さまよう日々—空腹の路地—
車が去ったあと、ころんはしばらくその場に立ち尽くしていた。
土の匂い、遠ざかる排気ガスの匂い、そして耳に残る陽菜ちゃんの泣き声——。
すべてが胸に絡みつき、どうしていいかわからなかった。
「ワン……」
歩き出しても、道はどこへ続いているのかさえわからない。
人々の冷たい視線、追い払うような声。
あたたかかった日々が、まるで幻だったかのように遠のいていく。
数日がたち、ころんのお腹はぎゅるると鳴っていた。
今までは、毎日陽菜ちゃんやお母さん、お父さんがお皿にご飯を入れてくれて、その横で「おすわり」をすれば、安心してお腹を満たせた。
でも今は、誰も「おすわり」と言ってくれない。
誰も「いい子だね」と頭を撫でてくれない。
道の隅、黒い袋から漂う、鼻をつくにおい。
人間たちが顔をしかめて通り過ぎるその山に、ころんは足を止めた。
—ここに、食べ物がある。
小さな鼻を近づけると、かすかにパンの匂いが混じっていた。
胸がずきずきと痛んだ。
だってこれは「いい子」がすることじゃない。
しかし、背中を押すように、再びお腹が鳴った。
ころんは前足で袋をかき分けた。
ぐしゃりとした感触と、鼻にしみる臭い。
でもその中から、小さく固くなったパンのかけらを見つけた。
—ぱくっ
口の中は砂やほこりでじゃりじゃりして、喉につかえそうになった。それでも必死に飲み込んだ。
—これが、生きるってことなの?
涙のかわりに、雨粒が一滴、ころんの鼻先に落ちた。
空を見上げると、厚い雲がゆっくりと渦を巻きはじめていた。




