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第1話『死ね』という名のプロポーズ

「先生……! 魔女がプールの中で儀式をやってます!」

「このプールも呪われるぞ! 皆、早く離れるんだ!」

(待って、違うの。私は溺れているのよ。誰か、助けて……!)

視界が泡に包まれ、意識が遠のいていく。

こんなところで死にたくない。こんな、色も、音も、ドラマもない死に様なんて――。

私は、もっと鮮烈な「赤」に染まって、劇的に死にたいのに……!

▲▲▲▲▲▲



「お前とは踊らない。俺の前から『消えろ』」




冷徹な声が、夜会の喧騒を切り裂いた。


「どうしてですの……!? このアクセサリーがダメなのですか? それとも今日という日のために、最高級のシルクで仕立てた、このドレスですか?!」

「今、シルクがどれほど貴重品か分かっていながら、そんなものを仕上げさせたのか。……反吐が出る」


シオン殿下は、ゴミを見るような目で私を見下し、吐き捨てた。


「いっそ『死ね』ば? その空っぽな頭も、少しはマシになるんじゃないか」


そう言い残して去っていく王子の背中。


私は一人、パーティー会場を抜け出し、庭園の暗がりに崩れ落ちた。


頭をガツンと打たれたような衝撃。好きな人に拒絶された、その苦痛。痛み。



「あ……――」



その激痛をトリガーにして、私は思い出したのだ。前世の記憶を。



そうだ、私はあの時、水没死を遂げた女だった。


私は、ずっと不満だった。


死ぬなら、血飛沫が舞い、悲鳴と恐怖が「緋色の奏鳴曲」のように響き渡る……そんな残虐で美しい幕引きを求めていたのだ。


ドラマや映画の凄惨なシーンを、何度巻き戻して魂に刻んだことか。


だというのに、現実は冷たいプールの水。



神様は、そんな私に同情してくださったんだわ!



だって、今の私は――乙女ゲーム『イチャコラ♡ラブラブ魔法学園♡』の悪役令嬢、ティアラ・ラブ・リハートなのだから。


友達(唯一私の事を怖がらなかった)から

「もう攻略対象の王子がもうかっこいいのよ!シオン王子なんてもうガチ恋!でもでも!特に悪役令嬢が処刑されるシーンは、スカッと通りこして清々しい!」

と貸されたあのゲーム。


私は特に乙女ゲームに興味はなかったが、私はティアラの残虐な殺され方を見て震えた。


画面の中で、ティアラは数々の王子の剣によって、喉を優しく抉り取られ、あたりが血に染まったり、両足を切られ、その姿をみながら何十回も刺されたり、などなどキリがないほどティアラは殺されている。


(あぁ!――とてつもない血しぶき♡)

そんな光景を見て私は興奮した。

気づけば全ての攻略対象をクリアしていた。


そして中でも1番残虐に殺されルートが多いのが、シオン王子のルートだ。


シオン王子は白髪の髪の毛、黄金色の瞳。誰もが惚れてしまう程の顔立ちをしている。


シオン王子が何故殺されルートが多いのか。それはシオン王子が激重感情の持ち主だからだ。


ヒロインと恋に落ちたシオン王子はアプローチするティアラを怪訝する。そしてヒロインに害が加わればすぐに拷問のような処刑をしてくれる。


ティアラがヒロインを階段から突き落とした時なんて、シオンが剣でティアラを思いっきり切った時の血しぶきはそれはもう凄かった。


つまりシオン王子ルートに入れば私はいつでも殺される事が可能なのだ。


あぁ。なんて嬉しいことなのか!


先ほども『お前を血祭りにして殺してやる』(言ってない)などと言ってくれたし、シオン王子はお優しい方なのだろう。


シオン王子=残虐処刑なのだ!


今は学園入学前に行われる、15歳の社交パーティーの真っ最中。


今しがた前世の記憶を取り戻した私だけれど、この15年間に積み上げた悪事は、自分でも感心するほど積み上がっていた。




傲慢、不遜、略奪――いつ殺されてもおかしくない、

完璧な悪役令嬢ターゲットの完成だわ。


まぁでも沢山の血を出してくれるならいつでもウェルカムだ。








「おい、お前……ティアラ・ラブ・リハートだな?」


突然、背後から荒々しい声が響く。

振り返る間もなく、髪を強く掴み上げられた。


(ああ! このまま髪ごと頭皮を削いでくださるの!?)


「お前のせいで……お前のせいで! 殺してやる!」

「(きゃーっ!早速きたー!)」


恐怖ではなく、歓喜で体が震える。

暗殺者が取り出した刃が、ギラリと光った。


「ゔっ……!」


鋭い痛みが走り、私の脚に赤い花が咲く。


「お前を簡単に殺すわけないだろ? いたぶっていたぶって、一生消えない傷跡を刻んでやるよ」

男は獣のような息を吐きながら、何度も何度も私を刺した。

私の大切なシルクのドレスが、どす黒い赤に染まっていく。

その光景に、私はかつてないほど興奮していた。


(ああ、もう願いが叶うなんて! さぁ、もっと刺して、私を殺して!)


脚、腕、背中。


灼熱のような痛みが全身を駆け巡るたびに、視界が緋色に染まっていく。


意識が遠のいていくが、私は絶対に目を離さない。この、私だけの最高のフィナーレを目に焼き付けなくては!


「おいおい姫様、抵抗しなくていいのか? このままじゃ死ぬぞ!」


男の叫びさえ、今は遠い子守唄のように聞こえる。

もうすぐ、私の演奏も終わってしまうのね――。


▲▲▲▲▲▲



「……くそ。あいつ、どこまで行ったんだ?」


シオンは一人、庭園を歩いていた。


『いっそ死ねば?』


あの瞬間、ティアラが見せた、今までにないほど虚ろな表情。


(……さすがに、言い過ぎたか)


罪悪感に背中を押されるように彼女を探していると、茂みの奥から異様な物音が聞こえた。


痴話喧嘩か何かか――そう思って踏み込んだシオンは、その場で凍りついた。


そこには、獣のように荒い息を吐きながら、一人の女を滅ッタ刺しにする男がいた。


あたり一面、吐き気を催すほどの血の海。

その中心で、真っ赤に染まった泥人形のように転がっているのは――。


「……っ、ティアラ……!?」


シオンは無意識に走り出し、暗殺者を殴り飛ばして気絶させた。


「ティアラ! 大丈夫か!? なんで、なんでこんなことに……!」


血まみれの彼女を抱き起こす王子の手は、小刻みに震えていた。


自分の放った言葉が、現実となって目の前に転がっている。


(ん……? 刺すのが止まったわ?)


意識の混濁したティアラは震える唇で言った。


「もっと……刺してください。わたくしを……『死ぬ』まで刺して……」


満面の笑み。


血の気が引いた顔で、恍惚と微笑む彼女を見て、王子は絶望に顔を歪めた。


「あ……ちがう、ティアラ、俺は……俺はそんなつもりじゃ……!」

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