同士であった。
実は奈々子、先日に勇者派遣協会から送られてきた聖のパートナーなのである。
勇者と云えど、聖も未だ高校生の身。
その歳でたった一人、未開の異世界に放り出すほど協会は鬼ではない。
派遣勇者には、新人もしくは聖みたいな中堅の間は個別にサポート役が付けられる。
しかし渋谷営業らベテラン勢も四六時中、聖たちのサポートに徹するわけにはいかない。
そこで派遣勇者には、猫もしくは犬などの動物を御供に付けられるのである。
聖はどちらかと言えば猫派であり、それを汲んだ協会が奈々子を送ってきてくれたわけである。
もちろん協会が送ってきた以上、奈々子はタダの猫ではない。
人間と会話する能力はもちろん、色々と特殊な力を持っている筈である。
詳しい事は聖も知らない。
何故なら奈々子、聖がいくら話し掛けても面倒そうに一声鳴くだけだからである。
これから一ヶ月ほどの間、派遣先の異世界では同じ釜の飯を食う仲間となるのだ。聖としても親睦を深めておきたい。
聖も積極的にコミュニケーションを取ろうと努めているのだが、まったくもって糠に釘状態。
「 奈々子、『 んみゃぁ 』としか言わないよね?
本当はタダの猫なんじゃないかって、俺心配になってきたよ。
たまには別の言葉も喋ってみ? 」
「 ぶるみゃぁ…… 」
「 ………… 」
これ以上のコミュニケーションを諦め、着替えを終えた聖は洗面台の横に置いてあったボストンバッグを開く。
「 んみゃぁ…… 」
そしてボストンバッグの中へと入る奈々子。
こういう時だけは阿吽の呼吸。チャックを閉じると、聖はボストンバッグを肩に担ぎ、玄関を出てアパートの外へと出る。
(これから一ヵ月間はここへは戻らないんだな……)
聖は最後の見納めとばかりアパートを見上げ、まだ見ぬ冒険へと向かって歩き出した。
「 ようこそ、小野寺君。
たった今、機材一式の最終調整が終わったところですよ 」
聖が訪れたのは、とある高層ビルのフロアの一室……『 勇者派遣協会 第5営業所 』。
やたら大掛かりな機械が持ち込まれた部屋では、既に渋谷営業が異世界へ渡るための準備を終えていた。
派遣勇者とて単独で異世界へ渡れるわけではない。
次元の壁を超えるとなると、膨大な魔力と其れなりに大掛かりな装置が必要となる。
さらに云うならば勇者である以上、こちらから自発的に異世界へ渡るわけにはいかない。
異世界から召喚される必要があるのだ。
しかも派遣勇者の場合、その召喚のされ方が普通ではない。
待つ事およそ2時間後……
" ヴーーー ヴーーー ヴーーー ヴーーー "
突如、部屋に設置されていた大型機械から警報音が鳴り響いた。
『 □□県○○区△△町にて、召喚ゲート出現確認。
…………………………………………………………
繰り返します。
□□県○○区△△町にて、召喚ゲート出現確認。
派遣勇者の方は、すぐに出発の準備をお願いします 』
続いて電子音声が部屋に響き渡り、
ソファーで寛いでいた聖と、パソコンでソリティアに興じていた渋谷の目付きが変わる。
いよいよ派遣勇者・小野寺聖の旅立ちの時が来たのである。
『 召喚通路の座標及び経路検出。
第24ポジ世界からの召喚魔術による干渉と判明 』
第24ポジ世界……そこが今回、聖が派遣される世界である。
第24ポジ世界の住人の誰かが召喚術を行使したのだ。
別世界より、魔王を倒してくれる勇者を喚ぶために。
この大掛かりな機械は、異世界が召喚術を行使して此方の世界に干渉してきた場合、
時空の歪みを検出して、この世界の何処に召喚ゲートは出現したか、そしてゲートは召喚先の異世界の何処に繋がっているのか、それらの座標を特定するための物。
召喚を行うタイミングならば、予め渋谷の諜報活動によって知る事が出来る。
ただ何処の誰が召喚されるのか、それは召喚術が行使されるその瞬間まで判らない。
そして召喚のタイミングと召喚ゲートの出現位置、その二つが特定出来てからこそ、この機械の真価が発揮されるのだ。
『 同期、完了 』
『 交換処置プログラム、作動
接続、開始 』
電子音声後、プログラムが作動。
膨大な魔力と電力を注ぎ込み、これから異なる世界同士を繋ぐ召喚通路に不正侵入を果たすのである。
バチッ……バチッ…バチッ……
機材から伸びる太いコード…その先に接続された4つの電極…二つで一組の電極間に、それぞれ稲妻が走る。
そして空間が歪み始め、その曲率が限界まで高まった瞬間、
ヴォォォン……
部屋の空気を震わせて、虚空に二つの『 穴 』が出現した。
片や螺旋を描きながら、空間を巻き込むように渦巻く『 穴 』。
片や同じく螺旋を描きながら、空間を巻き出すように渦巻く『 穴 』。
例えるならば、ブラックホールとホワイトホール。
正反対の性質を持つ『 穴 』が、隣り合う二組の電極間に其々出現したのである。
そして
「 ……ぅぁぁぁあああああっ!!?? 」
空間を巻き出すように渦巻く穴の方……ホワイトホールから、いきなり人が吐き出された。
「 ……あ、あれ?
