あと一杯飲んで
掲載日:2026/05/23
仕事から帰っていたはずなのに。
いつのまにか、バーでカクテルを頼んでいた。
淡い紫のネオンだけが目立つ、初めて来た店。
こじんまりとした店内は特に会話もない。
時折カチャカチャと、優しく氷が当たる音がする。
もう一口、カクテルを飲む。
ふと見たコースターに文字が書いてある。
『あと一杯飲んで、それから帰ってください』
そういう店なのかもしれない。
気が乗ったので、次のカクテルを注文する。
少し軽くなった足取りで、自宅に戻る。
玄関前に、吸い殻が二本転がっている。
ポストを覗くと、ヨレた紙が入っていた。
『少しだけでいい、貸してくれ』
ため息をひとつ吐き、丸めて捨てる。




