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出会いの影—ころんの選択—
「…た、助けて…」
思わず声を漏らしたころんに、黒い犬は一歩近づいて鼻を鳴らした。
けれどその足取りには、怒りとも、哀れみともつかぬ重さがあった。
「……チビ。お前、まだ飼い犬のつもりか?」
その低い声に、ころんはびくりと耳を震わせた。
何も答えられずに立ちすくむと、その犬は一歩近づき、鼻先でころんの体を押す。
「…人間に尻尾を振っても、置いていかれたんだろう?」
「………」
「なら選べ。野良犬として生きるか、ここで飢えて死ぬかだ」
心臓がどくんと大きく跳ねた。
思い出すのは、続く空腹と、ごみ袋の中にあったまずいパンのかけら。
それでも——頭のどこかで、
「陽菜ちゃんはまだ戻ってきてくれるかも」って期待してしまう。
「……ぼく、まだ…」
言いかけたとき、風が吹きつけ、黒犬の古傷を照らすように陽光が光った。
その瞳の奥に、消えない痛みがあると気づいて、ころんの声がつまる。
「生きたいなら、野良になるんだ」
静かな声。それは脅しではなく、ただの事実だった。
ころんは震えながらも、小さく頷いた。胸の奥がぎゅっと痛んだ。
——飼い犬だったぼくが、今、変わっていく。




