置き去りの雨—陽菜との別れ—
—はぁ、はぁ、はぁ
見えなくなる車を目指して必死に走る。
ーどうして…?ぼく、わるいことした?
しかし、答えはかえってこない。
その日、どこまでも続く空は暗い雲に覆われていた。
そして、ころんの胸の奥にもまた、どうしても晴れない影が落ちていた。
車の後部座席で、いつもより強く抱きしめてくる陽菜ちゃんの腕が、かすかに震えているのを感じたから。
「ねぇパパ……」
後部ミラー越しに言いかける陽菜ちゃんの声は、涙でかすれていた。
けれど前に座るお父さんもお母さんも、言葉を返すことはなかった。
車は静かな郊外の道を抜け、やがて人気のない林のそばで止まった。
ドアが開き、ころんは降ろされる。
「いやだ…!ころんも一緒じゃなきゃいやだよ!」
陽菜ちゃんが泣きながらぼくに抱きつく。
まだ小さなその手がころんの首にしがみつき、離そうとしない。
「ごめんな、陽菜。引っ越し先には、ペットは連れていけないんだ…」
「でも…お願いだから!一緒に行こうよ…」
必死な声は、風にさらわれ消えていく。
お父さんは無理やり陽菜ちゃんを引き離し、その小さな手はころんから離れていった。
「ころん!ころん!」
車のドアが閉まり、陽菜ちゃんの叫びにエンジン音が重なる。
ころんは必死に走ろうとした。けれどタイヤの音はどんどん遠ざかり、やがて土煙だけが残った。
「……ワン!…ワンッ!」
声は虚しく空へ消える。
—ポツ
その変わりと言わんばかりに、空からは雨が降ってきた。
ーザアァァ
あっという間に大雨になった。そこに、もう大好きなきみの姿はなかった。