お、俺……いきなり現われた穴みたいのに吸い込まれて……
あれ? あれれ……? 」
ホワイトホールから吐き出された人物は、見たところ高校生くらいの年齢の少年であった。
彼自身、自分の身に何が起こったか把握出来ていない様子。
この部屋に置かれた大掛かりな機械の本当の機能。
それは現代日本から勇者を召喚する際、通過するワームホールを途中で捻じ曲げ、力技でこの事務室に接続する。
先ほど事務室に現われた二つの穴は、云うなれば捻じ切られたワームホールの断面。
先ほど少年を吐き出したホワイトホールは、召喚通路の排出口。
逆にブラックホールは、召喚通路の吸引口にあたる。
つまりこの少年、さきほど召喚ゲートを潜って召喚通路を通過していたのだが、
召喚通路が途中で切断されてしまい、この事務室に落っこちてしまったのである。
本来ならば、この名も知らぬ少年(以下、少年A)は第24ポジ世界に勇者として召喚される筈であったが、
それを勇者派遣協会が妨害してしまったのである。
とは云え、途中切断されてはいるが召喚通路自体はまだ健在。
吸引口であるブラックホールに飛び込めば召喚は再開され、少年Aは勇者として異世界に渡る事が出来る。
もちろん、それを許していては派遣勇者は仕事にならない。
「 ちょ、ちょっと?
アンタら誰?
何で俺、こんな所にいんの?
ねえってば? 」
少年Aの言葉を無視して、渋谷は聖に言った。
「 さ、小野寺君。
召喚通路も奪い取った事ですし、いよいよ君の出番です 」
聖は頷き、本来なら少年Aが入るべきブラックホールの前に立つ。
それを確認すると、渋谷はピシャリと真っ直ぐ姿勢を伸ばし、大声でこう言った。
「 派遣勇者之心得、第五ヵ条っ!! 」
聖も姿勢を伸ばし、渋谷に続く。
「「 一つ。支給された武具は大切に使い 」」
「「 二つ。報・連・相は忘れずに 」」
「「 三つ。いつもニコニコ、笑顔を絶やさず 」」
「「 四つ。あらゆる手を使い、悪逆非道な魔王をぶっ潰し 」」
「「 五つ。召喚主から莫大な報酬をふんだくれ! 」」
まるっきり部外者である少年Aが見ている中、ある意味羞恥プレイをやり終えた聖はボストンバッグを担ぎ、
「 では行ってきます! 渋谷さん!! 」
そそくさとブラックホールに飛び込んだ。
そして役目を終えたかのように、蒸発してしまうブラックホールとホワイトホール。
再び閑散に戻った部屋に、渋谷と少年Aだけが取り残された。
「 ……き、消えた。
な、なんだったんだよっ!? 今の…… 」
この部屋で起こった事を簡潔に述べるなら、
渋谷と聖、二人が居たこの部屋に、突然ブラックホールとホワイトホールが現われて、
ホワイトホールから少年Aが吐き出され、ブラックホールに聖が吸い込まれていった。
そして今、この部屋には渋谷と少年Aの二人のみ。
人数的には変わっていない。
聖と若者、二人が入れ替わったという以外は……
交換処置……召喚通路の一部をバイパスし、この事務室を中継地点に置く。
そして本来召喚される筈だった者を回収し、代わりに派遣勇者を送り出す処置である。
トドのつまり被召喚者のすり替えである。
無論、召喚する側はそんな偽装工作が起こっているなど露にも思わないだろう。
「おいおいっ!!!!
なになに!!??
一体何がどうなってんの!!??」
ちなみに少年A、このあと渋谷に此処での記憶を消され、帰りの電車賃を渡されて「ハイ、サヨナラ」となる予定である。
もう少し、執筆速度を上げようと努力を……orz